第六十五話 ナータとジュリアンの決断
ナータとジュリアンがこれからの生き方を決めます。
なぜうちには皇女や王女がいるのか、それは彼女たちに殆ど自由が無いからである。彼女たちは15以上になると政略結婚して奥の部屋に籠らなければならない。その点うちに来れば結婚しなくてもいいし、自分の才能を試してみることもできる。自由に服も選べるし、外出もできるからである。
一気に人間が増えたので部屋が足りません。
誰か相部屋してとお願いした。
「じゃあ、私が真白ちゃんの所へ行くよ」(茜)
「ダメー、茜ちゃんがいないと起きれないよお」(蒼伊)
「仕方ない、蒼伊の所に行く」(茜)
「もう」(真白)
と言うことで茜が202号室から204号室に202号室にナータとジュリアン、303号室にライヤとキキョウで良いかな。
お風呂は俺から、俺は5分位のカラスの行水だから苦にされない。
ここの風呂は最大8人は入れる、順次入っても良いのだが、そこは女の子、連れだって入る。
大体前の組が上がると居間にいる次の組に連絡するようである。
風呂・居間の消灯時間は23時、もちろん廊下や階段・トイレには常夜灯が点いてる。
そこいらをナータとジュリアンに説明している間に部屋の引っ越しが終わったようだ。
俺は待たせるといけないのでさっさと風呂に行く。
部屋の説明はミヤとヒイの担当である。寝具も買う許可は出してあるので日本製を買うだろう。
ナータは文字通り裸で来たわけだから着替えも買わなきゃいけない。魔王に請求してやる。
転移248日目
7時 寮 食堂
朝食を食べながら皆の今日の予定を聞く。別に聞かなくても良いのだが、報告してくれるものはやはり聞かないとね。
最初に来るのはいつもミヤとヒイだ。二人は俺の世話が主業務なので誰かの手伝いをすることが多い。
「今日はジュレイさんが警らに指導に行くと言っているので、ついて行きます」
「ヒイも行くよ」
「ハイジも」
「そうか、気を付けてな」
次に来たのは真白だ。
「今日は茜と講師の指導と教科書の作成ですね」
茜が参加するのが嬉しいようだ。
茜と蒼伊が来た。
「今日は真白ちゃんの手伝いに行きます」
「真白も期待してるみたいだ。頼むぞ」
「魔力発電も基礎が固まって来たからオープンにしても良いかもね」
「無茶な開発が出来ないような法整備が必要だな。天帝様に掛け合ってみるか」
リシュとミノンだ
「紡績工場が出来ましたので設備・資材の搬入を始めます。人が来月位になりそうなのとそれだけでは
足りないと思いますので天都で募集しますか」
「女性の潜在的な人材はかなりいると思う。そこらの掘り下げだな」
「紡績設備の搬入と試験運転ですね」
「オウ、頼むぞ」
ライヤ、キキョウ、マールだ
「タイヤの製造がうまく行きません。材料の問題と言ってます」(ライヤ)
タイヤはこちらで製造できずに日本で買っている。
「安全に直結する部品だ。100点満点を狙って妥協するなと伝えてくれ」
「明日からサイゾウさん達を迎えに行きます。ドーテさんと仮宿舎の組み立てを練習します」(キキョウ)
「そうか頑張ってな」
「明日、お迎えの人達が煙台に出発します。忍猫族の運転手さんもばっちりです」(マール)
「帰ってきたら今度はモンゴルだからな」
ジュレイとドーテだ
「今日はミヤちゃんとヒイちゃんに手伝って貰って警らの指導に行きます」
「頼むぞ」
「私はキキョウさんと仮宿舎の組み立ての練習です」
「うまく教えてやってくれ」
ナータとジュリアンが来ない。
「ミヤ、ヒイ起こしてきてくれ」
「「「はい」」」
「ハイジは行かなくて良いの」
「ちぇ」
舌打ちまで覚えたのか。本当に末恐ろしい。
暫くするとナータとジュリアンを伴って二人が来た。
「ご飯食べなくても良いのに」
ナータが欠伸をしながら言った。
「朝食が要らないなら昨日の夕食までに言え」
「何、怒ってるのよ?」
「ここは団体生活をしているんだ。一人の気まぐれが全員に迷惑をかける」
「君達が朝食を食べないといつまで経っても片付けられない、解るか」
「ちょっとくらい待って貰ってもいいでしょ」
「解ってないなあ、良いか、ここの片づけに来る人は他の棟を合わせて、百人以上の片づけをしている。君達が遅れれば百人以上が迷惑することになる」
「嘘よ」
「本当だ、君達が生活して来た場所とは違うんだ。君たち一人一人に人が付いてるわけじゃない」
「解ったわよ。食べればいいんでしょう」
「そう言うことだ」
「これ冷めてるわよ」
「当たり前だ。ここは7時から7時半で食べることになってる。もう二十分も過ぎてる。冷めるのも仕方が無い」
「う、もう」
「ジュリアンは解ってるよね」
「はい、もちろん」
俺とナータの掛け合いを呆れた顔で眺めていたからな。
「二人とも御飯が終わったら顔を洗って、身だしなみを整えて、9時に執務室に来て」
「「はい」」
ナータとジュリアンが食事を終え出て行こうとするとリシュが声を掛けた。
「後片付けしていってね」(リシュ)
「どうすればいいんでしょうか」(ジュリアン)
「ナータさん前にも居たから知ってるでしょ」(リシュ)
「あの時はライヤさんがしてくれたので」(ナータ)
「ああ、お客さんのは、相部屋になった人か、ヒイちゃんかミヤちゃんがやってくれるけど、もうみんな出てっちゃってるか」(リシュ)
「リシュさんも始めから起きれたんですか」(ジュリアン)
「私にはミノンがいるもの」(リシュ)
その時、勝手口が開いておばさんが入って来た。
「ちょっと待ってね、この子達がまだ片付けてないの」(リシュ)
「困るよ、他もあるんだから」(おばさん)
「ほら、あんた達、残り物を水切り籠に入れて、トレーを重ねてコップはコップの所に!ごめんなさい、すぐにやらせるから」(リシュ)
おばさんはブチブチ言いながら洗い物を集めて行った。
「皇女様が自分は悪くないのに平民に謝るのですか」(ジュリアン)
「当たり前でしょ、ここには身分は無いし、あなた達は恭平様のお客だから従者の私達が謝らなきゃ仕方ないでしょ」(リシュ)
「信じられません」(ジュリアン)
「なんかごめん」(ナータ)
「あんた達ね、恭平様がくれる自由をはき違えちゃ駄目よ」(リシュ)
「どういうことですか?」(ジュリアン)
「あの人のくれる自由って言うのは、やることやってその上での自由よ」(リシュ)
「よくわかんないよ」(ナータ)
「一つは規律を守れ、一つはやりたいことを一生懸命にやれ、最後は命を大事にしろって所かな」(リシュ)
「命を大事にって剣姫やってるのにおかしくない」(ナータ)
「基本、剣姫の武力は自衛のためなのよ。事前に戦うことが解ってるなら剣姫が傷つかないようにしてくれるわ」(リシュ)
「でも、西域でドーテさんが死にかけたって聞いたよ」(ナータ)
「あれは完全な不意打ちで、ドーテが受け止めちゃダメ、避けろって指示を忘れてたからね」(リシュ)
「モンゴルでは攻めて行ったんですよね」(ジュリアン)
「あれは私がお願いしたの。恭平様は渋ってたけど剣姫の皆さんが行くと言ってくれてね。
でもね、あれもモンゴルの人達の命を守る為だったの」(リシュ)
「それで恭平様って呼ぶんですね」(ジュリアン)
「私は決めたもの、あの人に一生ついて行くってね。二度も命を助けて貰って、呼び捨てにしている誰かとは違うのよ」(リシュ)
リシュは感情が高ぶり、ナータを責める
「それって、僕の事?」(ナータ)
ナータもムキになって食って掛かった。
「そうよ、あんた、恭平様に何を返したの。恩を仇で返すってあんたの事だわ」(リシュ)
「リシュ、やめないか」
居間が騒がしいので執務室から出て来た恭平が間に入った。
「ごめんなさい。あなたを馬鹿にされた気がしたの。頭を冷やしてくるわ」(リシュ)
自分の部屋に上がって行った。
「どうしたんだリシュらしくもない」
俯いていたナータが顔を上げると目から涙があふれていた。
「僕、勘違いしてたんだ。君が優しくしてくれるから調子に乗って、恩も返さずに甘えてた」(ナータ)
「おう、気にするな」
「駄目だよ、あの人に言われて気が付いた。僕は子供だった」(ナータ)
「子供だろ」
「違う、もう、子供じゃダメなんだ。大人にならなきゃ」(ナータ)
「そうか、それが分かったら頑張れ」
俺は泣きじゃくるナータの頭を撫でてやる。
「今日帰るからお昼まで面倒見て」(ナータ)
「よし、任せろ」
ナータは部屋に戻るようだ。
「ジュリアン、話は出来るか」
「まだ、顔を洗ってないからちょっと待っててね」
「良いよ、執務室にいるから」
ジュリアンが部屋に戻るとナータはすでに泣き止んでいた。
「みっともないとこ見せてごめんね」
ナータはちょっと腫れた目で言った。
「ううん、私も子供だったって分かった」
「僕は恭平から子供としか見られてなかった。悔しい。今度会う時には大人の女として会ってやる」
「うん、そうだね」
ナータが大丈夫そうだったので顔を洗って小綺麗にしてから階下に降りた。
「うーん、700km/hは無理でも650km/hは欲しいよね」
扉の向こうから声が聞こえる。誰かいるのかな。
ジュリアンはノックをした。
「どうぞ」
「誰か居ませんでした?」
ナビさんとの相談でついつい声が出ちゃうんだよね。
「居ないよ。まあかけて」
恭平の正面に座った。
「何か決まったかな?」
「はい剣姫をやりたいです。出来れば服飾のデザインもやりたいです」
「ご両親の了解は得られるかな」
「こちらに来させてくれたので大丈夫と思います」
「これ読んで」
ジュリアンが持ってきた手紙を読むと諦めさせてくれと書いてある。
「ひどーい、それで恭平さんは駄目って言うんですか」
「いや、君がどうしてもって言うのなら味方だよ」
「じゃあ、どうしてもです」
「それなら、ナータを見送ってから行くか」
「どこへですか?」
「竜王都だよ」
「えーっ」
次回、ジュリアンの両親の説得とナータの新しい武器。




