第五十話 天都帰還始末記2
天都に帰っていろいろします。
転移171日目
8時 寮 執務室
茜と蒼伊の報告を受ける。
「保育所は出来たわ。内容は見に行ってちょうだい」
掛かった費用を一覧表にまとめてあった。結構かかるね。
「学校はやっぱり先生がいないわ。言ってた貴族の次男、3男だけど彼らは系統だった教育を受けていないのよ。女子は全くよ」
「こちらで先生を教えるしかないか。信用できる人がいるなら従者にしても良いけど」
「そうすると忍猫村になるけど、もうすでに働いているし」
「勇犬村はもう少し様子を見たい」
「まあ、子供相手だ確実な人じゃないと。焦らないで探そう」
やはり、先生の問題が出て来た。日本なら中学生なら出来るレベルなのだが。募集して半年くらい教育するか。
次は蒼伊だ
「ほぼ順調に生産も品質も推移してるよ」
「魔道具は価格破壊にならない程度の値段で売りたいな」
何も競争相手を滅ぼしたいわけじゃないので値段は相応にしてほしい。大量生産でかなり安く作れるとは思うけど。
「他の物と差別化を図るために専門店で売りたいわね」
「目玉商品は?」
「スイッチ付きの照明器具消したいときにすぐ消せるわ」
これまで照明に切るスイッチは無かった。入れた魔力が切れるか、魔力を抜き取るかだ。普通の人は抜き取りは出来ない。
「それから瞬間湯沸かし器。出力調整付きの魔導コンロ」
瞬間湯沸かし器は魔力が一時的に大量にいるので、魔力を大量に貯める魔力石が必要だ。コンロは出力調整自体を人がリアルタイムで、やるしかなかったのを余分な魔力を貯めておけるので、ツマミ一つで火力調整が出来るようになり、しかもコンロから離れてもその状態が維持できる。日本のコンロと同等の性能を持った。ちなみに各寮のコンロはこの仕様で、忍猫族の奥様方に評判だ。
「皆、魔力石で魔力を貯める仕様だね」
「その通りよ。当分はそれで稼ぐわ。製鉄所と車体工場が出来ればゴーレムコンロッドを大量生産するよ」
「店か、どこら辺に欲しい?」
「交通の便が良ければどこでもいいわ。剣姫印の魔道具で売り出すつもりだから」
成程、それは注目が集まるだろうね。一度、天帝様にも相談してみよう。お昼から報告に呼ばれてるし。
「そういや、真白が最近報告に来ないけど大丈夫かな?」
「あまり、進んでないみたいね。焦らすといけないから聞いてないけど。楽しそうな顔はしてないわ」(茜)
「思いつめてもいないみたいだから、本人が言って来るまで放っておいたら」(蒼伊)
「そうだな、君達も気付いたら知らせてくれ」
「わかったわ」「オッケー」
彼女らはそれぞれの仕事に出て行った。今日は雨だからスクーターで行く茜は大変なので、車を貸した。
次は娘たちの教育だ。こちらの娘たちで一番進んでるのはジュレイだ読み書きと加減乗除の計算はほぼ完璧だ。次がミヤで読み書きはほぼ完璧、計算は割り算が出来ない。次がヒイ、読みOK書き半分計算は掛け算の途中だ。次がライヤ、読みOK書きは半分、掛け算割り算が出来ない。壊滅的なのがマールとドーテ。
マールとドーテは、ジュレイに頼むことにした。ヒイとミヤに使った教材があるのでそれを使ってもらう。
ミヤは割り算。ライヤとヒイは九九の暗記。ばらばらな授業なので、今まで使ってなかったインストールを使うことにした。内容はナビさんにお任せだ。
自分たちが苦労したからインストールは卑怯だと思ったんだが、こうなったら仕方が無いよね。
流石にインストールを使うと速い。それぞれかなり進んだよ。
今日は雨だから昼からも勉強だ。それぞれに課題を置いて行った。俺の作った計算ドリルだ。
昼食を食べて帝城に行く。収納に車が帰ってきていたのでぬれずに済んだ。もう2台位、車を買うか。
13時 御所 応接室
「しかし、お前を狙うとは、思っても見なかったな」
「はい、まんまと悪魔の策謀に乗せられました。危なかったです」
ドーテの革鎧を見せる。右胸に10cm程の穴が開いている。1mmの鉄板が入っていたのだが貫かれている。
「これで生きておるのか」
「何とか蘇生出来ました」
「朕が愚かであった。許せ」
「誰も俺個人を狙うとは予測できませんでした。決して天帝様のせいではありません」
「しかし、悪魔の狙いが解ったのは良かった」
「人類を悪魔人類に入れ替えると言ってましたが」
「おかしいのか?」
「はい、それならヨーロッパだけでも十分以上でしょう。世界征服する意味がありません」
「それは人類を相容れない存在だと思っておるからではないのか」
「労力が大きすぎます。今でも魔族相手に手子摺ってるみたいですし」
まあ今の段階では何をしてくるのかは予想できないってことですね。
「あっ、そうそう。魔道具が売れるくらいには生産が上がって来たので店舗を構えたいと思いまして」
「やめてくれ。頼む。産業が崩壊する。小売りせずに問屋に卸してくれ」
「いずれは駆逐されると思いますよ」
「魔道具自体は零細な企業が作っている場合が多い。そのすべてを手当てすることは不可能じゃ」
「じゃあ、教えますよ生産方法。俺達は独占するつもりはないですから」
「しかし、魔石を作ってしまうと魔物を退治する者がいなくなってしまう」
魔石は魔物を倒して手に入れ業者に売る。そのままゴーレムの材料になったり、潰して銅合金を練り合わせることでコンロや照明に使うのだ。
人間が魔物に襲われると体内の魔力回路が重篤なダメージを受け死に至る。つまり魔物を狩る者がいないと人間が襲われることになるのだ。
「兵とか警らで何とかできないんですか」
魔物は1体1ならまず怖くない。何頭も群れると対処が難しい。つまり頻繁に狩らなければならない。
「其処まで多くの兵は抱えられん」
「国が魔石を買い取れば」
「ちょっと待ってくれ考えるから」
「分かりました」
15時 魔力研究所 研究室
「と言うことで販売は目途が立たん」
蒼伊に状況を説明した。
「そうか、魔物の存在を忘れていたよ」
「何か対策を考えないといけないな」
「魔物が簡単に倒せれば良いんだよね」
何か思いついたようだ。部屋の中をぐるぐる回り始めた。
「また話し合おう」
邪魔をするといけないので寮に帰った。
16時 寮 居間
区切りの良い所で娘たちの進み具合を見る。
マール 簡単な足し算引き算が出来るようになった。読みは少し書きはまだ。
ドーテ マールと同じ
ライヤ 九九を覚えた。書きは随分進んだ。
ヒイ 九九を覚えた。割り算を少し、書きは進んだ。
ミヤ 割り算が出来るようになった。
流石インストール今日一日で随分進んだ。
「多分明日も雨なので、今日の続きをしましょう」
「「「「えー」」」」
23時 俺の寝室
ノックの音がした。今日は来るって聞いてないな。
「どうぞ」
ライヤが来た。恥ずかしそうにもじもじしてる。
「あの、ナビさんが良いって。茜さんも大丈夫って」
「別に俺でなきゃいけないってことは無いんだよ」
「いえ、恭平様が良いんです。恭平様じゃなきゃ嫌なんです」
何か必死になって来た。これ以上は言わない方が良いか。
「分かったよ。こっちにお出で」
ベッドに座らせ、抱きしめてキスをしてやる。
「私みたいな役立たずをそばに置いてくれて、ありがとうございます。私、運動神経も無いし、戦えないし、頭も悪いし、本当にごめんなさい。でも一生懸命やりますからずっと可愛がってください。お願いします」
「そんなことないよ、君は良くやってくれてるし、何より可愛い」
所在なさげに動いている。尻尾をつまんで指先でクリクリしてみる。
「アウ、う嬉しいですぅ」
空気が漏れたような喋り方だ。俺は優しくベッドに倒した。
次回、工房に可愛い侵入者です。




