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外伝8話 マールの子育て

従者たちの子育ての例です。

帝歴12年 パリ 帝宮

マールは、このままで良いのだろうか?

ふとこんな疑問が頭を過る。

他の嫁たちはすでに子持ちだ。

俺はずっと可愛がって欲しいので子供を作っていない。

急に自分の子供を抱きたくなった。

そうなるともう止まらない。


『ナビさん、俺、子供が欲しい』

『わかりました。次は間に合いませんので次の次の順番で、妊娠するように調整します』


次の次の順番が回って来た。

旦那が待つ寝室に向かう。

俺が静かなので旦那が心配したようだ。

「マール、どうした。体調が悪いのか?」

「違う、今日は大事な日なんだ」

「何が大事なんだ」

「今日は妊娠するようにナビさんに調整して貰ったのだ」

「そうか、お前もついに俺の子供を産んでくれるのか」

「旦那、うまい事頼むぜ」

「まあ、こればっかりはな。うまく行かない時もあるから焦るなよ」

「お、おう」


・・・・・・


「なんか、妊娠した気がする」

終わってから暫くして、お腹の中に命が芽生えた気がした。

「焦るなって言ってるだろう。出来てたらいいな」

「おう」

旦那は優しく腹を撫でてくれた。


・・・・・・


二週間後、ナビさんから報告があった。

『妊娠の初期兆候が見られます。順番はキャンセルします』

『本当か、妊娠したのか』

『80から90%の確率です。あまり、騒がずに穏やかにいてください』


昔は旦那との順番は真白さんか茜さんがやっていたが、最近は外部の嫁が増えたので、ナビさんが順番を決めてる。

外部の嫁と言うのは、旦那に従った国の偉いさんが送ってくる少女の事だ。

最初に送るなと言っているのだが保身の為に送り付けてくる。どっちかと言えば捨てに来ているような状況だ。

もちろん、旦那はそんなことで斟酌する人ではないので、遠慮なく処断している。


少女たちは帰れないものが多いので、一応預かり、社会復帰させているのだが出来ないものが多い。

真白さんや茜さんは寮を作って、そこに社会復帰できない少女を集めて後宮と呼んでいる。

その少女たちは、最初は着替えもまともに出来ない、それを一般社会に順応できるように教育するのだが、彼女たちの価値観が権力者の子を産むことが最上と思っているので出て行かないし、外の世界を知ろうとも思わない。それじゃ駄目だ言えば自殺を図る。

そのうちに適齢期をはるかに過ぎてしまうので、旦那との子を作って、それを育てさせるぐらいしか彼女たちの幸せはないのだ。

まったく育てた奴の首を絞めてやりたい。


俺の妊娠は二カ月を過ぎた辺りで旦那に報告する。

執務室に居る旦那を訪ねた。

「そうか、出来たかめでたいな。マールに似た女の子だと良いな」

「俺は、旦那に似た男が良い」

「まあ、どちらでもいいよ。大事にしてくれ」

「おう、もちろんだ」

「・・・」

「旦那、どうしたんだ?」

「マール、お前の口調が子供に移ったらどうしよう」

「大丈夫だ、余所行きで話すからな」

「頼むぞ。お前の一番の短所なんだから」

「任せとけって」

旦那は心配性だな。俺もこの話し方が良いとは思ってねえよ。


その後、ナビさんのお陰もあってつわりも無く、順調に育ってくれる。

「大分、目立ってきたね。気を付けないと」

「初産だから慎重にね」

ヒイちゃんとミヤちゃんは会うたびに労ってくれる。

「どこで産むの?」


そうなんだよ。親がいるのは、親元で産むのが普通みたいだ。ジュレイ、ドーテ、ナータ、ジュリアン、天帝は親元で産んだ。真白、茜、蒼伊、ヒイ、ミヤ、リシュ、ライヤ、キキョウは親がいないのでこちらで産んだ。ミノンはリシュに遠慮してか親はいるけどこちらで産んだ。

一応、父ちゃんに確認してみるか。念話で蛇亀王国に居る孫従者に連絡を取る。


『あら、マールお嬢様。珍しいですね』

ハウスメイドのユエさんが孫従者だ。

余所行きの言葉で言わないと、まだ俺がガラッパチな言葉を使ってるのは内緒だからな。

『あ、ユエさん。お久しぶり。お父様に繋いで欲しいのだけど』

『済みません。今、お出かけになっております』

『それじゃあ、私、妊娠して再来月ぐらいには出産するのだけれど。そちらで出産した方が良いのか聞いておいて頂けますか?』

『良いに決まってます。旦那様が何と言おうとこちらで産んでください。私がお世話いたします』


ユエさんはおれ、オホン、私が10歳位の時にうちに来たので20年位います。

私が両親に嫌われていたので、随分慰めて貰いました。


その夜、父から家で産むように連絡が有った。

私を貴族の爺の妾に捧げようとした父ではあるのですが、幼い頃には可愛がってもらった記憶はあります。

父が変わったのは王族を外されると決まってからです。

なんとか王族に残ろうと画策して、私の事もその一環です。


帝歴13年 蛇亀王国 マールの父の家

妊娠9カ月に突入したので父の家に転移した。

帰りは子供と一緒じゃ転移できないし、飛行機で帰るか。

などと玄関の扉の前で考えていたらユエさんが出て来た。

「お帰りなさいませ・・・」

「ただいま戻りました。どうしました?」

ユエさんが驚いた顔をしているので尋ねました。


「マール様、結婚式の時とお顔が変わっていません」

しまった。他の従者は結婚してすぐに子供を産んだので、年を誤魔化す必要が無かったが私の年齢は31歳になっているが顔は16歳だ。

ユエさんは13年前、父上たちと一緒に、私の結婚式の用意の為に、パリに来ているので顔を覚えているのだ。


「えーと、えーと、ほらあれ、アンチエージングですよ」

口から出まかせを言う。

「まあ左様ですか。流石に皇帝妃だけありますねえ」

ユエさんは勝手に納得してくれた。

「ささ、入ってください。旦那様もお待ちかねです」


玄関ホールでは父上と母上、弟とその嫁が迎えてくれた。

「おおマール、お帰り・・・・」

「姉上、お帰りなさい・・・・」

もう一度アンチエージングを説明した。

弟の嫁が妬まし気に睨んできたが、私も剣姫の端くれ、睨み返したらシュンとしていた。

年上であるはずの私が十歳以上も若く見えるのだから嫉妬もするか。


一か月後、私は玉のような男の子を生んだ。耳長族では無かった。日本人なのだろうと思った。

髪の毛も瞳も黒く、陛下にそっくりだ。

両親はここは私に似てるなどとジジババをしっかりやっていた。

弟の子もすでに2人出来ているので初孫ではないが、外孫はちょっと違うのだろうか。


子供の名前は陛下に考えて貰った。アレクと名付けた。

半年間、父の家に居て、明日帰ることになった。

父上が部屋を訪ねて来た。

「お前を妾に差し出そうとしたことを謝りたい。済まなかった」

「父上、・・・・」

頭を下げた父上を見て、あの時の絶望感がよみがえった。でも。


「父上、頭をお上げください。私は父上を恨んだことはありません。それより、あの時皇帝陛下を選んだ自分を褒めてください」

父上は頭を上げてにっこりと笑った。

「よく皇帝陛下に認められた。よくやったぞ」

素直に私を褒めてくれる父上を見て涙が出て来た。

父上も泣き出したので二人抱き合って泣いた。そのうちアレクが泣き始めた。


父上と離れてアレクのそばに行った。

「父上、マールは幸せです。これからも幸せになって見せます」

「おうおう、私はお前が普通に話せるようになったことが嬉しい」

済みません父上。これは余所行きです。


次の日、皇帝陛下が転移してきてくれた。父上に挨拶してすぐに帰って行った。

チャーター便を用意して貰ったのでパリに行くのもゆっくりできる。


帝宮で子育てを開始する。天都の寮に居た、忍猫族のおばさんが手伝ってくれる。


帝歴19年 アレク初等学校入学

陛下の考えにより一般の生徒と同じ扱いである。

授業参観の度に先生からお姉さんですかと言われるのには閉口する。


帝歴25年 アレク中等学校入学


帝歴28年 アレク高等学校入学


帝歴31年 アレク政治大学入学


帝歴35年 アレク天都行政府に就職

父上の紹介の女性と結婚


帝歴37年 初孫誕生


帝歴40年 父上死去

王族から除外


帝歴41年 母上死去


帝歴52年 蛇亀王国撤廃、蛇亀行政府となる


帝歴86年 天都 アレク宅

アレクは病床にあった。

「アレク、しっかりなさい。お母さんが来ました」

アレク危篤の報を受け、私は天都に来ていた。


アレクは薄目を開けて私を見た。

「おか・・あ・さ・ん、ありが・・さよ・・・」

かすかに声が聞こえた。

それから15分後に彼は息を引き取った。


私は泣いた。

痩せてミイラみたいになったアレクの遺体を見たくなかった。

でも最後の別れをしてあげなきゃ。


葬儀が済んでパリに帰った。

「なんで、来てくれなかったんだ。自分の子供だろ」

恭平に怒りをぶつけた。

「俺の顔は知れ渡ってるから行けないんだよ」


恭平は子供に皇帝の子だとは名乗らせない。

人数が多いし、後を継げるわけでもないからだ。特別扱いを受けるより、普通に暮らしたほうが幸せだろうという配慮だ。


「でもでも、あの子は旦那の子供って誇りを持ってた」

「だから、それを最後にぶち壊せないだろう」

私は旦那の胸を叩いた。旦那は優しく俺を抱いた。

「お前はこの先も同じような不条理を味合わなければならない。それが不老ということだ」

「おおおおおお」


よく考えれば、俺より先に子供を産んだ従者たちは、この悲しみを乗り越えて来たんだ。

俺一人だけ甘えている訳にはいかないな。

「旦那、ありがとよ、俺はもう大丈夫だ」

旦那の胸から顔を上げた。うん、旦那が変な顔をしている。

「お前また言葉が戻ってるぞ」

「ああ、余所行きは子供がいる時だけだ。教育に悪いからな」

旦那は心底残念そうな顔をしている。

「これは俺のアイデンティティだからな」


次回はジュリアンの予定です。

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