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第三話 従属の回路

ヒイが従者になります。

「オリンさん、と言う訳で食事を一人分、追加できますか」

「解りました」

 オリンさんは、俺やカクタスの面倒を見てくれる竜人族のメイドさんだ。

 この人は奥様よりやや若い。カクタスは赤ん坊の頃からの付き合いになるので頭が上がらない。


 そうこうしているうちにカクタス(17歳)が帰ってきた。

「よう、お帰り」

「ただいま、女の子を拾って来たんだって?」

 俺は、今日の出来事を話した。


「俺が狩場を紹介してなければ、その子は死んでたってことか。運命を感じるな」

「そんなことより、将軍に取り次いでくれよ。熊を売りたいんだ」

「どれどれ、俺にも見せてくれよ」

「床が汚れるから中庭でいいか」


 もう外は暗くなってきていたので灯魔法を使った。魔力を流すと灯の出る石を使った。

 光の玉が周りを照らす。この世界の人はたいてい携帯してる。

 熊を次元収納から取り出す。

「でかいな。こんな熊、今までに見た覚えがない、聞いたこともない」

「じゃあ、この熊は一体なんなんだ」

「この国で最も大きいヒグマでも半分くらいだ」

 流石にそれは、盛り過ぎだ。


「恭平さん、こんなところに居たんですね。父上がお呼びです」

 カクタスの妹、末っ子のジュリアンちゃん(14歳)だ。


 熊を次元収納に入れて将軍の執務室に行き、ノックをして、失礼しますと入る。

 なんと、左側のソファーにヒイを膝の上に置いた奥様がいる。

 髪の毛が金色だったんだ。耳も垂れてるしゴールデンレトリバーと思ったことは内緒だ。

 ヒイから救難信号が送られてくるが無視して将軍に挨拶する。

「お呼びにより,参上いたしました」

「よく来た。妻よりこの子のことを聞いたが、もう一度教えてくれるか?」


 俺はヒイに聞いた内容を含めてシュバルツ夫妻のこと、ヒイの受難について時系列で話した。

「ヒルダよ、それで間違いないか?」

「はい、間違いありません」

「シュバルツは、勇敢で優しくて、まさに男の中の男だった。わしの元へ来るように誘ったのだが、故郷を守りたいと断られた。

  ヒルダよ、お前の生まれる前の御両親のことをわしは知っておる。聞きたいか」

「はい」


「あれは、13年前になるか。オウシュウのヒライズミで一揆がおきた。原因は領主の苛烈な搾取だ。わしは、ちょうど越冬訓練で東北にいたので一揆鎮圧のために軍を組織し、進軍した。その中に一兵士としてヤタロウ、のちのシュバルツがいた。

 ヤタロウは優れた兵士で皆に好かれておった。


 一揆は、領主を倒してから我らに降伏して沙汰を待つものと、竜王国から独立を勝ち取ろうとするものに分かれた。降伏組のリーダーの一人がお前の母だ。彼女は領主の庶子だが、人民のために立ち上がったのだ。

 独立組は、貴族崩れを首領として領内を略奪して回った。我らと降伏組は独立組と戦った。


 戦ううち、お前の母は敵に捕らわれ、人質となってしまった。ヤタロウは、敵のアジトに突っ込み、首領を倒し、母を救出した。わしは、すぐに恩賞を与えることは出来ないのでシュバルツというわが民族の英雄の名を与えた。


 いつの間にか、お前の御両親は愛し合っており、わしに結婚の許しを乞うてきた。

 本来ならお前の母は、領主の最後の血縁であるし、貴族の婿を取れば、お家の再興も叶った。しかしそれも捨ててシュバルツと共に生きたいと願ったのだ。そしてお前が生まれた。知っているか、お前の名ヒルダはわしが名付けたのだ」


「シュバルツさんに婿に入って貰えばよかったのでは?」

「シュバルツも手柄で騎士爵になれたと思うのだがなんというか、人が良いと言うか、力任せと言うか・・・」

「脳筋なんですね」

「それ、うっ、ごほん。それでヒルダよ。おまえはどうしたい。わしの元に残るなら猶子、貴族の娘として暮らすこともできるぞ」

「私は恭平様が来るまで逃げることも考えられなかったのです。これが運命と諦めていました。恭平様が従者にするから付いて来いと言ってくれた時、目の前に道が出来ました。私は恭平様の従者として生きたいのです。お願いします。将軍様、恭平様、私の願いを聞き届けて下さい。」


「恭平はどう考えておるのだ?」

「ヒイがそう望むなら、それもいいかと思います。天都への出発までまだ一月以上御座います。その間にヒイに決断させれば良いと思います」

 奥様以外は納得したようだ。あれ、ヒイがフリフリのワンピースを着てる。ジュリアンちゃんのお古かな。


 この国、竜王国は信帝国の一部で竜王は政を信帝国の天帝から預かっている形だ。

 俺が天都に行くのは、竜王様の娘、リョウカ様が天都に行くのに付いて行くからだ。

 実は俺を召喚したのは天帝で、召喚理由も日本への帰り方も解らないので聞きに行かねばならないのである。


 本音を言えば日本にあまり執着がない。仕事は息詰まっているし、恋人も家族もいない。

 原住民に比べて圧倒的なアドバンテージがあるし、この能力を使えば、世界中を気に入った仲間と旅するのに、さほど困難を感じないだろう。天都に行った状況で、問題ないなら冒険に出るのも良いじゃないかと思える。


「将軍様、話は変わりますが私は今日、途轍もない大きさの熊を二頭倒しました。それの買い手を紹介頂ければ幸いです」

「どれ見てみよう。どこにあるのだ?」

 ご案内しますと言ってまた中庭に出て熊を出した。

「なるほど、これはすごい。これほどの熊は見たことがない」

 ・・・

「これは、竜王様や宰相に見せないと。見せずに売ると恨まれそうだな」

 ・・・

「明日、お二人に話してみる。明日は外に出ずに家に居てくれ」

「解りました。では、しまっておきます」


 ヒイと部屋に戻ると食事が運ばれてきた。

 食べ始めるとヒイが口を尖らせている。

「恭平様は奥様に捕まった私を助けてくれませんでした」

「ヒイ、良く聞け、この家には俺の勝てない人が2人居る。将軍様と奥様だ」

「恭平様でも勝てないのですか?」

「将軍様、奥様にはお世話になってるから頭が上がらない。悪い人なら勝てなくても助けに行くけどな。奥様は、ただ過剰にお節介なだけだ。分かったか」

「はい、分かりました」


「ところで、ノーキンってなんですか?」

「なんでも、あまり考えずに力任せに解決しようとする人のことだよ」

「お父さんは、優しくてかっこいいです」

「そうだね。君のお母さんが一目惚れする位だからね」

「えへへへ」

 ヒイ、優しくてかっこいいと脳筋は両立するのだよ。


 ヒイには俺の隣の部屋が割り当てられた。ヒイの意見を聞いてくれたみたいだ。優しいことだ。

 俺の方は、居候してても、その費用は竜王様が出してくれる。天都に行くまで面倒を見ることになっているからだ。


 ヒイの荷物のうち、着替えや日常に使うものは次元収納から出して、衣装ケースに入れておく。

 ヒイがシュバルツの刀を使ってくれと言う。俺が帰りに数打ちの刀をぼやいたからだろう。

 済まないので俺のコンパウンドボウをヒイに渡す。シュバルツの弓もあったが強すぎて扱えないからだ。

 ヒイの部屋に衣装ケースを置いて”おやすみ”と挨拶をした。


 転移11日目

 朝、起きると隣にヒイが寝ていた。

 あんな仕打ちをされたのだ、保護してくれるものと寝たいのは仕方がないか。

「ヒイ、起きろ。朝だ」

「ひゃい、あれ、お父さん・・」

 豪快に寝ぼけている。実年齢ならお父さんと呼ばれても仕方ないが、今は17歳で通している。

「寝ぼけるな。早く支度しないと朝飯抜きだぞ」

 厳しく躾けないとこれから先、何があるか分からない。


 今日は、この家から出られないので鍛錬することにした。

 まず、ヒイにコンパウンドボウを教える。

「弦を顔の正面に来るように引くんだ」

 最初はまともに引けないだろうなと思いつつもやらせてみる。

 軽くヒョイと引いてしまった。

「これでいいですか」

「ヒイ、重くないか?」

「大丈夫です」

「よし、ゆっくり戻して、空打ちしちゃだめだよ」


『ヒイとご主人様の間に従属の回路が形成されてます』

 はい?なにそれ・・従属の回路って何。

『異界接続の異能の機能と思われます。ご主人様とヒイの信頼関係が限度値を上回ったため、バスが形成され、ヒイを外部機器のように扱えます』

『具体的には身体強化、念話、脳内地図、インストールスロットの形成があります。」


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― 新着の感想 ―
この地の武人は徳のない行いを嫌うでしょう? 尾張の信長公の様に軍規を犯す奴は許さないよ? 蛮東武士は厳しいよ? 実際信長は非常に仏教を大事にしたので戒律を破った破戒僧は 嫌ったので比叡山を焼いたのだよ…
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