第四十四話 台湾へ行くよ
族長に反発されます。
俺達の研究で魔力の流れについて大分解明されてきた。
1 魔力は地球の奥底で造られる。恐らく核分裂のエネルギーを利用している。
2 急激な熱膨張は魔力により制限される。大きな熱膨張は魔力に変換されるのか?
3 魔力は地表付近に来ると地表に沿って流れる。
4 魔力は空気中にはあまり溜まらない。
5 魔力の流れは地表から溢れることがある。魔物の出現。
6 魔力の流れは一定ではなく変わったり、途切れたりする。
俺達が探しているのは常時一定量の魔力が取り出せるかと言うことである。
もしできれば、それは発電所と一緒だ。そこから取り出した魔力でゴーレムエンジンを回せば発電も半永久的に出来る。
ここは2日前に5m程の穴を掘ったところだ。蒼伊と二人で実験に来ている。
「ここが最大ね。約3と言った所よ」
「2m位北にズレてる。方向は」
「ほぼ平行」
「穴の中はどう?」
メーターを吊るした台の上に置き、ゆっくり降ろしていく。
「やっぱりズレてるみたい。数値が下がってる」
「魔力石はどう?」
「ちょっと待ってね。よいしょっと」
穴の中央に入れておいた魔力石を引き上げる。魔力石のプラグにメーターのプラグを差すと大きくメーターが振る。
「満タンに溜まってるわ」
ここは魔力が地表に沿って20m位東西に流れているスポットだ。
その一番地表に近い位置つまり魔力値が一番高い所で実験をしている。
メーターは魔力によってゴーレムが動きバネを押す仕組みだ。ゴーレムが動いた長さで魔力を計測する。魔力が大きいほどゴーレムが動く長さが増えるのだ。
スポットで魔力を計測すると楕円形を描く。長い直径を流れ方向、短い直径を太さと言っている。
実験の主旨は二つ、魔力の流れの移動と魔力の流れの中に置いた魔力石の変化だ。
「良し、穴を長石の砂で埋めよう」
魔力を通しやすい長石を置いたらどうなるのか実験だ。
「空の魔力石入れとく?」
「入れといてくれ」
研究所が出来たら、こんな実験やゴーレムや魔道具の大量生産をするつもりだ。また、人がいるなあ。
昼食を食べに寮に帰って来た。
茜と真白以外は帰ってきているようだ。
昼食後、ドーテがやってきて相談がある言う。聞いてやる。
自分が何か大きな仕事に携わりたいこと。村に帰っても未来が見えないこと。でも村人を守らないといけないこと。
「村人の仕事は用意することは出来る。だけど説得は難しいな。君みたいに未来を想像できる人は少ない」
日本にも過疎と言う問題は存在する。産業の効率を考えた場合、山間の農家などは取り残されやすい。これを防ぐには効率を無視しても見合う何かが要る。多くは努力もむなしく廃村になったりする。
「村が現金収入出来る産物は何?」
「炭とマキ、あと山菜ぐらいです」
「天都ではすでに魔導コンロが主流だ。炭やマキは暖房用にわずかに利用されるくらいだ」
「取引は年々減ってます。山菜も食べる人が減ってます」
「その対策は?」
「何もしてません。暮らし難くなったって言うだけです」
「よく若者が残ってるね」
「次男三男は出ていく人がいます。女の子は売られることがあります」
思ってたより状況は悪いらしい。これは俺でも無理かも知れない。
そんな所へ婿に来いとはよく言えたもんだ。
「村を救って欲しいです」
「一回行ってみるか」
「えー、一か月は掛かりますよ」
「1400km弱ぐらいか。5時間あれば着くな。君の村の近くに大きな池か湖ある?」
「はい長さが2km位の池があります。えっ、5時間ですか???」
「じゃあ、明日朝から行くよ」
天帝様に連絡をする。渋々OKをくれた。これで公務だ。やったね。
と言うことでその日の夜、皆に台湾に行くことを告げる。
「2人で行くの」(茜)
「そう、時間がもったいないからね」
「じゃあ、はやぶさ号ね」(真白)
「恭平様、私も行く」(ヒイ)
「駄目、はやぶさ号は2人乗りだからね。ドーテを連れてかないと意味が無いでしょ」
「なんかあったら私を呼んでね」(蒼伊)
「ありがとう」
転移147日目
7時 工房の横の川にはやぶさ号を出す。
「準備はいい?」
「はい」
「おむつは履いた?」
「・・はい」
ビキニアーマー付けてたくせにおむつは恥ずかしいんだ。
5時間の長丁場だ。おしっこ位では降りていられないからな。
エンジンを見直して6倍くらいの出力になってるので巡航300km/h以上は出る。後は機体の強度が持つかだ。実験では何ともなかったが。
それでは出発だ。途中高い山もあるが問題なかろう。
飛び始めて2時間強、武漢を過ぎた。
4時間で海に出た。もうすぐだ。台湾島も見えている。
「台中の上を行ってください」
それからが大変、2000m級の山を縫って行くと堰止湖があった。
「ここからすぐの所です」
取敢えずその湖に着水する。
道に上がれそうなところで着岸する。上陸した所ではやぶさ号を収納。
ドーテが恥ずかしそうにおしっこと言うので、紙を渡して後ろを向いている。ヒッとかいうので後ろを見たら白いお尻が見えた。バランスを崩したらしいが、近くの木に摑まって無事だったようだ。怖い顔で睨まれたので再度後ろを向く。慌ててなければトイレを出したんだけどね。
終わったようなのでおしぼりを渡す。
「手を拭いて」
紙とおむつを袋に入れて収納した。昼ご飯を食べてさあ出発だ。道に出てバイクを出す。
バイクでちょっと走ると村が見えてきた。
村に入り、バイクを降りて収納。周りに人垣ができていた。皆さん天都では乞食しかしない格好だ。
「あんた、ドーテちゃんかい?」
「そうですよ。おばさん」
「婿さん連れて帰って来たんだね。でもその恰好は何だい」
いまのドーテはカップ付きのTシャツにショートパンツだ。
「お婿さんじゃありません。この村を救って頂きたくてお呼びしました」
「どうも、天帝様相談役の恭平と申します。族長さんはお見えですか」
人垣を押し分けておばさんが出て来た。
「あんたが誰かは知らないけど、ここで一番偉いのは私だ。付いて来い」(族長)
「私は天帝様相談役と名乗りました。あなたにも相応の対応をして頂かないと困ったことになります」
「ここじゃあ天帝なんて何の役にも立たないのさ。私の言うことを聞いていれば・・」(族長)
耳を覆っていたぼさぼさの髪の毛が落ちる。気功の刃を飛ばしたのだ。
「これで聞こえますか?」
「き、聞えました。こちらへどうぞ」(族長)
ドーテはびっくりしている。恐らく、こんなしおらしい母親を見るのは初めてなのだろう。
村の中で一番大きな家に案内された。
小汚い座布団がある板の間へ通された。当然とばかりに上座に座った。こういった田舎の族長とかはやたら威張りたがるか、煙に巻きたがる。面倒臭いが高圧的にやらないと話が進まない。
母親がお茶を淹れて持ってきて対面に座る。
「どういった御用向きでしょうか?」(族長)
お辞儀をしながら聞いて来た。
「ドーテより、この村が危機的状況で助けてほしいと要請を受けた」
天帝様の命令書を見せる。昨日、念話してから空間移動で貰っておいた。
「はい、現金収入は減る一方、若い男は出て行き、女は売られます」(ドーテ)
ドーテが危機的状況を述べた。
「ドーテ、あんたどういうつもりだい?」(族長)
「どういうつもりって、こんな未来の無い村の族長なんて真っ平だって言ってるの」(ドーテ)
「で、族長はどうするつもりですか?」
「どうするって言っても、こんなの仕方ないじゃないですか」(族長)
仕方ないで済ますんだ。責任感皆無だね。
「つぶれても仕方ないけど、娘には族長をさせるのですか?」
「いけませんか?」(族長)
「娘が納得しているのであれば構いませんがそうではないでしょう」
「じゃあ、どうしろって言うんですか?」(族長)
「ドーテよ、族長は何もする気が無いぞ。これでは助けることは出来ん」
「そこをなんとかお願いします」(ドーテ)
外が騒がしくなってきたな。盗み聞きしてるは承知の上だ。
「ここまでだな」
立ち上がって外に歩き出した。
障子が開いて、村人が顔を出す。
「俺は鍬を買うのに娘を売りました。でも本当は売りたくなかったんです」
「私の家の農具も限界なんです。娘は売りたくありません。助けてください」
「お前らの族長は助けてほしくはないそうだ。諦めろ」
「族長、俺達を見捨てるんですか?」
「族長、助けて貰いましょうよ」
「何を言っておるのだ。今までちゃんと出来ていたであろうが」(族長)
「俺が金を貸してくれと言ったら、娘を売れって言ったじゃないか」
族長は村人に囲まれた。
「族長、村人には別の意見がありそうだ。よく聞いて欲しい。明日の朝もう一度来るから意見をまとめておくように」
「ドーテ、ここに居ると大人の醜い面を見なければならない。俺と来るか?」
「いえ、次期族長として責任があります」
「そうか、これを渡して置く」
2尺の脇差を渡した。
次回、母と娘の葛藤です。




