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1話 全く同じ寒い日々

 ……寒い。


 目が覚めた。暖炉を見る。火が完全に消え、そして一晩が経過したようだ。


 薪を幾つか投げ入れて、残り少ないマッチで火を灯し乾燥した藁と一緒に暖炉に投げ入れる。


 上手い具合に火ができた。


 起き上がる。窓の外はいつものように雪景色。木々が生え人気は無し。


 いつものように鍋を火の上に設置して、中に氷を入れる。面倒だけれど、それ以外に飲み水を確保する手段が無いのは中々に厳しい。


 外の雪を使えばいつでも何処でも飲み水を確保できる利点はあるが、かつては川から汲むのが手っ取り早く如何に楽だったかを、染み染みと感じさせる。


 朝食を作るか。




「ふぅ」

 薪割りと言うものはかなり腰に来る。そして疲れる。儂が70過ぎの老人で、今いる外の世界は息も凍える極寒。その2つが掛け合わさって更に疲れる。


 やる必要があるかと言われれば返答しかねるが、今使っている小屋の薪を補充は取り敢えずしておこう。


 誰もいない、誰の家でも無い小屋を仮拠点にしてから4日目。調査は終えた。もうこの地に居座る必要と理由は無い。


 だからこそ、昼前までにはここを発つ。念の為もう一度何か無いか、小屋にほど近い麓の村に出向いて確認しよう。


「……いつになれば光が差すのか、もしくは永遠にその時が訪れ無いのか。やはり日差しが恋しい」


 日が差すのでは無く、雪や雨が降る訳でも無く、薄暗い景色の続く地上から上には、どんよりと空を包む雲がある。風は吹かずただただ暗雲が空に停滞するのみ。




 思ったよりも麓の村に到着するのが早かった。これでこの村も見納めか。


 5、10、20、外に出ているのは20。何度数えても変わらないな……もう、見飽きてしまった。元は人だった氷の像を。


 世界は凍え氷に閉された。


 人々や動物達、海を泳ぐ魚や果てに昆虫すらも氷像と化して動かない。


 ただ1人。この世界でこの儂しか生きる者はいないだろう。儂がこうして生きているのはただの奇跡。馬鹿馬鹿しいただの偶然。


 火山の地質調査に出掛けていたら、足元が急に滑り崩れて溶岩に頭から突っ込んじまった。その時、丁度世界が氷に包まれて、熱々の溶岩も温もりが多少感じる程度にまで冷えてしまった。


 溶岩で火傷した痛みに耐え、苦労して冷えた溶岩から這い出たら、一緒に調査に来てた連中も凍って、動かない全員をその場に残し故郷である王国に帰ったら、漏れなく氷像になって誰もいなくなっていた。


 溶岩に突っ込んで生き残ったとか言う、馬鹿馬鹿しい理由で生き残ったなんて、酒の席にでも出せば笑いものだろう。そんな相手がいればだが。その時は、額の火傷痕を見せながら笑い飛ばしたいものだ。


 溶岩に突っ込めば火傷は避けられ無い。すぐに世界が凍えたからこそ、火傷は全身に点々と残り、この寒さで全身が冷えて火傷はとうの昔に治った。額に火傷の痕が残る程度。言いようによっては命を救われたようなものだが……こんな光景を見れば、そんな気は完全に吹き飛ぶ。


 儂は、原因を探った。しかし何も分からなかった。


 王宮の図書室の書物を漁ったが都合良く分かる訳は無く、宝物庫にある伝説の品々が伝説通りの事象を起こすことすら無く、何故世界がこうなったかの調査は行き詰まった。


 だからこそ原因が分から無いなら氷像から人に戻す方法を探ったが、こちらも都合良くそんなことが分かるはずもなく。火を近付けて溶かそうとしても、氷像が纏う超低音に火は敵わず消えてしまう。


 儂が今ここにいる救世主の溶岩は完全に冷えてしまった。だから比較的近くにある頻繁に噴火する活火山を訪ねたが、やっぱりと思うしか無いほど沈黙していた。


 漏れ出る溶岩は無く地熱もあまり感じ取れない。外気と比べたら多少……大量の氷を含んだ冷水に漬けた指を、すぐに今度は氷の無い冷水に当てるようなものだ。温かいと感じてもそれが温かいかはまた別の話。


 幸い植物は氷像にならず、元液体の固体も氷像ほどの低音は無く火に炙れば簡単に溶けるから、食糧や水の心配は無い。年中野菜生活はもう受け入れた。そうで無くては餓死する。


 儂は世界の何処かに凍えた原因があると信じて国々を巡り調査して50と数年。流石に疲れた。そして、たった1人は流石に寂しい。話し相手でもいれば、この気持ちは晴れるだろうか。




「ん?」

 日が落ちて来たか。あの村から拝借した地図には……無いな。この周辺に泊まれる村や小屋は無し、か。


 世界がこうなってから、夜になると急激に冷え込み儂が今着ている防寒着でも肌寒くなる。しかしこう何も無いと、野宿か……何度もしたが、慣れるものでは無い。かなりキツイ。


 ……お?こんな所に洞窟が。丁度良い。ここを使わせて貰おう。


 薪はある。夕食用の食糧もある。野晒しよりは、洞窟の方がまだ温かいはず。ランタンを灯して進むとしよう。


 …………これは驚いた。こんな場所に遺跡があるとは。しかもかなり古い。遺跡の建築物を見た限りの状態では、劣化具合から見るに軽く数千年は経過しているだろう。


 この地にこんな遺跡があると言う情報は無い。古い文献や伝承にも書かれていた記憶は無く、こんな誰も寄りつかない辺境の洞窟に人がかつて入り込んだ様子も無い。


 こんな遺跡があると知れば、かつて世界が凍える前にいたかつての儂の考古学者の友人が黙っている訳が無い。国境の垣根を越えてすぐさまこの地に来るだろう。


 しかし、この奥に進むのは一旦止めにする。流石に夜間になるとこの老体では眠くなる。軽く夕食を取って寝て、また明日にでも調査しよう。次に行く予定だった街に行くのは後回しだ。




 目が覚めた。儂の体内時計に従うと、恐らく朝より少し前。さて朝食を……の前に一旦この洞窟の奥を見よう。老人の微かな好奇心だ。どうせ行き止まりか凍った動物がいるだけだろうが、好奇心は止められない。


「行き止まり……?」


 洞窟と同化した一本道の遺跡を進んでいたら、急に行き止まりになった。


 流石にこれは疑う。これだけなら遺跡を造る意味が無い。恐らく何処かを何かすればカラクリか何かで開くか、もしくは隠し扉的なものがあるはず…………あった。


 遺跡にしてはかなり状態が良く均一を保っている遺跡らしい石の壁だが、所々崩れた芸術品らしき物の裏側に少しだけ凹んだ箇所があった。昔の技術は今と比べ物にならないほどだったと幾度も考古学者の友人に聞かされた。故にここを押せば。


『ガコ、ガコン……!』


 重々しい音が遺跡内に反響し、先程まで行き止まりだった所に更なる先に進む道が現れた。


 よし……そう言えば考古学者の友人からは昔の技術と共に、何故その技術が今に伝わって無いかも調べ考察していたな。確かその時に考古学者の友人からどう考える?と聞かれ、儂は友人から聞いたことをまとめ考え、遥か昔にその技術を持つ文明同士の大戦争が起きて技術が衰退し失われたと答えたが……


 あいつ、わざと儂に伝える情報を絞っていた。儂が確実に的外れなことを言わせる為に……!……いや、今はいいか。その時、考古学者の友人はまず儂の知らない情報を出し、考察した。


 数多の過去の文献や遺跡に描かれた壁画には、ある一定の期間にを経てほぼ全く同じことが描かれていた。ある時の壁画には決まって人型の何かが復活し、世界を滅ぼしかけ、その果てに封印される。そんな壁画が年代バラバラで見つかった。


 彼が考察するには、定期的に世界が滅ぶような厄災が引き起こり、丁度繁栄を極めたその技術が厄災にぶち当たって闇に消えた。と、かなりあっさりとした考察だったが、妙に頭に残る。


 もしそんな厄災があったとして、丁度今復活されたとしても、世界はもう滅んでる。全てが本当なら、儂はそれを知った時の厄災の顔を拝みたいものだ。人型らしいから顔くらいはあるだろう。


 ……ん?


 何だ。この禍々しい物体は……


 遺跡の最深部にあたるであろう場所。そこには、禍々しい色が渦巻く2mほどの大きな球体。


 ……!球体のの真下と真上に、丸い円で囲むように描かれた幾何学的な紋様が描かれている。しかも光っている。長年生きた儂でもこんなのは初めて見た。


「はっ!」

 考古学者の友人から聞いたことがある。遥か昔に失われた……決められた記号を重ねて合わせ、超常的な現象を発生させるという魔法陣。今まで見たことは無かったが、恐らくそれに該当するだろう。


 ……まさかこんな収穫があるとは。一度ここに臨時拠点を建てて調査する必要が……

『ビキ……』


 音……?球体の方から聞こえる。何かを裂くような……


『……ビキ……ビキ……ビキ』

 聞き間違いでは無い!球体の中から、何かが突き破っている!


『ビキ!ビキ!ビキ!ビキ!』


 ……球体が完全に破裂した。球体の中から噴出した禍々しい色の煙であまり見えないが。何が起き――


「……やっとだ!ようやく、ようやく復活したぞぉ!!」


 中から何か……この声は子供?その姿は、少女?


「わーはっはっは!見て驚け!聞いて跪け!この私は、世界を滅ぼせし破滅の帝王!魔王エンデールである!封印された時は不覚を取ったが、今度こそ世界を滅ぼしてくれよう!」


「いや、もう……滅んどる」

「……………………え?」

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― 新着の感想 ―
せっかく復活したのに世界がもう滅んでるとか衝撃発言…… もう予測不可能な展開が一話から! 読み進めるのが楽しみすぎます!!
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