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11話 竜の所在

 エンデと出会ってからどれくらいの月日が経ったか、もう忘れてしまいそうになるこの薄暗い暗雲に恨みを言いたい。


 あれのお陰で数えた日数がおかしくなってズレる。現に何回か1つ多いとか少ないとか、エンデに指摘されてしまっている。


 風も空も停滞し、雪と氷に包まれ、あらゆる生物は氷像と化した。


 どれほど歩いたか、どれほど真実に距離を縮めたか、50年を過ぎた今になっても分からない。しかし今、分かることがある。


 それは、もうたった1人では無いと言うことだ。


「おーい!そこで立ち止まってないで、早く来てくれ!そろそろ次の目的地だろ?!」

「待ってくれ、今行く」




 ……やっと辿り着いた。ここは直線的には行けず、側にある山を経由しなければ到達できない高地。行くには面倒な絶壁の台地。


「こんな何も見えない辺鄙な場所に用なんかあるのか?遺跡らしき物は全く見えない平らな台地に」


「用はある。この地は別名、竜の墓地と呼ばれる場所でな。太古の昔に竜の死骸が山のように積み重なり、この台地ができあがったと伝承がある」


 台地の下にある村では、ここを観光名所として売りに出していたようだったが、こんな山を経由しなければ到達できない場所に好んで来る者はおらず、伝承だけしか無いこの台地に来ても見ての通り何も無いから寂れていた。


 しかも戻る時も山を経由しなければならない。行きだけでも2日掛けて到達したのに、台地の下まで行くのにまた2日の時間が掛かると考えると、少し憂鬱だ。


 まぁ今はそんなことよりも、この台地の調査を始めよう。


「竜と言う架空の存在が題材となっている以上、当時の人々に取って竜と形容する他無い出来事が起きたと考えられる。それが何かは分からないが……」

「竜は架空じゃ無くて実際にいるぞ」


「……いるのか?!い、いや、魔法があるから何があっても不思議では無いか。しかし架空では無いと証明すれば、歴史的な大発見だ!」


 考古学者の友人にもこの事実を知って欲しかった。どんな反応をするかが容易に想像できるが、実際に狂喜乱舞する様を見てみたかった。


「流石に今はいるかどうかは分からないぞ?前回見たのが4回か5回ほど前の封印の時だから、現代の年代換算で余裕で万年は超えているはずだ」


 ……そんな年月が経てば絶滅してそうだな。絶滅させそうな人物が目の前にいる訳だし、架空の存在と一般で周知されているのを加味して、もう存在しない可能性が濃厚だな。




 何も無かった。何も無いと言うしか無いほど全く持って何も無かった。


 洞窟がある訳でも無く遺跡がある訳でも無く竜と形容可能な自然の形がある訳でも無く、圧倒的に何も無い。


 こんなに何も無いと、あの村が寂れている理由が知れる。伝承だけでは無く実物が無いと観光名所とは呼べるはずも無い。


 どうしたものか……ん?

「どうした?何かあったのか?」


 エンデが突然足元の雪に触れ、そこに手で穴を掘り始めた。何故そんなことをしているのかは分からないが、エンデのことだし何かあるのだろう。取り敢えず儂もスコップを取り出しその穴掘りを手伝う。


 さて、何が出て来るかを今から期待しよう。




 全くと言って良いほど何も出ない。雪から土に、そして土から1m以上は掘ったが出て来るのはただの土。


 途中からエンデにもスコップを貸して2人がかりで掘っているものの、このままでは日が暮れるよりも儂の体力が先に尽きる。


「なぁエンデ。今更だが1つ聞きたい。一体何故ここを掘って……」

『ガチンッ』


 スコップの先が金属にぶつかったり音。急ぎ過ぎないように心を落ち着けながら、またスコップがぶつからないように音が鳴った周りを掘ってみる。


『ガチンッ』


 ……一度スコップで掘るのを止め、手で音が鳴った付近の土を穴のはじに寄せる。


「……何だこれは」


 金属製に見える分厚い板らしき物と、その中央にあるよく分からない取手のような物。初めて見る物だ。こんな物が、恐らく過去に存在していたのか……?


 儂が呆気に取られていると、エンデが手慣れた様子でその取手を横に回し、ある程度回すと今度は上方向に引っ張り……そこには何かの建築物への入り口と、建築物の中まで降りる為の梯子があった。


 一仕事終えた様子のエンデが儂と目を合わし、そのままその入り口へと梯子を使い降りて行った。スコップを回収し、儂も追い掛ける。


 下は、完全に別世界と呼べる空間が広がっていた。


 金属製らしき硬い壁、床、天井。そして等間隔に天井に埋め込まれている白っぽい長方形。こんな場所にあると言うことは遺跡なのだろうが、これは完全に儂の理解の範疇を超えている。


「千……いや万か?今現在の文明水準的には完全にオーパーツの域に達している……最後にこう言う場所を見たのが10回くらい前……だから確実に万年は経過している……劣化を止める魔法によるコーティングも中々の技量。私としてもこれほどの魔法の持続時間には賞賛に値する……」


 エンデがぶつぶつと呟いているが、儂には全くさっぱりなので取り敢えずランタンを取り出しこの場を照らしてみる。


 右手側と左手側には先に続く通路があり、右手側には開け方の分からない扉らしき壁がある。


「ここは過去の人間達による竜の研究所と言った所だろう。魔法の存在を微かに感じ取れて良かった。ただこんな場所が放置されているとなると、恐らく退去しなければならない起きたか、何者かの手によって全滅したか…………私が暴れ過ぎた影響か……」


 最後の最後で歯切れが悪くそう言った。確かに可能性としては……十二分にあり得る。


「……取り敢えずここを調べよう。そうすれば自ずと分かるはずだ」




 竜の研究所だろうとエンデが言っていたが、確かに何かの生物を研究していただろうと推察できる骨やボロボロの読むことができない紙や本。流石に紙には魔法の効果は乘らなかったかとエンデが愚痴り混じりに呟いたが、確かにこれは惜しい。昔の文字過ぎて儂が読めない可能性もあったが……


「見ろ。あれが竜だ」


 エンデが指を差した方向には、元から氷漬けにされていたかなり巨大な生物がいた。氷の透明度が高く、細部までを見ることができる。


 まさに伝承通りの竜。存在感が段違いな、全身を包む鱗。一振りで村を壊滅できそうな、巨大な尾。空を駆ける鳥のように、左と右それぞれに開かれた翼。今にも動き出しそうな眼光に絵物語の通りに火を吹きそうな口と牙。


 この台地が竜の墓場と呼ばれていたのを、今になって理解した。かつてここに竜の研究所があったことを知る誰かが、時代と共に湾曲しながらそのことを言い伝えられ、いつか誰かが、その言い伝えを元に竜の墓場と呼称した。


 確かにここは竜の墓場だ。何も間違ってはいない。しかし、これはあまりにも、予想外だった。




 この別世界であるような感覚に至る研究所には、竜以外に生物が見当たらない。


 あの後に竜の一家のような複数の死骸や、骨だけの標本と化した竜に、散々に暴れ回った跡のある部屋で息絶えた竜。


 しかしその部屋以外に何かが暴れた様子は無い。人間の死体や放置された衣服も無い。


 当時何が起きたんだ……?


 その考察を始めるまでの材料が欲しいが、地上はもう真夜中の時間になっても、その材料が見つからない。


 せめて現存する資料でもあれば……


『カチッ』

 おっと、考え事に集中し過ぎて台に置かれた小さな物体の小さな出っ張りを押してしまった。


『はぁ、はぁ……私にはもう、数分の命しか「ザー」いないだろう。だからこそ、この記録媒体にかつてここで何が「ザー」かを残す』


 小さな物体から声が溢れ出た。知らない技術だ。その小さな物体から声を発するとは……声に気付いたエンデが足早にこちらに近付き、その小さな物体を覗き込む。


『元々ここは竜を研究する地下「ザー」所だ。人間には到底「ザー」ことの「ザー」ない数多の実験をした。その果てに、「ザー」初めからかも知れない。今はそんなことはもうどうでも良いが、我々は禁忌を犯した』


 小さな物体から砂と砂を擦り付けたような雑音が、声と同化し稀に聞こえない。


 聞こえる声と音を頭の中で反芻してみる。何かに迫られているのか、言葉の節々に荒い息と人体をゆっくりと引っ掻く音が聞こえる。それほどまでに危機的状況なのか?始めの方で数分の命と言っているから、死が眼前にまで差し迫っていると考えられる。


『ある日捕縛した竜「ザー」がこの研究所に連れて来られた時、我々は1つ、とある実験をした。子竜を目の前で「ザー」した時、親竜はどんな反応をしてどんな精神的な「ザー」を及ぼすか』


 雑音で聞こえづらいが、恐らくその実験は、その竜から報復されても文句の言えない内容だろう。


『これは竜にはどんな感性があるのかを調べる為の調べる重要な実験だったが、子竜の拷「ザー」に怒った親竜がとある召喚の魔法を使い「ザー」絶え、そして瞬く間に研究所にいる全ての竜が「ザー」、魔法陣の中央に「ザー」は現れた。「ザーー」あの強大で「ザー」な力は、ただそうとしか形容できない。悪魔がそこに「ザーーーー」』


 悪魔……?竜と共に架空の存在の二大巨頭のもう片方である悪魔か?儂としては、悪魔の存在についてはただ首を捻ることしかできない。エンデも首を捻っている。知らないのか。なら儂が知り得ることでは無いな。


『ジュ』

 声に紛れて……今のは確実に異音と呼べる音。嫌な予感がする。まさか!

『ボンッ!』


 あれが急に爆発した。何故だ……?まさか火薬でも混入して……いる訳は無いな。確実に。


 熱を帯びた小さな物体だった物に触れて見る。世界は寒く、地下のここも少し寒い。すぐに冷えたから火傷の心配は無いだろう。


 ……あの声の感じは、確実に先があった。しかし、どんなカラクリも装置も、1つ破損すれば駄目になる。だが1つだけなら修理ができるが……爆発で大多数が破損し、残る全ては焼け焦げて、こうなってしまえば、先を知ることは不可能に近いだろう……


「古過ぎたか……」

 エンデがそう呟いた。そうか……声が聞けただけでも、奇跡と呼べるものだったのか。

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