第二十二話 天都帰還始末記
転移組のお嫁さん宣言です。
22時 来賓宿泊所 居間
ヒイとミヤが就寝の挨拶をして奥の寝室に行く。代わりに転移組3人が俺の居る居間にに来た。
3人ともエンジのジャージ姿だ。最近は部屋着として着ているようだ
「お話があります」
真白が3人掛けソファーの真ん中に座り、後の二人も真白の両側に座る。
「何かな?」
3人の切羽詰まった様子にちょっとビビりながら返事をする。
「私達3人をお嫁さんにして下さい」(真白)
「ちょっと待って、君達と出会ってまだ二十日だし、蒼伊に至っては8日だよ」
「日にちは関係ありません。こちらに来てからあなたと居た時間は、濃密でした」(蒼伊)
「俺と結婚したいという理由は何だい?」
「こちらの世界の男は女を道具としか思ってないのよ。子供を産む、セックスをする道具なんだわ。あなたと別れたら私達の価値なんて何もないのよ。魔力も無く、家柄も無いそんな女と誰が結婚するの。私達に価値を見出してくれる人はあなたしかいないのよ」(真白)
「君達も解ると思うけど、俺は暫く結婚生活を営めない」
「解ってます。恐らくあなたがヒイちゃんが大人になるまでお父さんを続けることを」(茜)
「こちらの成人が15歳、ヒイちゃんが後4年、ミヤちゃんが後3年ですね」(真白)
「あの二人も恐らく私達と同じ決断をするでしょう」(蒼伊)
「えっ、どういうこと」
「あなたと結婚をしたいと言うでしょう」(蒼伊)
「俺は父親代わりをしていきたいと思って」
「あなたの純粋な気持ちは分かります。でもミヤちゃんはすでにあなたしか選べない。ヒイちゃんはまだ少しは可能性はあるかと思いますが他を選ぶことは99%ありえない」(茜)
「人のことを言っていても仕方ないから私達の事です。ヒイちゃんが成人したら結婚してくれますか?」(蒼伊)
どうすればいい、この子達の未来に責任が持てるのか?
「もちろん、それまでに手を出して頂いても結構です」(真白)
出せるか!!
「今は、その約束だけで良いんです。それがあれば生きていけます」(茜)
「その約束が君達の未来を束縛する物なら良いことは思えない」
「私達があなたを愛したのは共に歩いていけるパートナーにしてくれるからです。虎狩の時に足手まといにしかならない私を連れて行ってくれましたよね。私はあの時にこの人とだったらと思ったのです」(蒼伊)
今更、責任って誰も取れないよね。俺もこの3人を好きだから従者にしてるのだし、この世界で日本の様に考えたって仕方がない。
「分かった。ヒイが成人して君達の気持ちが変わらないなら結婚しよう」
「「「やったー」」」
ちょっと抱き着かないで、我慢してるんだからね。真白の胸は暴力です。
この世界に何の寄る辺も無く生きる俺達だ。嫌われるより好かれる方が良いに決まっている。
未来のことは誰にも分からない。今を楽しく生きられるのならそれで良いか。
「ところで君達って他の二人にやきもち妬かないの?」
「決心した時にナビさんに精神強化してもらったので大丈夫です」(真白)
「やきもち妬いてたらあなたに求婚なんて出来ません」(茜)
「一番の強敵がヒイちゃんなのでやきもちなんて妬いてられません」(蒼伊)
「そうなのか」
天都帰還2日目 (転移83日目)
9時 帝城
天帝様から午後1時に御所に来るように連絡を受ける。天帝様は朝議と言って朝8時頃から10時頃まで各部署からの報告を受け、その後業務の割振りや懸案事項の調整などを閣僚と行う。昼からは閣僚は各部署に戻るので、天帝様は余程の事が無い限り昼から暇なのです。
茜と真白は各事務局へ行った。蒼伊は、面白そうだと真白に付いて行った。
ヒイとミヤとハイジは庭で訓練してる。そういや近衛にも顔出ししとかなきゃまずいよね。
「ヒイ、ミヤ近衛に行くけどどうする?」
「付いてくぅ」
「付いていきます」
昼まで3人と一匹で汗を流したよ。副隊長さんがすでにカクタスと互角になってたのにはびっくりした。それと俺達の竜王国からの旅の話がいろいろ流れてきているらしい。中には尾鰭が付いてとんでもない話になってるらしい。カクタスが憤慨してた。
13時 御所 応接間
ヒイたちが昼からも近衛で訓練するというので、今回は俺一人だ。
「よく来てくれた」
天帝様が澄まして登場だ。
「虎じゃが二頭で100万デムで引き取ることとなった。後でこの者について引き換えてくれ」
事務官を紹介された。100万デムって一億円か、この頃、飛行機の値段を調べていたから驚かない。
「ありがとうございます」
「あまり、驚いておらぬようじゃの。まあ良い」
「先に引き換えに行ってくれるか。後でまた来てくれ」
何か嫌な予感がするな。天帝様が真面目だ。
虎とお金を引き換え、御所に戻ると天帝様は、まだ応接室に居た。
「戻りました」
「そこに座れ」
天帝様の対面に座った。
「今日な、西の方で大規模な反乱が起きたと連絡があったのじゃ。詳しいことはまだ分からん」
「俺に調べて来いと?」
「いや、西の獣王国じゃが国と言っても実質は西域の治安部隊のようなものじゃ。ヨーロッパとの交易が盛んな頃は、結構栄えておったが、今は城があるだけ、兵も含め資材は殆ど帝国が送っている」
「つまり、奪っても実入りは少ないと言うことですね。」
「そうじゃ、反乱を起こせる民もいない。具体的なことが分からんと兵も動かせん」
「となると?」
「続報を待つがもしかするとお前に頼むことになるやも知れん」
「つまり、数日、帝城に居ろということですね」
「その通りじゃ」
俺は冒険者だから身の丈に合った依頼なら引き受けますけどね。転移者組は鍛錬出来てないからなぁ。
14時 近衛兵 練兵場
俺が練兵場に行くと副隊長が寄って来た。
「天帝様の御用はもう終わったのか」
「はい、待機命令が出ました」
「ほう、どういうことだ」
「西の方で騒ぎがあったって、連絡が来たそうですけど。内容が掴めないようです」
「何かきな臭いな」
二人で話しながら休憩所まで来るとヒイとミヤがお菓子を貰って食べてる。あれハイジまで貰ってるのか。
「ありがとうございます。ヒイ、ミヤお礼言ったか」
「「はーい」」
「ハイジもな」
「オン」
「ミヤちゃんは強いねぇ。副隊長も敵わなかったもんな」
「ミヤは変則的だから慣れるまで大変でしょう」
「俺達は相手が変則的だからと言い訳は出来ないんだ。玉体を守る軍隊だからな。その点助かる」
副隊長が12歳児に負けたことに拘泥しないんだな。流石だ。
「ヒイちゃんは弓矢が得意だって聞いたけど。見せてくれない」
「分かった。恭平様!」
弓と矢を渡してやると50m位離れた5つの的の真ん中に次々と命中させていく。
「すごいですね。ど真ん中だ」
ヒイ、すごいどや顔になってる。
「矢を取っておいで」
弓を預かり矢を拾いに行かせる。
「変わった弓ですね。見せて貰えますか」
「空打ちはしないで下さい。弓が壊れるんで」
「成程、上下の滑車が回って、リムは、ほぼ上下にしか動かない。これだったらブレない」
「これは保持が軽いです。狙いやすいですね」
「うちでも使うか」
「部品点数が多いですから壊れやすいですよ。軍隊で使えるかどうか」
ヒイが帰って来たので近衛兵に試し打ちをさせる。
なかなかの命中率だ。5本中2本が的に当たった。
「10張り程頼めませんか?」
「分かりましたが修理は受け付けませんよ」
壊れやすいって言ってるのに知らないよ。
それから夕方まで練習を見て部屋に戻った。
17時 来賓宿泊所 台所
茜は帰ってきたが真白と蒼伊はまだ帰ってきていない。子供たちが汚れているので湯で体を拭かせる。その後、食事の用意をして俺も体を拭く。
18時 来賓宿泊所 食堂
二人も帰って来たので夕食にする。その際、天帝様に待機を命じられたことを話す。
「もし、西域に行くことになったら一緒に行くか?」
「「「「「行きます」」」」」
「獣王国から来たのは、どっち」
「私です」
真白が手を挙げた。
「獣王国の様子を分かる範囲で良いから教えてくれるか」
「はい、獣王国の王城は西に出る門がそのまま城になった感じで、そこを通る人は一日に2・3人でした。城の中は殆ど兵隊が使っており、一部、食事や洗濯・掃除など行う人が僅かにいました。
城の周りはゴツゴツした岩と砂漠に囲まれていました。昔は城の周りに多くの人が住んでいたようですが今は一軒の宿屋と兵隊相手の店舗があるだけで殆ど空き家です。王城から天都に向かう時、城の近くの街道には村も無く、閑散としてました」
「反乱はどこで起きたと思う」
「そうですね。兵隊さんたちが天都に帰りたくて蜂起したのなら解る気がします。だって何もないんですよ。あそこは。兵隊さんたちは3年交代って言ってましたけど守られてないようでしたし」
成程ね。そういうことか。
「それを天帝様に伝えなきゃ」