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23話 三人旅のとある一日

 ……目が覚めた。


 立ち上がり、体を伸ばす。そしてまずは夜のうちに消えた焚き火の準備だ。


『スリープモード終了。おはようございます』


 スリープモードという名の睡眠を終えた怒神が、未だ寝ているエンデの頬を突っつきながらそう言った。


「……んー……んにゃ。ん……止めろ!」

 流石に目が覚めたエンデが、飛び起きて突っついていた怒神に怒号を飛ばす。


 怒神が共に旅をするようになってからの、いつもの光景だ。しかし、稀に儂の頬にも突っつくのは止めて欲しい。エンデの反応が楽しいのか、ほとんどそっちを突っついているが。




 朝食を作り、儂とエンデにそれを分ける。怒神は動力源である魔法の元たる魔力さえあれば良いそうで、朝食の片手間でエンデが供給している。


 怒神が加わってから数日。この風景も日常の一つになりつつある。


 朝食が終われば溶かした水で使った食器を洗い、焚き火を処理する。何もせずとも周囲の雪が溶けて湿り自然と消えるだろうが、気になるのだから仕方ない。


「今日はこの地図にある国境を越え、それから数日以内に幽霊がでるとの曰くがある廃村に向かう。異論は無いか?」

「無いよ」

『現状を考えると幽霊は出て来て欲しいですね』


 怒神の言う通り、儂としては出て来て欲しいと切に願う。何故なら生物全てが氷像になってしまっているから、今は誰であろうと何者であろうと、今はほぼ不可能な会話による情報収集をしたい。


 会話による口伝もエンデだと昔過ぎて現在まで存在しているかかなり怪しいし、怒神に至っては論外だ。口伝は言わずもがな、怒神の砂丘以外の地理すら知らないらしい。


「おい。氷像があそこにあるぞ」

「氷像だと?ここは街道から離れているはずだが、遭難者か?」


 取り敢えずその氷像のある場所に向かってみる。




 この見た目。今まさに実行している現状。何処からどう見ても盗賊にしか見えない。


 目の前にいる数人の盗賊が今まさに実行しているのは、あまり見たく無い残虐行為。恐らく恋人同士なのだろう二人。片方の男は木に縛られ盗賊のナイフ投げの的にされ、もう片方の女は首筋に刃を当てられながら一人の盗賊の椅子にされている。


「なぁ、割って良いか?」

『エンデさんがやるならワタシも混ざりましょう』


 エンデと怒神が割ろうとしているが、氷像の耐久性は、一応凍えたばかりの頃にネズミの氷像で検証済み。


 氷像はハンマーを叩きつけてもびくともせずヒビも入らない。ネズミの氷像を柱に縛り付けてハンマーを手に持ち何回もその場で回転して遠心力でできる限り威力を高めハンマーを叩き付けた末に、やっとヒビが入ったくらいだ。恐ろしいほどに頑丈。


 しかし魔王や怒神の一撃となると話は別だ。恐らく洒落にならないレベルでその盗賊が消し飛ぶ。エンデの魔法は言わずもがな。怒神に関しては大規模戦術ゴーレムにあった兵器が搭載されているそうで、威力はかなり落ちているものの、魔法で強化された要塞を落とす程度はできるそうだ。威力があり過ぎだと心底思う。


 それと、先日薪が必要だから適当に集めて来てくれと頼んだら、怒神がそばにあった大木を拳でへし折ったのは驚いた。正直もう身体性能だけで充分過ぎる。あの精神崩壊研究者は何を思ってこんな性能にしてしまったんだ……


「……待て、素手で氷像に触れる気か?」

「あ、もしかして氷像を殴ろうとしてる?」

『氷像を取り巻く冷気に関してのお2人の懸念は分かりますが、ワタシに関しては大した問題では無いかと』


 怒神曰く、大規模戦術ゴーレムの動力がそのまま怒神の中に小型の動力があるそうだ。あの凍えた瞬間を耐えたゴーレムの動力を持つゴーレムだから、氷像に触れられるらしい。スケールダウンした影響で、定期的に魔力を補給しなければ永久に活動できないことにエンデは溜息を吐いていたが。


 まぁ儂から見れば片手間でやっているが、多少労力が掛かるのだろう。


『そして、氷像への最大連続接触時間は10秒弱と思われます』

 移動させたりするだけならそれで充分だな。


『それでは始めましょう。マスターが言っていました。権力者と犯罪者は散々にいたぶってから激痛と共に殺害するのが良いと』


「「……」」

 あまりな言動に頭が痛くなる。エンデも儂と共に絶句している。


「それ……魔王として活動してた時の私よりも酷いぞ」

「ある程度の私刑なら容認するが、エンデが止めるほどなら儂も止めるぞ」

『おや?マスターからはその他にありとあらゆる拷問方法をワタシにインストールして頂き、今すぐにでも実行可能ですが、どうしますか?』


「取り敢えずそこに座っていろ」

「一旦それから離れて」

 盗賊を割ろうとしたエンデすらも止めるほど。止めなかった場合、この後が凄惨な事態になることは想像に難くない。


「まず手加減を教えないと……」

「魔法関連は任せる。儂は恐らく何度も使うであろう、道具に対する適切な力加減を教えるとしよう」

『では教えて下さい』


「「それは後で」」




 儂とエンデで話し合い。この盗賊達の処遇を決めた。処遇といっても、氷像を割ったりはしない単純な拘束をするだけだ。要は穴に入れて埋める。


 まぁまず氷像を移動させないといけない。氷像に触れられるのは怒神だけなので、破壊させないように注意を払いつつ、盗賊の氷像を持たせて儂とエンデで掘った穴に放り込ませる。


 そして一欠片の慈悲として、頭だけを出して埋めてやる。この慈悲にはエンデも怒神も何も言わなかったので、了承と受け取って置く。


 ナイフ投げの的にされていた男は、まだ幸い太ももにナイフが一本刺さっているだけなので、ナイフを引き抜かず包帯や止血用の薬を目立つ場所に置いておく。しかしこれが必要になるかはまだ分からない。


 盗賊のナイフ投げの技量が低かったのか。これからやろうとしたのかは定かでは無いが、この男が幸運なことには変わり無い。ナイフはまだ刺さったままなので、そこから噴出する氷の雫は少ない。出血多量による死はまだ遠いはずだ。


 空を見上げる。暗雲から差し込む日差しの角度から、時間的には昼に差し掛かろうとしている。予想外に時間を使ったが、それを責める者はこの場にはいない。


 魔王よりも危険な者はいたが……




「夜になる前に、この小屋を見つけられたのは行幸だったな」


 時刻は昼過ぎ。少し小腹が空く頃。こんな森のど真ん中に小屋を見つけた。


 予定よりもかなり遅延しているが、それはいつものことだ。儂一人だった時も予定通りに進めたのはただの一つも無い。何かあれば気になる。そして知りたくなる。その行動の指針に従っているせいではあるが、これを止める気は一切無い。


 エンデも儂に近い同じ性分のようで、その結果移動時間が倍増している。仕方無いことだ。儂の考古学知識と観察眼。エンデの魔法知識と魔王たる魔法。魔法という調べるべき事項が増えたのだから。


「こいつ学者か」

 小屋に一つだけある氷像に向かって、エンデが乱雑に書かれたいくつもの紙の一枚を手にそう言った。正確には、生物や植物などの自然を重視している学者だ。


「儂の時代の著名な学者だ。今はもう、見る影も無いが……」


 儂から悲壮感を漂わしてしまったのか、エンデが何とも言えない顔になった。一度頭を切り替えて、山のような量の資料に目を通して見る。紙以外にも本や木札や石版など、かなり多種多様な情報記録媒体がある。


「お?この作者名。別の学者の物だな。これも、これも、名前が違う」

「確かに名前が違う……」


 儂としては、その自ら一人に完結せず様々な学者の本を集めていることに、かなり好感が持てる。考古学者の友人も実際そうだった。プライドはあるが必要な時や考古学に関することなら即座に捨てる憎めない奴だ。


「これも名前が……」


 ただ……この、魔法を一切感じさせない理論は、儂が必要だとはどうしても思えない。凍えた原因が確実に魔法関連なせいでもあるが。故に、ここの本は必要無い。拝借せず放置しよう。


 ちなみに怒神は力加減を間違えてこの小屋の扉に亀裂を入れてしまったので、取り敢えず外で待って貰っている。


 大体に目を通し終え、気付けば、もう夕暮れになりそうな時間帯になっていた。


「ん……?なぁ……名?…………あっ?!」

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