第一話 ヒイ
初めて投稿します。文が拙いですがよろしくお願いします。
転移10日目 竜王国 黒狼村付近
俺の名は浅野恭平36歳だが見た目17歳、10日前に異世界に召喚された。
召喚時に俺の体は老化前に戻ったので20年は若返った。近眼だった目も裸眼でばっちり見えるし、身体能力も3倍くらい上がっているそうだ。
さらにはこの世界で異能と呼ばれる超能力をいくつか授かった。
召喚されたのは、月も富士山もある日本で本来、東京のある場所だが、高層ビルも鉄道も高速道路もない、剣と魔法のファンタジーワールドだった。
この世界で俺が召喚された国は、竜王国と呼ばれていたから過去の日本ではない。
魔法と言っても主なものは、ゴーレムと呼ばれる単純な動作を繰り返すだけの物と明かりや火を出す魔道具、後は気功と呼ばれる、離れた敵に打撃を与えるものくらいだ。
言葉は中国語系らしいが文字が違うし漢字もない。言葉は先に異世界に最適化されているらしく何も困らなかった。
貴族の名前はヨーロッパ系が多い。千年前の大世界大戦の時にゲルマン系の竜人たちが手柄を立て、ここに封じられたためだ。平民でも戦争などで手柄を立てるとヨーロッパ系の名前を貰うことがある。平民は日本名みたいだ。ほとんどの人はファーストネームで呼ばれる。
今、俺はオフロード仕様のバイクに乗り、東(千葉の方)を目指していた。目的は、魔物を狩って魔石を手に入れること。
魔物というのは、俺も見たことが無いが、魔石に魔力が集まり実体化した物で、いろいろな形があるらしい。普段は魔力溜まりと言われる魔力の濃度が高い所にいるが、魔力溜まりは出現・消失を繰り返すので、消失時には魔力を狙って人間を襲うこともある。
バイクは、”ショッピング”という異能で中古を20万円位で買った。この異能は召喚前の日本の品物をこちらの現金・物々交換で買える能力だ。
金は生活費として30万円ほどこちらのお金でもらっている。
この世界では、内燃機関・外燃機関・火薬は使用できない。理由は解らん。試しに黒色火薬を作って、火をつけたがゆっくり燃えるだけだった。
代わりに発達したのが魔力だ。魔力は大気中に在り、人の意思で、魔石に魔力を通すと運動エネルギーに変わったり、熱に変わったり、灯に変わったりする。
面白いのはゴーレムだ、魔石に一定以上に魔力を注ぐと一定の往復運動をする。これを利用したのが、ゴーレム馬車や、ゴーレム船だ。
ただクランクを利用せず、馬やオールの動きをそのままゴーレムにやらせているので非常に効率が悪い。
そこで俺は、バイクのエンジンからピストンを外して、コンロッドをカムシャフトを支点に上下運動させるゴーレムを取り付けた。俺は日本で機械の設計開発をやっていたので、この位ならいじれる。ゴーレムは魔力を注げば回転数が上がる仕組みだ。
流石にガソリンエンジンほど回転数を上げられないので時速4~50キロが限界であるが、それでもゴーレム馬車の速度の倍は出せる。
『ご主人様、その先を右に曲がって下さい』
ナビさんが脳に直接話しかける。ナビさんは、召喚時に持っていたノーパソとスマホの機能を脳内に異能が組上げた疑似人格である。俺の補助や異能の管理をしてくれる脳内秘書さんだ。
ショッピングや後で説明するインストール・次元収納と言う異能を作ってくれた。また、俺が若返ったのもナビさんのお陰らしい。
俺は細い未舗装の道を山に向かって登って行く。この世界では幹線道路は石で固めてあるが一歩外れれば舗装されてないことが多い。王都なんかは路地まで石畳で舗装されている。
脳内地図に新しく道が出来ていく。見た風景が地図に反映される。これも異能の一つだ。
この世界で友達になったカクタスという兵士に教えてもらった、魔物のよく出る場所がこの先にあるはずだ。
『近くに魔力溜まりがあります。バイクを降りてください』
ナビさんは、周囲を探索してくれるが、俺の五感を使用しているので範囲はそう広くない。
バイクを止めて、手を触れて「収納」と言うと異能”次元収納”が働いてバイクを異次元に収納する。慣れれば思うだけで出し入れできるらしい。
次元収納の中にある時は、重さも大きさも時間経過も無くなるのでとても便利である。
「取出し、コンパウンドボウセット・刀」
次元収納から右手にコンパウンドボウと矢筒、左手に刀が出てくる。刀を左腰に差し、コンパウンドボウを背中に背負う。矢筒は右腰に下げる。
魔物は分断しないと狩れないので矢や槍では役に立たない。矢は熊や猪用だ。
「インストール、剣術の達人」
異能”インストール”で剣術の達人の能力を手に入れる。
この異能は、召喚時の日本の故人(個人)の能力を使えるように知識・技術を吸収する能力である。個人名を指定しなければナビさんが適当な人を見繕ってくれる。何回かその技術を使えばその技術を実際に習得できるらしい。
道から森の中へ入っていく、落ち葉を踏みながらゆっくりと周囲を確認しながら歩く。少し緊張するが召喚時に精神耐性が上がっているので冷静でいられる。
『右斜め前より魔物接近』
ナビさんの指示で抜刀し、備える。30mくらい離れたところから魔物が出てきた。
魔物は1mくらいの大きさで灰色ぽっく、輪郭ははっきりせず目鼻・手足もない。地上を滑るように素早く接近してきた。
「こんにゃろ。」
左足を一歩引いて突進をかわしたタイミングで上段から切り下げる。魔物は真っ二つに切られると、実体を維持できずに霧散する。後には、魔石と呼ばれる魔力で動く石が転がっている。
魔石は形を整えてゴーレムに組み込めば魔力が尽きるまで命令通り動いてくれる。その他、灯や火などの魔道具に利用できるし、売ればそこそこの金になる。魔力は魔法を使うためのエネルギーみたいなものだ。俺は、魔力が人より多いらしいので、余裕が出来たら研究したいテーマだ。うまくいけば電気のような利用ができるかもしれない。
俺は異能があるから簡単に魔物を仕留められるが、一般人はそう簡単に退治できない。
襲われれば、魔力を吸われて死ぬこともあるらしい。
2匹目を狩った時に、前の方から人の悲鳴が聞こえた。若い女性の声みたいだ。
急いでそちらに向かうと、若い男性二人と少女が一人、右の方へ走っている。
左の方を見ると巨大な熊が二頭、彼らを追いかけている。大きすぎて弓矢が効きそうにない。
その時、男の一人が少女の手を掴んで引きずり倒した。
俺は全速力で走って何とか少女と熊の間に入って、思い切りその頭を峰打ちで叩いた。
熊は激高し、立ち上がった。ひえー 3mはあるよ。
『ナビさん、心臓』
ナビさんが熊の胸の心臓の位置を光らせる。
熊の両腕が上がった瞬間を逃さず、刀を光点に突き刺す。
熊は前のめりに倒れてきたが、それを右に除け、熊の死体越しに後ろの熊と対峙する。後ろの熊は、右腕を振り回して攻撃させてくれない。立ち上がってくれればさっきみたいに心臓が狙えるのだが・・。
こちらの刀はカクタスに貰った数打ちと呼ばれるなまくら刀だ。斬る攻撃は刀が折れたり、曲がったりする可能性がある。こんな時に折れたり曲がったりされては致命的なので斬撃は出来ない。
隙を見て頭や肩を叩いて力ずくで押してくることを防ぐ。流石に押し込まれると熊の方が力が強く分が悪い、倒せてもこちらも無事ではすまない。
熊の攻撃で恐ろしいのは体当たりである。大質量で体当たりされては、良くて相打ちだ。
間に熊の死体を置いているので、そう簡単には体当たりは出来ない。
我慢できなかったのか、腕を大きく振ったので、頭ががら空きになった。
「めぇーん」
頭に峰打ちで叩きこむ。相当痛かったのかガオーと大きな声を出して立ち上がった。
さっきと同じくナビさんが心臓に光点を出してくれてたので、迷いなく心臓に刀を突き刺す。
熊は即死したようだ。
『大丈夫です。二頭とも心臓が停止しています。』
ナビさんは戦闘中には、指示が間に合わないと判断して黙っていたのだ。
刀を懐紙で拭いながら少女に声を掛ける。
「大丈夫? 怪我とかしてない?」
見ると第一印象は汚い、薄い茶色の長いバサバサの髪の毛から犬の耳が垂れ下がっている。
俯いているので顔は見えないが、見たとこ、犬人族のようだ。
この世界には獣人と呼ばれる獣の特徴を持った人類が居る。犬人族はその一つで犬の耳がある。
服は粗末な貫頭衣で防寒用の毛皮を巻いている。
「だい・・じょう・・ぶ。」
辺りを見回しても男たちは見えない。この子を囮にして逃げた、なんて奴らだ。
手を引いて起こしてやるとまだ10歳くらいで、とてつもなく痩せていた。
ここは危ないので道まで戻ることにする。
熊を次元収納にしまうとそれに驚く少女の手を引いて道まで戻った。
「俺は、恭平、君の名前は?」
「ヒルダって言うの。でもヒイって呼んで下さい。お父さんもそう呼んでたから」
まだ俺を警戒しているようだ。ひどい目に会ったのだから仕方が無い。
「助けてくれてありがとう」
「どういたしまして、ところでヒイちゃんは、お腹空いてないかな?」
ちょうど昼時だ。次元収納からパンとジュースを出す。
パッとこちらを向くと嬉しそうな顔をしたが、やがてまた俯いた。
「でもお金も何も無いの」
う~ん、なんか訳有りそうだし、倒れそうだしなぁ。
「聞きたいことがあるからそのお礼だよ。心配しないで」
心の中で折り合いがついたのか食べ出した。
「お替りいるかい?」
いくつかパンを出すと両手に持って食ってた。
俺も食いながら、焼き立てパンをあるだけ買って、次元収納に入れておいて良かったと思った。
次はヒイの村へ行きます。