外伝3話 スエズ運河攻防
真白視点の中近東の戦いの記録です。
我々が掘ったスエズ運河を狙って、ちょっかいを掛けてくる国がある。ペルシャ王国である。
運河は魔王国内に建設したが、国境から100~200kmしかないため、もともとペルシャの土地であったと難癖をつけて来たのである。それなら運河を掘る前に言えって感じです。
ペルシャ王国は紅海からカスピ海に至る巨大な国家だが人口は少ない。産業が無い為である。
此方の世界では当然第一次世界大戦も起こっておらず、ヨーロッパの横やりも無いので王政がずっと続いている。
王の政治は苛烈な懲罰主義のため、国民の不満も溜まっている。スエズ侵攻には、それを逸らす意図もあるのだ。
ヨーロッパに来てから1年半、ようやく工房は完成し、スエズ運河も完成した所だ。
まあその時を狙ってたんだろうな、ペルシャ軍が運河の近くに現れて運河を寄こせと攻撃を開始したのである。
俺も中近東の王政を廃止させようとしていたから、ちょうどいい口実が出来た。
魔王軍と一緒に剣姫がペルシャ軍を蹴散らしていたのだが、いよいよ本丸を責める時が来たようだ。
攻撃と言ってもこちらが留守にしていない限り、手は出してこない。人口が少ないので、消耗戦は避けたいからだ。
今日はこちらには用意がある。
いつものように相手は1時間ほど1キロの距離を取って、対陣してから引き上げに掛かった。
「追撃戦、開始」
恭平さんの掛け声で追撃戦が開始される。
まず先行するのは私が運転する四駆の軽トラ改、荷台には茜が槍、ヒイちゃんが弓を構える。もう一台は運転がリシュさん、蒼伊が薙刀、マールさんが弓だ。
敵がエルサレムに着くまでにせん滅する。敵はゴーレム馬に乗った500人だ。
10kmほど走って最後尾に追付く。
後に付いてヒイちゃんとマールさんが矢を撃ちまくる。私達の目的は相手を止めることだ。
相手は最後尾が次々とやられるので、しびれを切らした敵の指揮官は反転を指示した。
私達も反転する。
荷台に装甲板を付け、反撃をせずに相手を誘き寄せる。迫ってきた敵は茜と蒼伊が処理をする。
直に、ナータのお兄さん率いる。追撃部隊と出くわす。
追撃部隊は騎兵もいるが主力はトラックの荷台に居るクロスボウ部隊だ。
次々と相手を打ち落とし行く。
すでに相手はばらばらになり、組織的な反撃が出来なくなっている。
其処へ残りの剣姫が突入する。
10分と掛からず敵は壊滅した。
そのまま、エルサレムに向けて侵攻する。
エルサレムに敵は居らず、テルアビブ、ダマスカス方面に進む軍2000とバクダットに向かう8000に分かれる。
私達はバクダットに向かう軍に同行することになった。
念話で他の剣姫に伝えて合流するためにエルサレムの街を走る。
いきなり、軽トラの前に飛び出して来た少年がいた。
軽トラを止めて念話する。
『周囲を警戒して』
荷台に居る茜とヒイちゃんに警戒して貰い、私は車を降りて少年と対峙する。
「危ないでしょ」
「お姉ちゃん、剣姫でしょ。バクダットに行くだろ?」
少年は10歳位、痩せこけていた。
「私は剣姫じゃないし、作戦は言えないよ」
「僕を連れて行って、バクダットにお父さんとお母さんが居るんだ」
「あなた、誰か世話をしてくれる人はいないの?」
「一週間前にお母さんを王様の兵隊が連れて行って、それを止めようとしたお父さんも兵隊に捕まって、今僕一人しかいない」
「お母さんはどうして連れて行かれたの?」
「コウキュウに入るとか言ってた」
「それってハーレムの事じゃない」
後で聞いていたのか、茜が割り込んできた。
「ハーレムってなあに?」
ヒイが聞いて来た。
「この子のお母さんを、無理やりお嫁さんにしようとしているって事」
「で、どうするの?」
私が聞くと茜は何かブチブチ言ってたけどこちらを向いた。
「恭平に許可を取ったよ。連れて行こう」
「そうなるんじゃないかって思ったよ。あ、私ホワイト、槍の子がオレンジで弓の子がゴールドよ」
私達のコードネームを教えておく。
剣姫は有名になり過ぎたので、平時に狙われないように正体を隠している。任務時は顔出しNGで、私はミラー加工のバイザー付きヘルメット、茜達はフェイスマスクと飾り付きヘルメット。
ちなみにユニフォームは防刃仕様で礼装よりははるかに動きやすい。
「僕は、アヒムって呼んで」
「アヒム、お腹空いてない?」
茜が収納からおにぎりとお茶を出す。
「三日前から何も食べてなかったんだ。ありがとう」
「左側の座席に乗ってね。バクダットまでは3日位だからゆっくり食べてね」
「荷台に乗っているのが剣姫なの?」
「さあね、秘密だよ」
私達はアヒムが、敵のスパイだった時の事を考えて、単独で先行している。まあもしかしたらアヒムのお母さんを連れた兵に追付けるかもしれないからってのもある。
ゴーレム馬車の速度は1日70~100km、軽トラが300km位だから、3日目に追付く可能性はある。
エルサレムを出て3日目お昼過ぎに、バクダットまであと100kmの所でゴーレム馬車の集団を見つけた。
『どうする?』
私は茜に作戦を聞いた。茜はヒイちゃんと相談しているみたいだ。
『一旦、前に出て降伏勧告をするわ』
私はゴーレム馬車を追い越して50m位の距離で停車する。
「お姉ちゃん、大丈夫。お父さん、お母さん助けられる?」
「それは相手次第かな」
アヒムも心配している。
「車から出ちゃ駄目だよ」
茜が大声で馬車に向かって叫ぶ。
「その馬車、止まれ。こちらは剣姫だ。止まらなければ攻撃する」
恐らく戦争状態になったことさえ知らないのであろう。
馬車は止まったが代表が出てくる気配がない。
「武装を解除して降伏せよ。そうすれば命は保証する」
ヒイちゃんが弓を構えてると言っても女の子が二人だ。まず降伏はしてくれないだろうな。
馬車の側からゴーレム馬に乗って、10人程の護衛が剣を振りかざしてこちらに走ってくる。
ヒイちゃんが矢を連続で放つ。次々と護衛達が倒れる。50mはヒイちゃんの必中の距離だ。
3人は軽トラまで来たが茜に突き殺される。
私は死体を避けてバックで馬車に近付く。
馬車は3台、うち2台は箱のような形で上の方に格子の付いた小さなまだが空いてる。1台は普通の旅客馬車だ。
茜は荷台に繋がっているロープを外して、軽トラから降りる。ヒイちゃんもロープを外して、荷台からは降りずに弓を構える。
私は二人の命令を待って、そのまま運転席で待機する。
「アヒム君、動いちゃ駄目よ」
茜は3台の馬車の御者を呼び、ロープで縛りあげる。
「降りて来い」
旅客馬車に向かって茜が呼びかける。
ドアが開き二人の男が降りてくる。キンキラキンの太ったオジさんと背の高いガテン系ののオジさんだ。
「お前が剣姫か、わしの仕事の邪魔をするとは無礼であろう。すぐに去るのであれば許してやる・・うん・・ちょっと面を外してみよ」
まだ状況が掴めてないみたい。もう一人は護衛かな、ヒイの弓を見て両手を上げている。
「あのね、オジさん。あなた方がスエズ運河に攻めて来たから戦争になってるんですけど。あなたは捕虜、解る?」
「何を馬鹿なことを、ここは王都バクダットまであとわずか。敵がこんな所まで来れるわけがない」
「エルサレムは解放されたわ」
「嘘もいい加減にしろ!!」
茜の堪忍袋の緒が切れたみたいだ。槍をヒュンヒュンと振る。
オジさんのターバンと髭がスパスパと斬れる。
「捕虜にならないのなら死んでもらうけど」
「申し訳ありませんでした」
オジさんは土下座した。二人を縛って御者と一緒にしておく。
茜とヒイちゃんは箱馬車の後ろに回ってカギを斬る。1台の馬車は女性が10人、もう一台は男性が7人だった。
茜が呼ぶので私とアヒムは、茜のそばに走って行く。
「お母さん!!」
アヒムは解放した中の一人の女性に飛びついた。
「アヒム、どうしてここに?」
「私達が連れて来たんです。面倒を見る者がいないというので」
「夫がいたはずですけど」
「お父さんも捕まったんだよ」
「何ですって!!」
もう一台の箱馬車に駆け寄ると、男の扱いは悪かったようで猿轡と両手を縛られている。
今、ヒイちゃんが手を縛っているロープを切断して解放している。
「お父さん」
「あなた」
「アヒム、おまえ、無事だったか」
三人は抱き合ったまま泣いている。
「どうするの」
「とりあえず、家を建てて、皆を綺麗にしなきゃね」
私達も単独行動だったのでお風呂に入ってない。
プレハブの家を建てる。皆を綺麗にして、ご飯を食べさせて、今晩はここで泊って明日帰すことにした。
私達も後と合流できるので都合が良い。
次の日、アヒム達に食料を持たせて、分捕った馬車で帰らせた。
王はアヒムのお母さんを手込めにして、さらに男たちを残酷に殺して楽しもうとしていたらしい。
アヒム達は私達に何度も礼を言っていた。
私達はバクダットに攻め込んで王を捕え、処刑した。王族は身分をはく奪、財産を没収した。
中近東で一番大きな国を解放したことで、周りの国が競って恭平さんに降伏して来た。
ペルシャ王国で王族を処分したことが大きかったのだろう。
恭平さんの地球統一に一歩近づいた出来事だった。
一応、姫全員の外伝を書くつもりです。




