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第二話 黒狼族の村

しばらくは、1日2話のペースで行こうかと思っています。

 ヒイから聞き出した話を要約すると。

 今から十数年前、東北地方のヒライズミで反乱があり、黒狼族の戦士であったヒイの父シュバルツが飛竜将軍の元、鎮圧の軍に参加した。

 シュバルツは敵の将軍の首級を上げ、多くの褒美を貰い、反乱軍に家族を殺された領主の娘(犬人族)と仲良くなった。娘に惚れ込んだシュバルツは、結婚して黒狼村に帰ってきた。


 この時点では村人は2人を歓迎していたようだ。

 やがて娘はヒイを産むが、産後の肥立が悪く死んでしまう。

 シュバルツも半年前、十数匹の魔物が村を襲った時に村を守ったが死んでしまう。

 その後、村の者たちの態度がガラッと変わる。

 ヒイを”あいの子”と呼び、虐めた。


 ヒイは家の物を出入りの商人に売って、何とか食べてきたが一月ほど前から家の物を村人が持っていくようになった。

 逆らうと殴られたり、蹴られたりするので逆らえなくなった。

 一週間前には食料もなくなり、時々村人が捨てた小さな生の芋などで飢えを凌いでいた。

 今日も男二人が朝から小さな芋を差し出し、狩に付いてくるように言ってきた。


 恐らく、いたずらする目的だろう。熊が出たので囮に使ったのだ。

 俺は話を聞いてはらわたが煮えくり返るような怒りを覚えた。


「ヒイ、俺についてこないか?俺も安定した生活を送っている訳ではないけど、お前を苦しませたりはしない」

「いいの、私、ついて行ってもいいの?」

「ああ、ちょうど身の回りの世話をしてくれる人を探していたんだ」

「私、料理も洗濯も掃除もできるよ。お願い」

 明るい声で答えた。未来に希望が生まれたのかも知れない。


 このまま放っておいたら、飢え死にするか、殺されるかだ。ヒイもそれが解るのだろう

 そうと決まれば村へ行って、慰謝料くらいは取り上げてこなっくちゃね。


 バイクを出してヒイを後ろから脇に手を入れて抱き上げ、後席に座らせようとした時、風が吹いて服の裾が捲れた。

 この子、パンツ履いてねえ、短いしっぽがある。いや何も見てない。無かったことにしよう。

 ごほん、取り敢えず邪魔なので弓矢はしまうが刀は腰に差したままだ。


「行くぞ、俺にしっかり摑まってろ」

「はい。少しいいですか。どうして熊を殴っていたんですか?斬ったほうが早いと思うんですが?」

 なかなか冷静な子だ。そんな余裕があったのね。

「毛皮の価値が下がるからだよ。なるべく傷が無いほうがいいのさ。」

「そうだったんですね。後ろでなんでだろう、早くやっつけてくれればいいのに思ってました」

 するどいね。実は持ってきた刀が数打ちの安物だったから切れないし、折れたり、曲がったりしないか冷や冷やものでした。


 ものの5分で村へ着き、まず、ヒイの家に行きバイクをしまう。家の中は四つに仕切られていたがどの部屋も見事に何も無い。建具まで無い。


『ナビさん、証拠あるかな?』

『いくつか採取できますが、状況証拠にしかならないかと』

「仕方ない村長のとこへ行こう」


 ヒイが家から出ると2人の男が前に立ち、絡んできた。

「あいの子!!なんで生きてんだよ。折角、俺が親のところに送ってやろうとしたのによぉ」

 こいつらヒイを見捨てて逃げた奴か。

 俺がヒイの前に出るとちょっとビビったみたいだが、自分たちが2人居ることを思い出したのか、俺を下から見上げてきた。

「なんだお前、あいの子庇って、死にたいのか」

「うるさい、邪魔だ。村長に会いに行くから道を開けろ」

「村長に俺達のことをチクっても無駄だ。あいの子だからな」

 周りで騒いでいるが、挑んでくる気概は無いみたいだ。

 俺は無視して村長宅に行った。


 ちょうど村長が居たので上がり込んだら、大男が俺の後ろに立ってすごんできた。

 俺は構わずこれまでの経緯と盗んだものを返すように言った。

「家の中の物はこの子が商人に売り払ったので村人が盗ったなどと言いがかりもいい所ですよ」

 ・・・

「ヒイはこんなに痩せて、命がけで村を守った英雄に恥ずかしくないのか」

「この村も貧しいもので手が回りませんでした。これからはちゃんと養いますから」

 ・・・

「じゃあ、これはなんだ。」

 シュバルツへの感謝状が飾ってあった。

「これは黒狼族への感謝状でして」

「これ、お父さんの刀」

「これも黒狼族への褒美として下されたものです」

 ここで証明できないことをいいことにしらばっくれる気だ。

「どうしても認めない気か。仕方ない、帰るかヒイ」


「ヒルダを何処へ連れて行く気だ。容赦せんぞ」

 俺の後ろに居た大男が飛び掛ろうとしたので、鞘で鳩尾を思い切り突いてやった。グウと唸って失神した。

「うん、飛竜将軍のところだよ。反乱鎮圧の英雄の娘がひどいめに会ってますってな」

 飛竜将軍に見て貰えば盗んだものかそうでないか分かるはずだ。


 今、俺は友達のカクタスの家に居候している。カクタスは飛竜将軍の三男だ。

 王城で召喚されたが出入りが不自由なのでカクタスの家に転がり込んだのだ。


「そんなことは許さんぞ。誰か呼べ、こいつを生かしておいてはいかん。」

 部屋の外に居た男が部屋に入ろうとしたが、拳弾を放ったら見事に顎にヒット、脳震盪を起こしたのかそのまま失神。拳弾は気功の一種で離れた敵にジャブ程度の打撃を与えられる。


「ちょっと待ってくれるかな。俺は穏やかに話し合いに来たんだが。

 それでも俺とやる気かい?村人半分は死ぬよ」

 村長は完全にビビっていた。真っ先に殺されるのは、自分だと気が付いたようだ。


 村長によって村人全員が集められ、ヒイの家から盗った物を返すように指示させた。

 盗品が山のように積み上げられた。村人はブチブチ小言を言ってたが飛竜将軍が効いたんだろう。素直に従ってくれる。

「村長、なぜヒイを虐めさせた」

「あいつは黒狼族の血を濁らせた。犬人族と交わった」

 黒狼族ってそんなたいそうな種族には見えないけどな。

「でもシュバルツさんが生きてるうちは言わなかったんだろ」

「皆、あいつが怖くて言えなかっただけだ」

 それでも命を懸けて村を救った英雄の娘に対する行いとは思えなかった。


「わしはあいつが妬ましかった、シュバルツなどとヤタロウで十分じゃ。娘にまで貴族めいた名前を付けおって。わしが黒狼族では一番偉いのだ。それを分からせるために、ヒルダを虐めるように言ってやった」

 シュバルツさん、手柄を立てる前はヤタロウって名前だったんだね。

「完全な逆恨みじゃないか。それに村人が命の恩人の娘を虐めるなんて信じられない。この村終わってるよ」


「あー、返し忘れたものはありませんか?後で調べて戻ってない場合、嘘発見の魔道具持ってきますのでその時、ばれると牢屋行きですよ」

 そんな魔道具あったっけ。まぁ、いいか。

「これで許してくれるのか」

「ヒイは、この村と縁を切りたいみたいだし、後は飛竜将軍に任せるよ」

「そんな。従ったんだから将軍には・・・」

「ヒイの財産を返して貰っただけだろ。罪は償わなきゃ」

 村長は俯いて憤っているようだが、俺の知ったこっちゃない。


 俺は、返してもらった物とヒイの家を次元収納に入れ、ヒイと村を歩いて出た。

 その瞬間、村長宅の影から、例の2人が弓矢で俺を狙って飛び出して来た。

 俺は振り返って拳弾で2人を倒すと走り寄って右腕を峰打ちで叩き折った。

 実はナビさんが2人に気付いていた。予定通り、村人に恐怖を与えられたので、今後絡んで来ることもないだろう。

 息を飲んで静まり返る村人を尻目に俺とヒイは王都に向かった。


 俺達がカクタスの家についたのは、日暮れ前だった。もちろんヒイには、返してもらった服に着替えてもらったぞ。

 まだ、カクタス達、仕事をしているものは、まだ帰ってなかった。


 俺は、飛竜将軍の奥様に取り次いで貰った。ヒイは、展開に付いていけないのか、殆ど喋らない。

 奥様には、耳の少し上に後ろから前に細長い角がある。竜人族の特徴だ。もちろん、3人の息子に2人の娘、旦那さんである飛竜将軍、竜王様、宰相、王女のリョウカ様、皆同じく角がある。

 竜王国の王族・貴族の多くが竜人族なのだ。

  来てくれた奥様にヒイを連れてきた経緯を説明した。

 やせ細ったヒイを見て奥様は涙をぶわっと流し、自分がお風呂に入れると連れて行ってしまった。

 奥様はシュバルツさんのことを聞いたことがあるみたいだ。

 多分、質問攻めになると思うのでヒイ頑張れと心の中で言っておいた。

 しかし、この家の人は優しい。良い家だ



黒狼族が嫌で短くなりました。

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