第五十四話 リシュ
第一皇女リシュの主役回です。
15時 帝城 御所 応接室
呼ばれていくと大臣たち、近衛隊長、モンゴル皇子・皇女が居た。
モンゴルの皇族は基本信人族らしい。黒目黒髪だ
「おほん、集まって貰ったのは事件が起きたからじゃが、左大臣」
「はい、先ほどモンゴル帝国より使者が参り、虚飾を廃しますぞ。軍の司令官がクーデターを実施し、現皇帝を廃して、新たな皇帝となった。ついては信帝国に居る第一皇子を返還して貰いたい。信帝国とは今まで以上の友好を結びたい、とこの様にいってきました」
皇子が真っ青になって震えている。
「次、近衛隊長」
「はい、昼のモンゴル帝国皇子・皇女襲撃事件の犯人が自供した内容ですが、司令官がクーデターを起こすが、第一皇子が生きているとこれを担いで司令官に反旗を翻すものが出るので、抹殺するように指示されたと申しております」
皇女が手を上げた。
「なんじゃ」
「信帝国はこの情報が真実であった場合にはどうされるのですか?」
「何もせんな。信帝国は他国の内政には不干渉じゃ」
「助けてくれないのか?」
皇子が発言した。
「発言は手を上げてじゃ。まあ良い、お主が亡命したいならするが良い。止めはせぬし、世話もせぬ」
「違う、俺に軍を貸してくれ。俺が皇帝になる」
「貸したところで使う頭も無かろう」
「なんだと!!」
「お前の護衛の8人はどうした」
「死んだ」
「こいつの7人と1匹は」
天帝は俺を指さした。
「・・・・・・・」
「金も無いじゃろう」
「石炭と鉄鉱石で払う」
「それを使えば国民が飢えるぞ」
「構わん、俺が皇帝になれば良い」
「お主にはこれ以上、居させても意味は無いな。下がるが良い」
「なぜだ、俺は第一皇子だぞ。皇帝になるのが当たり前ではないか」
「皇帝になりたいならもっと明るい未来を他の者に見せねばならぬ。分らぬか」
天帝様は13歳、国民を豊かに導くため俺を起用し、文化文明の発展を国民に約束している。
少なくとも天都周辺の国民は期待と尊敬の念を抱いている。
こいつは18歳、無茶な命令で護衛を死なせ、味方の俺達に反感を抱かせ、さらには国民が飢えても良いと言う。俺も当然こいつが皇帝をやってる国に住みたくはない。
第一皇子はギャアギャア文句を言っていたがプイと居なくなった。
「皇女殿下、彼は皇太子では無いですな?」
「はい次男が皇太子をしております」
宰相の問いかけに皇女が答えた。なんかここにいる全員がほっとしている。
その後、クーデターが本当であった時のための対策が話し合われた。
「皇女と恭平は残って欲しい」
天帝様のお願いで残ったがやばい雰囲気がする。
「皇女よ、お主の供を恭平の従者にしてくれ」
そう来たか、俺にクーデターを調べさせる気だな。
「簡単に言うと恭平は空間移動が出来るが、移動先の地理を知っていなければ出来ない。従者にするとその地理を知ることが出来る」
「ウランバートルを調べてくれるのですか。ならば私を従者にして下さい」
撃てば響くような聡明さだ。
「皇女よ、形だけとはいえ皇族を従者には出来ぬ」
「構いません。クーデターが本当なら私はただの娘になるのですから、それにこの能力は秘密なのでしょう。知る人間は少ないほうが良いのでは」
天帝様もたじたじだ。折れるしかなかった。
彼女の名前はリシュ、本当の名前はもっと長大だがニックネームで堪忍してもらった。
『リシュに従者の回路が形成されました。インストール、念話、マップ、身体強化が使用可能です』
身体強化とインストールは制限した。
地味な服装に着替えて応接間に戻った。
「では行ってきます」
リシュの案内でウランバートルの皇城の近くに潜入した。
皇城の周囲は静かだった。人っ子一人いない。俺の見た画像を共有する。
『そこの雑貨屋に入ってください。小さい頃から良く行ってたんです』
リシュに言われた通り、裏に回って戸を開け、おばさんに言った。
「リシュ様の使いの者です。リシュ様は信帝国に居て状況がわかりません」
おばさんは”こっちに来な”と店の奥に引っ張ってきた。
おばさんの話では2週間ほど前に突如、軍司令官が皇城に入り皇帝を殺した。皇太子は東に逃げたようだ。一週間ほど前に司令官は軍を率いて東に行った。
諸侯の反対もあり即位はしていない様だ。それ以上は分からなかった。
皇城が手薄そうなので入ってみる。城内は略奪されつくしており、めぼしいものは無い。
東はリシュも分からないので飛行機による偵察を考える。
東の方にはやぶさ号の使えそうな場所があると言うことでバイクを飛ばす。
蛇行しまくった川があったがそこで800m位の直線を発見した。
もう夕闇が迫っているので一旦帰ることにする。
御所に帰って来た。あまり詳しいことは分からなかったが、明日東の方を調査することにする。
天帝様と皇女に報告する。
廊下で音がした。第一皇子が居た。
「俺は帰って皇城で即位するぞ」
ダダダと走り去っていった。あきれたな、空の皇城で即位する気なんだ。誰が認めるのか?
「まあ、馬鹿は放っておいて、朕は連絡が来るまで放って置いた方が良いと思う」
「確かに介入するつもりが無いのなら、それがいいかも知れません」
「皇太子に無駄な期待を持たせるだけですね」
「では、連絡が来るまで放置でよろしいですね」
俺は寮に帰ることにした。あ、そうだ。従属の回路を外さないと。
「従属の回路を外しますね」
「いやです」
「はい?皇女様」
「リシュと呼んで下さい」
「どういうことでしょう?」
「どうせクーデターで私の存在などどうでも良くなったのです。そう私は自由なのです。もう籠の鳥では無いのです」
「それが?」
「ただ自由なだけでは何も出来ません。あなたの従者となれば専門知識も入れ放題、それにあなたと言うバックで後押しして貰える。素敵です。これ以上の自由があるでしょうか」
「良く気付いたなリシュよ。女にとって恭平の従者と言う立場は、大変居心地が良い」
「はい、モンゴル帝国の皇女はもういません」
「あなたには従者が居るでしょう。放っておくんですか」
「ミノンも従者にしてくれるのですか。気立ての良い子です。よろしくお願いします」
何かアリジゴクに捕まったような感覚がする。頭を抱えるしかない。
リシュを従者にするとミノンが信帝国で一人ぼっちになっちゃう。仕事を斡旋するか従者にするか。
取敢えずミノンを呼んで貰おう。
「え、おヒイ様が従者ですか?では、私はどうすれば良いのですか?」
かなり衝撃的なことを言っているので呆然としている。
「俺の従者になればリシュと同じ立場になる。働くなら職を用意する。帰りたいなら手配する」
「考えさせて下さい」
「では、寮に帰ります」
「ちょっと待って下さいね。荷物纏めますから」
「寮に来る気ですか?」
「旅装なのですぐですから」
15分位で用意が終わり、二人を車に乗せ寮に向かう。
18時 寮 居間
「どうやったら皇女様が従者になるの」(ジュレイ)
「そういうあなたも王女様でしょ」(茜)
モンゴル帝国のクーデターについて説明した。
「ただ自由にはなりましたがそれだけでは何も出来ません。あなたの従者となれば専門知識も入れ放題、それにあなたと言うバックがいる。これ以上の素敵な自由があるでしょうか」(リシュ)
フレーズが気に入ったのか御所での言葉を繰り返した。
「確かに言う通りだぜ」(マール)
「それでリシュさんは幾つ?」(真白)
「私は16歳、ミノンは14歳よ」(リシュ)
「何をやるかはまだ決まってないのね」(茜)
「ご飯を食べないと冷めちゃいます」(ミヤ)
夕食後
「ドーテ、ジュレイの所に移ってくれるか」
「はい、ジュレイさん良いですか」(ドーテ)
「もちろんよ。皆も手伝って」(ジュレイ)
「「「「「「「はーい」」」」」」」
「君達は3階の東側の部屋に入って貰う」
「私達には移れって言わないのね」(蒼伊)
「荷物が多そうだからね」
「確かにそれは言えるわ」(真白)
「真白ちゃんと蒼伊が同室になったら悲惨ね」(茜)
「なんで分かるの、覗いたの?」(蒼伊)
「覗かなくても普段から見てたら分かるよ」
私はミノン。リシュ様専属のメイドです。
今日から私は自由なのだそうです。ここでは皆、同じ身分なんだそうです。
お風呂上りにリシュ様の髪を手入れしようとしたら、もうしなくて良いそうです。
どうしよう。帰ってもお兄ちゃんがお嫁さん貰ったから家には居られないし、下手したら売られてしまうわ。
剣姫にも憧れるわ。私、運動神経は良いほうだし、リシュ様を守る為に習った護身術も先生に上手だって褒めて貰えたわ。
機械にも興味があるわ。スクーターとかバイクどうやって走っているのかしら。詳しくなりたいわ。
お仕事をしたら剣姫も機械も駄目になるわ。
この機会を逃したら絶対にダメ。恭平様の従者にしてもらうのよ。
ミノンは興奮してこの日眠れなかった。
リシュ様は二段ベッドの上で軽い寝息を立てている。リシュ様は流石だわ。こんなことぐらいでは動じない大物なんだわ。
次回はミノンが主役です。




