第五十七話 干支座の襲撃
ヒイが暗殺目標になります。
紡績工場、織物工場、縫製工場は、構想が纏まって動き出すこととなった。
機械製作は工房の方の技術者が空いて来たことから移籍。
ミノンもここに加えたがナビさんの特訓に駆り出され、出席できていない。
まあ、それでモンゴルでの大活躍があったので、本人も納得しているようだ。
しかし、あれは、身体強化と言うより身体改造だったのではないかと疑惑がある。
服飾デザインだがジュレイとリシュに勉強させている。
服飾系はリシュに統括をさせようと考えている。
ライヤは帝城内に事務所を開設して、工房の納品・配当などの事務を事務員2人を雇って行っている。
ライヤ本人は工房と事務所を行ったり来たりして調整を行ってるようだ。
転移230日目
23時 天都の一角
覆面をした男たちがとある屋敷の一室に集まっていた。
「魔道具はどうなりましたかな?」
上座に座った鼠の書かれた覆面の男が聞いた。
「天帝様が止めてくれたので、今は何とか。しかし一年後には解禁されます」
虎の覆面の男が答えた。
「わしの所の手漕ぎゴーレムは全滅です。一台も売れなくなりました」
「猪の、それを言ったらわしの所のゴーレム馬車も風前の灯じゃ」
「牛も猪も売り上げの半分を保証して貰える。俺の繊維や兎の織物、竜の着物も来年から売れなくなるのだぞ」
「竜の所は、洋装で重ならないと言っているではないか」
「静かに皆さんがあの男によって大変な損害を被ることは理解できます。問題はそれをどう防ぐかです」
鼠の一言で場は静まりかえった。
「千年の長きにわたり、甘い汁、いや信帝国を守って来た干支座の恐ろしさをあの子供に見せねばなりません」
「どうするのだ?猿」
「我軍団の力を見せる時が来たと言うことですよ」
「フン、猿に剣姫を倒せるものかよ」
「犬ごときが何を言う」
「では、猿にあの男の始末を任せましょう」
転移231日目 鬼猿の里
里の一番大きな家に三十数人の人間が集められていた。
猿族の特長は耳が上に付いている。
「お頭、それでは俺達が剣姫を倒すのですね」
「そうだ、剣姫を倒せば信帝国はおろか周辺国にまで鬼猿族の名が轟くぞ」
「オオッ」
「しかし、恭平と言う男も、剣姫もその正体は謎に包まれて居る」
「一人だけ、正体が解って居るものがいます」
「それは?」
「犬姫です。時々天都をパトロールして、犯罪者を捕まえています」
「よし、ではそ奴がパトロールに出た時を狙おう」
「兄上、剣姫は我らの為に戦っているのではないのですか?」
「我らが日の下に出るチャンスなのだ。もう暗殺などをすることは無い」
「しかし、これは暗殺なのでは?」
「そうだよな。俺達の正体ばらしたら捕まるか?」
「結局、いつもと変わらないのですね」
転移232日目 天都目抜き通り
10時 天都目抜き通り
ヒイはその日、気が向いたため パトロールをしていた。
今日はハイジを大きくして上に跨って歩いている。そのためあまり人は近寄ってこないが、声は各所から掛けられる。
手を上げて声援に答えているとナビさんが注意して来た。
『見張られています。不意打ちに注意してください』
怪しいそぶりをしているものにポインタを打ってくれる。
吹矢だ。
咄嗟に気功の盾で防ぐ。下手に避けると周りに被害が出る。
右手でハイジから飛ぶとハイジが犯人に真っ直ぐ走っていく。
ヒイはもう一人の怪しい奴に向かっていく。逃げた。
ハイジを確認すると犯人が人ごみに向かって逃げていく。
『ハイジ、先に回って』
念話で指示すると自分が全速力で追い始めた。ハイジを人ごみで使うのは危険なのだ。
犯人は短刀をチラつかせる。ヒイに向けて通行人を傷つけると脅しているのだ。
ヒイが速度を緩めると犯人の口元が緩んだ。
次の瞬間、普通サイズになっていたハイジが犯人の腹に体当たりをする。犯人は気を失った。
収納から出したロープで犯人を縛ると大きくしたハイジの上に乗せる。
自分より大きな人間をよっこいせと持ち上げるヒイを見て周りの人がポカーンとしていた。
「こいつ何をしたんだ」
よくお菓子をくれる叔父さんだ。
「これでヒイを狙ったの」
吹矢を見せる。叔父さんは青い顔をしていた。
人がいない所まで来ると周りを確認して、あ、またいる。さっき逃げた奴が物陰から覗いている。
「相手してあげるから掛かっておいで」
と言うと逃げて行った。
ヒイは軽を収納から出すと犯人とハイジを乗せ、寮に帰った。
11時 寮 居間
寮ではジュレイとリシュが本を積んで唸っていた。
「あら、ヒイちゃんその子、だあれ」(ジュレイ)
「暗殺者」(ヒイ)
「そうなの、じゃあ執務室でも放り込んで置いたら」(ジュレイ)
「分かった」(ヒイ)
放り込んでハイジを見張りに付けておく。
「ジュレイちゃんは何してるの」(ヒイ)
「紡績工場が工事に掛かったでしょう。そこで造る糸の太さや、染色する色なんかを作る洋服で決めるのよ」(ジュレイ)
「私はね、こんなタータンチェックが良いと思うのよ」(リシュ)
「私は、デニム地が良いと思うんだけどなあ」(ジュレイ)
「ヒイちゃんはどっち」(リシュ)
デニムの写真を指さし
「こっち」(ヒイ)
「負けたか」(リシュ)
「どうして」(ジュレイ)
「動きやすそうだもん」(ヒイ)
「はあ、タータンチェックね」(ジュレイ)
「活動的なのは売れないよね」(リシュ)
昼になり茜と真白以外は帰って来た。
皆でご飯を食べてると恭平が
「あれ、ハイジが居ないね。どうしたの」
「あっ、忘れてた」(ヒイ)
町で刺客に遭ったことを話した。
「今度から念話してね。ヒイだけじゃないかも知れないでしょ」
「はーい」
執務室に行くと女の子が縛られていた。ハイジにご苦労さんと言うと開けてあった扉から出て行った。
扉を閉めて鼻から上を隠すマスクを付ける。暗殺者に顔を見せたくないからね。
女の子を起こすと暴れようとしたが手足は縛られている。
暴れたので胸ははだけ、ピンクのが見えてるし、裾は広がり、付け根まで丸見えだ。
「君は誰で何の為にこんなことしたのかな?喋る気ある?」
女の子は首を横に振る。そっかぁ、じゃあこういうことに詳しそうなのはと。
『ライヤ、マスク付けてこっちに来てくれる』
ライヤが来た。流石に目のやり場に困るので先に着物を直させた。
「この子、暗殺者なんだけど何かわかる?」
「鬼猿族ですね」
女の子は激しく首を横に振る。
「当たりみたいだね」
「暗殺とか誘拐とか、汚い仕事を主にやります」
「どこかに所属してるの」
「商工互助会っていう建前のボッタクリ組織、干支座の下部組織ですね」
「なんで俺達を狙うんだ?既存の商売には補償もしてるし、技術指導もしてるのに」
「座を通してないからですよ。彼らは商売するのに手数料みたいな感じでボッタクっています」
犯人の女は思った。全部バレてる。
「面倒臭いから天帝様に全部投げちゃうか」
何か小物臭が漂って来て、まともに相手をするのが面倒臭い。
「はい、天帝様も干支座には随分、煮え湯を飲まされていますから」
天帝様も楽市楽座みたいなことをしようとしたが、すべて干支座に潰されたそうだ。だから忍猫族も知ってるわけね。
「それって大丈夫。また邪魔されるとか」
「邪魔をしていた軍務大臣がもういないから捕まるしかないでしょ」
「警らが引き取りに来るってさ」
天帝様に連絡したら警らに任せるみたい。
彼女の猿轡を外してやった。
「何か言うことある?」
「良かった。私達なんて滅んだ方が良いんです」
「吹矢に毒は付いてなかったみたいだけど」
「撃つ前に拭いました」
「どうして」
「子供とは思いませんでした」
「そうか」
ライヤの時みたいに騙されていたわけでも、追い詰められていたわけでもなさそうだ。
しかもヒイに吹矢を撃ったのだから、許すわけにはいかないな。
14時 寮 居間
事件があったので従者たちは外に出していない。茜と真白が心配だが夕方迎えに行くか。
たまたま外に出ていた忍猫族のコリンから念話があった。
100人弱の猿人族と犬人族が武装して工房に向かっているらしい。
「犬人族ってなんだ?ライヤ」
「干支座の実働部隊で名前は猛犬族。恐喝や暴行、殺人などの暴力行為を行います」
ちょうど犯人を引き取りに来た警らの人間を中に入れ、門にヒイの家を置いて塞いだ。
一階に結界を張って、ちょうどモンゴル兵の襲撃を受けた時の様にした。
武装した奴らは門に押し掛け、犯人を返せだの剣姫を出せだの好き勝手わめいてる。
モンゴルで軍隊を相手にしたばかりだというのに、俺は二階から言ってやった。
「皆さんの行為は恐喝に当たります。すぐに解散しないと強制的に排除します」
やってみろオラーとか言っているのでマスクを付けた剣姫登場です。
殺すことを前提にしていないので木刀です。
玄関を出て準備が出来たら結界を外します。
超接近戦コンビ、ミヤとミノンが突撃隊長です。最初の一瞬で6人が戦闘不能に。塊を抜けると引き返して突っ込んで行く。
続くジュレイとドーテが突撃隊長の開けた道の周囲の敵を左右に蹴散らして行く。
最後は蒼伊がかろうじて立っている敵に、可哀そうなくらいの強打を与えていきます。
賊は数が半分以下になると逃げだす奴が居ます。
逃げ出す奴は2階からヒイとマールが足を矢で撃ち抜きます。
「猿、てめえ剣姫を殺るんじゃなかったのかよ」
「知るか、こんな化け物だなんて言ってなかっただろ。犬」
5分も経つと立っている賊は居なくなりました。
警らが運びやすいように縛り上げて、治療をして歩けるようにします。
夕方、再度警らの引き取りに来てもらって全員引き渡しました。
次回、魔族の王子ナータ、久々の登場。




