第四十五話 母親最後の仕事
母親の悲しい過去が分かります。
俺はドーテを台湾に置いて寮に空間移動した。
俺の目論見はドーテに族長になって貰って、村人を研究所で雇用することだ。
しかし、あの族長は利権を離さないだろう。もう村人に解決をさせるしかない。
危険が伴う。ドーテに脇差を渡したのはそういうことだ。
寮には誰もいなかった。
どうも落ち着かない。ドーテが心配なのだろうか。俺はそんなに情が深かったか?
ヒイたちが帰って来た。ヒイを膝の上に乗せるとミヤが背中に登る。落ち着いてきた。
夕食後、茜の報告を聞いた。今のところ大きな問題はない。ただ競技に慣れてないので思わぬミスをするそうだ。
うん、集中できてない。ベッドに来た真白にも言われてしまった。
その夜、怖い夢を見て起きた。夢の内容は覚えていない。もう一度寝なおした。
転移148日目
朝、誰かが俺の上に居る。
「恭平様、朝ですよ。朝ごはんですよ」
ヒイが俺の上で踊っていた。
「おはよう。もういいよ。起きたから」
俺は朝食を食べ、顔を洗うと皆に挨拶した。
8時になってたので台湾に空間移動した。
村に入ると外に人はおらずに静かだった。
族長の家は閉まっていたので戸を叩いた。
暫くするとドーテが出て来て戸を開けてくれた。
「おはよう、どうなった?」
「中に入って下さい」
ドーテの元気がない。どうしたんだ。でも生きていてくれた。
昨日の部屋に通された。
「実はついさっきまで母と口論をしておりまして、寝付いた所だったんです」
「そうだったのか。それで村が静かだったんだな」
「朝方、母から勝手にしろと言われたので族長を解任しました」
「この土地ではどうやっても世間から取り残される。天都への移住を検討してくれ」
「やはりそうなりますか」
「ああ、金(gold)でも出たら別だがな。一時金は出す。天都での仕事と住居は用意する」
「分かりました」
「また夕方来る。意見をまとめておいてくれ」
「はい」
又、空間移動して工房に来た。
ライヤの兄を探す。居た。
「おーい族長」
「あ、恭平さん」(兄)
「今、いいか?」
「はい」(兄)
「隠れ里を俺に売ってくれ」
「はい、もう忍者をすることも無いので、要りませんから良いと思います。」(兄)
「ではいくらで・・」
「恭平様、何か御用ですか?」(ライヤ)
「ライヤか、いや隠れ里はもういらないだろうから売ってくれと頼んでいるんだ」
「売るだなんて、あげます。お金なんて要りません」(ライヤ)
「いやライヤ、みんなの意見を聞いてから」(兄)
「文句言う奴は村八分です」(ライヤ)
「ライヤ、そんなことを言うとこれから物を頼めなくなる。皆の意見を聞いてくれ」
「それと今、試験運用で使ってるバスを2台、15日位の期間、運転手付きで貸してくれ」
「はい、結局一台で事足りてますのでいつでも言って下さい」(兄)
後は10日間の宿泊施設だって、ちょっと待てよ。彼らも農業やってるから収穫まで待たないといけないかも。でもそれじゃ研究所の稼働に間に合わないし、良し、諦めて貰おう。
宿泊施設は人数が決まってからにしよう。プレハブの中古が結構出てるからな。
なんやかんやしてたらもう16時だ、もう行かなきゃ。空間移動 台湾と。
村に着くと多くの村人に迎えられた。概ね、好評だ。
そのままドーテの家に行った。戸は開けられており、そのまま中へ入るとドーテが出て来た。
「お待たせいたしました。要望を集めました」
おじいさんがドーテの横に座った。なにか意見があるのかな。
「まず一時金ですが移住する一家族につき1000デム頂きたい。」
こちらが従業員に払うと言った金額と同じだ。これなら天帝様に泣きつかなくていい。
「移住する家族は18世帯 55名、大人41人子供14人、残る人は24人で子供はいません」
意外と少ないな。もっと多いと思っていた。
「わしは残る者の代表です。残る者は元族長を除き、皆老人ですじゃ。あなた様の役には立たん。ただ街に働きに出てるものや売られたものに連絡を付けてあなた様の所に送りたい。すまんがその費用として5000デム貰えないだろうか?」
「分かりました。こちらからも、なるべく早く移住してもらいたい。遅くなると仕事がなくなる可能性があります。こちらも天帝様の命で動いておりますのであまり猶予はありません。それとドーテさん、あなたには私と従者契約をしてもらう。これは念話による意思の疎通を図るためです。それとお金はドーテさんに預けます。必要な分を申請してください」
「分かりました。従者にして下さい」
『ドーテに従者の回路が形成されました。インストール、マップ、念話、身体強化が使用可能です』
「それとお爺さん5000デムです。有効に使ってください」
部屋を出てドーテに念話する。
『ドーテ聞こえるか?』
「はい、聞こえます」
『口に出さなくていい。話したいことを念ずるんだ』
『分かりました』
『良し、厦門の港に着く時期を4日前には知らせてくれ。迎えに行く』
『はい、なるべく早く実施します』
『分からないことがあったら、ナビさんを念話で呼べ。大抵のことは教えてくれる』
こまごまとしたことを教えてから俺は寮に帰った。
宿泊用のプレハブ100人分と簡易トイレ10個を買った。
シャワー室2個
後は魔力石を満タンで5本、運転手にワゴンの運転を練習させる。
用意するのはこれくらいかな。
17時 ドーテの村 ドーテの家
村人には3日後には村を出発できるように用意させる。明日は街に船の確認と馬車のレンタルに行かねばならない。お爺さんも一緒に行って街に行った人を探してくれると言っている。
宿泊の心配はいらない。恭平様の収納から家が使えるので広い場所を探せばいい。食料も収納から出せる。引っ越しの荷物も大きなものは収納に入れておけば身一つで行ける。
自身が天都へ行くときの準備に比べればずいぶん楽だ。しかも厦門まで行けば恭平様が天都まで連れて行ってくれる。天都の家も映像を見せてくれた。立派とは言えないが村の建物に比べればずいぶんまともだ。
ドーテがそんなことを考えていると母親が来た。
「ドーテ、表へ出な」
「何、母さん?」
「族長として最後の仕事が残ってる」
いやな予感がする。
「何をするっていうの?」
「私がお前のおばあさんにしたことだよ。剣を持って表に出な」
母親は今にも掛かってきそうな雰囲気だ。逆らわない方がいい。
「わかった」
恭平様から預かった2尺の脇差を持つ。
「そんな短いので良いのかい」
「大丈夫よ」
家の裏に来た。
母親と対峙する。
母親は剣を抜く。1m弱の両刃の両手剣だ。
ドーテも抜く、そして峰打ちの構えに。
「私を馬鹿にしてるのかい?」
「いいえ、借り物の剣だから傷を付けたくないのよ」
「おまえに最初の仕事だ。私を殺せ。この村の族長がずっと続けて来た習わしだ。身内を殺すことで非情の心を手に入れるのだ」
「そんな馬鹿な事やってたんだ」
「馬鹿なことはなんだ。私はこの手でお母さんを・・さあこい」
今なら解る。そんなことしたって、手に入るのは後悔と自責の念だけだ。
「お前が来ないなら私が行くぞ」
剣の長さを利用しての小手狙いだ。こちらも届くところはある。
相手の剣を避けて、剣を思い切り叩いた。相手の剣は地面を打ち、さらに叩かれたため、根元から折れてしまった。ジュレイにやられた技の応用だ。
「勝負はついたわ。諦めなさい」
「しかし、私が斬られないと」
母親はわなわなと震えている。
「おかあさん、おばあさん斬って強くなれたの」
「物事に動じなくなった」
「それって自暴自棄ってやつじゃない」
「とにかく、私はお母さんを斬らなくったって強くなれたわ」
「お前はあの男について行くのか。あの男は化け物だぞ」
「そうね、でも私を種付けして、出て行った男より、はるかにいいわ」
私の父親は母に連れられこの村に来たが、母の妊娠を知ると用は済んだとばかりに出て行った。
今はもうどこにいるのかも分からない。
「でもね、お母さん。あなたには感謝してるわ。私を外に出してくれたこと。私の価値、この村の価値、みんな分かったわ。わたしったら恭平様に婿に来いって言っちゃたの。信じられる」
「それがいけないのか?」
「剣姫、あの人のお嫁さん候補に罰ゲームかとか、小汚い田舎娘がとか言われちゃった。それ位私には魅力が無かったのよ」
「あの人も私に魅力があればここに居てくれたのか?」
「そうかもね。でも振り返ったって仕方ないでしょ。お母さんも天都に来れば。私みたいに変われるわよ」
「もう遅いよ。私は村人に迷惑を掛けた。許しては貰えないだろう」
母親は半分くらいにしぼんで見えた。
「ばかねえ。こんな村に居たんだから仕方ないでしょ。みんなが責めたのは恭平様について行きたかったから。これまでのお母さんについてじゃないわ」
「連れて行ってくれるのかい?」
「もちろんよ」
母親はニコッと笑った。
次回、村人が到着、一悶着起こします。




