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外伝7話 モンゴル帝国の憂鬱

リシュとミノンのモンゴル帝国の出来事です。

 転移1490日目

 リシュとミノンはモンゴル帝国に来ていた。

 孫従者からの連絡で皇帝から呼び出しがあったのだ。

 呼び出しの内容は聞いてないが、恐らく信帝国の属国化宣言だろう。


 天都で始まった産業革命は3年半の月日を経て、モンゴル帝国に大きな影響を与えていた。

 舗装された広い道路が信帝国まで続き、製鉄、羊毛の紡績を輸出の2本柱にしてゴーレムトラックが往復する。信帝国からはゴーレム車や洋服などがモンゴルに輸出されている。

 国民は徐々に豊かになり、皇帝の人気は高い。


 そんな時に信帝国の天帝が、まだ建国もしていない恭平に臣従すると宣言したのである。

 政治・行政に携わる人間は信帝国とヨーロッパで大学を作り、教育している。

 恭平は世界国家を建設するため着々と準備をしているのだ。

 最初は各国の代表者による合議制を目指していたが、魔王国の属国化宣言で風向きが変わった。

 それに今回の信帝国である。モンゴル帝国皇帝の悩みは解る。


 皇帝との会談は謁見の間ではなく、執務室で対面に座って行われた。

 皇帝側は皇帝以外に宰相・外務・内務などの大臣が5人居た。

「リシュ、すまんな。大体は聞いているのだが、話が大きすぎて分からん」

 挨拶が済むといきなり切り出した。若い皇帝は本当に悩んでいるようだった。

「恭平様は決して陛下を否定していません。ただ、次代はどうか、次次代は、と言う風に考えます」

「朕の子供や孫が人民を迫害せぬか。その保証はというところか」

「左様です。ですので王制、貴族制の廃止を進めています」


「馬鹿な、貴族を廃止すると言ったら戦争になるぞ」

 大臣の一人が何を馬鹿なことをと言う感じだ。

「ロシア帝国を見て貰えば解ると思いますが、その場合、信帝国軍と剣姫を相手にすると思います」

「一瞬で降伏だな」

「何を仰るのです。陛下、モンゴル軍を愚弄されますか?」

「兄の護衛がどうなったか知らぬではあるまい。十人の剣姫に百数十人が5分と持たずに壊滅した」

「それは平原での騎馬の戦いでは無かったからです」

「馬鹿か、相手が平原で待ち受けてくれると思っているのか」

「それは・・・」


「リシュよ、信帝国の臣従の条件を教えてくれ」

「天帝・貴族の権限をすべて10年後に廃止します。

 税の徴収権はパリ中央政府に移り、天帝様・貴族には予算として配分されます。

 廃止後は中央政府の定めた人間により、行政が行われます。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・


 私は出来るだけ丁寧に話した。熱心な質疑応答があり2時間が経過した。

「リシュよ、モンゴルはどうすれば良いと考える」

「早い段階で恭順の意思を伝える方が良いと思います。それから時間を掛け、条件を詰めれば状況の変化にも対応できると思います」

「成程な。だが時間を掛けても良いのか?」

「今からは、モンゴルより小さな国の対処が多いので、早めの表明は恭平様も喜びます。それに世界の統一にはまだまだ時間が掛かります。慌てる必要は無いかと考えます」


「信帝国が慌てているのはなぜだ?」

「信帝国は産業革命の影響がモンゴルよりはるかに大きいのです。いずれは女性の地位の向上、民主主義の普及などで貴族階級はピンチになります。もう一つ天帝様は恭平様を帝配にとお考えかと」

「そうか、道筋を立てておいて平和裏に民主主義への移行を目指しているのか」


 それからさらに2時間、皇帝から労いの言葉を貰って、説明会は終了した。

 私は控室でミノンにお茶を淹れて貰っていた。

 後で皇帝個人の質問があるかもで2時間待ってろって言われた。

 私とて皇帝の話を鵜吞みにしているわけでは無い。恐らくあれは臣下へのポーズでだろう、本心は何処にあるのか全然掴めない。

 まあ、今回は使者ではなく、説明に来ただけだから然程目くじらを立てる必要もあるまい。


 ドアがノックされた。ミノンが応対に出る。

 指を一本立てて相手が一人であることを報告してくれる。

 ミノンはドアの向こう側の気配が読めるのだ。

「近衛のゲンだ。リシュ様にお目通りをお願いする」


 私の幼いころの遊び相手の一人だ。ミノンに首を縦に振り部屋に招き入れるように促す。

「どうぞ」

 ミノンがドアを開けると背の高い男が部屋に入って来た。

「失礼します」

 作法通り、3m位離れた場所で膝をつき、両手を開いて床に置く。武器を所持してないポーズだ。

「久しぶりですね。ゲン。お元気でしたか?」


 今は皇帝の妹として説明に来たのだからお姫様モードで接する。

 ミノンはゲンの後ろで、軽い威圧を掛けている。懐に短剣を忍ばせてる事位お見通しだ。

「は、はい、元気に過ごさせていただいてます」

 少し、威圧が強すぎたのか、冷汗が出ている。


「で、御用向きは何ですか?」

「へ、陛下の真意がどこにあるのか、リシュ様のお考えを伺いとうございます」

 そう言えばこの子、執務室のドアの横に立っていたわね。

「私から陛下の御心を知ろうとするのは失礼な行為ではありませんか?」

 ゲンは土下座状態になり、額を床に付けて言った。

「申し訳ありません。しかし、私も国家を担う端くれ、陛下の意を知りとう御座います」


 このままゲンを虐めていれば1時間は潰せるだろうけど、そういう訳にもいかないな。

「ゲン、顔を上げなさい。私は帝国から離れた身、おいそれと陛下の御心を推測して、述べることなど出来ないのです。解りますね」

「其処を押してお願いいたします」

 変なこと言ったら刺す気満々で言わないでよ。


「では、一つだけ、陛下も私も兄を反逆者として討ったのは人民のためです。決して私心ではありません。陛下の御心は国の礎となる人民とともにあると思います」

 当たり障りのないことを言っておく。

「では降伏を」

「お前は馬鹿か、それを考えるのは陛下で、私でない。私は今回陛下に呼ばれて、説明に来ただけで説得するつもりも脅すつもりもない。それが解らぬか」

「解りませぬ」


 懐に手を伸ばす。ミノンの威圧が最大となる。ゲンは動けない。

 過激派の狙いは私を殺して、恭平様・信帝国との戦争を起こすこと。滑稽なのは勝てるつもりでいることだ。

 まあ、ここで殺されてやるつもりもない。

「ミノンの威圧で動けないお前が、どうやって勝つつもりなのかは判りませんが、もっと大局を見ることです。おのずと行く道は見えてくるはずです」


「人民など我らが導かなければ、何も出来ない愚かな者どもです。情けなど必要ありません」

「そうして自分達だけいい思いが出来ればいいのね」

「何を仰る。私達の高潔な意思を愚弄なさるか?」

「フウ、高潔ねえ。本当にそう思ってるの。あなたの意志が腐敗貴族に利用されてるとは考えないの?」


「リシュ様、二人来ます。応援かと」

「ゲンを縛り上げなさい」

 ゲンは抵抗も出来ずに縛り上げられる。

「迎え撃ちます」

「お任せを」

「お願いします」

 私も木刀を収納から出し、剣の達人をインストールする。


 ドアを蹴って騎馬用の片手サーベルを持った二人の男が駆け寄ってくる。

 一人目がサーベルを上段から斬り下ろした。

 ミノンがサーベルを避け、足を払い、腕を引くと2m位の高さに仰向けに飛び上がった。

 そのまま床に叩き付けられ、息も出来ずに苦しんでいる。


 二人目は胸元を突いて来たのでミノンは屈んで避け、振り向きざま腕を取って一本背負いだ。

 二人目も思い切り背中を打ち付けられ、せき込んでいる。

 二人も縛り上げられ、隅っこに転がして置いた。


 暫くすると皇帝の腹心の臣が私を迎えに来た。

 転がっている三人の男を見つけた。

「あの、これは?」

「私のメイドに懸想したのか襲い掛かろうとして、逆に懲らしめられました」

「はあ、・・・・」


 男の顔を見て気が付いた顔をした。

「左様ですか。お前達、か弱い女性に襲い掛かるとは言語道断、厳しく罰するからそう思え」

 男たちは必死に首を振るが猿轡をしているので喋れない。

「ミノン殿、失礼いたしました。近衛にこのような馬鹿どもがいるとはお恥ずかしい限りです」

「いえ、お気になさらずに」

 なるべく事を荒立てたくないのをミノンも察してくれた。

 男たちは衛兵に連れて行かれ、私は臣と皇帝の元に・・ちょっと不安なのでミノンも一緒に。



<おまけ>

 ミノンの里帰り


 陛下への説明が終わった後、リシュ様はすぐに転移してパリに戻ったが、ミノンは実家に5年程帰ってなかったので帰ることにした。


 家に入ったら、やはり懐かしさで胸がいっぱいになった。

 見たことのない若い女性に応対された。

「娘のミノンですが、父上に取り次いで貰えませんか?」

 メイドらしい。あれ、うちって人を雇えるほど裕福だったかな。


「ミノンか。何しに来た!」

 いきなり出て来た兄上に怒鳴られた。まあ、今更兄上程度に何言われてもどうってことは無いんですけどね。

「両親に挨拶に来てはいけないのですか?」

 私は穏やかに聞き返しました。


「おおミノン、良く帰って来たな、早く上がりなさい」

 兄上を押しのけて、父上が私の背中を押す。

 居間で私は両手を着き、両親に挨拶した。

「お久しぶりで御座います。お変わりございませんか?」

「おお、元気だとも」

 にこにこと応対してくれる。おかしいな?私、いらない子だったのに。


「兄上、義姉上、ご無沙汰しております」

「何で帰って来たんだ」

 兄上は何で突っかかってくるんだろう。

「はい、式は来年になると思いますが、私結婚します」


「家長の許しも得ずに何を言う」

 兄上がまた突っかかってくる。

「ですから、今言ってます」

「まあまあ、相手はどちらの方だ」

「恭平様です」

「「「「ええー」」」」


 私の兄は旗本なので領土は無いが、少額の給料があります。まあ細々と食いつないできたわけです。

 そこに私がお小遣いの半分を仕送りしていたのですが、それが兄の給料より多かったそうです。

 それで、兄は自分の立場を狙っているのではないかと疑心暗鬼になっていたそうです。

 父上がメイドを雇うし、派手な生活を始めるし、気が気ではなかったそうです。


 両親から結婚したら仕送りは増えるのかと聞かれたので、結婚したら仕送りをやめると言ったら両親に縋られて大変でした。

 でも他の家の人間になるのだから当然ですよね。私もそう言われて育ちましたし、リシュ様から首を言われた時には、兄に売られるのではと心配しました。

 それなのになんで両親は騒いでいるのでしょう。


今回はあまりドタバタしなかったので次回はもう少し動きがあるもので行きたいです。

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