表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お嬢様はキノコ娘

作者: 綾瀬紗葵

 たまには賞にあわせて書いてみようかなぁと思い至り、短編ならいけるかも? と挑戦してみました。

 キノコに関する独自設定がありますので、ご理解ください。

 また現代社会をベースにしていますが、現実世界ではあり得ないエピソードも多く出てきますのでご注意ください。

 しかし、お嬢様の口調って難しいですね。

 毎回悩みます。

 



 ごきげんよう。

 わたくし喜熨斗志桜里きのとしおりと申します。

 家族や幼馴染みたちにはキノコ娘と呼ばれておりますの。

 キノコ娘って何ぞや? とお思いでいらっしゃいますか?

 そうですわね……キノコのように美味しく食べられる人間だと、猟奇的に受け取られてしまいますと困りますので、きちんと説明いたしますわ。


 まずは、私がキノコ娘だと発覚するまでには、少々時間がかかりました。

 そうですわよね。

 生まれたときから、お前はキノコ娘なんだよ! と言い聞かせる両親はいないと思いますもの。


 両親だって自分たちから生まれた子供がキノコ的体質? を持っているだなんて考えも及ばないでしょう。

 幾ら聡明な両親だからといって、無茶振りが過ぎるというものです。


 最初に発覚したのは、私が一緒にいると、良質なキノコ、希少なキノコに遭遇する機会が多すぎる……という、特技……いいえ、やはり体質……お兄様たち曰くの特殊能力でしたの。


 私の家は所謂名家と呼ばれる家でございます。

 家系図は平安時代のものから残っておりますので、家の歴史はなかなかに長いものだと自負しておりますわ。

 現在も多くの資産を保有しておりますし、人脈も広いのではないでしょうか。


 そんな名家と呼ばれる喜熨斗家ではございますが、何故か代々女児には恵まれにくいようなのです。

 家系図を遡っても、なんとまぁ、十人を数えるほどしかおりませんの!

 お兄様たちと一緒に検証して大変驚きましたわ。

側室や妾といった方々の子も、全て男児という調べがついております。

 どうしても女児が欲しく、一人で十二人もの子を産まれた女性もいらっしゃいましたの。

 尊敬いたしますわ。

 ですから、母は言うのです。

 私は恵まれているのよ! と。


 ええ、私。

 長女ではございますが、お兄様は八人もおりますの。

 どのお兄様もシスコンを拗らせておりますが、全員良い兄様ですわ! と胸を張って申し上げられます。

 一番上のお兄様とは一回り年が離れておりますわ。

 幼い頃のエピソードには事欠きませんのよ。


 そう。

 その一番上のお兄様……宗一郎そういちろう兄様が、私の体質に気がついてくれたのです。

私が五歳の時分ですから……宗一郎兄様は十七歳。

 喜熨斗嫡男として既に名を馳せていた、優秀で柔軟な思考の持ち主だったからこそ、到達できた考えだったのかもしれません。


 あれは山の中。

 お兄様たちとピクニックをしているときでした。

 家の山ですので、管理は行き届いております。

 本来であれば、キノコの大量発生などあり得ないはずなのですわ。

 喜熨斗家の管理人たちは優秀ですから。


宗兄そうにいこれって、管理人たちの管理不行き届き……じゃねぇよなぁ?」

 

 二番目のお兄様、雅比古まさひこ兄様が、少々不穏な声で宗一郎兄様に尋ねられました。

 雅比古兄様は名前の通り、大変雅やかな容姿をしていらっしゃいますが、自身ではそれを好んではおりません。

 外見通りの嫋やかな性格と思われては困ると、乱雑な言葉を使われますが、幼馴染みはギャップ萌え! と叫んでいるので、効果の程はイマヒトツなのかもしれませんね。

 

「喜熨斗家の管理人たちは優秀だよ。怠慢はあり得ない……とするならば、志桜里、お前のお蔭かもしれないよ?」


「わたくし、ですか?」


「そう。前回志桜里を連れてきたときは、まだ赤ちゃんだったけれど。やっぱりキノコを多く見かけたからね」


「あ! そう言えば、希少キノコを初めて見つけたとか、龍が言ってたなぁ……」


「ん? 呼んだ?」


 三番目のお兄様、幸乃進ゆきのしん兄様も思い至ったらしいのです。

 四番目のお兄様、龍之介りゅうのすけ兄様の名前を口にしていましたわ。


「前にこの山荘に来たとき、赤ちゃんの志桜里に夢中ですっかり忘れてたけど、お前さ。希少キノコを見つけたって、騒いでたじゃん?」


「あー! あのときね。うん、覚えてるよ。だってさぁ、良い匂いに惹かれていったら原木舞茸げんぼくまいたけがあったんだよ! 誰が原木を設置したのさって、話。ちょっとホラーだったんだからな!」


 菌床にきのこ菌を打ち込んで栽培するのが菌床栽培。

 原木にきのこ菌を打ち込んで栽培するのが原木栽培。

 原木栽培は露地での栽培なので、天候に左右されやすく育てにくいとのこと。

 更にこの原木舞茸は、収穫時期が一年を通して秋の三週間しかないと説明いただきました。

 自然に生えるものではないし、そのピクニックは春だったと聞けば、確かにホラーですわね。


「でもまぁ、希少キノコが入手できたし、美味しく食べたから特にそれ以上の疑問は持たなかったんだけどね」


「美味かったなぁ……原木舞茸の天ぷら。普通の舞茸より肉厚で香りも良かったぜ」


「今回もたくさん食べられるよ……しかし、本当に誰がこんなにたくさんの原木を設置したんだろうね?」


 肩を竦める龍之介兄様曰く、軽く百本は並んでいるらしいのです。

 しかもどの原木にも、まんべんなくみっしりとキノコが生えているのがあり得ないのだとか。


 そんな龍之介兄様は頭脳派の人ですわ。

 キノコに関しては何故か調べずにいられない! と他の知識よりも、広く深く学んでいるようですの。

 もしかしたら、私の体質と関係しているのかもしれません。

 

 龍之介兄様と双子である幸乃進兄様は、自他共に認める肉体派。

 私をおんぶや抱っこで移動するとき、大体は龍之介兄様が担当になっておりますわ。

 他のお兄様方も率先して抱っこしてくれますが、一番安心感があるのが幸乃進兄様ですの。


「他のキノコもすげぇなぁ、おい。全部食用か?」


「や。食用じゃないのもあるぜ。御丁寧に日本三大毒キノコが仲良く並んでるわ……世界三大毒キノコもその隣に生えてるし」

 

 カキシメジは毒キノコに見えないほど美味しそうで、夜でもないのに発行しているツキヨタケは幻想的で綺麗でしたわ。

 クサウラベニタケは誤食が多いのがよくわかる姿でしたの。

 でもね?

 訴えられましたのよ。

 僕、クサウラベニタケ! 

 毒があるから食べちゃ駄目だよ! と。

一瞬耳を疑いましたけれど、お兄様たちの声とは明らかに違いましたので、キノコが語りかけてくれたのだと信じられましたわ。


「これは、家族だけの秘密にしないと駄目だろう。皆、いいね?」


 お兄様たちがそれぞれ賛同の声を上げていらっしゃいました。

 ですので、キノコの声が聞こえますのよ! とは告白できませんでしたの。

 そのときは。

 だって、希少キノコがたくさん得られる、それだけでも十分に危険でございましょう?


 確かに人に知れてしまったら、実験体にでもされそうですし。

 希少キノコ栽培要員として幽閉されてしまう可能性も高そうで、切なさを感じてしまいました。


両親はピクニックに不参加でしたので、帰宅時にはしっかりと報告しましたの。

 大変驚いておられましたけれど、喜んでもおられましたわ。

 うちの娘は人とは違うと思ってた!

 特別な娘万歳!

 そんな受け止め方をしてくださいました。


 気持ち悪くありませんの?


 幼心に思いましたのですが、家族のうち誰一人として、否定的には捉えませんでしたわ。

 不思議ではありましたが、面映ゆくもありました。

 それと同時に、自身が家族に愛されているのがわかって嬉しくもありましたの。

 笑顔でそう伝えておきましたわ。


 ただでさえ過保護だった両親やお兄様たちが、少々行き過ぎでは? と思うレベルで過保護になってしまったのは、必然だったのでしょうか。

 のちに、厳選されて付き合えるようになった幼馴染みたちに、よくあの過保護な溺愛に耐えられるなぁ、と言われたものです。


 その日の夕食には、原木舞茸の天ぷらをいただきましたわ。

 兄様方がおっしゃっていたように、肉厚で香りも良く、大層食べ応えのある食感でしたの。

 私は塩でいただきましたが、何もつけない派のお兄様、天つゆでいただく派のお兄様たちにそれぞれ勧められて、結局三通りの食べ方をいたしましたわ。

 どれも甲乙つけがたく美味しゅうございました。

 


 キノコ娘の体質というか、能力について、大体出揃ってきたのは十歳の頃でしたでしょうか。


 五歳のときにわかったのが、訪れる場所で多くのキノコに会えること。

 特殊なキノコにも会えること。

 本来生息している環境や条件に合わなくても、遭遇できること。


 さらにはキノコと会話できること。


 そう、一方的に情報を伝えてくれるだけだと思っておりましたが、質問をしたら返事がありましたの。


 せっかく美味しいキノコや希少なキノコが手に入るのだからと、お兄様たちと一緒に定期的に山へ入る習慣をつけまして……しばらく経過したときに、それは起こりましたわ。


「キノコ娘ちゃ~ん。俺の可愛い志桜里ちゃ~ん」


 私を率先してキノコ娘と呼ぶのは、五番目のお兄様、亜久里あぐり兄様。

 女性的な美貌の持ち主で、家族以外には毒舌を披露する方です。

 私にはとても優しく甘いお兄様なので、一緒にいるところを見ると、家族や幼馴染み以外は二度見するのだと、真しやかに囁かれておりますわ。


「何でしょうか、亜久里兄様」


「俺、仁王シメジが食べたいんだけど。何処かに生えていない?」


「今まさしく生えてまいりましたわ。兄様の背後に」


「え? ふぉ! でかっ!」


 亜久里兄様が希望した途端に、その背後ににょきりと仁王シメジが出現しましたわ。

 すっかり慣れましたが、大変シュールな光景ですわね。


「ちょ! え? でかすぎない、これ?」


 キノコが大量に入手できるようになってから、喜熨斗家の面々はそれぞれキノコに詳しくなりましたわ。

 キノコの知識は専門家に勝るとも劣らぬ龍之介兄様、美食家である六番目の兄、真茶樹まさき兄様に続いて、亜久里兄様はキノコに詳しいのです。

 ゆえに、仁王シメジが饅頭型から開いて横に大きくなる性質だと知っているのですわ。

 だからこそ驚いておられるのでしょう。

 自分の身長よりも背が高い仁王シメジを御覧になって。


「確かに高さがあるように思いますが、味に遜色はないと思いますのよ、ねぇ。仁王シメジさん」


 想像していたより大きい仁王シメジに対して逃げ腰の亜久里兄様に代わり、仁王シメジに向かって話しかけましたわ。

 当然、返事など期待しておりません。

 ただ、せっかく亜久里兄様の希望で生えてきてくれたのに、何だか否定される言葉をかけられたら、落ち込んでしまうかもしれません……と思いましたの。

 フォローは大事! ですものね?


『全くですよぅ。亜久里君は僕を大好きだって何時も言ってくれるから、頑張って大きくなったのにさ! 酷いよね?』


 なんと、仁王シメジから返事がありましたわ!


「あらあら、まぁまぁ!」


「ん? 何かあったのか。志桜里ちゃん』


『あれ? 志桜里ちゃん。もしかして、僕たちとお話ができないって思っていた?』


 仁王シメジは数十本~数百本の巨大な株になりますの。

 今回は……そうですわね。

 五十本ほどの株になりますかしら。

 その株全体が横に倒れます。

 人になぞらえるのならば、首を傾げる仕草ですわね。


「ええ。何時もいろいろと説明をしてくださっていましたけれど、一方通行でしたので、会話ができるとは思っておりませんでしたの」


『なるほどねぇ。皆、自己紹介は基本だって思ってるから、それをして満足してたのかな?

 あとはあれだね。志桜里ちゃんを必要以上に驚かせたら駄目って思ってたのかも』


 本来の仁王シメジではあり得ない太く長い茎がきゅっと捻れます。

 おなかの肉を引き締めたいときにするポーズに似ていますわね。

 たぶん、恥じらっていらっしゃるんだと思います。


「まぁ、そうだったんですわね! 私、お話ができるのはとっても嬉しいですわ!」


『そうだよねー。志桜里ちゃんなら、絶対そう言ってくれるって、皆思っていたんだよー。これからは遠慮なく話しかけてね』


 大きな株が左右に揺れます。

 喜びに興奮しているといった感じなのでしょうか。


「ふふふ。それでは遠慮なくお話をさせていただきますね」


 私はそんな仁王シメジの様子が嬉しくて、にっこりと微笑みましたわ。


「……俺の可愛いキノコ娘ちゃん? 思ったんだけど、今。その巨大仁王シメジと会話してた、とか?」


「ええ、しておりましたわ。仁王シメジが大好きな亜久里兄様のために、頑張って大きく育ってくれたそうですわよ?」


「お、おぅ! そうだったのか。俺のためか……照れるなぁ」


『照れるほど喜んでくれたなら、僕も嬉しいよ。巨大だからって大味なんてあり得ないからね! 是非とも美味しく食べてほしいな』


「……もしかして、今、俺の言葉に何か返事をしてくれてる感じ?」


「はい。そうですわね。喜んでくれて嬉しい。巨大だからって大味じゃないから美味しく食べてほしいと」


「す、すげぇ! ってーか。意思があっても美味しく食べられたいって思うんだな。こう生命体としてはさ。食べられるよりも長生きしたいって考えるんじゃねーの?」


 そうですわね。

 それは私も疑問に思っておりましたわ。


『そうだねぇ……永遠の真理と言いたいところだけど。個体別に違うんだよね』


「まぁ! そうなんですわね」


『そそ。僕みたいに美味しく食べられてキノコ生命を全うしたい個体もいれば、できれば末永く生きて種の保存っていうの? たくさんの子孫を残したいって考える個体もいるんだ』


「人と変わりありませんのねぇ」


 我が喜熨斗家における、永遠の真理……それは、女の子が欲しい! ですわ。

 ただ、その切実さはそれぞれ違いますの。

 宗一郎兄様は、自分の嫁には絶対女の子を産んでもらう! と思っていらっしゃいます。

 逆に龍之介兄様は、正直女の子の方が嬉しいけど、男の子しか生まれなくてもかまわないかな、と公言していらっしゃいます。

 私は、そうですわね。

 男女どちらも等しく欲しいですわ。

 そして生まれた子供は自分が愛されたように、慈しんで育てたいと考えておりますのよ。


『だねぇ。基本食べられたくない個体は気配を絶っているから、志桜里ちゃんが見つけようとしない限りは見つけられないからね。目につく個体は、食べられたがっているっていう認識で間違いないよ』


「であれば、好ましい食べられ方などを聞いた方がよろしいかしら?」


『もぅ! だから志桜里ちゃんが大好きなんだよね、僕らは。まぁ、喜熨斗家の人々って皆良い人たちだからなぁ……どんな食べられ方をしても喜んで昇天しそうではあるよ』


「ふふふ。私の家族は一人残らず自慢の家族ですわ! でも、改めて口にしていただけると大変嬉しゅうございます」


 喜熨斗家は代々仲が良いのです。

 極希に家族を引っかき回す方もいらっしゃるようですが……そういう気質の方は、早々に喜熨斗家と縁を切るか、亡くなるらしいとのこと。

 深く考えると、怖ぇぇぞ? そもそも俺は物事を深く考えられねーけどな。と幸乃進兄様は言っておられました。

 直感が家族の誰よりも働く、お兄様がおっしゃるのです。

 きっと深く考えない方が良いのでしょうね。

 どの家にもきっと、闇はあるものですわ。


「……二人の世界……悔しくなんかないんだからね! とか言わない。素直に悔しいわ」


『亜久里のそういう素直なところも、いいよねー。キノコに毒舌じゃないならもしかして、僕らも家族認定?』


「かも、しれませんわよ」


 ほとんど食べてしまう方々を家族認定なのは、世間一般的に考えると、空恐ろしいのでは? と一瞬思いましたが、双方が納得しているのならば、何の問題もございませんわ。


 拗ねている亜久里兄様に自分の考えを交えて御説明申し上げますと、大きく頷いてくださいました。


「じゃあ、今日も美味しくいただきますぜ! で。どうやって食べられたいんだ?」


『本当に君たちは仲良し兄妹だね!』


 そう言って大笑いをした仁王シメジは、玉葱と一緒にバター醤油で美味しくいただきましたわ。


 たっぷりの発酵バターで、巨大な仁王シメジをじっくりと炒めまして、醤油はほんの一垂らし。


「美味いけどさー。仁王シメジって、キノコ食べてる気がしないよな。巨大すぎて」


「この仁王シメジは格別巨大だからな。その辺は仕方ねーよ。美味いが最重要だろ」


 仁王シメジを食べるときに言われるお決まりの台詞。

 あまりにも巨大なため、形がわかる状態で調理されるとキノコを食べている雰囲気にならない……というもの。


 今回は仁王シメジが頑張って巨大化してくれたので、まるで異世界産のキノコを食べているような心持ちでしたわ。

 ええ、勿論。

 独特の濃厚な旨味があり、歯切れ、舌触りともに最高でございました。

 カレーにしても美味しいと遺言をいただきましたので、次の機会には是非キノコカレーにしていただきたいものですわ。



 え?

 キノコ娘で良かったことでございますか?

 そうですわねぇ……いろいろとあるのですが、一番は幼馴染みのキノコ嫌いがなくなったことでしょうか。


 幼馴染みのキノコ嫌いは病的だったのですわ。

 しかも思い込みでしたの。

 えーと……御存じかしら?

 寄生される恐怖、マタンゴの逆襲! という童話を。

 ホラー映画なら知っている……ですか?

 あら……では元ネタはホラー映画だったのかしら。

 幼馴染みは絵本で知ったようですわ。

 幼稚舎の頃に姉弟で読んでしまって……以降、食べるどころか視界に入れるのすら怖がりましたの。

 私も見せていただきましたが、キノコの良さを知っていなければ……いえ、知っていても恐ろしゅうございました。

 内容も悍ましいのですが、絵柄がこう……何ともリアリティを追求した作品でしたの。

 例えば夜中に、廊下に落ちているのを見てしまったら卒倒してしまうレベルですわ。


 幼馴染みの名字はかなぐり

 こちらも喜熨斗家と同じく平安の頃より名が残っている名家でございますわ。

 喜熨斗家とは逆に男の子が生まれにくい家系との経緯がありまして、真逆の家系である喜熨斗家とはお互いの足りぬ所を補いましょう、と古くから仲睦まじい関係を築いておりますの。

 私たちの代でも勿論仲良くしております。

 二人とも随分と性格は違いますけれど、大変好ましい方々ですの。


 姉の名前はりん

 男装の麗人というのが相応しい、麗しくも頼りがいのある女性ですわ。

 宗一郎兄様と同い年ですの。

 物心つく前は婚約者に……というお話もあったようですが、今は親しい友人といった関係に落ち着いております。

 むしろ凜姉様……そう呼んでほしいと本人に懇願されましたの……は、龍之介兄様を狙っておられるようです。

 知的な年下が最高なのよ! とよくおっしゃっておりますの。

 龍之介兄様はひっそりと、自分の手には負えないかな……とひっそり囁いていらっしゃいますわ。

 ……何となくですが、遠くない未来に。

 凜姉様の力押しに負けそうな気もいたしますけれども。


 弟の名前はたかし

 こちらは女装が似合いそうな、線の細い男性ですの。

 泣き虫と皆様はおっしゃいますが、私の前では大変男性らしい方……に見せようと励んでいらっしゃいますわ。

 亜久里兄様と同い年の関係で、毒舌の洗礼にあいましたが、不思議と泣かれませんでしたわね。

 何故かと尋ねましたら、亜久里の毒舌は言葉が鋭いだけで悪意がないからね、とおっしゃっておられました。

 相性がよろしいようで何よりです。


 ええ、そんな随分と外見も内面も違うお二人ですが、キノコは苦手でしたの。

 凜姉様がしゃくり上げるほど泣かれたのを見たのは、想像もできない規格外のキノコに遭遇して驚かれたときが初めてで最後だったように思います。


 そう……あれは、喜熨斗家好例のキノコ狩りピクニックの日でしたわ。

 京家の御両親は喜熨斗家の両親と相談して、強制的にキノコへの恐怖を克服させるべく、喜熨斗家のピクニックに参加させましたの。

 恒例のキノコ狩り……という点は伏せて。

 後になって思い起こせば亜久里兄様より上のお兄様たちは、何処か緊張しておられましたわ。

 京家の二人が暴走したときのために、あらかじめ言い含められていたのでしょう。


 実際。

 二人は暴走いたしましたわ。


 その日は七番目のお兄様、大維志たいし兄様のリクエストで、キヌガサタケの観察をしましたの。

 キヌガサタケはレース様の菌網が大変美しいので有名ですわね。

 あとは臭いが酷いにもかかわらず美味なキノコとしても知れておりますわ。


 京家のお二人は、最初キヌガサタケの観察とは思っておられなかったようですの。

 例によってキノコ娘スキルが発動して、掌に可愛らしく載ってしまうサイズのキヌガサタケがバスケットボールほどの大きさでしたから。

 卵から動物が生まれるんだ! そんな勘違いをされておりまして。

 違うと教えようとした、瑳和希さわき兄様……八番目のお兄様ですわ……の口は塞がれてしまいましたから、ぎりぎりまで気がつかれなかったのです。


 気がつかれたのは、そう。

 キヌガサタケが急激に成長し始めて、美しいレースのスカートが現れた頃だったでしょうか。

 既に宗一郎兄様の腰ほどにも成長していたキヌガサタケの、全体像を見て、凜姉様が気付いてしまったのです。


「そう……宗、一郎?」


「何かな、凜」


「信じたくないんだけど、さ?」


「うん?」


「この生物って、動物なんかじゃなくて、その……き、キノコなんじゃないかな?」


「そうだね。キヌガサタケだよ。臭いは酷いけど、とても美しい……」


 だろう? と続くはずだった、宗一郎兄様の声は、凜姉様と崇君の絶叫に消えましたわ。


「きゃああああああ」


「うわああああああ」


 ちなみに、きゃあが崇君。

 うわあが凜姉様ですのよ?


「はーい、落ち着こうか、凜姉」


 幸乃進兄様が脱兎の如く逃げようとした凜姉様を捕まえて、完全拘束しました。

 まるで犯罪者でも捕まえるような体勢でしたが、俊敏な凜姉様を捕まえるのは、さすがの幸乃進兄様でも手に余ったのでしょう。


「たか君もねー。ほーら泣かない、泣かない」


 亜久里兄様はへたり込んでしまった、崇君の頭を撫ぜましたわ。


「泣いてない! 僕は、志桜里ちゃんの前では泣かないんだからねっ!」


 涙目なのは当然見なかったことにして差し上げます。

 これぞ、武士の情けですわね。


 ぐっと拳を握り締めた私の頭を、何故か瑳和希兄様が微笑ましい表情をしたまま、撫ぜてくださいましたわ。


「大丈夫だって。キノコはお前らを襲わねーから」


「わからないわよっ! こ、こんなに早く育つなんてあり得ないでしょう? きっと特殊個体よ! マタンゴよ!」


「マタンゴではないよ。このキノコは確かに特殊個体だけどね。マタンゴではないんだ。優美なレースで有名なキヌガサタケ。だよね、志桜里」


「はい。宗一郎兄様。スカートが広がる過程を見たい私たちのために、大急ぎで広げてくださった、優しいキヌガサタケさんですわ」


 私が素敵なレースのスカートを撫ぜれば、キヌガサタケが答えてくれますの。


『私はキヌガサタケですわ。怖くありませんのよ? あのマタンゴ絵本によるキノコの風評被害は深刻ですわねぇ……』


「あら? そうですの」


『ええ。何故か小さい子に読み聞かせたがる、大人が多いですわ。悪い子を食べに来るぞーみたいに、えーと。教育的に使っている大人がいますのよ』


「そうなのですか。悪趣味ですわね。それで……実際マタンゴみたいなキノコはこの世に存在いたしますの?」


『……いないと断言はできませんけれど、少なくとも遭遇した! という話は聞きませんわ』


「まぁ、それは朗報ですこと! 凜姉様、崇君。マタンゴと遭遇したキノコたちはいないそうですわ!」


「え?」


「……志桜里ちゃん。どうしてそんなことがわかるのかなぁ?」


「えーと……宗一郎兄様?」


「この二人にならいいだろう。二人とも、これから言うことは志桜里だけでなく喜熨斗家の秘密だ。心して聞いてほしい」


 宗一郎兄様の言葉に、二人がこくりと喉を鳴らしましたわ。

 外見も内面も似ていない二人だけれど、所作はとてもよく似ておりますの。


「私、キノコの声が聞こえますの」


「えぇ?」


「……まさか志桜里ちゃんが、そんな特殊能力を持っていたなんて、驚きね」


「ちょ! 凜姉! 信じるの?」


「あら、崇。志桜里ちゃんを嘘つき呼ばわりするつもり?」


 凜姉様の冷ややかな声に、お兄様たちが反応しましたわ。


「もし……凜姉の言うとおりなら、俺はお前と絶縁するぞ」


 亜久里兄様の毒舌よりも鋭い一言が放たれましたの。

 崇君は大きく首を振りましたわ。


「僕が志桜里ちゃんを嘘つき呼ばわりするなんて、ありえないからな! 誰が疑っても、僕は志桜里ちゃんを信じるよ! ただ……びっくりしただけじゃないか。僕の想像の中では、キノコとお話なんて、物語の中でしかない状況なんだってば!」


 崇君が必死に言い訳をしていましたわ。

 彼の言うとおり、純粋に驚いただけだと思いますの。

 一般的には凜姉様の反応の方こそ、レアですわね。


「驚かせちゃって、ごめんなさい。あと内緒にしてて……許してくれるかしら?」


「勿論だよ! 人に言いにくい秘密だもんね! 教えてもらえて嬉しいよ!」


 落ち込んでいた崇君は私の言葉で、満面の笑みを見せて、私の手をきゅっと握ってくださいましたの。


「はいはい。志桜里ちゃんが可愛いのはわかるけど、手を握るのは許可しませーん」


 亜久里兄様にすかさず、離されてしまいましたが、崇君の笑顔は維持されていましたわ。


「はぁ……でも意思の疎通ができるなら、怖くないかも?」


「……そうだよね。凄く大きいけど、綺麗だし」


『綺麗と言われるのは嬉しいですわ。せっかくなので、美味しくいただいてくださいませ。スープがオススメですわよ?』


「ふふふ。綺麗と言われて嬉しいっておっしゃっておいでですわ! あとは、スープがお勧めとのことですのよ」


「……スープにして美味しく食べてね! とか言ってくれるキノコを、怖がっているなんて……ないね」


「うん。ないよね。凜姉。これって、荒療治?」


「でしょうね。両親にしてやられるのは悔しいけど、志桜里ちゃんの秘密を共有できたのは嬉しいわ」


 先ほどの錯乱が嘘のように、美しく微笑まれた凜姉様が優しく頭を撫ぜてくださいましたの。


 それからは、何時ものパターンですわ。

 キヌガサタケのスープは大変美味しゅうございました。

 あの独特の香りも、発生する場所が決まっているので、きちんと処理すれば全く匂いませんのよ?

 そしてキヌガサタケは食感が秀逸ですの!

 他では絶対に食べられない大きさのレース部分は、食べ応えもありましたわ。


 凜姉様は、三杯。

 崇君も二杯お代わりをしていらっしゃいましたの。


 キノコへの恐怖は完全に克服できたようで何よりでしたわ。


 ええ、これが、キノコ娘体質になって一番良かったことで、嬉しかったことですのよ。



 逆に、キノコ娘で困ったこととおっしゃいますか?


 やはり特異体質の一つでございましょう?

 誰かに知られてしまったら……という恐怖を常に抱えるのは、困ったというか、辛うございますわ。

 家族や幼馴染み、そしてその関係者が広く手を回してくださって、今のところばれていないようですけれども。

 誘拐とかは普通にありましたが、キノコ娘体質とは関係ないようでございましたし。

 これを着てほしいんだ! と言われまして、所謂ロリータファッションを押しつけられたり、逆にボンテージファッションを押しつけられたりしましたときには、怖いというよりは困惑が強うございましたわ。

 結局どちらの服を着るはずもなく、無事に保護されて帰宅した際に、兄や幼馴染みたちにファッションショーを強請られたときの方が怖かったかもしれません……。


 は、話がずれてしまいましたわ!


 一番困ったことは、長風呂をすると……その……キノコのお出汁がでてしまう現象でしょうか。

 時間にして三十分以上使っていると、それはもう良い香りがするキノコ出汁がでてしまいますの。

 普段の入浴時間は、十五分程度なので全く気がつきませんでしたわ。

 あれはそう……試験勉強に集中して、入浴時間が何時もより二時間ほど遅くなってしまったときのこと。

 

『すっかり遅くなってしまいましたわ……だというのに、まだ完全に予定をこなせていないなんて……明日は大丈夫でしょうか』


 想定していたよりも難しい問題が多く、悩んでいるうちにどんどん時間は過ぎてしまい、最終的には心配性のお兄様たちにより、強制的にお風呂へと送り込まれてしまいましたの。

 そろそろ丸裸にされて、そのまま全身を洗われるのも恥ずかしい年にはなっておりましたし、渋々お風呂に入りましたわ。

 丁寧に髪の毛を洗い、体も洗い、肩までお湯に浸かりましたの。

 すっかりリラックスして、何を考えるでもなく、ぼんやりとしておりましたら、寝入ってしまったようですわ。

 小さい頃はよくお風呂で寝入ってしまい、気がつけばお兄様たちの手でベットの中へ……という対応をされましたが、最近ではすっかり寝落ちするなんてなくなっておりましたのに。


『ん!』


 寝返りでも打とうとしたのでしょうか、ずるんと滑った体はお湯の中に沈みましたの。

 現状把握ができず混乱している間に、どっぷりとお湯を飲んでしまいましたわ。

 息苦しさと、お湯の中独特の視界の中で、私が思ったのは驚きの内容でした。


『美味しい!』


 溺れてお湯を大量に飲んだ人間の思考ではありませんわよね?

 一瞬だけ思考がクリアになって、そのお蔭でお湯から顔をだせました。

 大きく咳き込んで、何度か深呼吸をして、次に浮かんだ言葉はこちらですわ。


『良い香り……』


 もうおかしいですわよね?

 私も思いましたわ。

 混乱しているとはいえ、あり得ない思考だと。


 ここにきてどうにか思考が完全にクリアになりました。

 そして認識したのですわ。

 お風呂のお湯から、良い香りがすると。

 

 キノコを美味しく煮るためには、水から入れるべし! という鉄則がありますけれど。

 完全なお湯から煮出した? にもかかわらず、それは堪らなく食欲をそそる良い香りでしたわ。


『ちょ、ちょっとどうかと思いますけれど。これも検証のため……』


 私は不衛生かもしれないと自覚しつつも、すすすっとお湯を飲みましたの。


『やっぱり、キノコの出汁ですわ!』


 大きく目を見開いて、大きな声をだしてしまった私を、はしたないと思わないでくださいませ?

 幸福なお味でしたの。


 私の声を聞いたお兄様たちが、お風呂に入り込んできましたときは、いろいろと諦めましたわ。

 その後の展開も十分想像できましたもの。


 えぇ。

 大変恥ずかしゅうございますが、私が入っていたお湯は全てキノコの出汁として回収されてしまいました。


 瑳和希兄様が、一般に広く販売するべきだ! と主張しまして、他のお兄様たちに蛸殴りにされていましたのを私、止めませんでしたわ。

 だって、あんまりでございましょう?

 当然、キノコ娘体質の中でもトップシークレットになっております。

 しかし、京家のお二人に報告しましたら、崇君がいきなり鼻血を噴き出してしまわれまして……そこまで鼻の粘膜が弱いと聞いておりませんでしたので、右往左往しましたの。

 何故か凜姉様は、放っておいていいから! と生暖かい眼差しで崇君を見つめておりましたから、たまたま血の巡りがよろしかったのかもしれませんわね。


 たっぷりと取れてしまった、志桜里キノコ出汁。

 ……命名は雅比古兄様ですわ。

 亜久里兄様が、センスなさ過ぎ! と言ってしまい、お腹に素敵な一撃を食らってしまわれました。

 雅比古兄様の一撃はあとから聞いてくるらしく、亜久里兄様はその日一日お腹を抱えて悶えていらっしゃいましたの。

 口は災いの元、ですわね?


 で、そのキノコ汁。

 様々なお料理に使われまして、大変好評をいただいたのですが、私はアギタケの煮浸しが一番美味しゅうございましたの。


 アギタケは比較的新しい品種ですわ。

 本来は決まった地域で、決まった時期にしか栽培されないレアキノコですの。

 当然、私が山へ足を運べば何時でも収穫できますけれど。


 エリンギからの変種と言われておりまして、肉厚でやわらかく、椎茸のように旨味もあるというところで、いいとこ取りのキノコ、なんて呼ばれたりもするようですわ。

 旨味成分が大変強く、どんな食べ方をしても美味しいと言われているキノコですけれど、それを敢えてキノコ出汁で煮浸しにしましたところ……幸乃進兄様が、キノコの大洪水だ! と叫んでおられました。

 つまりはそれだけキノコの旨味が凝縮された一品である……そうおっしゃりたかったようですの。


 小鉢にアギタケをまるごと一つ、そしてキノコ出汁をたっぷりかけ回していただくのです。

 煮浸しですから、一口噛むだけでアギタケ本来の旨味とキノコ出汁がじゅわっと染み出てまいりまして、大変食べ応えがございましたわ。


 食べ終わったときは皆様、惚けた表情をしていらっしゃいましたわ。

 きっと私も同じ表情をしていると思いましたもの。


 長湯をしているとのぼせてしまう体質でしたので、毎日は求められませんでしたが、誕生日や記念日の前日には、志桜里キノコ出汁を未だに求められますわ。

 料理人たちもレシピの開発に余念がないようで、和洋中華、イタリアンにフランス料理、果てはトルコのキノコ料理も先日いただきました。

 世界三大料理の一つと言われるトルコ料理ですが、日本ではあまり広く知られていない印象がありますの。

 けれど私が不勉強なだけで、たくさんの美味しいトルコ料理がございましたわ。

 その中でもキノコ料理は秀逸なのです。


 トルコはキノコの種類が豊富だなんて、料理人に聞いて初めて知りましたの。

 キノコが生える森林が豊富で、種類もたくさんあると伺っておりますわ。

 日本語訳にして、花嫁の指、日本の帽子なんて呼ばれるキノコもあるのだとか。

 料理人の方に言われましたので、それらのキノコも収穫する予定ですのよ。

 こちらもまた、どんな料理になるのか楽しみですわ。


 すっかりキノコが大好きになった京家のお二人ですが、崇君の方は何故か、お兄様たちから、志桜里キノコ出汁をたくさん使った料理を食べてはいけないと、禁止されておりますの。

 どうして十八歳になったら解禁になるのか、何度聞いても教えていただけませんのが、少しだけ口惜しいのです。

 崇君だけ、可哀想ではありませんか!

 そう、宗一郎兄様に直談判しましたところ、今食べさせたら、大量の鼻血を噴かせる悲劇を見るけどいいのかな? と返されてしまいましたわ。

 キノコ出汁に血の巡りが良くなる効能があったとは知りませんでした。

 ……もしかして崇君は血の気が多いのかしら?

 そんなことは本人に聞けませんので、十八歳になれば解禁になるんだから、問題はないと思うよ? と宗一郎兄様に諭されまして、渋々納得しましたの。


 崇君にだけ飲んでいただけないのを少しだけ寂しいと思ってしまったのは、ここだけの話にしてくださいませ?



 キノコ娘の体質にもすっかり慣れまして、いい感じにキノコ娘の生活を楽しめるようになった頃。

 私に婚約者ができましたわ。

 もしかして想像ができていらっしゃいまして?

 ええ、崇君です。

 相変わらず私には格別に優しくて、容姿端麗な彼ですが、少しだけ精神が頑強になりましたわ。

 崇君曰く、志桜里ちゃんのお兄様たちに日々鍛えられているからねぇ……との言葉ですの。

 

 お兄様たちもその頃は全員婚約者もしくは伴侶ができましたわ!


 宗一郎兄様の伴侶は、クールービューティーという表現の相応しい、アシンメトリーショートカットがお似合いの女性ですの。

 年齢と性格が近しいためか、凜姉様ととても仲がよろしいですわ。

 双子コーデとか本当に羨ましくて仕方ありませんのよ。

 あ!

 凜姉様にも伴侶ができましたの。

 こちらは世界的に有名なスポーツ選手ですわ。

 凜姉様は、財産目当てじゃないところと、自分の職業に誇りを持っているところが大好きなの、とおっしゃっておいででした。

 惚気られてしまいましたわね!

 ラテン系気質だからねぇ~、と口癖のようにおっしゃり、私を口説くのを止めないので、お兄様や崇君からの評価は低いのが残念です。

 けれど、最愛で唯一が凜姉様だとわかる接し方なので、私は凜姉様にお似合いの優しい方だと思っておりますの。

 以前心を寄せていた龍之介兄様と真逆のタイプを選んだのに驚きもしましたが、人の好みは変わる場合もあるのよ? と凜姉様に言われて、妙に納得してしまいましたわ。


 雅比古兄様の伴侶は清楚可憐という表現の代表者みたいな容姿の方ですの。

 私には大和撫子の鏡といった態度と口調で接してくださいますが、雅比古兄様との舌戦は毒舌の応酬ですわ。

 崇君などは、近くにいるだけで消耗する激しさだよ……と言って怯えておりますけれど、お二人とも実に楽しそうなので、素敵なコミュニケーションとしか思えませんの。

 気がつけば仲良くモデル事務所を立ち上げまして、あれよあれよという間に大手事務所と呼ばれるまで大きくいたしましたので、揃って経営手腕が秀逸なのだと思いますわ。

 私も時々お呼ばれして、モデルとして活動しますのよ?

 普段は着られない服や、メイク、髪型などができるのが楽しくて、嫌がる崇君を説き伏せるのも随分と慣れました。


 龍之介兄様の伴侶は純粋培養の天然なお嬢様と、紹介していただきましたわ。

 おっとりはんなりとした雰囲気は、そばにいるだけで癒やされますの。

 一緒にいて無言でお茶を飲むだけでも寛げる方ですわね。

 私と同じく末っ子と判明しまして、末っ子同盟を組んでおります。

 とても仲良しですの。

 兄様の伴侶の中では、一番御一緒する機会が多いかもしれません。

 和食の腕前が一流の料理人さん並みで、私のキノコ出汁を使ったお料理も、たくさん饗してくださいますわ。


 幸乃進兄様の伴侶は年齢詐欺のツンデレ美熟女と、御本人がおっしゃっておられましたの。

 一回り以上年上とは思えないほどお若い方で、年齢を伺ったときは崇君と一緒に大きく口を開ける失礼をしてしまいましたわ。

 ツンデレは外用の顔で、身内には発動しないと説明いただきました。

 お仕事のときに発動されておられるのを拝見いたしましたが、とても素敵でしたの。

 是非身内にも! とお願いしたのですが、恥ずかしいから許して~と真っ赤な顔で拒否されてしまいましたのが、残念で仕方ありません。

 そんなツンデレ美熟女のお仕事はモデルで女優。

 日本最大手と呼ばれる事務所に所属されていましたが、雅比古兄様夫妻の事務所に移籍してこられまして、一二を争う稼ぎ頭として、現在も大活躍されておりますわ。


 亜久里兄様の伴侶は、世の男性の欲望を詰め込んだロリ巨乳の幼妻なんだよ! と紹介していただき、御本人に頭を音も高く殴られていらっしゃいましたの。

 御本人の紹介は、容姿に執着されて困る経験が多かったので、引きこもって生活をしていたら漫画家になっておりまして、ファンだと押しかけてきた亜久里兄様に、不覚にも一目惚れしました……でしたわ。

 お兄様たちの伴侶エピソードの中では一番の衝撃でした。

 上のお兄様たちが、ストーカー駄目絶対駄目! と激怒していらっしゃいましたわね。

 亜久里兄様は、事前調査は完璧だったから! 惚れさせる自信もあったしね! と反省していない様子でしたので、今度はお兄様たちの伴侶が荒ぶり始めまして……あの状況こそを正しくカオスと申し上げるのでしょう。

 私の説明が悪かったんですぅーと半泣きの幼妻により、改めて詳細な説明がされまして。

 ストーカーではなく、周到に外堀を埋めて、本人の性格を熟知した上で、出会いの演出をした……というのがわかりまして、全員がどうにか落ち着くまでに半日はかかった気がしますわ。

 のちに、二人の出会いを漫画化しましたところ。

 少女漫画理想の運命の出会い! と世間が盛り上がったようですわ。

 何にせよ、兄が犯罪者にならずによろしゅうございました。


 真茶樹兄様の婚約者は音楽家。

 一流のピアノ演奏者として、世界でも何とか名が売れ始めているところ……という説明を、本人がしてくださいましたわ。

 フランス人とのハーフらしく、高価なビスクドールを思わせる容貌の方です。

 喜熨斗家に遊びに来たときは、ロリータファッションの着せ替えを楽しみますのよ。

 本人もとても気に入って、プライベートの演奏会ではロリータファッションを着用されて登場するのがまた、話題になっておりましたの。

 変態なファンが増えて困るわーと首を振る真茶樹兄様の肩を、亜久里兄様が同意ーと頷きながら叩いておいででしたわね。

 美しい奥様や婚約者を持つ夫や彼氏は大変ですわね? と崇君に話をしたら、深い溜め息を吐かれましたわ。

 何でかしら?


 大維志兄様の婚約者は翻訳家。

 しかも医薬にとても強い翻訳家として、業界では名が知れ渡っていると、大維志兄様が我がことのように自慢げに語っていらっしゃいましたわ。

 恐らくハードワークなのでしょう。

 とても華奢な体型でいらしたので、たくさんキノコ料理を勧めてしまいました。

 志桜里ちゃんは、可愛くて優しくて、おもてなし上手ですね……とおっしゃって、頭を撫ぜていただきましたの。

 そんな婚約者様こそ、綺麗で優しくて、人の心に寄り添ってくださる方だと思いますわ。

 薬としても有効な希少キノコが何時でも手に入るルートとして、ひっそり有名になっていた喜熨斗家と縁ができて嬉しいとおっしゃっておいででした。

 料理だけでなく、医薬としても役に立てるのであれば、嬉しいことこの上もありませんわね。


 瑳和希兄様の婚約者は女医。

 婦人科医なんですよー、と力なく微笑む、婚約者様の目の下には熊が深く鎮座しておられましたわ。

 わかりやすいハードワークな職業ですものね。

 瑳和希兄様は婚約者を支えるために専業主夫になる決意を固めましたのよ。

 ……と申しましても、瑳和希兄様はトレーダーとして、所謂サラリーマンが稼ぐ平均年収の数倍は稼いでおりますので、トレーダー兼主夫という説明の方が正しいと思いますわ。

 婦人科医として漢方を処方する機会が多いので、希少キノコで薬効が高い物に対して大変興味をお持ちのようで、怒濤の質問攻めに晒されましたの。

 当然、頑張ってお答えいたしましたわよ。

 何しろ私、キノコの声を直接聞けますから!

 お蔭で瑳和希兄様と婚約者様のデートは、すっかり喜熨斗家所有の山のキノコ巡りになってしまいましたわ。


 どの兄の伴侶や婚約者の方も、良い方たちばかりですの。

 喜熨斗家は今代も安泰ですわ。


 そうそう。

 先日宗一郎兄様の伴侶様が妊娠されまして。

 我慢しきれなかった宗一郎兄様が検査いたしましたところ。

 なんと、お腹の子供が女児であると判明いたしましたの。

 宗一郎兄様は勿論、喜熨斗家一族の喜びようったらありませんでしたわ。


 伴侶様は、これもきっと志桜里ちゃんが見つけてくれるキノコたちのお蔭かもね? などと、おっしゃってくださいました。

 もしそれが本当であれば、これ以上の栄誉はありませんわ。


 他の伴侶や婚約者の方々もこの一件以降、更にキノコ料理を多く勧められるようになったそうですの。

 不思議と皆様がキノコ好きでいらしてくださるので、その点も本当に有り難いと思っておりますわ。

 勿論私も崇君と日々、美味しくキノコ料理をいただいております。


 崇君が、志桜里ちゃん似の女の子なら一ダースでも欲しいなぁ……なんて、おっしゃるので、デコピンを一つ、しておきましたわ。


 本日の夕食はオオイチョウタケのシチュー。

 冬定番、キノコシチューですわね。

 煮込み料理と炊き込み御飯にもお勧めですわ。

 最近では研究が進んでおりまして、一般の御家庭でも通年召し上がれるようになるのでは? と期待されているようですの。

 とても美味しいキノコですので、お見かけになりましたら、是非召し上がってくださいませ。



 何とか年内に投稿ができて良かったです。

 何時もは女性主人公異世界ざまぁ連載や、ホラー短編などを書いています。

 もしよろしければ、他の作品も読んでいただけると嬉しいです。

 今回は最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ