第九話 波の上のミヤ
ミヤが覚醒します。
行程六日目(転移53日目)
8時 ハカタの街で手分けして生鮮食品を買い集めた。
旅の行程は、まだ三分の一にも満たない。
金を節約するためにも、外食は避けなければならない。
なんてみみっちい転移者なんだ。普通、勇者とか言われて、ちやほやされるんじゃないの。
「すまぬのう。父上は、熊を買うのに旅の予算を注ぎ込んでしまったのでのう」
顔に出てた?それ謝ってますか?リョウカ様、それ皮肉ですよね。
「大丈夫ですよ。いやだなぁ。俺が拗ねてるみたいじゃないですかぁ」
アンナさん、カクタス、生暖かい目で見るのはやめて。
「恭平様、お金ないの?」
ヒイが心配なのか顔を覗き込んできた。
「心配するな。恭平は大金持ちじゃ」
リョウカ様、最近きつくないですか?確かに食事の質、落としてますけどね。
「「アハハハハ・・・」」
10時 出発
12時 ツシマ辺り 昼食 またもや恒例となりつつあるおにぎりだ。
波が高くなってきた。小さいボートなので荒れてくると辛い。
『これから明日にかけて風が強くなると思われます』
流石にナビさんでも天気の予想はむずかしい。現在の状況と過去のデータとを比べて予想をしている。衛星も周辺データもないので限定的だ。
まだ朝鮮半島まで3時間弱掛かる。春の天気は変わりやすいので注意が必要だ。
しかし、天気の好転を待つと3~5日は掛かるだろう。
良し、巡航速度を上げて進めば荒れるまでに到達できるだろう。
文句を言わせないために皆に説明して了解を取っておく。
14時 さらに波が高くなる。流石に巡航速度を落とす。
ミヤがキャビンから出た。バウデッキに行くと前を睨んでる。
窓を開けて、ミヤに言う。
「中に居なさい」
「試したいことがあるの。ごめんなさい」
横転しないように波に直角に航走しているので舳先は一番揺れる。
舳先が上がるタイミングに合わせてミヤが飛ぶ。2mの高さには飛んでいる。
次は、さらに飛んだ、横に回りながら縦にも回っている。着地も危なげない。
まるで、体操・・いや、トランポリン競技を見るようだ。
でも、ミニスカートでそんなことはやめようね。いくらタイツ履いてるからって、俺は恥ずかしい。
「なんだあれは、人間にあのような動きが出来るのか」
カクタスが呆然としている。いや、俺もだけど。
「ヒイの弓にも驚いたが、ミヤにも特殊な能力があるのか」
「俺も初めて知った」
ミヤは十数回、いろいろな技を繰り返して戻ってきた。
カクタスは興味津々でミヤに尋ねた。
「ミヤちゃん、ああいうことは、昔からできたのかい?」
「いえ、バウバースで千本を作っていて、揺れに同調したとき出来る気がしたんです。」
ミヤは、持っていた木片を見せる。十数本の編針みたいな金属が刺さっていた。
「もしかして、これを空中から、しかも回りながら?」
「はい」
「どうしてこんなことを?」
「山賊に襲われた時、私は何もできなかった。私も恭平様のお役に立ちたい」
どうもヒイに劣等感を抱いたらしい。鉄串を頼まれた時は、新しい料理でも考えたのかと思ったよ。
木片から1mm位の太さの鉄串を抜いて見てみる。
「これは千本って言うの?」
「はい、たくさん持てる手裏剣を調べたら、これを見つけたんです」
ナビさんに探してもらったんだな。異能のことは次元収納以外は秘密になってるからね。
他に頼まれたものあったよね。鎖帷子、黒いTシャツ、黒いミニスカート、黒いタイツ、黒いブルゾン、黒い目出し帽、黒い手袋、黒いブーツ、忍者だよね。知ってた。(忍者にする予定はありません。)
ナビさん、ミヤを忍者にしてどうする気なのか・・・。
ミヤも本気で目指すみたいだし、危ないことはしないでほしいんだけど。
でも、この世界は、普通に暮らしていても危険がいっぱいだ。ある程度、自分の身を守る術は、教えないといけない。
『御主人様と一緒にいるから、危険ということもありますよね』
ナビさんの独り言は誰に聞かれることもなかった。
15時 朝鮮半島南端 ようやく南端の島の一つに着いた。
この辺の小さな島は、岩礁ばかりなので大きめの島を探す。
アンナさんが船酔い気味なので早めに上陸する。
子供達には、合気道の練習をさせておく。俺達は家を建てる。
俺も実は、合気道・空手・柔道・アーチェリーなどを軽く身に着けている。
身体強化とインストールのお陰で数日の訓練で数年分の技術が会得できる。
17時 食事の準備を始める。ヒイもミヤも炊事に慣れてきたので、俺は後ろで指示するだけで良い。
18時 夕食 お風呂
20時 ミヤが元気がない。少しお腹が痛いだけと言うが心配だ。
『心配ありません。初潮で恥ずかしがっているだけです』
えーっと、ナビさん、ストレートすぎ、こういう場合、俺はどうしたらいいのでしょうか。
『この世界での風習はよくわかりませんので、アンナさんに確認してください』
アンナさんに相談するとミヤとついでにヒイを奥の部屋に連れて行った。
『どうやら、こちらでは初潮があったことを家長に報告して、家長はそれを祝うらしいです』
ナビさんが向こうの会話を聞いているらしい。
『どうやって祝うのかな?』
『家によって違うそうです。ご主人様なりに祝えばよいと思います。』
「カクタス、初潮のお祝いって知らないか」
「う~む、ジュリアンの時、父上が何か言っていたような?」
やきもきしているとドアが開き、ミヤが出てきて俺の正面に正座する。
「ミヤは、女の体となったことをご報告いたします」
ストレートだな。最近、女性との御付合いがほとんどない俺にはきつい、赤面してしまう。
「ミヤ、お前と知り合ってからまだ数日だが、俺達には深い絆があると思う。お前がこれからも健康で幸せな人生を送っていく門出になれば良いと思う。おめでとう」
「ありがとうございます」
ミヤが抱き着いてきて、わんわん泣き出した。
『御主人様に重荷と思われないか心配していたようです』
思う訳が無いじゃないか。こんな良い子を。
ミヤは親に虐待され、売られた。自分がいつか見放されるかもと不安を抱えていたのだろう。
ヒイが私もとばかりに抱き着いてきた。カクタスがアンナさんがリョウカ様がおめでとうと祝ってくれる。
あと数年もしたら、この子たちを見知らぬ男に取られる日が来るんだろうな。それを考えると寂しくなるな。
『永遠に来ないと思いますよ』
ナビさんの独り言は、誰に聞かれる事も無く消えていくのであった。
行程七日目(転移54日目)
朝、少し早く起きて内緒で赤飯を作る。本格的に作るには道具も時間も無いので赤飯の素を買った。
ご飯と混ぜるだけで赤飯になる優れものだ。
朝食時に皆の茶碗に盛ってやった。
「これは俺の国でめでたいことがあった時に食べる赤飯と言うものだ。皆でもう一度ミヤを祝ってくれ」
皆でおめでとう言ってと食べ始めた。
「なぜ、これがめでたいのですか」
「俺の国ではめでたいときに赤いものを食べる風習があります。これは、ご飯をアズキで赤く染めているのです。俺が知っているのは魚の鯛とこれぐらいですけどね」
「この赤飯とやらは、うまいな。毎日でもよいぞ」
「毎日では、祝いというけじめがつきません」
「うぬ、では、ヒイおまえ初潮になるが良い」
「そんな無茶苦茶、言わないで下さいよぉ」
「「「「わはははは。」」」」
もうすぐ大陸です。




