14話 孤島の秘密
ただの島。何も無い無人島として無視してそのまま大陸に向かっても良いのだが、少し気になることが色々とこの島にある。少しくらい調査しても罰は当たらんだろう。
さてまずは海岸に大量に打ち上げられている難破船だ。
この量は流石におかしい。ざっと数えて20を超える数の船の残骸が海岸に積み重なり、本来の砂浜が見えないほどにまで積み重なっている。中には貴族や王族御用達の豪華船に、一昔前に大海賊と呼ばれた船長が乗っていた海賊船。
有名どころも多く、少々目が回りそうになる。
そして少し離れたところに建てられた無数の墓標。ほぼ全てが船の廃材を使い建てられた簡素なもの。その中で、数えるほどしか無いが墓標に何か書き込まれているものがある。古い文字から近代の文字まで。
流石に古い文字は雨風に当てられ風化し文字は読めないが、近代の文字の方は読める。さて、中々の重労働になりそうだ。
一通り読んでみたが、それぞれの文字が書かれた墓標との関連性は現状分からず、風化具合から推定される年代もバラバラ。
ただ単にこの島周辺の海域が難破しやすいのか……?もしそうならそうと片付けられるが、気になるな。それがただの自然現象か、人為的なものによるものか。魔法の存在を知ったからには、そう言った可能性も上がって来る。
しかしどうしたものか。この海域で多くの船が行方不明になったとして、多少は噂が流れその噂から場所や糸口が見えることは多い。
だが、口伝の噂が流れていたら完全にお手上げだ。どう足掻いても噂を知る人々の口が動かないことには、どうしようもない。
噂話を聞けないのは、凄まじい痛手に他ならない。
……一度切り替えよう。ここは現状目新しい物は見当たらない。まだこの島の探索は始まったばかり。別の場所での調査に向かった方が良さそうだな。
「これは……」
「ゴーレムに違いない。今は稼働を停止しているようだけれど」
この島の中心部に向けて足を進めていると、道中今にも飛び立とうとしている鳥の形をしたゴーレムを発見した。
遠目から見たら鳥にしか見えないだろうが、これほど近ければ嫌でもそれの異常が目に入る。
一枚一枚の羽が土色で、生物の鳥の羽のように軽やかな見た目は無く、ただ硬い岩のように見える。実際エンデ曰く、岩に近い物質ではあるそうだ。
……確定だ。
「これで、この島周辺の海域が難破しやすいと言う訳では無くなったな。確実に」
儂が言葉を切ると、エンデが察した表情で頷き、儂の言葉を引き繋ぐように口を開いた。
「確実に魔法の、取り分け私が魔王と呼ばれた時代くらいの魔法。これだけ精巧なゴーレムを造れるとなると、かなりの技量が必要になる」
「ならばエンデ。この島を……浮遊だったか?宙に浮かぶ魔法で島全体を観察し、重要そうな場所の目星をつけて欲しい。魔法関連となると、確実に儂の範疇を超えるからな」
「……了解。お腹すいたな……昼食は任せた」
そう言ってエンデは上空に飛んで行った。こればかりはエンデに任せる他無い。役割分担だ。儂は……昼食準備……少し、居たたまれないものだなぁ……
「大体目星は付けたぞ」
冷めないように少し長めにコトコトとスープを煮込んでいると、エンデがそう言いながら空から降りて来た。思ったよりも、長かった。
この島の大きさとエンデの飛行速度から、丁度完成するくらいの料理にしたはずだが、今は冷めないようにすることになるほど時間が掛かっていた。つまり、それほどの何かがあったと考えて良いだろう。
「おかわり」
「儂の分まで食べるつもりか?」
儂が取り分けるよりも早くエンデがスープを飲み干し、儂に追加を頼んだ。食欲旺盛なのは良いが、華奢な体格からは想像もできないほど大食いなことに最近気付いた。前は精神的なことで食欲不振に陥っていたらしく、本来の食事量は今と同じだとエンデは言った。
持ち運ぶ食糧の量を考える儂の身にもなって欲しいものだ。お陰で荷物の要る要らないの取捨選択をする羽目になった。だが、よく食べることに関しては、満腹になるまで食べても良いだろう。最近儂は少し少食になってしまったし。
「棒ある?」
「焚火用にかき集めた木の枝なら」
「それで良い」
エンデが木の枝を受け取り、それを使って雪の地面に線を描く。丸の形をしていたが綺麗な丸では無く、デコボコや大きな出っ張りが目立つ。この場で、さっきの戻りと言うことは、かなり重要な情報と言うことか。
「この島はこんな感じの形をしていて、これだけならまだ普通の島。けれど……」
エンデが次々にその丸の中に線を引いて行く。川らしき線や標高の高い場所にもそれに沿った線が描かれ、最終的には幾何学的な模様が描かれ、魔法陣のようなものになった。いや、ようなものでは無く、まさかとは思うが、実際にこの島そのものが……魔法陣。
「極大魔法陣。島や土地全体に簡単には消えない線を描き、巨大な魔法陣と化した物。広範囲に影響を及ぼすものの、それに見合った手間と時間が掛かるので、私はあまりやったことは無い。魔王である私が面倒くさがるんだ。時間だけを見れば、人間なら一生ほどの時が必要になる」
一生……それを費やす価値が、これにあると言うのか。正直理解し難いものだ。あの難破船の数から、それが目的か単なる副産物か。どちらにせよ放置できないな。
「川、山、池、ゴーレムの位置、その他諸々を描き上げると……封印の魔法陣の出来上がりだ」
「ん?封印と……今言ったか?」
予想外だ。予想外この上ない。封印と言うと、エンデが封印されていたあれを思い出す。エンデを基準に、そしてエンデさえ創るのを億劫になる極大魔法陣があると考えれば、封印されているそれは、魔王に匹敵するほどの何かをしたのは容易に想像できる。
「ああ。私が封印されていた魔法陣に一部一部が類似している。試しにさっき魔法陣を構築してみたら、時間停止の効果が付属された魔法陣が出来上がった」
エンデを封印した魔法陣の一部に類似していて、時間停止の効果が付属されている……この島には何がいるというのだ。興味よりも先に不安が募る。
「最後にここ。ここが私が目星を付けた地点。そこにこの極大魔法陣の核と呼べる場所があった。まだ足を踏み入れていないから、何が待っているのか、分からない」
エンデが木の枝でその地点をトントンと叩き、視線を地面に描いた島の地図から儂に移した。どうするかを探る目だ。儂が行かないと言えば、エンデは儂に従い行くことは無いだろう。だが、流石に放置はできないな。
「行けるか?」
「見た限りは大丈夫そうだったぞ?警戒し巡回していたであろうゴーレムも、漏れなく稼働停止しているし」
儂の質問にエンデは呆気なく応え、そのまま地面に描いた島の地図からどのルートで行けば最短距離なのかを説明した。
昼食用に準備した焚火を消し、スープを煮込むために取り出した鍋を片付け、出発の準備が整った。
「よし、行こう」




