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19話 怒神の砂丘のとある場所

「な!ぜ!だ!何故だあぁぁぁぁ!!なんで雪崩なんてものが発生しているんだあぁぁぁ?!停滞している世界にこんなもの……まさか魔法か?!魔法が原因か?!」

「馬鹿!いい加減に現実を見ろ!これは魔法なんて全く関わっていない、ただの自然現象だ!」

「エンデはこの雪崩をなんとかできるか?!」

「この物量は無理に決まってるだろ!だから今全力で走っているんだ現実を見ろぉ!」


 何故だ。何故こんなことになってしまったんだ。




 数日前。砂漠に土着信仰の町があると知り、何日も雪が積もり雪原と化した砂漠を歩いていた。そして前日にその町に到着し、そこで怒神の砂丘と呼ばれている地名を知った。


 怒神の砂丘には神が眠る。その文が書かれたタペストリーと、土着信仰を強く結び付けているであろう礼拝堂にある無数のステンドグラス。


 かなり精巧に造られていて、それを造るほどの何かが過去に起きたのだと考え、儂とエンデは怒神の砂丘と呼ばれている地に向かった。


 だが、だが何故だ。何故、風も吹かず地も揺れず停滞した世界で雪崩なんて事態が起きるんだ。何もしていない筈だろう……


「あっ」

 あっ……転けた。不味い。態勢の立て直しは無理だ。儂にそんな身体能力は無い。雪崩はすぐそこ寸前に。終わったな、儂。さよなら世界。さよならエンデ……




 眩しい。確か儂は雪崩に飲み込まれて……死んだ……のか?いやそれを決めつけるのは早計か。まずは瞼を開けてから。


「あ、起きたか」

「おはよう……か?エンデ」


 目の前に光るの玉を浮かばせたエンデと、雪の地面、雪の壁、膝立ちをすると頭が雪の天井にぶつかるくらいの小さな空間。


 全方向が雪だ。雪崩に呑み込まれた後、恐らくエンデがかまくらの内部のような空間を造り、儂は助かったのだろう。流石に今回は死を覚悟した。


「不甲斐ないな。こう言った場面では儂は余りにも無力だ」

「あまり卑下するな。あの物量だと私ですらこの空間を造り出すだけで精一杯だった」


 万能で敵無しに見える魔法でも、あれほどの雪崩が相手では敵わないのか。また雪崩が起きても絶対に助かるとは考えない方が良いな。それにしても、何故あれほどの雪崩が起きた?


 これほどまでに停滞した世界だ。数年単位で雪は降るが、それ以外に変化は起きず、儂一人がある程度の斜面を歩いたとしても、雪崩はエンデに会うまで一度も起きたことが無い。エンデに出会ってからも、だ。


 あれから何十年経っても雪崩は全く持って起こらない。それも当然だ。今世界を包んでいる雪は硬い。世界は凍えているので溶けることは無く、雪なので時間経過で勝手に圧縮されれば、硬く崩しにくい雪の完成だ。


「自然的にはあり得ない……まさか人為的に起きた雪崩か?」

 儂の呟きが聞こえたエンデが振り返り、溜息を吐きながら儂の手を取る。


「まずここを出てから考えて」

『ビュゥゥゥ……』

 風の音……?


 エンデを中心として円を描くように風が巻き起こり、頬を撫でて上昇して行く。そして天井の雪が崩れ、爆風が天を貫くように雪の天井を突き破った。


「動かないで」

 地上まで壁を登ろうとした儂を、エンデが既に取っていた手を放さずに儂をこの場に押し留める。何をしようとしているのか分からずエンデを見つめていると、一瞬心臓が浮かび上がった。


 取り敢えず驚きを思考の奥に押し留め、周囲と儂を見て状況を把握する。


 足元を見ると、浮かんでいた。文字通りに足が何処にもついていない。前に山頂まで登っていた時以来の、久しい感覚だ。




『ズウゥゥゥン……!』


「揺れたな」

「……うん。そしてまた雪崩が起きた」


 怒神の砂丘。先の町で手に入れたこの地域の地図には、神域であるが為に立ち入り禁止と描かれていて、詳細なことは何も書かれていない。初めの雪崩から今ので5回目。ある方向から振動と音が鳴り響き、地面を揺らして砂丘に積もった雪が崩れ雪崩が発生。


 神域だとか以前に、そもそも危険地帯だ。世界が凍える前でも砂丘が崩れて埋もれる可能性を秘めている。だからこそ、エンデの宙に浮かぶ魔法でゆっくりと振動と音が鳴っている方向に移動しなければ、また雪崩に巻き込まれる。移動速度は遅いものの、安全が最優先だ。


 上から見ると良く分かる。この砂丘、妙に上の方の雪が少ないと思えば、定期的に起こる振動で雪崩が起こり、雪崩で雪が下に落ち溜まっている。何がそれを引き起こしているか。儂としては非常に興味をそそられる。


「あっ、見えて来たぞ!何か大きい動く物体!」


『ズウゥゥゥン……!』


 エンデが指し示す方向に視線を向け、目を凝らす。確かに何か大きい物体があるように見える。だがそれだけだ。今はそれしか分からない。音と振動が鳴り響くそこには、振動の影響か大量の砂が巻き上がり、それの姿を隠している。


「どうする?降り……るのは駄目か。流石に」

「そんなことをすれば雪崩の餌食だ。今は降りるよりも、あれの解明を優先したい。せめてあの砂が無ければ何とかなりそうだが、エンデの魔法であの砂を吹き飛ばせないか?」

「うーん……吹き飛ばすよりも突き抜ける方が確実じゃないか?あの様子だと、砂を吹き飛ばしてもすぐに砂に隠れると思う」


 確かにそうなる可能性は高いか。正直あの舞い上がる砂の壁を抜けさえすれば、儂としてはそれで良い。砂を全て吹き飛ばす必要は無いな。


「一応この魔法は空中の移動速度を変えられるから、風の防壁を前方に生み出せば不意の衝突も避けられる……けど……」

「何かデメリットがあるのか?」

「前に言ったこともあると思うけど、私……この浮遊の魔法苦手だから。やり過ぎるかも」


 ……それは……儂にはどうしようもないことだな。

「……やり過ぎない程度に頼む」

「分かった。よし。3、2、1で行こう」


「3……」


 あの中が、舞い上がる砂が吹き荒れていないことを祈って置くか。


「2……」


 口を閉じて、心意気だけでも身構える。


「1……!0!」


 ……身構え過ぎたかも知れない。あまり、想像よりも風が来ない上に、身体への負荷がほぼ無い。風の防壁だったか。便利だな。


 景色が目まぐるしく過ぎて行き、あの物体までの距離がどんどんと迫る。


 共にいるエンデに視線を移すと、緊張した面持ちで口をキュッと閉じ、額を垂れる汗を拭わずにただ目の前を見つめていた。かなり集中している。刺激しない方が良さそうだ。


 舞い上がる砂が視界を狭め始めた。恐らくもうすぐ、到達する。エンデも分かっているのだろう。浮遊してからずっと握っていた手に、力が入り始めている。


『ぼふっ』

『ズウゥゥゥンッ!!』

『ドンッ!……ほふ』


 目が、目が回る。全身が振り回されて少々身体が痛い。


 砂の壁を貫き、まず目の前に来たのは物体の壁。その壁は砂よりも頑丈で、風の防壁ごとぶつかり下に落下。そしたら恐らく物体の何処かが落下地点となり、咄嗟にエンデが風の防壁を下に回して落下死の難を逃れた。


『ズウゥゥゥンッ!!』


 当然と言うべきか、物体ゆ近い分その轟音がより大きく耳に届く。かなりうるさい。かつて考古学者の友人が戯れでバイオリンを弾いた時と同じくらいだ。


 あの下手を煮詰めたようなバイオリンの扱いは、当時その場にいた全員が今後一切バイオリンを触らせないと誓ったほど。エンデよりも酷かったな。挙げ句の果てに弦が切れるとは……


「大丈夫か?」


 おっと、つい思い出にふけっていた。思考を今に戻そう。

「なんとかな。エンデの機転のお陰だ」


 そして到達した。


「恐らくだが。この物体ことが、怒神の砂丘の由縁。怒神だろう」

「しかも、これはゴーレムだ。凍えてからの世で、未だに稼働しているのは初めて見る」


 城そのものが動いていると思える巨大な存在。いや、実際に城の役割もあるかも知れない。そう確信づける扉が、今儂の目の前に存在している。

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