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20話 怒神の砂丘を征く者

「念の為確認するが、ここを回しても何かある訳では無いのだな?よし、開けるぞ……」


 扉の中心部にある歯車のような物を回してみる。錆びているのか、最初は重く回し辛かったが、だんだんと軽くなり最後には勢いを付けるだけでグルグルと回り、やがて止まった。


 エンデが魔法に関連した罠が無いことを見抜いてくれて良かった。ゴーレムの内部に続く扉なんて、何があるのか予想できない。


「暗いな」

「照明の魔道具があれば良かったけど、自前で照らすしかなさそう」

 残念そうなエンデの声を聞きつつ、できるだけ早くランタンを灯す。こんな砂が吹き荒れる場でモタモタしたら、ランタンに不調が起きる可能性が高い。


 ランタンを灯したら、すぐにエンデを中に引き入れ扉を閉める。ゴーレムの足元から鳴り響いていた轟音がパタリと聞こえなくなり、吹き荒れ視界を遮っていた砂も無くなり、やっと楽に調査できる。砂のせいでゴーレムの全体像が分からなかったのは残念だが。


 あの物体が常時移動していると言うのに、内部は全く揺れず、かなり快適な空間だ。


「世界が凍えた原因は分からないけれど、恐らく世界中の魔法に関するもの。特にゴーレムが機能を停止していた」


 確かに、エンデが新たに創り出したゴーレム以外が動いた場を見たことが無い。今まで見て来たゴーレムらしき物体は、ただの土人形のようにその場にいるだけだった。だが、エンデがゴーレムと言ったこれは未だに動いている。今までの情報から、魔法が急激に衰退したのはここ1000年ほどの間。つまりこのゴーレムは1000年以上昔に創られたことになる。


「なぜ今も動いているかを突き止められれば、逆算的に凍えた原因も突き止められると思う」

「本当か?!いや、喜ぶのはまだ早いか」

「ああ、喜ぶのはまだ早い。魔法に関することでも、私ですら分からないことはあるんだ。ここの調査が理解不能で終わることも——」

『カチ』


「危ない!」

『ボォォォー!』


 危なかった。少し前を歩いていたエンデを儂に引き寄せていなければ、今放たれている炎に吞まれていたことだろう。

「か、火炎放射器?!」


 ……かえんほうしゃき、とやらは分からないが、炎が放たれる直前に、曲がり角から音と金属製の筒が見えた。嫌な予感がしてエンデを引き寄せたが、やはりゴーレムの内部は安全から程遠いらしい。右の通路から、炎を引き出す筒を装着したゴーレムが現れた。


「も、もういい。離してくれ」

「耳が赤いが……まさか今の炎で火傷したのか?!」

「いいから離せ!」


 強引に儂の腕を払いのけ、儂の前方にいるゴーレムとエンデが相対した。そして……目の前のゴーレムを風の刃のようなもので一瞬で塵にした。儂の目にも分かる。確実にやり過ぎだ。それほど不機嫌だったのだろうか……




 ゴーレムの内部に突入して少し時間が経った頃。一つの扉を見つけた。ようやく変化があった。ここは迷路のように通路が複雑化しており、迷い進む度に儂の知らない武装をしたゴーレムが立ちはだかった。まぁ全てエンデが塵にしてしまったが。


「かなり生活感のある部屋だな。人でも住んでいたのか?」

「いや、ここにある資料は魔法に関する研究資料だ。ここの主はゴーレムの研究員か魔法を探求していた魔法使いだな……凄いな。この魔法理論は初見で、こっちの資料にはゴーレムの性能。まともに戦えば負けるな。本当に凄い」


 エンデが机に乱雑に置かれた資料を一枚ずつ目を通しながら一人で呟き始め、すぐに己の世界に堕ちて行った。そこにある資料に関しては儂に出る幕は無い。そして儂は未だ分からない物に手を出す気は無い。だからこそ、それ以外を探索し調査する。


 しかし……中々に散らかっている。


 干からび切ったパンらしき物体。長年の年月で異臭すら発さなくなった果実だったであろう山。透明な容器に入った絶対に飲んではいけない色と化した水。年月が年月だからなのか、劣化する食糧は中々に悲惨だ。


 そして最後に。明らかに人骨にしか見えない骨。頭蓋骨に首、腕、足。薄汚れた白い服装の白骨死体が、うつ伏せにそこにある。下手に動かすとボロボロと崩れそうだ。


「ポケットの中身くらいは確認するか。ん?」

 何か握っている。


 慎重に白骨死体の骨の手を開き、その何かを摘み上げる。鍵だ。派手な装飾は全く無い。未だに劣化した様子の無い、キラリと光る金属製の小さな鍵。この綺麗さは、あまりにも不自然だ。エンデに聞けば何か分かるのだろうか。




「魔法の仕掛け無し。絡繰的な仕掛けも無さそう。単なる金属の塊でしか無いよ」


 それを聞いて安心した。これで、この鍵が急に爆発とかする可能性はゼロになった。


「そうだ。これ……できるか?私には、全く持って無理だった……」


 エンデが渡して来たのは、一面に9個分の小さな面を持つ四角い物体。力を横に入れると横に回転し、縦に入れると縦に回転する。そしてそれに色が追従。つまるところ、ルービックキューブと呼ばれる玩具だ。若い頃に、知能テストとして考古学者の友人に渡されたことがある。


 あの時は知能テストと評した、ただの代わりにやってくれというお願いだったか。確か全くできなくて儂に泣きついたのだったな。


『カチャカチャカチャカチャカチャ……』

「よし、全面揃えた」

「すご……」


 そして確か、考古学者の友人はこれを全面揃えた儂を、完成が早過ぎると理不尽に当たってきたのだったな。今思い出してもあまりにも理不尽だった。


 まぁ今はそんな思い出よりも、今は揃え完成したこのルービックキューブだ。エンデがやろうとしたのだから、何か意味があるはず。


 ……!

「お遊び入りのゴーレム内マップ。それがこの立方体の正体だ」


 空中に光るゴーレムの全体像。大きさは違うが、このゴーレムこそが儂等のいるゴーレムだろう。その姿は四足に頭一つの獣らしき物体。


「それを横にズラしてみろ。ワタシの予測が正しければ、私達のいる階層と場所が分かるはず」

エンデに言われた通りに横にズラすと、ゴーレムの全体像の中に白い点が浮かび上がった。


 流石にこれは分かる。位置的にこれはこのルービックキューブの現在位置だろう。何度下に降り、上に上がったのかくらいは記憶している。だが、それから逆算するとこのゴーレムの内部は中々に広い。王宮がそのまま存在するほどの大きさと広さだ。


 その後はルービックキューブをエンデに渡し、儂はこの部屋の探索に専念する。儂の方は先程の鍵以外に重要そうな物は何も無かったが、エンデの方は回収した資料を片手に地図と睨めっこ。


 遠目から見ている分には微笑ましく、目的の位置を見つけたのか、睨めっこの後、明るい晴れやかな顔でこちらに振り向いた。

「見つけたぞ!ここに行けば、恐らくこのゴーレムについて全てが分かる!」


「ちなみに……そこは何処だ?白い点が現在位置で、新たに現れた赤い点が目的地なのは分かるが……」

「この赤い点が示す場所は、このゴーレムの心臓。動力室だ」




 階段を登り、曲がり角を曲がり、梯子で下に降り、長い通路をゴーレムの大群に追われながらひた走り、ようやく目的地と思われる扉に到着した。


 ここが、このゴーレムの心臓。動力室か。


 儂には分からない装置、魔法陣、文字。あまりにも初見が多すぎる。昔の人々はどうやってこのゴーレムを造り上げたのか、全く持って分からない。


だ が、一つ分かることがある。エンデから教えて貰ったゴーレムの性能や性質などに、このゴーレムのような内部構造は存在しない。そして今まで見て来たゴーレムは土か岩製。だというのに、このゴーレムは明らかに金属製。更にエンデが感嘆するほどの出来のゴーレム。これらの情報と事実から、不確実要素があまりにも、多過ぎる。


 そして特に目を引くのは、この動力室の中心に存在している巨大な装置。


「成程……凄い、本当にこのゴーレムは凄い。この動力炉でゴーレムが動く為に必要な魔力を生成、増幅、循環!これさえあれば今までのゴーレム同様に世界が凍えたことで全身を巡っていた魔力が凍結せず凍結した魔力を順次この動力炉で生成された魔力が押し流している!つまりここではお湯を生成して増やして全身に送り温めているんだ!凍った水を溶かしているから!だから止まらない!凄い!一度このゴーレムの製作者と話したいものだ!」


 水に例えてくれたお陰でやっと分かった。今まで見て来たゴーレムが停止していたのはそのせいということを。初めて知った。そしてエンデが早口になるほど興奮している。学者気質か?


 ……聞く限りだと無害そうだな。元々ここは神域で立ち入りを禁止しているから、一番近い町が巻き込まれることもないだろう。


「それで、このゴーレムはどうする?壊すか、放置するか。放置しても、今まで通り神域としてここに存在するだけだが」

「……それはこのゴーレムの意見を聞いてから、それを考える」


 ……は?


「聞いているんだろ?大規模戦術ゴーレム。怒神」

『気付いていましたか』

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