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第三十七話 茜充実、蒼伊暴走

茜対悪魔、蒼伊対悪魔です。

 ハイジの相手があまりにお粗末だったのでラッソに文句を言った。

「おいラッソ、なんだあれは」

「いやあ、本人は信帝国一の武芸者だって言ってたんですけど、申し訳ございませんでした」

 ラッソは本当に申し訳なさそうに謝罪した。

「次からは私が鍛えた精鋭ですので、ご油断なさらないようにお願いします。次はスピア君です」

「こちらは茜だ」

 茜は虎退治の時に使った槍の感触が良かったようでそれ以後刀から槍に得物を替えた。体育大会で忙しい中、良く練習し、ほぼ完成の域に達している。弱点としては積極的に攻めて行かないこと。長柄の武器同士では後の先にこだわる意味はあまりない。反撃の自由度が少ないからだ。


(茜視点)

 選手の出入り口ではヒイちゃんがハイジを撫で回して褒めている。

 私はタンポ槍を左手に持って出入り口に向かう。

 槍は危険の無いように処置すれば普段の槍も使えたが、練習でいつも使っているタンポ槍にした。

 バランスの違う槍より、使い易いというのが理由だが、今はどうでも良かった。

 槍を持ってると言う意識が抜けて体の一部のような感じがする。

「茜おねえちゃん頑張って!」

「まかしといて!」

 ヒイちゃんに笑顔で返事が出来た。良いぞ。充実してる。

 

グランドに出るとまぶしい。目を鳴らすためにもゆっくり試合場に向かう。

 いつの間にか観客席がいっぱいになってる。声援が凄い。

 相手も近付いてきた。

 背の低い坊主頭の精悍な男だ。袋槍に布を被せた得物を両手で持っている。

 始めの合図だ。


 私は相手の出方を見ることにする。

 袋槍は基本突くだけで叩いたり切ったりはしない。強度が足りないのだ。

 胴を突いて来た。速い。石突の方で払い、刃の方で袈裟切りに斬る。


 ヤバイ、そのまま突っ込んできた。スピアの右肩が私の胸のあたりに突っ込んだ。

 間に私の槍があるのでダメージは無いが体制を崩された。相手もそれが狙いだろう。


 スピアは槍を短く持ち替えて体制の崩れた胴を突く。

 石突で払いながら、体を左に捻る。


 スピアはそのまま駆け抜けたので、また距離が空いた。仕切り直しだ。

 落ち着け、ミヤちゃんに比べれば速度は遅いし、変化も少ない。


 防御はどうだ。

 三段突きでどうだ。顔、胸、胴と突いた体を捻って何とか避けたようだが容赦はしない。

 槍の前後を使って休みなく攻め立てる。石突側の攻撃がいくつか胴に入っている。


 幾つ目かの胴が入った時、相手の槍が袈裟切りに切りかかって来た。

 防御を諦めて間合いを取りに来た。まあいい、種は蒔けた。


 私が下がったことで、三度、間合いが空く。

 スピアは大技を用意しているようだ。すごく集中してる。

 スピアが一歩踏み出す、私は二歩下がる。相手の闘気をそのまま受けることはしない。


 ダダっと走り出そうとした。その隙に槍を長く持ち替えたことを見逃している。

 二歩目が地面に着こうとしている瞬間、彼の足は跳ね上がり私の足元に転がった。

 その背中に穂先を付け勝負は終わった。


 そう足が着く瞬間を狙った足払いだった。

 足払いは槍術の技だがその成り立ちは棒術や杖術であまり知られていない。私は、わざわざ上半身に連続攻撃を仕掛け、下半身への注意を散漫にしたのだ。

 やった!勝った。真白の件もあったし、転移組が弱いとか思われるのは嫌。

 グランドの端っこに居る恭平に手を振り試合場を後にした。


(主人公視点)

 手を振ってくる茜に手を振り返し、ラッソに言った。

「腕は良かったが正直すぎたな」

「悔しいです。次は負けません」

「次は蒼伊だ」

「次は、バルディッシュ君です」

「おまえ、うちに合わせてるのか」

「はい、なるべく似た武器を選択しました」


(蒼伊視点)

 茜が帰って来た。何か心配そうな顔をして私に話しかけてくる。

「あんた、大丈夫すごい顔してるよ」

「大丈夫、大丈夫ちょっと興奮してるだけだから」

「それならいいけど。頑張ってね」

 いかん、いかん顔に出てたらしい。こんな衆目の中で試合するなんて初めてだからにやけちゃうよね。学校の公式戦は一年でも部員が少なかったから出られたけど一回戦負けだったし、観客20人位だったし、興奮するなって方が無理よね。大技決めてミヤちゃん達にどや顔してやる。


 さあ行くか。練習用に恭平君に作って貰った木製薙刀を使う。日本のと違って刃の部分が大きいので使い易いんだよ。刃筋も合わせやすい。やはりあちらはスポーツだったんだね。(あくまで蒼伊の主観です。)

 相手も出て来た。2mを越えるような大男だ。刃の部分を木で覆ったバルディッシュを片手でブンブン回してる。しまった、私が先にやれば良かった。

 双方構える。始めの掛け声が掛かる。


 瞬時に大男に足元に飛び、下から上に切り上げると同時にジャンプする。

「秘技、暴れ昇竜!!」

 相手が仰向けに倒れるほどのけぞったので鎧を掠っただけだった。


 ミヤちゃんが相手だと軽く躱されるけど、こいつは素早くない。しかも的が大きい。面白い。

 追撃はせずに距離を取る。相手は横に薙いでくる。速度は速いが丸見えだ。しかし攻撃範囲が広い。

 あの重そうなバルディッシュを片手で休みなく振ってくるので、こちらの間合いに入れない。


 手を伸ばして脛なら決まりそうだが勝ちにして貰えるか微妙だ。薙刀の決まり手にはあるが剣道には無いので有効打に成らないかもしれない。先に聞いておけば良かった。


 いつまでも逃げているのもカッコ悪いけど、こうリーチ差が大きいとなかなか攻めづらい。

 でもリズムが解って来た。刃先が通り過ぎる瞬間、2歩近付いてジャンプ!帰って来た刃先が足元を通り過ぎる。叫びながら上段まで上げた木薙刀を一気に振り下ろす。

「鳳凰、落槌!!砕けろぉ!!おらぁ」


 バルディッシュ君は踏み込んで、空いていた左手でガードする。柄の部分とはいえかなりの衝撃だろう。しかし右手のバルディッシュを短く握り替えると、着地する蒼伊に叩き付けた。

 辛うじて柄で防御する蒼伊だが、物理的に飛ばされる。恐らく体重は3倍以上、小柄な蒼伊では踏み止まれない。


 3m位飛ばされたが着地した瞬間、相手にダッシュする。

「チクショー!白虎、爪撃!!」

 横に一回転しながらジャンプして、勢いを増した横殴りの一撃を相手の顔面に放つ。

 バルディッシュ君は柄で防御する。

 バキっという音共にバルディッシュの柄が折れ飛ぶ。


(主人公視点)

 その少し前、恭平。

「鳳凰、落槌!!砕けろぉ!!おらぁ」

「もっと小技で相手を崩せ!」

 左手で防御され、右手で払われ、小柄な蒼伊は、飛ばされる。

 着地した瞬間、相手に向かったダッシュする。

「やめろ!!小技で揺さぶれ!!」

「白虎、爪撃!!」

「駄目だ、全然聞いてない」

 相手に柄で防御されるもその柄を叩き折った。その分顔面には届かなかった。

 しかも着地で相手の足を踏み、立て直そうと二歩三歩、もがくも半回転して後頭部から落下。

 失神した。

 相手も両手ぶらりだがこちらは失神、戦闘不能で負けてしまった。

 蒼伊は茜におんぶされて退場した。


『蒼伊の脳に異常はありません』

 ナビさんの報告にほっとした。

 あの娘は本当に何を考えているのやら。相手を崩すとかフェイントを入れるとか全くせずに大技ばかり使って、挙句の果てに自滅ってインストールを外すとこうなるのか。

 しみじみ感じているとラッソが気の毒そうに声を掛けてきた。


「次の試合良いですか」

「あ、ああうちはジュレイだ」

「次はソード君です」

「お姫様だからお手柔らかに頼むぞ」

「さあそれは?」

 ラッソがなんか閊えたような言い方してるけど大丈夫なんだろうな。


「ジュレイちゃんごめんね。カッコ悪いとこ見せちゃって」(蒼伊)

 茜に長椅子に寝かせて貰った蒼伊が謝る。

「蒼伊ちゃん、やる前から興奮しすぎてるから注意したのに」(茜)

「あの昇竜とか白虎って何ですか」(ジュレイ)

「あれね、こんなことが出来たらいいなって、考えてた48の必殺技よ」(蒼伊)

「あんなのがまだあるの。あきれたわね」(茜)

「何が呆れるんですか」(ミヤ)

 ミヤとヒイが入って来た。


「さあ行きますか」

 ジュレイは練習でいつも使う木刀を握った。



次回はジュレイ対悪魔、ミヤ対悪魔です。

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