表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

びりびりマジシャン

作者: 織花かおり

武 頼庵(藤谷 K介)様主催の『繋がる絆企画』参加作品です。


「よ~し、昨日の小テストの結果(けっか)を返すぞ~」

元気なよしのり先生の声が(ひび)く。

「ほんっと無駄(むだ)に声デカいよなぁ」と小声であつしが悪口を言った。

「ほんとほんと。それに、テストの結果(けっか)なんて見たくないよな」と(あい)づちをうったのはこうた。


 よしのり先生は、今年の春に教員(きょういん)になったばかりの先生で、良い意味(いみ)でも悪い意味(いみ)でもやる気まんまんの先生だった。

とにかく何事も全力(ぜんりょく)投球(とうきゅう)!それがモットー。


 授業(じゅぎょう)は分かりやすいし、話は面白(おもしろいし、フレンドリーで良い先生だけれど、5年生になってからテストがめちゃめちゃ多くなって、さすがにぼくらは嫌気(いやけ)がさしていた。


 でもブーイングをしても、テストがあるからぼくらがどれほど理解(りかい)しているか分かるんだと主張(しゅちょう)して、ちっとも効果(こうか)がなかった。

それにここは田舎(いなか)で子供の数が少ないから小人数教育しょうにんずうきょういくにはもってこいで、東京の小学生とかレベルが高い子たちに負けないために、今の内からがんばっておくと将来(しょうらい)(らく)だからと言うんだ。


 それでも、勉強が苦手なまんねんビリのぼくは、あつしやこうたより、テストの多さにゆううつさ大だった。


 「ロキくん、100点!がんばったな」

おお、10人いるクラスメイトたちがどよめく。


 ロキは、東京から昨年(さくねん)の2月に()してきた子だ。

勉強がめちゃくちゃできて、ロキが()してから、こののんびりしたクラスは変わった。

半分くらいが、勉強に(せい)を出すようになったのだ。


 あつし、こうた、ぼくは、勉強ができない方で、運動も苦手なぼくは、ロキが転校してからよけいみじめになった。

だって、ロキは運動も得意(とくい)なんだ。


 「ようへいくん。今回のところ、むずかしかったか?放課後(ほうかご)、先生と復習(ふくしゅう)しような?」

先生、みんなの前で言わないでよ。

なんて、今さらだ。

ぼくがビリなのは、とっくにみんな知っている。


 それでも、みんなはぼくをバカにしない。

なぜなら、ぼくにもすごいところがあるからだ。


 「ようへい。今日も何か見せてくれよ!」

そういったあつしに、筆箱(ふでばこ)のなかの100円玉を長袖(ながそで)のすそをまくって(うで)の中に消してみせる。

「すっげえええ。いったいどうなってんの?」


 ロキがぼくをちらりと見た。

でも、すぐに目をそらす。

(ロキは、こういうの興味(きょうみ)ないのかな?あいつ、放課後(ほうかご)もだれとも遊ばないし、勉強ばっかりやっているんだろうな)

ぼくは、同時に放課後(ほうかご)の先生との勉強会があることを思い出して、盛大(せいだい)溜息(ためいき)をついた。


 「ようへいくん。だから、高さは直角になったところをさがすんだ」

よしのり先生が何度も説明してくれるのに、ぼくは三角形の面積を求める高さの求め方がどうしてもわからない。

どうして、直角のところが高さになるのだろう?

直角ってどうして分かるのだろう?

ぼくは、自分の頭が悪いのを(いや)と言うほど知った。

マジックはあんなに簡単(かんたん)にできるのに、算数はそうじゃない。


 (先生。どうしたってぼくにはこれ以上、理解りかいすることはできません。算数をするくらいなら、マジックの(わざ)をひとつおぼえたいです)

そう言葉にしたかったけれど、よしのり先生の一生懸命(いっしょうけんめい)なのをみて、言えなかった。


 ぼくは、マジックがなかったら、本当にどうなっていただろう?

でも、明日もテストがつづく。

そのたびに、ぼくは(いや)な思いをする。

 

 昇降(しょうこう)(ぐち)を出ると、あつしやこうた、ほかのクラスメイトたち((おも)に勉強がきらいな子たち)が待っていてくれていた。

「おつかれ、ようへい。居残いのこり勉強なんて最悪(さいあく)だよな。おれ、今日家に帰りたくない。こんな点数、親に見せられないよ」

こうたはがっくり(かた)を落とした。

「そうだよ。何が悲しくて、できないテストの点数を毎日毎日見なきゃならないのさ」

「おれ、ゲーム禁止(きんし)にされそうなんだ」

「それ、最悪(さいあく)だな」

「こんなやり方、平気(へいき)なのはロキくらいだよな」

「たしかに、あいつ、いっつも100点だもんな」


 「おれ、こんなもの(やぶ)っちゃおう!」

あつしがテストを(やぶ)きそうになったので、「ちょ、まった」とぼくはとめた。

「ぼくにまかせて」


 ぼくは、テストをびりびり(やぶ)いた。

あつしのテストがみるみるこまかい紙片(しへん)になっていく。

「これを集めて~、手の中にいれます。そして『カワレ、カワッタ、ホンジャラカ』。呪文(じゅもん)となえると、ほらこのとおり」

そこには、飴玉(あめだま)があった。


 「すっげえええ。ようへい。お前、ほんとすげええええ」

みんな拍手(はくしゅ)してくれた。

「おれのテストも(あめ)()えて」

「おれも」

「「「おれのも」」」


 ぼくは家に帰ってから、いろいろ考えた。

父さん、母さんにも相談(そうだん)したら、自分の素直(すなお)な気持ちを先生に伝えてみたらというので、伝えることにした。

幸い、我が家は成績(せいせき)にそれほどうるさくなく、マジックに(せい)をだすのを(ゆる)してくれている大らかな家だった。

だって、ぼくの将来(しょうらい)(ゆめ)はマジシャンだからね。

それでも、やっぱり毎日テストなんて(いや)だったから、今日あつしたちと話したことを素直(すなお)に手紙に書いた。


 次の日。「昨日の小テストの結果(けっか)を返すぞ~」とよしのり先生の元気な声が教室に響く。

「ロキくん、100点!」

ロキは(うれ)しそうな顔もしないで席に(もど)っていく。

「ようへいくん。また放課後(ほうかご)、がんばろうな」

ぼくは、返された答案用紙をもって、教壇(きょうだん)の前に立った。

「どうした?ようへいくん」

「先生。ぼくたちの気持ちをってください」


そして、テストをびりびり(やぶ)いた。

「ようへいくん。何をしているんだ!やめなさい!」

止めようとした先生をあつしやこうたがとめてくれた。

「せんせい。おれたちの気持ち、知ってよ」

びりびりに(やぶ)いたテストを両手に(つつ)んで、ぼくは呪文(じゅもん)(とな)えた。

「テストナクナレ、ナクナラッタカタ」

すると、それは手紙に変わった。

「せんせい。これがぼくたちの正直(しょうじき)な気持ちです。読んでください」


 その時、ロキががたんと席をたった。

そして、その場でビリビリビリビリ。100点の答案を(やぶ)り始めた。

「きゃあああああ」

女子から悲鳴(ひめい)が上がった。でも、ロキはやぶつづけている。

「ロキくんまで。いったいどうして?」

よしのり先生の顔色が青い。


 「先生。ぼくは100点をつづけることに(つか)れました」

ぼくは、そのとき始めてロキを()正面(しょうめん)から見た。

切れ長の目もとに、(さみ)しそうな微笑ほほえみが()かんでいる。


 その日から、小テストはなくなった。

ぼくらは、放課後(ほうかご)心おきなく自由に遊べるようになって、学校がずっと楽しくなった。

ただ今日はあつしとこうたと、ロキの家に行くことにした。

あのとき、ロキが答案用紙を(やぶ)らなかったら、こんなにうまくいかなかったかもしれない。

それに、あんなふうに(さみ)しく笑ったロキのことが、とても気になっていた。


 よしのり先生にロキの家を聞いて、ぼくらは向かった。

よしのり先生は、あの後すぐ手紙を読んでくれて、ぼくらの気持ちを分かっていなかったことを(あやま)ってくれた。

「先生、少し強引だったよな、ごめんな。でもな、勉強は大切なことなんだ。小テストはしないけれど、大テストはこれからもやっていくからな」

みんな、少しがっかりしたけれど、それもそうだなと思ったようだった。


 ロキの家は、意外(いがい)にも農家だった。

小屋のあちこちに農機具のうきぐがおかれ、(おく)にはトラクターがある。

あちらが母屋(おもや)だろうと行くと、優しそうなおばあちゃんが(こし)をとんとんと(たた)きながら、(なえ)に水をかけていた。

「あら?ロキのおともだち?」

緊張(きんちょう)したけれど「はい。こんにちは」と言えた。

「ロキ~。おともだちが来たよ~」

ばたばたと廊下(ろうか)を歩く音がして、ロキが顔を出した。

「あっ」

「よう」

あつしがロキに手をあげる。

「ロキ。今おやつを用意するから、あがっていってもらいなさい。さぁさぁ、どうぞ」


 ぼくらは、おせんべいとお茶と饅頭(まんじゅう)を前に、何を話していいのやらわからなかった。

ロキの雰囲気(ふんいき)には、ケーキとかクッキーとか合うと思ったけれど、あのおばあちゃんが一生懸命用意してくれたかと思うと、そんな風に思うのは(ばち)が当たると思った。


 「何か用なの?」

ロキがぽつりと言う。

戸惑(とまど)っているのだろうな……。

そりゃそうだ。今までろくに話したこともないクラスメイトが(たず)ねてきたのだから。

「あのさ」

3人とも声が出ない。


 そんな時は、いつもの、そうさ、いつもの。

ぼくは、トランプを出して、「ロキ、選んでよ」と()きなカードを選んでもらった。

その間、ぼくは目をつぶって後ろを向いている。

それを残りのトランプに入れてもらって、トランプを広げる。

ぼくには、ロキが選んだカードが光って見える。

もちろんマジックだから、タネがちゃんとあるのだけれど、うまく行くときは必ずタネが光るんだ。

「これ、ダイヤの6」

「おおっ、当たりだ」

「何度見てもすげえええ」

ロキはだまって、ダイヤの6を見ていた。

あれ?楽しくなかったのかな?


 「テストをビリビリにするの、あれすごかった」

そうロキが口にした。

マジックより、テストをびりびり(やぶ)いたことがロキの心に残っていることに、ぼくはちょっぴりがっかりした。

ロキがテストを(やぶ)いたことを思いだしたのか、あつしが勢いよく話し出した。

「だろう?あれ、おれらも本当にどきどきした。でも、気持ちよかったよな」

「うん、すっきりした」

そう答えたロキに、こうたが不思議(ふしぎ)そうな声を出した。

「ロキは100点だったろう?どうして、(やぶ)いたのさ?」


 ロキはぽつりぽつりと話し始めた。

「父さんと母さんが、うまくいっていないんだ。それでおばあちゃんの所にしてきたんだよ。()()んでいる母さんを(はげ)ますために、100点をとっていたんだけれど、いよいよ父さんと別れることになって……。ぼくはまた家族3人で()らしたいんだ、離婚(りこん)なんかしてほしくない。でも、母さんはもう父さんとはやっていけないって……。そうなったら。100点をとるのなんて、意味がなくなった気がして……。家にすぐ帰っていたのは、いつ父さんが来ても会えるように。学校ではまた東京に戻っても(さみ)しくないようにって友達を作らなかった」


 ロキは、静かに目をふせた。

あつしとこうたももう何も言えない。

「あのテスト用紙のように、母さんと父さんの離婚(りこん)とどけをびりびり(やぶ)けたらいいのに」


 (ロキは、両親が大好きなんだなぁ)

そりゃそうだよな。子供にとって、親はまだまだ世界の大部分だ。

大好きな親の離婚(りこん)なんて、背負せおいきれないほどさみしいことに決まっている。

でも話したことで、いくぶんすっきりしたらしい。

饅頭(まんじゅう)を口に運んだ。


 ぼくは、またトランプをロキに見せた。

「ねぇ、ロキ。一枚選んでよ」

ロキは今度は意外(いがい)にもにっこり(うれ)しそうに笑った。

「マジックができるなんて、すごいな」

ぼくは俄然(がぜん)やる気が出た。

「この一枚を封筒(ふうとう)の中に入れて……呪文(じゅもん)(とな)えます。『アラアレアルヨ、カワッテミタヨ』。ロキ、封筒(ふうとう)の中を見て」

「うわっ、さっきのカードと(ちが)う!すごい!!」

ロキは感心してうなった。

「ようへいくんは、ほんとうにすごいな。100点をつづけるのよりずっとすごいや。テストをびりびり(やぶ)いた時もすごいと思ったけどさ」

「でも、ロキはマジックにあまり興味(きょうみ)がないんだろう?」

「いや。いつもすごいと思っていたよ。でも話しかけるとそのまま話すようになってしまうと思って、見ないようにしていたんだ。だって、マジックって永遠(えいえん)に見ていたくなっちゃうものだろう?」


 ぼくは、マジックを(みと)めてくれたロキに、何かしてあげたいと本気で思い始めた。

「ぼくさ。テストをへらしてほしいことを、父さんと母さんに相談(そうだん)したら、素直(すなお)に自分の気持ちを伝えてみたら?って言われたんだ。伝えなきゃ、何も始まらないって」

ロキは、真剣(しんけん)にぼくの話を聞いている。

「ロキは、自分の気持ち伝えた?」

「いいや。どうせ無駄(むだ)だから」

こうたもあつしも熱くなって言った。

「伝えてみなきゃ、本当に変わらないぞ」

「そうだよ。()いて(たの)めよ。おれならそうする」



 「でも、おれ、自分の気持ちを伝えるのが苦手なんだ」

「じゃぁ、手紙でも書きなよ。一言『別れないで』でもいいと思う」

「そうだよ。あのよしのり先生にもちゃんと伝わったろう?」

「なら、みんなで手紙を書くのを見守っていてよ」

「えぇっ」

責任(せきにん)重大(じゅうだい)だなぁ」

「たのむよ」

「分かったよ」

「ちなみに先生の手紙には、何て書いたの?」

「とにかく正直(しょうじき)に書いた、点数の悪いテストを毎日返されて、気分が()()みます。放課後(ほうかご)は友達と前のようにおもり遊びたいですって」

「そうか、正直(しょうじき)にか」

少し考えて、ロキはノートを出して書き始めた。


 「ぼくは、貧乏(びんぼう)もたえられる。友達がいないひとりぼっちもたえられる。ただ母さんと父さんが(はな)れるのはたえられない。ふたりとも大好きだから、わかれないでほしい」


 「ロキ、がんばったな」

あつしがぽつりと言った。

「うん、がんばった」

こうたも言った。


 ぼくは、手紙の他にも重大(じゅうだい)責任(せきにん)()おうとしていた。

「なぁロキ。離婚(りこん)とどけ、びりびり(やぶ)いちゃおうよ」

「「「ええっ」」」

「よしのり先生の時と同じことをやろう。あの時うまく行ったのだから、今度(こんど)だって」

ロキは、目をぱちくりさせた後、しばらく考えてやっとうなずいた。


 それ以来、ぼくら4人は学校でも、ロキの家でも一緒(いっしょ)に遊んだ。

ロキはやっぱりふと(さみ)しそうな顔を時々するけれど、以前(いぜん)より明るく、活発になった。

そして、ぼくたちのことも『ようへい』『あつし』『こうた』とてにするようになって、よしのり先生もその変化に目を(ほそ)めた。

テストは満点でなく、90点くらいになったけれど、明るくなったロキをおばさんとおばあちゃんもとても(よろこ)んでいるらしかった。


 その日も、ロキと遊ぶ約束をしていた。

門をくぐると

「父さん、行かないでよ!」

ロキの必死(ひっし)な声がする。


 ぼくらは、一気に緊張(きんちょう)モードになった。

「ようへい、とうとう出番だぞ。いけるか」

「うん!ここで引き返したら、男がすたる」


 あつしとこうたが、何事(なにごと)もなかったように「こんにちは~」と入っていく。

「あっ、もしかしてロキくんのお父さん?会いたかったです!ぼくたち、ロキくんの大親友です!」

人当たりの良いこうたが、上手うまく足止めをしてくれている。

あつしは、おばさんにあいさつしている。

「ロキ君の大親友のあつしです。いつもお茶とお菓子、ごちそうさまです」

そのすきにロキが、あるものを持って、ぼくの(そば)にやってきた。

準備(じゅんび)万端(ばんたん)

よし、とうとうだ!行くぞ!イッツ、ショータイム!!


 「ロキ君のお父さんとお母さん、お初にお目にかかります。ぼくは、真中ようへい。ロキ君の大親友です。ご挨拶(あいさつ)代わりに、こちらをどうぞ」

ぼくは、何もない新聞紙の中から花束を出した。このために2か月分のお小遣いがなくなったけれど、後悔(こうかい)一切(いっさい)ない。

その花束(はなたば)を、おばさんに(わた)す。


 「まぁ。マジックなの?すごい」

おばさんは、(おどろ)いていた。

つかみは上々。


 お次は、何もない新聞紙から水を出すマジック。

タネの紙コップが光って見える。

うん、今日もいい感じだ!!


 次にお得意(とくい)のコインバニッシュ。

おじさんに100円玉を貸してもらう。

おじさんは最初さいしょあせって帰ろうとしたけれど、ロキが(たの)んだら、いてくれた。

良かった。多分、おじさんもロキが好きだ。

何の変哲(へんてつ)もない100円玉を左手ににぎって右手でトントントン。ほら、消えた!

これには、おじさんもいたく感心していた。


 さぁ次はロープマジック。

おばさんにロープを切ってもらう。

それを不思議(ふしぎ)な力でくっつけるマジック。

ほら、切ったはずのロープが元通り。


 あつしとこうたとロキは、夢中(むちゅう)になるのはいつものことだけれど、おばさんとおじさんも興味(きょうみ)を持って見てくれている。


 「きみはプロのマジシャンなのかい?」

おじさんが聞くので

「いいえ。プロになりたいマジシャンです。でも父はプロのマジシャンです」

と答えると

「ほう。たいしたものだ」と感心したようだった。


 とうとう最後のマジック。あれをやる。ぼくはロキに目で合図をした。

ロキがうなずいて、前へ出る。


 そして、ロキがびりびりびりびり、(やぶ)りはじめた。

「あっ、それ離婚(りこん)とどけじゃないか!いつの間にーーー!」

「ロキ、やめなさい。いったいどういうつもり?」

それでも、びりびりびりびり。


 離婚(りこん)とどけが、ばらばらの紙片(しへん)になって、ロキの足元へ落ちていく。

「ロキ、やめなさい!」


 ぼくは、有無(うむ)を言わせず、それをひろあつめて

「今から悲しみを大切なものに()えます」と言った。


 そして「フンダリケッタリ デモエガオ」という呪文(じゅもん)(とな)えて、びりびりの離婚(りこん)とどけを3人の笑顔(えがお)の写真やロキの手紙にかえた。

「おれの気持ち。父さん、母さん、お願い、分かって!」


 一陣(いちじん)の風が吹いた。

集めきれなかった離婚りこんとどけの(かみ)吹雪(ふぶき)となって(ちゅう)()う。

そこにあつしとこうたがあらかじめ用意よういしていた、たくさんの紙片しへんをばらまいた。

そして、それは(さくら)吹雪(ふぶき)みたいで、写真の笑顔(えがお)祝福(しゅくふく)するかのようだった。


 おばさんがロキの手紙を開ける。

おじさんもくちびるをぎゅっと引きむすんで、となりに立った。

読んだ後、おばさんは、ぽろりとなみだをこぼして、うっうっとうずくまった。

ロキは「母さん!」とおばさんの背中せなかをさすって、なみだを目いっぱいにためながら、 さけんだ。

「父さん!」

長い長い一時が過ぎた。

風はまだ吹いている。

おじさんは桃色に染まった空を仰ぐと、一言「やすこ、ロキ、すまなかった」とあやまった。


紙吹雪(かみふぶき)の中、三人の(かげ)が重なって一つになった。



 それから3日後。

ロキは、お父さんとお母さんが前向きにやり直すことをけんとうしていると(うれ)しそうに報告(ほうこく)してくれた。

別れの原因は、お父さんの借金(しゃっきん)だったそうだが、東京の一等地のマンションを売りに出してなんとかなりそうだということだ。

お父さんは初めて自分の力で買ったマンションを売りたくなくって、(ねば)りに(ねば)っていたため、お母さんに出て行かれたのだという。

ここにきて、田舎(いなか)らしも悪くない、農業をやろうと思っているらしい。


 「良かったな、ロキ」

「ありがとう。ようへいとあつしとこうたのおかげだよ」

そういって、ロキはわらった。


 「ほらほら。席について。この前の大テストの答案を返すぞ~」

よしのり先生の大きな声が教室に(ひび)く。

またビリだろうな。

だけど、ぼくにはマジックがある!

大人にも通用したマジックが!

「ようへいくん」と呼ばれて「はい」と元気よく立ち上がった。

「ようへいくん。後でまた先生にもマジックをみせてくれよ」

よしのり先生が、にこにこする。

テストはやっぱりできなくて、ビリだった。

でも、気持ちは明るいまま。

「もちろんです!」

そう言うと教室から拍手(はくしゆ)が起こって、(みじ)めな気持ちはいっさいなく、(ほこ)らしい気持ちでぼくは席についた。


おわり




最後までお読みくださり、ありがとうございました!

ご感想などいただけますと、励みになります!

どうぞ宜しくお願いいたします。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
織花かおりの作品
新着更新順
総合ポイントが高い順
作成:コロン様
― 新着の感想 ―
[良い点] 子供の頃、こういう児童文学大好きだったなぁ。 なんか、ワクワクしながら図書館で読書してたことを思い出しました。 子供が読んで痛快で、大人が読んでウルっとする二段仕込みが流石です。
[良い点] 大人の『常識』や『固定観念』を、見事にびりびりと破いてくれるお話だと思いました。 テスト(成績)は大事、離婚は子供にはどうしようもない。 だけどこのお話に出てくる子供達は、考える力も行動…
[良い点] たとえテストではビリでも、今回のマジックはようへいにしかできなかったかも知れない特別なものですね。日頃から友達を楽しませようとしてきた努力や、人に対するやさしさが、素敵なマジックのタネだと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ