第三十話 展示飛行
展示飛行をします。
忍猫に聞いた所では、仲間は約30名、兵隊は70名、仮滑走路で待ち伏せして飛行機を壊す。
恐らく、兵隊は忍猫族が飛行機を壊したら忍猫族を囲んで殺すのだろう。
言い訳は忍猫族の反逆を知って兵隊を出した。これだろう。
もし忍猫が壊すのを止められたとしても後ろから兵隊が襲い掛かってくる。十数人が犠牲になるだろう。
近衛に頼んだとしても10時までに仮滑走路まで来られない。ゴーレム馬車が西域に出払っているからだ。
展示飛行はすでに周知されており、遅らせることは天帝様の沽券に係る。
はやぶさ号を囮には出来ない。鋼管羽布張りの機体ではすぐに壊れてしまう。
取敢えず、忍猫の拘束を解いてやり、今日はジュレイと寝るようにした。
展示飛行当日 (転移105日目)
7時 食堂
皆に今日の作戦を説明した。
「私は忍猫のライヤと申します。なにとぞ皆様のご助力をお願いします」
「成程ね、はやぶさ号を狙ってたのか」(蒼伊)
「仮滑走路で殺人とか許せないわ。あそこには私達の寮も建つのよ」(茜)
「恭平殿は優しすぎます」(ジュレイ)
「ライヤ、約束は守ってもらうよ」
「はい」
ライヤは顔を赤らめ返事をした。
8時30分に帝城を出て仮滑走路に向かう。俺は助手席に座っている。
仮滑走路に隣接する林に差し掛かった時ナビさんが言った。
『林に100名ほどの武装した人間が居ます』
俺は車を降りて林に向かって叫んだ
「どちら様ですか?我々に何か用でもありますかぁ?」
見つかったとばかりに忍猫族が抜刀して出て来た。俺はすぐさま車に乗って車を走らせた。
追付きそうで追いつかない速度で走る。
忍猫族の後ろを兵隊が追い掛ける。
少し走ると忍猫族と兵隊の差が200m位となったのでライヤを降ろして説明させる。もちろん走りながらだ。忍猫族はそのまま仮滑走路を出て逃げて行った。
兵隊はどちらを追うか迷ったようだが忍猫族を生かしておけないので追い始めたがヘタリ込んだ。
俺達は、兵隊を拘束して滑走路脇に並べておいた。
「どうしてフルプレートの鎧なんか着て来たんでしょうか?」(ジュレイ)
「忍猫族が怖かったのさ。ある程度の反撃を覚悟しなけりゃいけない状況だからな」
「まさかフルプレートでマラソンさせられるとは思わなかったよね」(蒼伊)
「後は真白が近衛か警らを連れてきてくれれば終了だ」
「兵隊は途中で諦められなかったのでしょうか?」(ミヤ)
「軍隊ってのは上の命令は絶対なんだよ。だから動けなくなるまで走るのさ」
10時 滑走路にいたずらされてないか皆で確認した。
「さてそろそろか」
俺ははやぶさ号を収納から出し滑走路に置く。
「ヒイも乗る」
「ああ、いいぞ」
スロットルに魔力を注ぐとプロペラが勢い良く回り始め、フラップを最大角にする。
滑走を始める。尾輪が浮き、機体はほぼ水平になる。速度が乗ったら魔力をさらに上げる。操縦桿を引き上昇を開始する。高度200m位で再び水平飛行に入り、フラップを中段にする。
頭に浮かぶ速度計を時速100kmにする。今日はゆっくり低空を飛ばなきゃいけない。
まずは外郭を回る。
「わぁ、人がいっぱいいるよ恭平様」
地上は飛行機を一目見ようとごった返している。
「手を振っておあげ」
ヒイは両手を地上の人に見えるように大きく振る。
「振り返してくれてる」
飛行する円を段々小さくして内郭に近づいて行く。
内郭に入った。相変わらずすごい人だ。天都に来た日アルベルトさんが言ったことは本当だった。
ヒイは疲れて来たのか静かになって来た。
10時30分 帝城の周囲を回る。帝城は一辺2kmのほぼ正方形だ。閣議を行っている時間だが天帝様見てるかな?
5週回って高度を500mまで上昇、フラップを戻して巡航速度の150km/hで飛ぶ。
円を徐々に大きくして外郭に向かっていく外郭の縁まで来るとちょうど11時だ。仮滑走路に向かう。
スロットルを絞り、徐々に高度を落としていく。フラップを最大にして滑走路に軸線を合わせる。
地面に近づいたらスロットルをさらに絞り着地する。はやぶさ号を車の近くまで走らせる。
地面を踏むと何かふわっとした気持ちになったがそれも一瞬だ。
「ヒイ着いたぞ」
「ヒイ?」
熟睡していた。はしゃぎすぎたな。俺はヒイを抱っこしてはやぶさ号を収納する。
車とバイクがやってきた。真白も着いたんだな。
バイクを収納して真白を労う。
「ご苦労さん、すんなり来てくれた?」
「はい、近衛から警らに連絡して貰って。割とすぐに」(真白)
「70人歩いて行きました」(ジュレイ)
忍猫だけは庇ってやらないとな。約束があるしな。
「そう言えばライヤさんと何の約束したの?」(真白)
「何でも言うこと聞いてくれるそうだ」
「えー、なんかやらしい」(蒼伊)
「工房の人手だよ。彼ら全員物作りが得意なんだそうだ」
「ライヤさん、勘違いしてそうだけど」(茜)
「ええ、そんなぁ」
警らがどういう判断をするのか分からないが、すんなり収まって欲しいもんだ。
今回の事だって完全な逆恨みから来ているからね。
13時 御所 応接間
天帝様は怒っていた。
「朕の文明改革の旗揚げを邪魔しよるとは、どこのどいつじゃ」
「実行犯に仕立てられそうな忍猫族は助けましたが彼らを騙した黒幕は分かりません」
「忍猫族か、西域の件で族長が殺されて、没落した所を利用されたか」
「あれって忍猫族だったんですか」
「あまり財産は持っておらなんだから尻尾切じゃろうて」
「そんな杜撰な捜査って良いんですか」
「捕えられてすぐに自決したことになっておるが、今度は警らが捕まえているからな。逃がしはせぬ。先ほど激励の使者を出した。自ら動けぬのは歯がゆいわ」
「近衛に権限を持たせたらどうです」
「それじゃ!!」
執事に宰相と近衛の隊長を呼ばせた。
「それで展示飛行はどうでした」
「おお、上々じゃ。機械文明への憧れを搔き立てたようじゃ」
「それでは工房への期待も」
「宰相もそなたに期待しておると言っておった」
「それでは、予算の前倒しも」
「すまん、それは無理じゃ。西域にかなり持って行かれたのでな」
「軍からの返金は無いのですか」
「忍猫族が着服して無くなったの一点張りじゃ。こちらの調査も受け付けぬ」
「じゃが今回は逃がさぬ」
14時 来賓宿泊所 居間
「なんでライヤさんが居るの!」
「ほとぼりが冷めたら連絡せよと仰いましたでござる」(ライヤ)
「まだ事件は今日の午前中だよ。まだ4時間しか経ってないよ」
御所から帰ってきたらうちの女子たちとライヤさんが歓談してた。
「どうやって帝城に入ったの?」
「帝城へ入る馬車の下に張り付いて入ったでござるよ」(ライヤ)
「それで馬車の出入りの無い夜は出られなかったのか」
「さようでござる。ニンニン」(ライヤ)
「そのござるとかニンニンってなんなの」
「蒼伊殿が忍者は語尾にござるを付けるもんだと仰られて」(ライヤ)
「蒼伊!!」
「さらばでござる」(蒼伊)
蒼伊は主寝室に逃げて行った。
「ござるはもういいから。仲間の人はどうしたの」
「本地は軍に接収されているので隠れ里に隠れています」(ライヤ)
「誰の命令、立ち退き書とかある?」
「主計局の局長です。これが強制接収の要請書です」(ライヤ)
「なんで君が持ってるの」
「私は忍猫族の族長の長女で西域に行っている兄に代わって族長代理をしています」(ライヤ)
「じゃあ自決されたのは?」
「はい私の父です」(ライヤ)
「あの自決されたというのは?」(ジュレイ)
「西域の兵隊の任期詐欺の実行犯とされた人だ。しかし、実際の犯人は別にいると思われてる」
「別にいるってどういうことですか!!」(ライヤ)
「少なくとも着服された金は年間2~300万デムだ。君のお父さんがそんな金を持ってたか?」
「いえ、父の財産は100万デムもありませんでした」(ライヤ)
俺は天帝様に念話した。
西域事件の全貌が見えます。




