第四十一回 剣術大会(予選)
予選の準決勝です。
転移144日目 蛇亀王国 王城
蛇亀王に呼ばれた俺達は王城謁見の間に来ていた。
「恭平よ、蛇亀王国の危機を救ってくれて感謝する。謝礼として金50万デルを渡そう」
「ありがとうございます」
蛇亀王は身を乗り出して聞いて来た。
「マールを剣姫に加えるそうじゃが、まだ募集しておるのか?」
あわよくば何人か押し付けようって魂胆だな。
こう平和だと貴族の次男以下は領土を貰えない。部屋住みとして一生を過ごすか、平民に下るしかない。
とてもじゃないが結婚できない。女性は一夫多妻制で多少はマシだがそれでも夫人は難しいらしい。何処も子供を結婚させられず抱え込んでいるのが実情らしい。
「いえ、締め切りました」
「左様か」
そんなにがっかりすんなよ。何か俺が悪いみたいじゃないか。
礼金を貰って王城を出た俺達は帰途に就いた。
王都を出て1時間程走ったら道端にラッソが立っていた。俺は降りてラッソと向かい合った。
「どうしたんだ?」
「あなたにお知らせしたい事がありまして」
ラッソは一礼をする。
「なんだ?」
「悪魔族はヨーロッパを支配下に置きました。さらに地中海を南下し魔属領に侵攻を始めました。そのうち信帝国にもちょっかいを掛けてくるでしょう」
「世界征服でもしようっていうのか?」
「分かりません。我々が最終的に目指すものは見えていません。ただ敵対する人間を支配下に置きたいようです」
「俺に何を期待しているんだ?」
「あなたなら、人間と悪魔の関係に折り合いを付けてくれそうな気がします」
「持ち上げ過ぎだ。俺にそんなことが出来るとは思えない」
「まあ、あなたに勝手に期待している悪魔が居ることを覚えて置いてください」
ラッソは歩いて去って行った。人間に憑依していると飛べない様だ。しかし何らかの移動手段は持っているのだろう。
車に戻ると皆が心配そうな顔で見て来た。
「悪魔と戦争になるの?」(茜)
「解らない。それに俺達は兵士じゃない。戦争で戦うとは限らない」
「恭平様の行く所ならどこへでもついて行きます」(ミヤ)
「ありがとうミヤ、だけど俺は君達に命を掛けてほしくない。俺が君達にインストールしたのは、命の危険を殆ど無くすようにだ」
「でもね、例えば西から悪魔が攻めて来たとして、ジュレイさんの御両親が危険な状態になったら助けに行くでしょう」(蒼伊)
「仮定の話はやめておこう。キリがないからな」
皆を納得させたとは思えないがこんな話を長々としても結論が出る訳が無い。やめておこう。
「あのぅ、今思い出したんだけど言っていい?」(茜)
「何、どうしたの」
「剣術大会の天都予選、今日始まったんだけど」(茜)
「ヤバイ、カクタスに見るって約束してたのに、決勝戦って何時?」
「参加人数が多かったから4日後」(茜)
「良し、大急ぎで帰るぞ」
トイレ休憩2時間置き、昼食は車内でおにぎりのみ、朝7時から夜7時まで走って何とか3日後の夜、寮に着いた。
念話で連絡していたので真白とライヤが居間で待っていた。
「ご苦労様でした。あなたがマールちゃんね。部屋は3階の4号室よ」
先に念話で連絡しておいたので、ライヤがマールを部屋に連れてった。後は各自、自分の荷物を部屋に持って行った。
真白とライヤが用意した食事を食べると茜、蒼伊、ジュレイが風呂に行った。試合の日と帰りは洗濯できなかったので、同時に洗濯もしているはずだ。
普段は忍猫族の奥さん方が食事や洗濯はやってくれるが、今日までは断っている。
真白に剣術大会の状況を聞く。
「カクタスさんと副隊長さんは勝ち残って明日の午前中の準決勝で対戦だよ」
「女の人、名前は忘れたけど。あと一人は少林寺出身って言ってたな」
「へーこっちにも少林寺があるんだ。ってことは仏教もあるのか?」
「信帝国は始天教が殆どだから極少数よ、東南アジアの方は盛んらしいわ」
真白は宗教美術も学んでいるらしく宗教の分布についても詳しい。
茜達が風呂から出て来た。
「真白さん、ライヤさんお風呂は?」(ミヤ)
「先に済ませたよ」(ライヤ)
「恭平様お風呂どうぞ」(ミヤ)
「洗濯があるから先に入りなさい」
「はーい、恭平様も洗濯物出してください」(ヒイ)
「ああ、頼むよ」
ヒイとミヤは俺の世話を優先させる。ありがとう、おじちゃん超うれしい。
「マールちゃん行くよ」(ヒイ)
「ちょっと待ってくれ」(マール)
マールとハイジが後を追いかける。
暫くすると風呂場の方で騒いでる声が聞こえてきた。続いてドドドと廊下を走る音が聞こえて、ヒイがパンツ一丁の姿で現れた。
「恭平様、見て!おっぱいが膨らんできたの」
そう言って胸を突き出すが多少膨らんだかな程度だ。
「こら、ヒイ」(マール)
「ごめんなさい」(ミヤ)
バスタオルを巻いたミヤとマールが”なんでぇ”と叫ぶヒイの両脇を抱えて連れて行った。
何だったんだ?
ちょっと前の脱衣場
マールがミヤの胸を見ている。
「ミヤ、お前の胸結構でかいな」(マール)
「こないだカップを増やした」(ミヤ)
「マールも大きいんじゃない」(ミヤ)
「お前には負けるけどな」(マール)
「ねえねえ、ヒイのは?」(ヒイ)
「ちょっと膨らんだんじゃないかな」(ミヤ)
「ほんとにマールもそう思う」(ヒイ)
「ああそうだな」(マール)
「恭平様に見せてくる」(ヒイ)
走り出すヒイ。
「おいやめろ!」(マール)
「駄目よ!ヒイ!」(ミヤ)
バスタオルを巻いて追い掛ける二人。
ほのぼのとした夜は更けていく。
転移145日目
朝から真白が確保してくれた剣術大会のチケットを持って競技場へ行く。
競技場内中央にに20m×20m位の特設闘技場が設けられ、そこで試合が行われるようだ。
真白の話では昨日まではこの闘技場が8つあってそれぞれで試合があったらしい。
今日は午前中に準決勝の2試合、午後から決勝戦が行われる。
席は北側中央の一番前だ。こんな席良く取れたな。茜がニコッと笑った。主催者側のコネか。
試合が始まる東側に副隊長、西にカクタスだ。
審判は3人、2人が有効と認めると決定だ。
刀や剣は当たっても怪我しないように鉄の芯にクッションを巻き付けた特注品だ。
始まった。カクタスが積極的に攻めて行く。副隊長は防御しながらも下がらない。
カクタスが小手を囮にした面打ちを放つ。
副隊長は一歩下がって囮になった小手を打つ。
カクタスの剣は空を切る。そのまま突っ込んで鍔迫り合いに持ち込む。
副隊長は押し込んでからスッと剣を外して離れ際に面を打つ。
カクタスは体を捻るが除け切れず、肩から腕に剣が入る。審判は浅いと判断。試合は続行される。
カクタスは焦ったか不用意に剣先を上げる。副隊長が胴を抜く。
審判が3人共、有効打判定。副隊長の勝ちである。
大歓声が上がる。
「恭平様、副隊長が勝ちました」(ミヤ)
ミヤは副隊長に優しくして貰っているので副隊長推しである。
「カクタスのお兄さん負けちゃったね」(ヒイ)
「事実上の決勝戦だから仕方ないよ」(蒼伊)
「まだ、もう一組の準決勝戦があるでしょ」(茜)
「恭平様はどう思いますか?」(ジュレイ)
「まだ、もう一組を見ていないから何とも言えないよ」
選手が呼ばれ、入城門から出てくる。
おお、ビキニアーマーだ。初めて見た。女性剣士が胸と腰を覆う革鎧を付けているが下着を付けてない。
やったー!この世界に来て初めてのファンタジーな服装だ。
引き締まった体に零れ落ちそうな胸に、ボリュームはあるが重力に逆らうようなお尻。
まじまじと見ていると真白が口を尖らせて言って来た。
「あの恰好なら私も出来ますが、今度お見せしましょうか?」
いやいや、知らない人だと無責任に眺められるけど、知ってる人じゃあね。
「いやいい」
とだけ言っておいた。
手に持つ剣は刃渡り1m以上、200g/10cmの規定があるから2kg以上の剣となる。普通の人間はまともに振れないだろう。
相手の少林寺は頭を剃った坊さんスタイルで、剣は青龍刀みたいな刃渡り50cmの片手剣だ。
審判が始めの号令を掛ける。
まず、少林寺がワタワタワタと演舞のような型を見せる。
ビキニアーマーは微動だにせず。剣を肩に担いだままだ。
少林寺が剣でガードしながら蹴りを放つ。
ビキニアーマーは動いた。
少林寺が床に倒れて必死にビキニアーマーの剣に耐えている。少林寺の剣は曲がっている。
ビキニアーマーは間合いに入った少林寺を打ち据えただけだ。途轍もない速さと重さで。
ビキニーアーマーは剣を引き、少林寺に言った。
「剣を替えろ、それでは勝負にならん」
重さを合わせただけの剣なので強度は無い。試合中の交換も認められている。
「まいった」
少林寺の宣告でビキニアーマーの勝利が決定した。
次回、ビキニアーマーが恭平に絡んできます。




