外伝10話 パリの落日
取敢えず、この物語は終わります。
転移1435日目
天都 帝城
朕は決断した。
「宰相、やはり恭平の政を受け入れようと思う」
「魔国のようにするのですか?」
魔国の魔王はすでに恭平が作る国の属国となることを宣言している。
なぜまだ、出来てない国に降伏するのか。それは恭平の作るであろう国が今後の地球の標準となり、それに参加しない国に未来は無いからだ。
それほど恭平の行った文明開化は強烈だった。2、30キロを運ぶのが精々だった陸上輸送は、何トンもの荷物を積んだゴーレム車が十倍以上の速度で走り回り、海には何千トンと言う荷物を積んだ船が3倍の速度で行き交い、最低半年かかると言われたヨーロッパに1日も掛からずに飛んでいける。
4年前に誰が想像しただろうか?この上、エレクトロニクスを普及させると言っている。
そうなると地球上どれだけ離れていても手のひらに収まるくらいの機械で話し合える。
その機械は世界中に情報を発信、受信できるらしい。
どういうことかさっぱり解らんが、今までの政治形態で対応できるとは思わない。
2千年かかって築いた先人の文明をたった数年で塗り替えたのだ。
恭平はヨーロッパで戦争ばかりしていた王族・貴族を廃し、国民による合議制のような形態(民主主義と言うらしい)で政治を行っている。
つまり、我々とはいずれ袂を分かつこととなる。
それならば早めに協力しておいた方が得である。革命など起こされてはかなわんからな。
「しかし、貴族たちは言うことを聞きますまい」
「すぐにどうこうと言う事ではない。施政などの人材を用意するのに30年は掛かる」
「それでも反対すると思います」
「しかし、朕は恭平に協力したい」
「結局はそれですか。まあこういうことは早いに越したことはありませんが」
このことはサイゾウの孫従者ネットワークを使って、各領主に伝えられる。
この3年半の間にネットワークはかなり細かくなった。信帝国内であれば、遅くとも3日で末端領主まで連絡が行くことになる。
転移1446日目
天都 帝城
驚いたことに概ね良好な返事が多く寄せられた。
「ここまで剣姫が恐れられているとは考えていませんでした」
宰相が意外な結果に首を捻っている。
「東南部が返事を寄こさぬのは剣姫を知らぬからなのか?」
剣姫が活躍した場所では剣姫を敵にする度胸は無いらしい。
「返事のない領主たちの動向は、サイゾウ殿のネットワークで調べて頂いてますが、今のところ不穏な空気はありませんな」
「まあ良い、このままなら1か月後にパリに行って属国宣言をすると連絡せよ」
「解りました」
・・・・・・
信帝国 東南部のある領主の館
付近の領主が十数人集まっている。
「諸君、ヨーロッパに屈服しても良いとは考えていまい。ではどうすれば良いかだ」
「しかし、恭平の勢力は中近東・中央アジアを席巻している。逆らっても剣姫には勝てないだろう」
「剣姫、剣姫と言うが女、しかも子供だと言うではないか。恐れるだけ無駄だ」
「剣姫の噂は無視できないものが多く、到底人とは思えない戦い方をしている。まず剣姫の実力を測ってはどうですか?」
「まあ、天帝様の話では30年間は我々の身分は保証されているのだ。どうすれば良いかはゆっくり考えればよい。そのために剣姫の実力を測っておくのは必要だな」
「私の所にかなり使える剣豪が居ります。そ奴を当ててみましょう」
「うむ、結果はまた教えてくれたまえ」
転移1453日目
天都 工房 正門前
今週の天都当番は私だ。治安維持のため週替わりで剣姫が詰めている。
午前のスクーターでの市中パトロールが終わって、帰って来たらなにやら正門前でもめている。
「どうしたのですか?」
門番と若い男がもめているようだ。後ろにはガタイの良い壮年の男が立っていた。
「おまえ、剣姫だな!!」
若い男が私を見るや怒鳴った。
私は礼服を模した戦闘服を着て、正体がばれないように仮面も付けている。
まあ、一目で剣姫と解る格好だ。治安維持には剣姫がいることを明確にしなければならず、こんな格好をしている。ちなみに私のパーソナルカラーは水色だ。
「見たらわかるでしょ」
私はは恭平様以外としゃべるときは基本的に感情が無い。
それを馬鹿にしているとでも取ったのか若い男が激高する。
「貴様馬鹿にしているのか」
いきなり掴みかかってくる。
私はスクーターに座ったまま若い男を投げる。
若い男は受け身も取れずに背中から地面に激突する。
「正当防衛」
若い男は悶絶している。
「馬鹿が!!おまえにどうこうできる様なら、俺はここにいない」
壮年の男がこちらに近付いて来た。
私はハッとした。あの男だ、私を嬲り者にした男だった。
男は私の動揺に気付いたようだ。
「ほう、俺の強さが解ったようだな。中央公園の広場に14時に一人で来い。来なければ周りの奴らを切り殺す」
私の動揺を都合よく解釈したようだ。
「ここでやればいい」
「馬鹿な。こんな人の居ない所で勝っても誰にも分らぬ」
男の目的が売名行為だと解る。
ここで倒すか?駄目だ、門番を間合いに入れている。
私の殺気に気付いたようだ。門番に近付いた。
「まずはここを離れて貰おう。行け!!」
仕方が無い。門の中に入る。
私が十分離れたことを確認して若い男を起こして、ゴーレム車で去って行った。
サイゾウさんに連絡を取る。
『そうかあいつがそんな事を・・・』
『私が倒す。あいつが迷惑を掛けないように手伝って』
『解った。人手が足りないから警らにも頼む』
『ばれると何をするか分からない。気を付けて』
『了解だ。お前も気を付けろ。負けるとは思わないが・・・・』
『大丈夫、冷静だから。もう昔の事に拘ってないから』
『良し、じゃあ、公園で待ってる』
あいつは昔、イガの里に居た。
里がさびれていく中、あいつは里を出ていく駄賃だと言って、子供の頃の私を襲った。
そのトラウマをずっと抱えていたが、恭平様によって解消した。
私は早めの昼食を食べ、静かに時を待った。
軽くウォーミングアップをした後スクーターに乗り、公園に向かった。
公園の中は人でごった返していた。
「おお、剣姫が来たぞ」
「試合があるって本当だったんだ」
人質にされてるとも知らずいい気なもんだ。
広場に行くとあいつがいた。
「もっと場所を開けろ!!試合が出来ん」
若い男が復活したのか試合場所を作っている。
あいつと10m程の間を開けて対峙した。
「剣姫よ、名乗るが良い」
「コードネーム、ライトシアン」
「ナバリセキガン流、ライリュウソウザン」
ソウタロウだろ。ソウしか残ってない。
「参る」
八双に構えて突っ込んでくる。私は左に回って剣を抜く。
あいつは上段に振りかぶって斬りつける。
剣で剣を叩いて、そのまま袈裟切りに斬り付ける。
あいつは地面に体を投げ出し、剣を避けると一回転して立ち上がる。
「やるな」
そう言うとあいつは剣を右から大きく横に薙いできた。この流れは、・・・。
後に避けると後ろ回し蹴りが来る。足を斬り落としても良いが、これの方が・・・。
しゃがむと軸足を右足で払ってやる。
剣は私の上を通り過ぎ、あいつは見事にひっくり返る。ステーンッと擬音が入りそうな転び方だ。
見物人から笑いが起きる。
「くっそー、よくもやりやがったなぁ」
お里が出て来た。私も吹っ切れはしたが恨みが晴れたわけじゃない。もっと恥を掻いて貰おう。
怒りに震える攻撃は見てられないほど隙だらけだ。
袈裟切りを剣で流して、左拳を顔面に入れる。
2m程吹っ飛び、鼻血を流す。
「チ、チクショー。馬鹿にしやがって」
向こう向いたときに懐に手を入れたよね。
右手一本で突いて来たので一歩下がって、持ち手を峰打ちで叩く。
あいつの左手から持ち手を狙って、鎖分銅が伸びて来た。
持ち手を上げて避ける。
分銅を空振りして背中が見える。峰打ちで左肩を叩く。
右手と左肩を砕かれたのだ、もう戦えまい。
「降参しろ」
私は蹲っている男に声を掛けたが反応は無い。
奴がこの状態から反撃するとすれば頭突き、噛み付き・含み針は無いか。
恐らく私が近付くのを待っているのだろう。
私は衆目の集まる中、殺すことはしたくない。子供も見ているのだ。
「もう戦えないだろう。お前たちは警らに引き渡すぞ」
突然、起き上がってこちらに突っ込んでくる。あの口は含み針だ。
私の顔を見て愕然とする。そう私は仮面を着けているから針は効かない。
含み針など、目に当たらなければ相手にダメージは与えられない。
あいつは崩れ落ちた。
警らを呼んで捕えさせた。直接の容疑は私への恐喝だが叩けば埃が出るだろう。恐らく娑婆の空気はもう吸えないんじゃないかな。
なんか、もう、どうでも良くなっちゃった。あいつが生きようが死のうがどうでもいい。
転移1476日目
パリ 剣姫寮 執務室
「天帝様、本当に良いのですか」
恭平が念を押す。
私はにこやかに言う。
「しつこいぞ。我が国は恭平の作る国に属すると言っておる。まあ条件は其処に書いてあるじゃろう」
「あのう、俺が帝配になると書いてあるのですが?」
「おう、結婚式はお前がキリの良い時期で良いが、従者には今すぐにせい」
「どういうことですか?」
「朕と恭平の子に成人し次第、次の天帝になって貰う。その後は恭平と生活を共にする。
そのためには空間制御を手に入れないと不便じゃろうが」
天都からパリまで12時間も掛かってしまった。これでは子作りに頻繁に来れぬではないか。
『ユイミンに従属の回路が上書きされます。引き続き念話は使用できます。インストール・身体強化・マップが使用可能です。空間制御・結界制御・再生制御・重力制御がコピーされました。次元収納・ショッピングが利用可能です』
「ナビさんどうして?」
『選択の余地がありません。考えるだけ時間の無駄です』
「恭平、ここでは雰囲気が悪い、ホテルに部屋を取ってあるから行くぞ」
「はあ、何を?」
「子作りに決まっておろうが、早うせい」
恭平が外を見ると夕日が地平線に沈むところだった。
どうもありがとうございました。




