外伝4話 巨大ロボ発進
蒼伊が巨大ロボを作る話です。
帝歴21年 パリ 蒼伊の工房
工房には二人の白衣を着た少女が居た。
「ナータ、ついにできたよ」
「これぞマッドサイエンティストの夢」
「「巨大ロボット」」
彼女の工房には体育座りをした巨大ロボットが置かれていた。
「なんで体育座りなんですか?」
「部品が出来て組み立ててたら工房の高さが足りなかったのよ」
「途中で何とかしませんか?普通」
「だって、組み立て始めたら、止められるわけないじゃない」
「とにかく動かすには、屋根を開閉式にするしかないのよ」
「解りましたよ。それを私がやればいいんですね」
「流石ナータちゃん。解ってらっしゃる」
ナータは聞こえないように呟いた。
「もう、蒼伊さんのやることって抜けてるんだから」
「何か言った」
「いえ、何にも」
一か月後、ようやく開閉式の屋根が出来た。
ロボットの胸が開き、蒼伊はパイロットシートに、ナータは後ろのナビゲートシートに座る。
「これってなんかギミックが欲しいですね。縄梯子が降りてくるとか」
「剣姫はみんな重力制御が使えるからいいでしょ」
「絶対忘れてたんだ」
左右のひじ掛け部分を閉じるとシートに体が固定される。
「魔道ジェネレータースタートアップ、ソードプリンセス!!」
「スタートアップテスト、オールグリーン、ソードプリンセスって剣姫の事ですよね」
「良いのよ、ファンタジーは取り敢えず英語使っとけば」
「でもこの世界ではマイナーな言語ですよ」
胸の扉が閉じると後ろ以外はスクリーンとなり、ロボットの目で見た景色が投影される」。
パイロットが首を回すとロボットの首も追従する。
電子技術はインストールの威力もありここ十年で日本の技術を超えている。
「屋根を開けてくれる」
「はい、オープンと」
ナータがリモコンのスイッチを押すと、屋根がするすると開いて、日光が差し込む。
「格納庫を作ったらプールとかが開くギミックが欲しいわね」
「どうしてそんな無駄なことを」
「いかにも秘密基地みたいでかっこいいでしょ。様式美よ」
「さあ、立つわよ。スタンドアップ!!」
ロボットはゆっくり立ち上がる。
「ぐええ」
凄まじいGが掛かる。ナータは下向きのGには何とか耐えていたが、減速時の上向きのGで汚い叫び声を上げる。
「気持ち悪いです」
「我慢しなさい、アルクビエレドライブ始動、上昇」
立ち上がったロボットは上昇を始めるがGの変化がない。
「Gが変化しません」
「アルクビエレドライブは空間ごと移動するから、重力は変化しないのよ」
「これは良いです」
「郊外の広場に行くよ」
ひじ掛けについているスティックを前に倒す。
ロボットが水平になる。スティックを戻し、この状態で右のペダルを踏む。
徐々に加速する。すぐに郊外の広場に着いた。
今度は真ん中のペダルを踏むと速度が急速に落ちる。
スティックを後に倒すとロボットが垂直になる。
スティックの上のダイヤルを後退に合わして右ペダルを踏む。
ロボットは下降を始める。地上に近付いたところで真ん中のペダルを踏むと下降速度が緩み静かに着地した。
「アルクビエレドライブ、停止」
「アルクビエレドライブ、停止しました」
「地上移動モード、切り替え」
「地上移動モード、切り替えました」
スティックを少し前に倒して、右ペダルを踏む。
ロボットはゆっくり歩き始める。スティックを右に倒すと右に曲がり始める。
「次は走るよ」
スティックを前に倒し切り、右ペダルを少し踏むとジョギングの様に走る。
ドンドンと大きく揺れる。
「ちょちょっと揺れ過ぎでは」
「全力疾走よ」
右ペダルを思い切り踏み込む。
ドスンドスンと振れが大きくなった。
「もうやめて、死ぬウ」
真ん中のペダルを思い切り踏む。体がシートの固定部分に押し付けられる。
「ぐええええええ」
再びナータの汚い叫び声が響く。
「今度はあなたが動かしてみる?」
「ちょっと休ませてくださいぃぃぃ」
仕方が無いので外へ出て芝生の上に寝かせる。
「蒼伊さんに聞いてた巨大ロボのロマンが無いです」
「なんで、身長20mの巨大ロボだよ」
「それって、上下動もGも10倍以上になるってことですよね」
「そうとも言う」
「こんなのに人間が乗る必要があるんですか?」
「それがロマンってもんでしょう」
ナータは後ろを向いて呟いた。
「このマッドサイエンティストめ」
ナータがパイロットシートに座ると人格が変わった。
「ナータ、滑ってる滑ってる」
全力疾走のまま急旋回を行うナータ。
「コントロールできないオーバーステアより、コントロールできるアンダーステアだ」
お前は何処の峠出身だ。
『魔王都に向かって竜の魔獣が接近しています』
ナータの孫従者から連絡が入る。
「蒼伊さん、魔王都に竜の魔獣だ。こいつで行こう」
「解った。魔力石は大量にあるから心配はいらない」
「飛行モードに変更」
「飛行モードに変更したよ」
「アルクビエレドライブ、始動」
「アルクビエレドライブ、始動した」
「フルスロットルだあ」
ソードプリンセスはものすごい加速で上昇すると魔王国に向けてさらに加速した。
魔王都まで3200km、大体20分で着く。
魔獣の前1kmに降り立つ。
ティラノサウルスの魔獣だ。25mが二頭。
「操縦を替われ」
「やだ」
「お前、武器を扱えないだろう」
「ちぇ、仕方ないなあ」
「ユウ ハブ コントロール」
「アイ ハブ コントロール」
左ひざを曲げると薙刀が飛び出してくる。
「足の長さより長いじゃん」
「中で継ぎ足してるんだよ」
「自動装備」
薙刀を両手で持ち、半身で相手に向かい構える
そうこうしてるうちに魔獣が接近してくる。
首を狙いたいが届きそうもない。頭に当たれば薙刀が壊れるだろう。
寸前で避けて首に一撃をお見舞いすることにする。
「ナータ!!、すり足で2歩右に移動、後で右に90度回転」
操作が上半身だけでいっぱいになるので、下半身の操作をナータに移譲する。
魔獣が大きく口を開き掛かってくる。
「今よ」
「すり足で2歩右に移動、後で右に90度回転します」
すんでのところで右の魔獣を避ける。口を閉じる音が響く。
左の魔獣は目標が無くなったので、一旦通り過ぎる。
右のスティックを左に倒しながら前に、左のスティックを左に倒しながら後ろに引く。
袈裟斬りの要領で首を狙い、薙刀が振り下ろされる。
魔獣が首を大きく振る。この状態で方向転換だと!!
尻尾の反動を使った方向転換だ。
薙刀は頭部に当たって滑ったので、首には当たったが浅い。
薙刀が刃筋がずれたので抵抗が大きく、刃の根元でぽっきりと折れる。
こういう武器は大きくなればなるほど脆くなる。
「さらに右旋回急いで」
薙刀を捨てるとしゃがみ込み、魔獣の首の下に回り込む。間に合わずに左腕に噛み砕かれる。
バキバキ、ベリベリと大きな音を立てて左腕が千切れる。
「ダメージコントロール、オートバランス最適化」
腕を失くすなど重心の移動がある場合、最適化しないとまともに動けない。
右腕を首に回して肩に担ぐようにして魔獣の体を腰に乗せる。
足を延ばし、前転する勢いで投げる。ちょうど一本背負いの要領だ。
魔獣は背中から地面に激突した。
内臓が無事で済むわけがない。大きいサイズであればGも大きくなる。
魔獣は動かない。死んだようだ。
もう一頭の魔獣が突っ込んでくる。
「蒼伊さん、替わってください」
「解った。ユウ ハブ コントロール」
「アイ ハブ コントロール」
ナータは右腕で真っ直ぐに魔獣を指差す。
「グラビティ カノン発射」
人差し指が千切れて飛ぶ、すぐに目視出来ない速度に達する。
魔獣の頭が弾ける。
魔獣は首から血を吹き出しながら、ソードプリンセスの足元に転がる。
魔獣の後始末を魔王国に任せて蒼伊とナータは工房に帰った。
蒼伊の御機嫌が悪い。
「蒼伊さん、どうしたんですか?」
「お前なあ、飛び道具で相手をやっつけるのなら、巨大ロボ要らねえんだよ。
飛行機や戦車で良いじゃねえか」
「そんなこと言われても」
「これで恭平君に、量産化を許可して貰えなくなる」
「量産化するつもりだったんですか」
「当たり前だ。
話は変わるがあのグラビティ カノンの魔道具化やっといてくれ」
「私一人ですか」
「だって、ロマンが無いだろ。あんなの」
「本当に興味のない事には何にもしないんだから」
「よし、今度はパワードスーツを作るぞ」
「どうして人型にこだわるんですか?」
「それがロマンってもんよ」
ナータは後ろを向いて呟いた。
「このマッドサイエンティストめ」
ネタが思いつきません。あまり滑稽にやるのもどうかと思いますし・・・。




