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第四十三話 ドーテの悩み

ドーテは自分の価値に悩みます。

「ライヤ、鉄鉱石と石炭は安定供給できるのか」

「はい、高炉稼働時には一か月分は在庫できるかと。後は順次補給されます」

「これからの予定は?」

「高炉と転炉が後二カ月かかると言ってますが」

「それ位なら慌てる必要はない」

 製鉄所の建屋が出来たので高炉を組み始めることとなった。ここで造るのは小型の試験炉だ。大型のものはやはり輸送が便利な地を選ばなければならない。


「あのう、私の話はどうなるのでしょう」(ドーテ)

 ドーテが口を挟んできた。

「話は聞いてあげたよね。まだ何かあるの」(蒼伊)

「私の婿になる話は?」(ドーテ)

「無理に決まってるでしょ。見ていてわからないかな」(真白)

「だいたいお前に勝ったらお前の婿になるってどんな罰ゲームなんだよ」(マーム)

「罰ゲームってそんなひどい」(ドーテ)

「何が嬉しくてド田舎の小汚い娘の婿になるんですか。あなたは世間の常識を勉強しなさい」(ジュレイ)

「小汚いって・・・」(ドーテ)

 ドーテは精神的に追い詰められて泣き出した。


「おいおい、あんまり虐めてやるなよ。世間知らずなお嬢さんなんだから」

「恭平様は甘いのです。自分の価値と言うものを教えてあげないととんでもないことを仕出かしますよ」(ジュレイ)

「私の価値と言うのは低いのでしょうか?」(ドーテ)

「そうですね。天都で言うと庶民の娘以下でしょうか」(ミヤ)

 ミヤは相変わらず厳しい。

「あなたの部族の長の婿、の価値ですけど、天都で欲しがるのは奴隷位でしょう」(ミヤ)

「ええ、そんなにですか?」(ドーテ)

「誰もが都の便利な生活を捨てて、しかも族長ではなくその婿なんでしょう」(ミヤ)

「でもさ、婿に拘らなければ、剣術予選大会の優勝者だ。珍しもの好きの貴族が妾ぐらいにはしてくれるぜ」(マール)

「そうね、男だったら騎士団長に迎えてくれる貴族は居そうだわ」(茜)

「要するにあなたの価値はあなたの部族、それとよく似た生活をしている周辺の部族にしか魅力が無いのよ」(蒼伊)


「私はどうしたら良いのでしょう?」(ドーテ)

「帰った方が良いと思うわ。あなたの願いが婿である限り、ここでは叶わないわ」(茜)

「そうね。その方が優勝者の肩書も生きるでしょう」(真白)

「皆さんの価値と言うのはどのようなものなんでしょう?」(ドーテ)

「私達の価値かあ、改めて言われると何かな」(真白)

「私達、共通の思いは恭平のお嫁さんになること。そしてその仕事を手伝えること。それが価値よ」

(茜)

「その通りだな」(マール)

「お嫁さんになる」(ヒイ)


 ・・・


「済みません。私はどうすれば良いか迷いが出てきました。暫くここに置いてもらえませんか?」(ドーテ)

「それは良いけど、もう婿なんて言わないでよ」

「はい、言いません」(ドーテ)

「じゃあ、ジュレイの所で」

「はい、分かりました」(ジュレイ)


 転移146日目

 朝から茜は体育大会の予選が明日からあるので競技場に行った。

 真白は芸術大学設立の為に帝城に行った。

 蒼伊は魔力研究所の建屋がもうすぐ出来るので確認に行った。

 俺とライヤは帝城内に俺の事務所を設置するための協議に行く。

 ヒイとマールは弓矢の練習に近衛に行く。

 ジュレイとミヤとドーテは警らに指導に行く。

 今では従者たちが収納、インストール、ショッピングをナビさんを通して行えるため俺の負担はグッと減った。スクーターとかの使いまわしも出来るため便利である。


 昼前、俺とライヤが寮に戻る。そのうちヒイとマールと蒼伊が帰って来た。

 5人で食事を摂る。

 ヒイとマールはここで合気道の練習をするそうだ。蒼伊は研究所に戻ると言ってた。ライヤは工房に。俺は警らを覗きに行ってこよう。


 警らの訓練所に来るとジュレイとミヤは隊員に指導しているがドーテが一人後ろで体育座りをしている。今日はTシャツと短パン姿だ。こうしていると普通に美少女だな。

「どうした?ひまそうだな」

「私はうまく教えることが出来ないのです」

「教えるにはこう来たらこうでは駄目だ。先に用意してさせないと」

「良く分かりません」

「君はすごい反射神経をしているから相手がどう来ようと大概は対応できる。でもそれより速い相手には手も足も出ない」

「その通りです」

 昨日のジュレイとミヤを思い出した。

「例えば相手が来ると思ったら一歩下がる。それだけでも相手のことがより見えるようになる」

「はい」

「教えるにはその辺の理屈を覚える必要がある。打ち合いをしている時のジュレイの足さばきを見てごらん」


 ・・・


 夕方、寮に戻ると茜と真白以外は帰ってきていた。

「ジュレイさん、茜さんと真白さんは何をしているのです?」(ドーテ)

「茜さんは剣術大会でも解ると思うけど人間としての力や速さを競わせて、爽快感や満足感などを味合わせて、見ている人にも同じような快感と言ったら良いのかしら、味合わせる。これが解りやすい文化の一面と言うことらしいです」(ジュレイ)

「良く分かりませんが、試合をする楽しみや強い者の試合を見るのは楽しいです」(ドーテ)


「真白さんは芸術、絵や彫刻、音楽や演劇などの見る者、聞く者に感動・癒しなどの良い感情を持たせるものを育成、保護するために一定の規格を創ろうとしているわ。」(ジュレイ)

「難しいです」(ドーテ)

「そうね。私も解らないもの」(ジュレイ)

「はあ」(ドーテ)

「でもね。解らなくても良いのよ。これが良いものだって思えれば」(ジュレイ)

「それってどういう意味があるんですか?」(ドーテ)

「ものすごくあるわよ。真白さんが提供してくれるものを体験すれば感動したり、癒されたりすることが出来るのよ。すごくない」(ジュレイ)

「なんとなくですけど解って来たような気がします」(ドーテ)

「慣れれば、経験した人たちが新しい芸術を作ったり、応援したりするわ。それが最終段階ね」(ジュレイ)

「そんなことできるんですか?」(ドーテ)

「さあ、私達が生きてる間には難しいんじゃないかしら」(ジュレイ)

「それで良いのですか?」(ドーテ)

「まだ土台の基礎を固めてる段階だからね」(ジュレイ)


「ここに来て、自分がどれだけ小さいか分りました」(ドーテ)

「良いのよ。普通の人はそうだから。無理しなくて。真白さんなんか剣姫やってる暇がないって、剣姫やめちゃったのよ」(ジュレイ)

「勿体ないです。でもわかる気がします。私も一生かけて出来るようなものが欲しいです」(ドーテ)

「まあ、憧れるわよねえ」(ジュレイ)


 その後、ドーテは茜、真白、蒼伊、ライヤに話を聞いていたようだ。


 転移147日目

 今日はドーテはライヤに付いて工房に行った。

 ジュレイとミヤとヒイとマールは近衛に行った。副隊長が特訓をお願いしたようだ。

 茜、真白は昨日と同じだ。蒼伊と俺は魔力の性質を調べにフィールドワークだ。


 部屋にうず高く積まれた茶色い石がある。

「これが鉄鉱石ね。鉄の元になる石よ」

「こっちの部屋には石炭があるわ。でもこれはこのままでは使えないの。それを蒸したのがコークスって言うの。それはまだないわ」


 大きな部屋に入って行く。大勢の人が大きな機械相手に働いている。

「今、作ってるのが高炉、ここに鉄鉱石とコークスを入れて燃やすと銑鉄っていう鉄が出来るわ」

 次に行くとまた形の違う大きな器がある。

「ここに溶けた銑鉄を入れて空気を通すと鋼鉄が出来るの」

 又、次に行くとややこしい形をした機械がある。

「ここで鋼鉄を出荷する形に整えるのよ」


 大きな部屋の出口に立ち止まって全体を眺めて見る。

「動いてないから分かりにくいと思うけど、これが製鉄所よ」

「大きいですね」

「これは小さいのよ。そのうち信帝国中にもっと大きな製鉄所が出来るわ」


 その後、ゴーレムエンジン工場を見学した。

「ここには信帝国各地から来た人たちが働いているわ。そして一人前になったら各地で工場を作るのよ」

「そんなことをしたら、ここで作ったものが売れないじゃないですか」

「良いのよ。ここは勉強するための施設なのよ。製鉄所もそう。設備の作り方から維持する方法。全部教えて広めるの。それだけじゃないわ。服も時計も馬車も何もかも大量に安く作って皆が働いてそれで得たお金で豊かに暮らすのよ。子供のご飯の心配もましてや子供を売らなくても暮らしていけるのよ」

「恭平様は、そんなことを考えて居られるのですか?」

「そうよ。それが産業革命よ。女も働けるのよ。いいえ女の方が向いた仕事もあるんだって」


 ドーテの悩みは深まった。始めは一つの価値観、故郷に婿を連れて帰って子供を作って族長になって部族を守る、これだけだった。

 世の中はものすごい速度で変わるだろう。2、30年も経てば村にもその波が来るだろう。その時、村人は今までの生活で我慢できるのであろうか。ドーテ自身、天都の生活で村の生活が好ましく無くなっている。見えるのは廃村となった村だ。どうすれば良いのか。分らない。


次回、台湾の山奥に行きます。

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