大事な寄り道
いやぁ、今日も仕事、大変だったな~。
とりあえず、残業にならなくてよかった、よかった。
宮森さんと、家で待ち合わせしてたから、彼を待たせるわけにもいかないからな。
いや、それにしても夏の車内は暑いなぁ。今、午後6時だよ? まあ、外を見ても真昼にしか見えないけどさぁ。とりあえず、冷房オンっと……。
よーし、それじゃ、まっすぐ帰そう……と言いたいところなんだけど、家に着く前に寄らないといけない所が2つあるな……。
どうか、渋滞していませんように……。でも、まあ、大丈夫っしょ。
だって神様は、俺たちの日ごろの行いを見ているからな。
*
よーし、スーパーに到着っと。
えっと……。確か食品コーナーは1Fだったよな……。
それにしても、たくさん種類があるんだなぁ。
どれどれ、南海の白雪、碧の恵み……と、あとは……。
あっ、これがいいな、凛冽の純白。
純白という響きがいい。これから俺がやることにぴったりだ。
*
それにしても、助かった、助かった。 加奈子の家がスーパーの近くで。
車を止めるころは……そうそう、ここか。
それじゃ、やることやるか。っておい、大事なもん忘れてた。
よーし、それじゃ、気を取り直して、本当にやることやろう。
ピンポーン、ピンポーン
「はい」
「俺だ。博哉」
加奈子、登場っと。今日の部屋着は上下ピンクのジャージかぁ。割と悪くねえな。
「あら、博くん。どうしたの、急に?」
「仕事帰りにスーパーよったから、ついでにお前んところ、寄ったんだよ」
「えっ、マジ」
「マジだよ。彼氏が仕事帰りに寄ったら何か悪いか?」
「別に、悪くはないけど……」
「それよりさぁ、お前、けっこう可愛いよな?」
「なっ……。急になに? お金なら貸さないからね?」
「そういうことじゃねえよ。まあ、借りるというか、貰いたいもんならあるけどな……」
「えっ、なに?」
「……ちょっと待って、後ろに虫いない?」
「えっ、ちょっちょっちょっ。マジで? 後ろ?」
「うん、後ろ見てみて」
「えっ、後ろでしょ? うん、なにもみえな……」
そう言いかける加奈子の頸を注射針でプスりと。
いやぁ、危ない、危ない。注射器を忘れてたら詰みだからな。
とりあえず、薬でしっかり眠ってくれているみたいだな。
それじゃ、勝手に失礼しま~す。ははっ、本当に失礼だな。
さっそく、お風呂、お風呂っと。
おおっ、もう風呂沸いてんじゃん。コイツは好都合だ。
それじゃ、悪いな加奈子。一番風呂は俺だ。
湯船に、スーパーで買ってきた塩、えっと、凛冽の純白だっけ……を入れてっと。分量は、一掴みくらいでいいだろう。
今日は、念入りにお清めしないとな……。
いやぁ、いい湯だった。
だって今日は、特別な日だからな。
それじゃ、今度は、加奈子の番だな……。
それじゃ、加奈子を連れて、今度こそ家に帰ろう。
とりあえず、家に着くまでケースの中で眠っといてくれよな。加奈子。
*
よーし、自宅に到着っと。
えっと、宮森さんの車は、黒い車だっていってたから、あれか。
やっぱ教団の幹部格はすごいな、いい車に乗ってる。
コンコン
「どうも、相良くん。思ったより早かったですね」
「はい、宮森さん。それにしても、あの注射薬は効きますね。加奈子のやつ、未だに寝てますよ」
「さすが、神の加護がありましたね。本来、人柱は信徒が好ましいのですが、最近の女性信者は、その……。失礼を承知でいいますが、不器量な方が多いからですね……」
「あいつも、きっと本望ですよ。愛する人間とともに、神への供物になれるのですから」
「はい、では加奈子さんと一緒に自宅に入ってください。供儀に使う香油と聖火は、こちらで用意しています。君と加奈子さんが入り次第、家に火をつけます」
「はい、わかりました」
それじゃあ、家に入ろう。我が住まいへ、そして、我が墓場へ。加奈子と共に。
俺は真面目に信仰をしてきた。だから、神の贄になるという信徒として最大の栄誉を得られたんだ。
やはり、神様は、俺たちの日ごろの行いを見ている。