21話 怒神と魔王と老人
?!な、え?!えぇ?!エンデに続いて二人目!いや人か?いやとにかく喋る存在!謎の感動が儂の胸を締め付けている。そこまで嬉しいのかと、儂が儂を疑問に思うほどに、顕著に身体に現れている。
そしてエンデ……至極冷静そうな顔をしているが、今までエンデと共に旅をして来た儂なら分かる。かなり驚いている。手が固まっているし、口元が若干歪み、目は忙しなく周囲を見回している。
『パンッ!』
「……!」
儂が手を叩くと、エンデがびくりと体を震わせ即座に儂を見た。なぜ驚かしたのだと、そう言いたい顔だな。儂から言えることは一つだけ。
「落ち着け」
「……え?あ、あぁ……ありがとう。興味と興奮で頭が真っ白になってた」
そのまま深い深い深呼吸を挟み、目の前のそれにエンデが向き合う。
声が発せられたのは、動力室の中心にある床と天井にくっついている太い柱のような装置。淡い光を放ち凄まじい存在感をヒシヒシと感じ取れる。
「ここに現存していた研究資料から、とある研究者がゴーレムに自我を宿す研究を長年していたらしい」
『はい。ワタシには自我があるそうです』
「あるそうです……か。確信していないのか?儂からすれば喋る人間が目の前にいる感覚だが」
『確信も何も。分かりません。この場にはワタシしかいなかったもので』
たった一人。誰もいない、確信もできない。そんな状況だったと言う目の前の存在に、儂は親近感を覚えた。
儂の何倍、何十倍もの時間を、誰もいない世界で過ごしたのだろう。このゴーレムに、寂しいという感情はあるのだろうか。
「まずは、現在進行形で移動している足を止めてくれるか?」
『ワタシには、ワタシの移動を停止させる権限はありません。そのようなシステムは存在しないので』
……その言葉に、エンデが一気に考え込む顔になった。もし良ければ、共に世界が凍えた原因を探りに行こうと誘うつもりだったが、その考えが霧散した。エンデも儂と同じ考えで、その考えが霧散したから考え込んだのだろう。
強大な移動手段が得られると考えた儂が馬鹿だったのか、もしくはそんな権限を与えなかった製作者が阿呆で愚かだったのか。とにかく何かに当たりたい気分だ。
『ワタシが扱える権限は火力制圧。対空制圧。地下制圧などの攻撃。及び対象からの攻撃を防ぐ魔力障壁から派生する防御。その為、移動加速等。外に関する事柄が大部分を占めています。ですので移動の停止、そしてワタシの停止をすることはできませんので』
つまり上半身の腕や首とかは自由だが、下半身の足は自らの意思を受け付けぬのか。それは何とも不自由な……
「……エンデはどう思う?」
「……思うも何も、私にはどうすることもできない。怒神の魔法技術は今となってはロストテクノロジーだが、私にとってはオーバーテクノロジーなんだ。ここに書かれている理論や設計図は、余りにも突出し過ぎている」
……儂の無力さに歯痒さを感じたのは何度目か。今に伝わらず途切れた魔法について、一から学ぶ必要がありそうだ。今度、エンデから知識だけでも教えを乞うてみるか。
『貴方方がワタシを自由にしてくれようとしているのは分かります。ですが、ワタシは現状に満足しています。気負う必要はありませんので』
「さっきから、語尾にのでので……言語発声のシステムに不具合でもあるのか?」
『どうでしょう?ワタシにもそれは分からないので……です』
「今直したな?今気付いて修正したよな?」
『……何のことでしょう?』
確かに、言葉の最後に何度かに『ので』が入っていたな。しかしエンデに聞きたい、それは気になるほどなのか?
やはり分からないことばかりだな。
「そう言えば、この鍵を見つけてのだが……怒神……はこの鍵について何か知っているか?」
先程白骨死体から見つけた鍵を怒神に見せる。このゴーレムに見える目があるかどうかは定かではないが。
『…………?……現在ワタシの内部にある鍵付き扉は幾つかありますが、そのどれにも当てはまらない、ワタシの知らない型ですね。恐らく金庫等に使われている鍵か、ワタシの知らない扉の鍵でしょう。どちらにせよ、ワタシからは何もできることはありません』
「そうか……」
分からないと知れただけでも、収穫と捉えるか。
「ではエンデ。まだ探索できていない所があっただろう?まずは内部を探索し切ろう」
「それもそうだな。怒神。内部を軽く一周したらまた来る」
『はい。期待して待っております』
さて、探索を再開……ん?
「なぁ怒神。内部を巡回しているゴーレムを停止させることはできるか?」
『可能ですよ』
「やってくれ。エンデがこれ以上粉微塵にする前に」
快適だ。あぁ快適だ。ゴーレムが襲って来ないだけで、なんと気が楽になるか。すれ違うゴーレムは動くことなく、歩きやすい平らな通路を進むだけ。それが何と楽なことか。
怒神の内部を大体探索し尽くし、ようやく終わりが見えて来た。
「ここだな」
「地図から分かる範囲では、ここが最後で間違い無い」
確認が取れた。まだあの鍵が何の鍵かは分からないが、ここで分かると信じよう。分からなかったらその時に考えよう。
「……世界滅亡阻止熟考室?エンデ。儂がこの古代文字を読み間違えた訳では無いよな?」
「うん。私にもそう読める」
世界滅亡とは、中々に平和とはかけ離れている。
「取り敢えず、開けるか」
儂が扉に手を掛け、ギギギと軋む音を上げて扉が開かれる。
広い空間。壁中に書き殴られた数多の文字。そしてその空間の1番奥に、この空間には異質な人1人分が軽く入るほどに太い柱。
一旦壁に書かれている全部文字は無視して、その太い柱に直進する。
その柱は亀裂のような線と、一つの小さな穴がある怪しさ満点の柱。正確には半分は壁に埋もれた一つだけある怪しさ満点の半柱だが、線と穴が怪しさを加速している。
「この鍵穴……あの鍵が使えるんじゃ無いか?」
「確かに、しかしまだ合うかどうかは……」
鍵穴から小さな音を立てて、鍵が鍵穴に全て入り切った。
「合ってたな」
「そうだな」
『プシュー』
煙?!
咄嗟に床を蹴り柱から離れる。エンデも共に離れ魔法を放つ態勢に入った。何がある?何が起き……
「ひ、人?!いやこれは……」
「ゴーレム……のはず。人型の、しかも私より少し大きいくらいの小さな人型ゴーレム……」
鍵がはまった瞬間に柱の外壁が剥がれ、その中から出て来たのは透明なガラスに安置されていた人型のそれ。儂から見れば人間にしか見えないが、これもゴーレムなのか。
「……壁に書かれている文字を読んだ方が良さそうだな。何でこんな物があるのか全く分からん」
「そう……だね」




