第四話 鬼の村
俺は貰ったシュバルツの刀で藁束を切っているのだが、これがすごい、抵抗なく切れていく。
今まで数打ちとは全く違っていた。大満足である。ヒイに感謝だ。
そのヒイは隣の弓道場に居た。
ヒイが放った矢は30m離れた的の真ん中を次々と打ち抜いて行く。
まだ、一時間しか練習してないのに。インストールは使ってないのにすごい才能だ。
「ヒイ、すごいじゃないか。」
「この弓凄く使い易いです。王都にはすごい弓があるんですね。」
いや、この弓は日本で買ったんで王都には無いです。はい。
『矢を集めてこっちにおいで、休憩しよう。』念話を送ってみた。
「はーい。」
念話とは気づいてないようだ。
元気そうだが、まだ痩せ過ぎなので無理はさせられない。まあ昨日の今日で回復する訳ないか。
矢を集めている間にジュースを用意する。これも日本産だ。
「おーい」
二人で休んでいると王城に居るはずのカクタスが現れた。
「どうした」
「王城に来てくれ。竜王様がお呼びだ。」
俺達はヒイを残して1kmほど離れた王城についた。
熊を出して汚れていい場所という理由で練兵場に居た。
熊を出すと「おお」というどよめきが上がった。
「おお、このような熊は見たことがない。恭平よ、これを余に譲ってくれぬか。」
「二頭ともでございますか?」
「そうじゃ、一頭は剝製にもう一頭は皮を飾ろう。20万デムでどうだ。」
「ありがたき幸せ。」
この後も倒した状況を話せとかいろいろ聞かれた。
俺がこの世界に来た時、この王城の広間に召喚されたのだが、その時は、竜王様は興味なさげに見ていただけで話したのは宰相様と三言位だったよ。”あとはカクタスに聞いてくれ”だったよね。
この差は何だろう。
お金の単位で1デムが約100円なので2000万円、一桁間違ってないかと思ったよ。
これで天帝の依頼が無茶で、断ってもヒイと二人なら何とかやっていける。
王城内でいろいろ手続きがあって現金を貰って昼前に解放された。
しかし、熊があんな突然変異をした原因を調査しないのだろうか?
まあ、俺には関係ない話だ。
早く終わったので昼食後にヒイと買い物に街に出る。彼女の服や日常品は返ってきたが、かなり痛んでいたので、この際、新しくしようということだ。
服はジュリアンちゃんお下がりを貰ったが、貴族のお嬢様なので活動的な服が無い。それと狩について行きたいというので、それなりの装備を用意したい。
結論、服が無い。女性用の活動的な服も無ければ装備も無い。この世界はラノベのファンタジーでは常識の冒険者ギルドも無ければ、ショートパンツやミニスカートに革鎧をまとっている冒険者もいない。ましてやビキニアーマーや乳房の形が出ているプレートアーマーも無い。ヒイには内緒だが残念だ。女性の兵隊もいない。つまり需要が無いから売ってないということだ。
この世界は、魔獣や害獣の駆除は兵隊や地元の男がするし、薬草の採取は専門家がいる。わざわざ一般人が危ないことをする必要が無いのだ。
仕方ないので日本で買うことにしよう。服は日本の方が圧倒的にクォリティーが高いし、値段も安いということが分かった。革鎧は子供向けの物が無いので作ることにした。
この世界では物流が乏しく、生産量も少ない為、競争も活発でない。恐らく変革も無いのだろう。未だに奈良時代か、平安時代みたいな服を千年以上着ているらしい。
ヒイには現代日本のカタログモデルが着ている服を買って、着せてみる。ピンクのセーターに白いブルゾン、黄色のタイツにデニムのショートパンツ。おお、野暮ったい雰囲気が抜けて、まあまあ可愛いじゃないか。
ジュリアンちゃんが着てみたいオーラを出していたが、サイズが違うので無理です。
転移18日目 鬼の村の近く
それから一週間、俺は、狩に行って魔石を集めていた。
実は、バイク以外に4WDのワンボックスカー・30フィートくらいのボートが欲しい。
魔石は、車が4気筒、ボートが4気筒で計8個、予備を入れて最低16個は必要だ。
黒狼族の村の近くはヒイが嫌がるだろうから、最近は北西の方に来ている。日本で言うと埼玉県かな?
道や、川の流れが脳内の日本の地図と大きく違うので、あまり参考にならない。
魔力溜まりは、緩い傾斜の森の中に出来やすいので、それを目安にナビさんが探す。
道の端にゴーレム馬が2台止められている。
ゴーレム馬は、馬の形状をしており、手入れが楽で疲れないので今は、馬を使う人はほとんどいない。ただ、ゴーレムは簡単な命令を繰り返すだけなので、馬の形状は効率が悪すぎると思うよね。
「ナビさん、先客がいるようだ。もう少し奥まで行くか、戻ってさっきの分かれ道に行くか?」
『地形から推測すると、戻ったほうが確立が高いようです』
同じ狩場で狩をすると獲物と間違って、事故が起こり易い。別の狩場を探すことにする。
ヒイを降ろして、バイクを回していると後ろから声が掛かった。
「おい、あんた、恭平さんじゃないか?」
見ると若い大きな男と大柄な女が立っている。二人の額には短く太い角が2本あった。鬼だ。
「変わったゴーレム馬に乗ってるからそうだろう」
俺っていつの間に有名人になっちゃたんだ。
「そうだが、何か用か?」
「あんた、でかい熊仕留めたろう。竜王様が見せてくれたぞ」
あのおっさん何やってんだよ。個人情報漏らすなよ。
「それがどうかしたのか?」
「強いってことだよな。俺と試合をしてくれないか」
「いやだよ。こんなところで怪我したらどうすんだよ」
「いや、うちの屋敷でやろう」
女が動いた。くっ油断した。
「ヒイ逃げろ!!」
女がヒイの後ろに飛んで、首に腕を回して捕まえる。その手には短刀があった。
そのままヒイを後ろ手に縛る。
「恭平様ごめんなさい」
ヒイは半泣きになっている。
ヒイをゴーレム馬の前に乗せ、女は言う。
「付いて来い」
仕方がないので女の後ろを付いて行く。男はその後ろから付いてくる。
5分程で村に着く。4、50軒ある中の一番大きな家の前で止まった。家の前は広場となっていた。
「すまんな、こうでもしないと試合をしてくれそうもなかったのでな」
「試合はする。その子を放せ」
女はヒイを馬から降ろして、縄を斬った。
放されたヒイは俺に抱き着いて、泣きじゃくる。
「ごめんなさい、怖くて動けませんでした」
「すまん、油断した。まさかヒイを狙うとは」
ヒイをなだめてバイクの方へやる。男が用意した木刀を持つ。
インストールはここへ来る前にしている。
広くなった道の中央に出る。男も出てきて向かい合った。
いつの間にか周りは鬼で囲まれていた。
女が中央に進み出て、”はじめ”と言って下がった。
男が一直線に突っ込んできた。上段から振り下ろしてくる。
僅かに左に避け、胴を払う。体を捻って避けたので浅かったようだ。
大した運動神経だ。しかし、言ってしまえばそれだけだ。洗練された技術が無い。
相手が立て直し、向かってくるのを待つ。大けがをさせると周りの人間が、どう動くか分からない。
後の先を取る。それに集中する。またも上段で突っ込んでくる。
タイミングが早い、小手を狙ったようだ。
前のめりの体を後ろに下げて、その勢いで相手の木刀の峰を叩き、そのまま喉元に突き上げる。
木刀が転がる。
天都に行くのにもう少しかかります。