第三十九話 ヒイ混乱、俺真剣
遂に決着です。
(主人公視点)
選手出入口に行くとみんな揃っていた。
ハイジが飛びついて来たので撫で回してやる。
「良くやったな。よーし、よーし」
ハイジは仰向けになって甘えてくる。
「これでうちの3勝だ。ヒイか俺が勝てば勝利だ」
「私が勝って終わりだよ」(ヒイ)
「そうだな。でも俺との試合もやりたいそうだ」
「でも先に4勝した方が勝ちでしょう」(茜)
「勝負はね。でも人質解放の条件は試合がすべて終わったらだ」
「何にこだわってるのかな」(蒼伊)
さっきまで反省していた?蒼伊が不思議がる。
確かにラッソの要求は俺の異能より勝負にあるみたいだ。
ふと見ると隅っこでジュレイが蹲ってる。
「あれ、どうしたの」
「ミヤちゃんにズバッて言われちゃって、落ち込んでるみたい」(茜)
「蒼伊は平気そうだけど」
「グッ、・・落ち込む位なら始めからやんないから」(蒼伊)
「君らしいよ。ジュレイも済んだことでくよくよしない。これからが大事だ」
ジュレイが立ってこちらに来た。
「じゃあ、恭平様の見せてください」(ジュレイ)
「それとこれとは違うと思うけど」
慌てていると用意が出来たと呼びに来た。
「ヒイ頑張れよ」
「はい」
俺はラッソの居る方に行く。
的は30m、50m、70m、90mで争われる。的は中心が10点で離れるほど点数が下がっていく。矢は各的3本ずつ、合計点の多かった方が勝利だ。
「うちはヒイだ」
「こちらはボウさんです」
まあヒイだ、問題あるまい、インストール無しでここまで来ている。
余程才能に恵まれているのだろう。
(ヒイ視点)
私が試合場に着くと相手の人も来た。薄い色の金髪を後で括っている。なんて言ったっけ。ジュレイちゃんと一緒だ。
耳が横に長い。耳長族?まだ子供みたいミヤちゃんよりかは大きいみたい。
「先攻後攻をきめて」
審判の人が言って来た。うん、どっちでもいいかな。
「あなた、どっちが良いの?」
「どちらかと言えば後攻だな。お前の結果を見てできるからな」
「じゃあ、ヒイは先行で良い」
「それは、いやだぜ。譲られた気がするんだ。最初お前が先攻で的が変わる度に交代で良いか?」
「うん、良いよ」
「では30mから開始」
ヒイは3本を3秒で射る。3本とも中央の〇に正三角形の形で並んでいる。
「やるね」(ボウ)
ボウも中心ばかりで30対30だ。
50mはボウ先攻で30点、ヒイ30点。
70mヒイ先攻、またも3秒3本で30点。
ボウは慎重になってる。一射目 左上にずれて9点、二射目 10点 三射目 下にずれて9点
これでヒイの90対88だ。
ヒイは冷静だが、ボウに焦りが見える。
90mボウ先攻一射目 上にずれて8点、二射目 下にずれて7点 三射目 右上にずれて8点
合計111点だった。
ヒイは当然のように3秒3本で射る。一射目が的の中心を捕えた瞬間、的の下から鳥が飛び立った。
二射目が中心を捕える。三射目が鳥に突き刺さる。そしてそのまま的の下へ落ちた。
合計110点・・・。
「もう一回 やらせて」
審判にお願いした。
「君の一射目で鳥が飛んだのだから。二射目、三射目を鳥がどこかへ行くまで待てば良かっただけだ。よって君の過失であることは明白、射直しは駄目だ」
「そんな、やらせてやれよ。鳥が飛んでくるなんて予測できるかよ」
ボウも言ってくれたが判定は変わらず、私は負けてしまった。観客がブーイングをしてくれてるけど
もう、変わらないんだよ。
恭平様が期待してくれてたのに負けちゃった。私はどうしたら良いの、恭平様の所へも、皆の所へも帰れない。
『ヒイ、お出で。俺は怒ってないぞ』
「本当に、本当に怒ってないの。でもヒイ負けちゃったんだよ」
『大丈夫だヒイ、早くお出で』
恭平様、恭平様・・・・。
(主人公視点)
ヒイが走って来た。
俺に抱き着き、涙でぐしゃぐしゃになった顔で言った。
「ごめんなさい、ごめんなさい!!」
「大丈夫だ。ヒイ。お前は何も悪くない。お前の早撃ちはいつも俺達を助けてくれたじゃないか」
「本当に許してくれるの」
「だからお前は何も悪くないって。皆の所に戻ろう」
ヒイの手を引いて、選手出入口に行くとミヤが飛び出して来た。
「ヒイ、大丈夫?」(ミヤ)
「うん、恭平様がヒイは悪くないって言ってた」(ヒイ)
「そうだよ。融通の利かない審判が悪いんだ」(蒼伊)
「実戦と競技は違うということだよ。私達は実戦ばかりやってたからね」(茜)
「私が逃げたのがいけなかったのです」(ジュレイ)
「みんな見ていてくれ。俺が決めてくる」
ヒイは皆が居れば大丈夫だろう。後は俺だ。
俺は的が片付けられた試合場に行く。
目の所が網目になった仮面をつけたラッソが居た。
「まさか3勝3敗で勝負できるとは思いませんでしたよ」
「そうだな。天は俺の本気が見たかったのかもな。所でその仮面はどうした」
「私の顔がこの顔だと思って欲しくないと思いまして」
「どういうことだ」
「私はあなたに憧れ、嫉妬と言う感情を手にした。もっと欲しいのです。人間になりたいのです。出来ればあなたの友になりたいのです。今は悪魔の組織に縛られて、あなたと敵対するしかありませんがね。いつかは人間に」
「そうか、なれるといいな。俺は悪魔がどういう者か分らないが、高度な知能を持ってるようだし、友好的になってくれるならその方が良い」
俺達の話を審判は嫌な顔をして聞いている。始めていいかと聞いてくる。
もちろんだ。
始めの声が掛かる。獲物は二人とも木刀だ。
ラッソは中段からひょいと木刀を上げ、小手を狙ってきた。俺は俊足の一歩を踏み出しラッソの面を打つ。
ラッソの仮面が割れて落ちる。
審判は何が起きたのか解らない様だ。
「参りました」
ラッソは崩れ落ちるとそう言った。俺の勝利が宣言された。
「もっと勝負が出来ると思ってました」
「すまんな。ヒイが責任を感じないように簡単に勝つ必要があった」
「3勝目は余分でしたか」
「まあな」
手を差し伸べて立たせてやる。
「ありがとうございます」
さっぱりした顔になってる。表情がまた豊かになったか。
「「「「「おめでとうございまーす」」」」」
いきなり後ろから抱き着かれた。前に回って抱き着き俺を見上げてるのはジュレイだ。その上に覆いかぶさったのはヒイだ。右からキスしてきたのは茜、左からは蒼伊、と言うことは背中に居るのがミヤか。その下に居るのがハイジで全員集合だ。
「皆さん揃ったところで王城の解放に行きましょうか」
ラッソがにこにこしている。気味が悪いぞ。
競技場から100m位離れて王城がある。
王城に着くとラッソが門を開けさせる。警備兵が駆けこもうとするのでラッソが言った。
「まだ悪魔が居ますので危険ですよ。正門で待っててくださいね」
2体の黒い影が警備兵を押し戻す。
そのまま王城に入り、奥の方の部屋へ案内される。蛇亀王が居た?
そこに居たのはボウみたいに耳の横に長い人達だった。
「そなたが浅野恭平か。遅いではないか」
「天帝様相談役の恭平で御座います」
わざとのんびり答えてやる。
「天帝様の相談役だと」
ちょっとビビったかな。
「はい、いやあ、今回は苦労しました。蛇亀王様が健康なご様子でほっといたしました」
「では天都から来たのか、しかし使者が着いて一週間くらいしか経っておらぬはず」
「そんなことよりもこれで全員で御座いますか?」
「いや私の娘が連れて行かれたままだ」
「ラッソ、どうなってる」
「試合に出て頂きましたのでもう戻る頃かと思われます」
「ボウか」
「そうです」
その時、開いたままのドアからボウが入って来た。
「あれこれどうなってんの」
「全員揃ったようですので我々はこれで失礼します」
ラッソや部屋の中に居た黒い影は消え去った。
「マール大丈夫だったかい」
「うーん、よく覚えてないや、でもあんたは知ってるヒイのボスだ」
君なんで悪魔側で戦ってたのさ。
次回は弓の女の子の話です。




