第六十七話 十剣鬼
新たな敵が現れます。
転移250日目
8時 寮 居間
ナータが俺の方に来た。
「今日魔獣退治に行くんだよね。連れてって」
「別にいいけど何がしたいんだ?」
「魔法を開発したの」
「え、どんなの?」
「秘密よ」
・・・・
「飛行機を使うの?」
「そうだよ」
「空間移動を使おうよ」
「お前のマップは情報が荒いから怖いんだよ」
「空に居れば大丈夫だよ」
「あ、なるほど」
重力制御で浮いてれば障害物なんて関係ないもんな。
天都から300km程離れた山の中、ここで熊魔獣が目撃された。
高度200mに居る。
「俺はこっちを見るからお前はあっちな」
「こんなので見えるの?」
ぐるっと3周ほどした。
『見つけました。北西方向約1kmです。最低2頭います』
「ナビさんが見つけてくれるのね」
「上空20mに転移だ」
20m上空で真下に熊魔獣二頭を見つけた。
ナータが唇に指を当て”静かに”のサインだ。
ナータが両手を前に突き出す。
熊はまだ気付いていない。光った?倒れた?もう一頭も?
あっという間だ。
何をしたのか全く分からない。
「ちょっと魔力石貸して」
「何をしたんだ」
魔力石を渡した。
「究極魔法、虫眼鏡アタックよ」
ナータは魔力を回復しながら言った。
「なんだそれ、ネーミングセンスないな」
「重力レンズを作って相手を焼く魔法よ」
「そんなに魔力を消費するんじゃ数は打てないな」
「ちょっと張り切り過ぎたの!!」
地上に降りて確認すると頭に3mm程の穴が空いてるだけだった。
熊の死体を収納に入れてもう一度上空から周囲を確認した。
魔獣は居なかったので帰ることにした。
空がどんよりしてる。明日は雨が降りそうだ
転移251日目
今日は朝から雨が降ってる。
今日はドーテ以外が寮にいる。
勉強をしようと言ったらブーイングが来たので、科学限定で質問に答えることにした。
「はい、雨はなぜ降るの」(ヒイ)
「やかんでお湯を沸かした時に湯気が出るよね」
「うん」(ヒイ)
「湯気は出た後どうなるかな」
「消える」(ヒイ)
「消えるんじゃなくて空気みたいに見えなくなって、それが水蒸気て言って、空に登って行くんだ。やかんだけじゃなくて、海、川、池、水のある所からは水蒸気が出てるんだ。それが冷やされて水の粒に戻ると雲になるんだ。雲の水の粒が集まって大きくなると空に浮かんでいられなくなって、雨になって降ってくるんだ」
「フーン」(ヒイ)
「ちょっと難しかったかな。水は雨が溜まって、水蒸気になって、雲になって、また雨になるんだよ」
「ぐるぐる回ってるの」(ヒイ)
「そうだよ」
「はい」
「マール」
「男は何でおっぱいが好きなんだ?」(マール)
「それって科学?」
「科学だよなあ」(マール)
「うんうん」×11
「仕方ない。ここからは生物としての話で俺個人の話ではありません」
ちゃんと言っとかないと変態扱いされかねん。
「男がおっぱいが好きなのは、おっぱいは女が成熟した証だからです」
「もっと分かり易く言ってくれないと」(マール)
「人間は哺乳類と言う生物ですが哺乳類はオスとメスが番になって子を残します。
大抵はオスがメスを探して番になろうとするわけですが、メスが成熟していないと子供を残せません。
それでメスは成熟した印を出します。匂いだったり体の一部が変化したりします。
人間の場合、おっぱいが膨らんで成熟した証となります。
だから男は膨らんだおっぱいを見ると番になれる女性と本能的に認識します」
「お乳出すから大きくなるんじゃないの」(リシュ)
「お乳を出すだけならおっぱいは必要ありません。猿におっぱいはありません」
「やっぱり真白みたいに大きいのが良いのか」(マール)
「それは個人の嗜好です」
なんやかんやで昼まで馬鹿な授業をしてしまった。
・・・・・・
ベルリン 悪魔城 皇帝執務室
「馬鹿な、なぜ」
皇帝は頭を抱えた。
「昨日は魔族の王女を捕えたと連絡が有ったのに。何があったか分かるか?」
「はい、生存者によると前線の城で真なる悪魔が就寝した直後、3人の襲撃がありました。襲撃者は王女を解放し、何らかの方法で魔力を回復させたようです。悪魔人間18人と真なる悪魔3人が倒された後、王女と空間移動で逃げました」
「逃げたというより見逃して貰ったということですな」
一人の男が執務室に入って来た。
「セゴドゥーではないか。なぜ参戦せぬのか」
「魔族には面白い奴が居ません」
「ではなぜ出て来たのだ」
「おそらくこの襲撃、恭平と剣姫の仕業と見ました。彼らは面白い」
「はい、襲撃者は若い男と少女が二人です」
報告をしていた男が補足する。
「我々、十剣鬼は剣姫との戦いに赴きたいと思います」
「魔族はもう近くまで攻め込んできておるのだぞ」
「分かりました。先に蹴散らしてまいります」
転移253日目
撤退する悪魔軍を追って魔族軍はルクセンブルグの近くまで来ていた。
行軍中の魔族軍に十人の剣士が突撃し、軍をばらばらの状態にした。
其処へ魔獣の大群が攻め入り、魔族軍は大敗北を喫した。
・・・・・・
俺はサイゾウを迎えに煙台に転移した。
バスもすでについており、ドーテとキキョウが居た。
サイゾウもすぐに現れた。
「サイゾウ、信帝国に情報網を築くなら、部下を孫従者にしろ」
「孫従者を主要都市に置いておくわけですね」
「そうだ、最低でもこの5カ所には置いて欲しい」
地図をみせて説明した。
「獣王国と竜王国は良いんですか」
「剣姫の関係者にやらせる」
「孫従者の旅費と支度金だ」
「用意の良い事で」
「じゃあ、俺は帰る。なにかあったら念話しろ」
「ドーテ、キキョウ頼むぞ」
「「はい」」
転移257日目
サイゾウ達が天都に着いた。
まだ新村は3軒しか住める家が無い。各自分散して貰った。
散って行った孫従者たちは夫婦者が多いので今は16人。
また天都から任地に向かう者も居るので残るのは6人だけだそうだ。
そのうち3人は天都外郭内に居住する予定の若い親子だ。
後はサイゾウ、サイゾウの奥さん、キキョウ?。
サイゾウとサイゾウの奥さんは管理棟に住む予定だし、キキョウはうちの寮に住んでるし・・新村に誰も住まないのかよ。
寮の庭ではジュリアンとキキョウが練習をしている。インストールはキキョウの方が早いが身体強化を解禁していないのでいい勝負だ。
ちなみにジュリアンのインストール剣士は井倉さんだ。3人目なので上達が早い。
キキョウのインストール相手は武器を使う沖縄空手の人で、刀の扱いもうまい人らしい。
此方ではミヤとミノンの対決だ。これは一見の価値がある。
ミヤは刃渡り60cmの木刀と背中に30cmの短刀を差している。
ミノンは40cmの短剣を2本だ。
両者が駆け寄る。ミノンの右手の横薙ぎから始まった。
ミヤはタイミングを外してミノンの右側に避け、ミノンの右腕を切り上げる。
ミノンは横薙ぎのまま回ってミヤの斬撃を避け、回った勢いで左の剣を逆手でミヤの脇腹に刺突する。
ミヤが時計回りに半回転するとミノンが吹っ飛んだ。
恐らくミノンの左手首をミヤの左が極めて投げたのだろう。
ミノンも結果で分かるだけで全く見えなかった。
ミノンは右手を着いて後方回転して立つ。本来なら左手首を折って、受け身の取れない投げを撃つのだろう。頬を伝うのは冷汗だろうか。
ミヤはまだミノンのはるか先に居る。
「参りました。ありがとうございます」
「ミノンちゃん凄いね。短い間にこんなに強くなれるなんて」
「いえ、まだまだです」
自分は14歳、殆ど成長しきってる。相手は12歳、成長途上だ。それだけでも恐ろしい。
目標に定めたミヤの背中はまだ遠い。
自分は双剣使いだ。受けて貰えないと次が乏しい。そこを鍛えるか。
『目標が高過ぎましたか?段階を踏みましょうか?』
師匠のナビさんが聞いてくる。
『目標は高い方が良いです。課題がいっぱいです。教えてください』
己の中から沸々と湧くこれは?リシュに仕えていたころには無かった。剣姫に成ると決めた時に覚えた高ぶり、闘争心だ。
・・・・・・
ヨーロッパから中央アジアに向けて猛スピードで走る十人。
「セゴドゥー、どうやっておびき出すのだ?なんなら俺がやるぞ」
「どうも獣王に深い関りがありそうだ。人質にする」
「チェゾード、お前、猛り過ぎだ。落ち着け」
「うるさい、マジェーロ、今までの敵は弱すぎた。今度の敵は我々に匹敵するかもしれんのだぞ」
「我々に匹敵するなど有り得ん話ではないか。のうタジミール」
「良いではないか、イセック、油断するよりは余程良い」
「ゴアよ、今度は勝ち抜きとは言わさぬぞ」
「そうよ、この前はあんた一人で全部やっつけちゃったじゃないの」
「心配するな、ザナック、シンクレアよ、今度は個人戦じゃ」
「では順番を決めねば、ジョヴァンニ、お前が決めるのか?」
「ドモーニ、気が早い。向こうに着いてからで良いではないか」
「我ら十剣鬼と呼ばれて百余年、未だ一人たりと欠けて居らん。今回も欠けることは許さんぞ」
次回、キキョウが泣きます。




