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召喚された勇者は唯一無二の愛する幼馴染の為に戦う

作者: 如月霞

ヤンデレです。ヤンデレだと思います。好きな相手には病み部分を見せないヤンデレをイメージしました。

苦手な方はブラウザバックをお願いします。

 煌めくシャンデリア。何だかよく分からないけれど豪華そうな装飾と大広間の様な場所。

 座り込む俺の前には実際に見た事は無いけれど、外国の芝居みたいな格好をしたオヤジ達と、綺麗な格好の女子が四人。ぐるりと見回せば、昔のヨーロッパ風の鎧を着た大量のマッチョ達。


「異世界勇者よ、よくぞこのエルロード帝国へ参った。儂はエルロード帝国皇帝エルロード十二世だ。我が国は突如起こった凶暴化した魔獣の大量発生(スタンピート)により、多くの無辜の民が恐怖に晒されている。故に、古より伝わる勇者召喚の儀式により、汝を呼び寄せた。ここに勇者の剣がある。その手に取り帝国を守る勇者の誓いをするのだ」


 勝手な事をベラベラと、ドヤ顔で言い切る初老の自称皇帝ジジイ。断られるという選択肢が思いつきもしない、その突き抜けたバカさ加減と脳天気さに呆れを通り越して、寧ろ清々しささえ感じる。

 こう言う思考だと、人生楽しいだけだろうな。大体周りの連中は、このイカレタジジイをどう思っているのだろうか。


「勇者よ、我が国の精鋭達に慄いて、声も出ぬか?安心せよ、勇者は国賓であり、国を守る守護者である。皇帝の名において勇者の保護する事を約束しよう。して勇者よ、貴様は名を何と申す?」


 清々しい突き抜けバカ皇帝は、初老に見えるけれど実際は歳がいっていて、ボケ始めているんだろうか?困っているから勇者を呼んだと言いながら、その勇者が自分の所の兵士に慄くだの保護してやるだのと偉そうにほざいた挙句に貴様呼ばわり。こっちの都合を一切無視して、守れだの誓えだの。

 余りの勝手な言い草に、いっそ手当たり次第ぶん殴って逃げてやろうか、と思っただろうな、いきなりここに呼び出されたんなら。


 けどまあ、ワンクッションあったし、納得のいく約束もして貰ったからな。皇帝ジジイの口ぶりも態度も気に入らないけれど、ここに来る前に女神と約束したから全部終わるまで我慢してやるよ。終わるまでな。


上総睦月(かずさむつき)だ。この世界の女神の眷属ってやつに少しは話を聞かされている。俺にどれほどの力があるかは知らないけど、出来る限りやってみると約束する」

「皇帝陛下に不敬だぞ、カズサムツキ!」

「良い、言葉遣いは勇者の地位に免じて許そう。その代わり我が帝国民を救うのだ」


 やっぱり数発殴って置いた方が良さそうだよな。弥生に免じて我慢するけど。


ーーーーーー


 俺に家族の記憶は無い。産まれてすぐに病院に捨てられたと聞いている。どこで産まれたのか、誰が産んだのか、いつ産まれたのかは分からないけれど、少なくとも俺の母親にはカケラほどの良心があったみたいで、カズサとマジックで書かれたタオルに包んだ俺を産婦人科病院の裏口に捨てていったらしい。もしかすると母親じゃなくて父親や祖父母かも知れないけれど、まあ、そこはどうでも良い。

 タオルのカズサに漢字をあてて上総、一月に拾われたから睦月。単純な名前付けだけれど、命を救ってくれた上に名前まで考えてくれた医者先生には感謝している。

 そこから乳児院、児童保護施設に入りアルバイトをしながら夜間高校を卒業した。高校卒業後は行政やケースワーカーさんに助けてもらって、技術職で就職し不足する生活費分の生活保護を受けながら一人暮らしを開始。それから二年掛けて見習い期間や資格試験を取り、やっと生活保護を受けなくても生活出来る様になった。


 風見弥生(かざみやよい)は同じ施設に二年遅れで入って来た女の子。俺が捨てられた病院に同じ様な感じで捨てられていたらしい。三月の風の強い日に捨てられていたから、風見弥生。医者先生のネーミングセンスは二年経っても健在だった様だ。


 弥生は優しくて素直で、いつも損ばかりしていた。保護施設の規定量の食事ではお腹が減ってしまう俺達みたいな乱暴でいい加減な野郎どもに、自分のお菓子やご飯をおにぎりにしたものをこっそり分けてくれたり、同じ施設の仲間が揶揄われたり虐められたりすると、一番最初に解決に向けて動く。

 小学校の宿題を遊んでばかりでサボってしまい「これだから施設の子は」と嫌味を言われた仲間がいれば、一緒に考えながら宿題をやって先生に謝りに行き、サボった事は謝るけれど、施設だからって言わないで下さいと真っ赤な顔で訴えていた。


 俺が学校で喧嘩して結構な怪我をして帰った時は手当をしてくれてたと思ったら、最後に平手打ちをくらった。「むっちゃんが乱暴だとみんなが『施設の子だから』と言われちゃうでしょう!」と、ポロポロと涙をこぼしながら言われて以来、理不尽な事に対して怒りを感じても冷静に対応する様に心がけた。


 一人暮らしを始める時、俺は弥生に告白をした。二人でチビ達の面倒を見たり、将来やってみたい小さな願いを話したり、たくさんの時間を共有した俺達。ガサツで言葉の汚い俺の気持ちを受け入れてくれなくても、気持ちだけは伝えたいと思って勇気を出した俺に、


「全く、むっちゃんは私が着いていないと元気が出ないの?でも素直で一生懸命なむっちゃんの事は嫌いじゃないよ。今までは家族だったから、この気持ちが恋愛的な好きかは分からないけれど、むっちゃんが居なくなるのは寂しいかな。だからね、二人でお話ししたりする時間を作ってくれる?それで好きだと思ったら言うから。それでも良い?」


 勿論だと答えた俺に「顔、真っ赤だよ?」と笑った弥生の顔も、ほんのり赤かった。


 二年間、仕事と資格試験の合間に弥生と会う。それは施設の買い出しのついでだったり、少ない俺の給料から捻り出した金で買ったお土産を施設に届けたついでだったり、隙間時間に近くの公園や土手で話したり、ファストフード店で俺はコーヒー、弥生はシェイクを飲みながら並んでぼーっとしたりする程度だったけれど、俺が生活保護を受けなくても生活出来る様になったんだと告げた次の瞬間、弥生が満面の笑みを浮かべて俺の手をギュッと握った。


「むっちゃん、私ね、むっちゃんの事が好きだよ。だからね、後二年待ってて、私もこれから就職して自分の力で生活出来る様になるから。それで私が二十歳になったらもう一回気持ちを確認しよう。それでお互い好きだったら、ね?」

「お、おう!任せろ。俺ももっと仕事をして会社で認めて貰うからな」


 俺は滔々と話した。それはもう滔々と話した。目の前の自称女神の胸ぐらを掴んで、揺すりながら話した。ニヤニヤしながら職場からアパートに帰る途中、急に足元が光ったと思ったら謎の空間で堂々と誘拐宣言をして来た自称女神の目を睨みつけながら話した。

 暴力はダメだよ?と言った弥生の困った様な顔が何度も頭をよぎったけれど、人生の一大イベント直前に勝手な理由で誘拐しやがったこいつに対して懇切丁寧に説明してやった。


「取り敢えず以上だ、分かったかこの野郎。分かったらとっとと俺を元に戻せ!俺は明日、可愛いチビ達と助けてくれた先生や先輩達に囲まれて、施設の会議室で弥生と結婚式するんだよ!」

「お話は分かりましたが、カズサさんがエルロードで魔獣の王を倒さないと数十万もの人が死ぬのです」

「知らねえよ、他所の世界の人間がどれだけ死のうと俺には関係無いからな。俺以外に頼めよ」

「魔獣王に有効的な攻撃を与えられる勇者の剣は、相性の最も良いカズサさんにしか使いこなせません」

「じゃあ、相性が俺の次に良いやつを呼べよ。な、これで解決だ」

「それでは力が足りないのです。どうか、どうか、お願いします。物心もつかない乳幼児も、まだまだ育ち盛りの小さな子供も死んでしまいます。勇者となっていただけたら、内容が理不尽でない限りカズサさんの願いを必ず一つ叶えます」


 小さな子供が苦しむと言われると弱い。俺も弥生も助けてくれる大人がいたからこうやって大きくなって、結婚式の準備が出来たのだし、この先、施設のチビ達と顔を合わせた時に今までと同じ気持ちでは居られない気がする。こうなったのが弥生なら、俺が待っていると信じて助けるに違いない。

 仕方ねえな。


「女神さんよ、その願いとやらの前に、俺の頼みを聞いてくれねえか?出来るか出来ないか言ってくれ」

「はい」

「先ずだ、弥生に俺のメッセージを届けてくれ。魔獣王とやらを倒すのにどれくらい掛かる?」

「エルロードで戦闘訓練をして、魔獣狩りに慣れてからとなるので三年程度かと」

「そうか、まきゃあ二年で何とかなるか?よし、じゃあ、念の為だ、どうしても俺が救わない子供達がいるから三年待ってくれと伝えてくれ。出来るか?」

「出来ます、こちらの紙にどうぞ。必ず届けます」


 ガサガサした紙とペンを渡されたので出来る限り丁寧な字で『俺にしか救えない子供達が外国に居るから三年待ってくれ。連絡は出来ないけれど、必ず戻って来て絶対幸せにします。お願いします。睦月』と書いた。信じて貰えるよな?これで別の男が出て来て、そいつがすっごい良いやつだったりしたら……。

 いや、大丈夫だ。兎に角巻いて巻いて、巻きまくって、なんとかする!俺の覚悟は出来た。後は魔獣王とやらを倒して、正々堂々スッキリした気持ちで結婚してやるぜ!


ーーーーーー


 とまあ、気合入れて召喚されて、偉そうな皇帝ジジイやら教皇ジジイやら宰相ジジイやらに「激励の歓迎壮行会を」とすっとぼけた事を言われた時は殺意が湧いた。生死に関わる危険な重労働をさせる為に、異世界の俺を誘拐した挙句、何でパーティーをするんだよ。バカか?バカなのか?いや完全バカだ。


 兎に角早く魔獣を倒したいというと、少人数で目立たず効率よく魔獣王に辿り着くためにと一緒に戦ってくれる仲間を紹介された。


 エルフィーナ・フィーラル・エルロード。金髪碧眼、十七歳の皇女様。簡単な攻撃魔法と補助魔法を使える剣の達人で、姫騎士とか言うらしい。お姫さんだけあって、シミ一つ無いスラリとした透明な肌に人形の様に整った顔の大人びた美人。

 クレール・レインフィール。赤毛に黄色い目、十八歳の近衛騎士団隊長の娘。普段はエルフィーナの護衛をしている女性騎士。完全攻撃特化だそうだ。健康的な体と笑顔を持った美人。

 マルゴット・バークレイ。水色の髪に薄い緑の目、十六歳の聖女様。祈ると怪我を治せたり魔獣の力を弱らせられるとか。それと、ちょっとした見えない障壁?を作れるからその隙を突いて攻撃すると良いらしい。俺を誘拐した女神の力を使えるんだと。常に優しげな微笑みを讃え、優しい言葉で人々を救う美少女。

 レナータ・ベルベリア。白い髪に緋色の目、十七歳の天才魔法使い。父親はエルロード最強の魔法使いだとか何とか。じゃあ、父親で良いじゃないかと言ったら、そうすると首都を守る大魔法使いが居なくなるからダメだとか。じゃあ、娘が守りゃあ良いじゃないかと言えば、姫さんと同じ歳で戦いの連携が取れるって。じゃあそれを先に言えよ。くるくる変わる魅力的な表情と、明るい笑い声を響かせる可愛らしい女子。

 アリスティナ・アルマンド。茶髪に茶色の目、十八歳のブリガンド。ブリガンドって何だと聞くとゲリラ兵士という感じらしい。索敵したり罠を作ったり解除したり、弓の名手でもあるらしい。戦闘する工作兵って所か?面倒な事も楽しそうな表情でこなし、小さな子供に会えばどこに入れているのか飴やらクッキーやらをプレゼントする美少女。


 全員女。酒タバコ不可の二十歳未満の若くて魅力的なお嬢さん達。幾ら俺が勇者として強大な力があっても、お嬢さん方が普段からモンスターが出てそれを相手する世界の人間でも、納得がいかない。

 少数精鋭は理解した。騎士団とやらが陽動みたいに雑魚集団の相手をあちこちでするのも、戦った事の無い俺からすればお任せする事に異議は無い。お嬢さん方が実力者揃いだっていうのも分かった。分かったけれど、納得がいかない。

 ゴリゴリのおっさん達と戦うのなら、こっちも気楽だ。綺麗なお嬢さん達と一緒だと、彼女らが心配になると抗議したのに「女神の啓示だ」の一点張り。じゃあ、それも最初っから教えておいてくれりゃあ良かったのに。


ーーーーーー


 理不尽さにイライラしながら訓練と実戦をこなし、俺は魔獣王を倒した。色々大変だったけれど、勇者の剣で何とかなった。なんかこうモッサモサでゴリゴリで、牙とか爪とかで岩とか軽く砕く様なそんな魔獣王を、熱伝導バターナイフでバターを掬い取るみたいにスパスパいけた。

 勿論、姫さん達が足止めとかサポートとかしてくれたんだけれど。


 兎に角、大量の魔獣も魔獣王も手強かったは手強かったけれど、それ以上に面倒だったのは姫さん達だった。討伐の為に国のあちこちに向かえば当然泊まり込みになる。宿があれば宿に無ければ野営。そしてその度に姫さん達のうちの誰か、若しくは全員に誘惑される。

 酷い時には全員が俺の部屋で全裸待機している。ドアを開けた瞬間、全力でドアを閉めて潜り込める別の宿や親切な人の家や馬小屋で、勇者の剣に付いている完全結界という機能を使って夜を明かす。この完全結界、攻撃中は使えないけれど床に立てておけば半径二メートル程の空間には何者も入れなくなる。本来は寝ている時や怪我をしている時に使うんだろうけれど、本当に付いてて良かった機能だ。


 何故こんな痴女の様な事をするのか、最初は偶然、それからは五人の会話を盗み聞きして、それを繋ぎ合わせて納得した。

 エルロード帝国は自国では対応出来ない程の危機が訪れる度に勇者を召喚した。そしてその勇者に女性を娶せて勇者二世を得る。勇者二世は生まれながらに女神の祝福と異世界の力を持ち、勇者ほどではないが帝国の強き剣となり盾となる。戦士との子なら高い戦闘能力を、魔術師との子なら強大な魔力を、聖女との子なら尽きぬほどの癒しの力を、ブリガントとの子なら動物を操り隠された宝を発見する力を持つ。


 最初は勇者の力を利用したい悪い大人達に騙されているのかと思ったが、そうではなくて五人とも自分の意思で俺を誘惑していた。勇者と子を成せば自身の能力が爆上がりして、若い見た目のまま寿命も伸びるという記録があるらしい。更に帝国を守る為に異世界の勇者に身を捧げた聖なる乙女として、国民に崇め讃えられる。大人達と五人の利益が一致しての行動だ。

 元々五人には幼い頃から愛を育んだ婚約者や、結婚を約束した恋人がいるけれど、勇者の子を成すのは帝国への最大の献身であり、最大の栄誉なので、相手も当然それを浮気などとは一切思わず、俺との子を成すのを待っている状態らしい。気が狂ってる。


 俺には弥生がいる。ずっと小さい頃から一緒にいた弥生。愛しい弥生。愛する弥生。優しい弥生なら救える子供を見捨てないから、だから俺は勇者になった。


 それなのにアイツらは俺の弥生を、俺の家族をバカにした。


 何度誘惑しても靡かない俺。その理由を知る為なのか、この世界に来た時に持っていた俺の荷物を漁って、弥生や施設の先生や弟妹達の写真を見つけて嘲笑った。


「ムツキはエルロード人の中にいても素敵なのに、この人達って地味でブサイクね」

「ねえ、この女がムツキの恋人のヤヨイよね?何この汚くて地味な黒髪と黒い目。顔ものっぺりしているし気持ち悪い」

「ムツキの世界の人達って、みんなこんな平らで地味な顔なのかしら?だからムツキの好みがおかしくなってるって事?」

「でもさ、ムツキみたいな顔の人種もいるんでしょ?いなきゃムツキは生まれてないし」

「そうよね、それに見て、この本。製本技術も凄いけど、写っているのはドレスを着た美人ばかりじゃない。だから、ムツキの世界でも私達の方が断然魅力的って事じゃない」

「本当ね。多分、ムツキの周りにはこの地味なブサイクばっかりだったから、基準がちょっとおかしいのよ」


 俺の弥生を、俺の父さん達や母さん達を、俺の弟妹達を、地味でブサイクだと?ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!俺は俺の弥生をバカにする奴を許さない。俺の大切な家族をバカにする奴を許さない。

 五人の言う本は結婚式の為に買った情報誌。先生達の手縫いのドレス、弟や妹が飾ってくれる会議室、俺と弥生を守ってくれた兄姉が持ち寄ってくれる料理。そんな心尽くしの式で、俺が弥生に送るマリッジリングの店を選ぶ為に買った情報誌には、ウエディングドレスを着たモデルの写真が沢山載っていた。


 俺が西洋じみたエルロードで浮かないのは、多分ハーフだからだ。日本人と同じ肌の色、薄い緑の目、明るすぎる茶色の髪、やや彫りの深い顔。捨てられた俺の両親が何人かは知らないけれど、確実に純粋な日本人じゃない。

 女子に可愛いとかカッコイイと言われた俺に「ガイジン」「キモい」「日本から出てけ」という言葉を投げつけ、虐めて来る連中。施設に帰ってこっそり泣く俺の横に黙って並んで座ってくれていた弥生。ぐしゃぐしゃになって自分でもどうしていいか分からない気持ちの行き先を、俺自身が決められる様に、でも俺が一人きりにならない様に寄り添ってくれていた弥生。


 だから俺は願い事を決めた。


ーーーーー


 俺は日本に帰れないのだそうだ。エルロードの勇者となりエルロードの女神や魔力を使った俺は、日本からエルロードにあるべき存在になったと、魔獣王を倒した後に聞かされた。女神は最初にそれを説明しなかった。魔獣王を倒すのにどれ位掛かるかは聞かれたが、そのものズバリ日本に帰れるかとは聞かれていないと。

 詭弁だ。


「だからさ、弥生を俺が迎えに行って、エルロードで二人で暮らすっていうのが俺の願い。理不尽じゃないよな?問題ないよな?で、女神さんがエルロードに連れて来れるのはエルロードの為になる勇者や聖女みたいな存在だけなんだろ?だったら俺自身の力で弥生を向かえに行くしか無いよな?」

「そ、それはそうですが、あの、カズサさんが弥生さんを召喚するだけで宜しいのでは?迎えに行くとなると、カズサさんの往復の移動エネルギーと、向こうに滞在するエネルギーが掛かってしまいます」

「うん、そうだどさ、俺も弥生も、施設の家族が大切な訳。俺を待っててくれてる家族と結婚式したいじゃん。それに施設を出た後もさ、余裕の出来た兄姉達は不自由の多い弟妹達の為に、色々な方法で力を貸すんだよ。俺はさ、エルロードの人間になったから、弥生を連れて来た後はもう日本に戻れないからな。せめて勇者として手に入れた財産を施設に寄付したいけれど、ちゃんと渡す為には俺自身が役所に行かないとダメだろ。だから仕方ないよな」


 幾ら勇者でも異世界間を移動、滞在する為に必要な多くのエネルギーを一人で担う事は出来ない。だから、姫さん達の力を借りる事にした。魔獣王の体の中から手に入れた、魔力を集める宝玉。この宝玉に魔力が溜まる事により、ただの魔獣が強くなる。最初に宝玉を取り込んだ魔獣を、魔力に惹かれたより強い魔獣が捕食する。それを繰り返して、一番強い魔獣の体の中で魔力をどんどん溜め込んで魔獣王となる。魔獣王が生まれれば、この世界の魔力が魔獣王を中心に集まり、魔獣達のスタンピートが起こる。


 けれど、魔獣に取り込まれていない宝玉なら、純粋に魔力を取り込む事が出来る。


 俺を囲い込みたい皇帝達が、城下町の中に広大な屋敷を用意してくれたから、一人で改装してたくさんの個室を作った。勇者の力がどこまで使えるかは分からないから、試しながらでも最速で。勇者の子供を望む女性を屋敷と個室に紐付ける。すると俺の部屋に置いた宝玉に彼女達の魔力が溜まっていく。

 俺は弥生しか愛していない。施設の家族には家族愛を持っているけれど、異性として恋焦がれ愛しているのは弥生だけ。弥生、弥生、俺の弥生。だからやってくる女性を受け入れても、関係を持つ事はない。そんなエネルギーがあるのなら、弥生を迎える為に捧げてもらう。

 宝玉は魔獣の精神を揺らがせる。当然、人間だって影響を受ける。愛する婚約者や恋人の元に早く戻りたいから、俺に愛を囁く。俺に拒絶されても諦めない。心が揺らいで、何としても子を得て屋敷を出て行こうと思い込む、様だ。これは彼女達の言動で分かった。本当に宝玉様様だ。大切に大切に俺の全力で守られた宝玉。


 姫さん達と関係を持たないから、自分にもチャンスがあるかもとやって来る新しい女性達。気が付けば百人以上の女性が屋敷に滞在している。国は俺を囲い込みたいし、勇者二世が欲しいから毎月多額の金をくれる。それは多くの女性達を養なっても余りある。

 偶にというか、女性の人数が多いのでそれなりに頻繁に、婚約者や恋人や家族が屋敷から出る様に説得しに来る。俺としては、出るなら出るで構わない。幾らでも女性は入って来るから。でも彼女らは出ない。他の女性が子を成したら、と思うと出られないらしい。

 すると男達は忍び込んで来て連れ去ろうとする。俺にとってそれは不法侵入だから、適当に相手をして俺の部屋にお招きする。その有り余る魔力をいただく。魔力を貰えば死なないものの気力と体力も失うから、忍び込んで来た事をきちんと届け出てから迎えを呼ぶか、屋敷の使用人に送らせる。


 俺は帝国を守った勇者であり、敵対行為は一切していない。帝国は俺の子供が欲しい。俺の屋敷に来る女性を追い返したりしないし、迎えに来る者を拒んだりしない。流石に忍びこまれれば、目的の女性以外もいるし、使用人を脅す者もいるので、慰謝料として魔力を頂いてから可及的速やかに退場していただく。何も悪い事はしていない。敢えて言えば、思い通りにならない俺に対して姫さん達が苦しんでいる位か?


 姫さん達が泣きながら俺に愛を乞うて来るけれど、心は全く動かない。流石に「あのブサイクのせいで私を受け入れないの」とか「あいつらが死んだらムツキはこの世界を受け入れるの?」と言われた時は怒りで目が眩んだけれど、女子供に手をあげるのは最低の行為だ。弥生に顔向け出来ない事はしない。魔力を集める為の家畜同然の女性達でもだ。


ーーーーーー


 思ったより早く魔力が溜まったな。召喚されて討伐に二年弱、魔力を溜めるのに一年弱。三年の約束に間に合った。


 日本って、ごちゃごちゃしているけれど、綺麗で便利だよな。弥生、俺と一緒にエルロード来てくれるかな。来てくれなかったらどうやって説得しよう。無理に来ては欲しくない。愛する弥生が嫌がる事をする気はない。弥生が来てくれないのなら、このまま死のう。せめて、弥生のいる日本で死ぬ。でも、エルロードの人間になった俺が日本で死んだら、どうなるんだろう。それとも死ねないのか?


「むっちゃん!むっちゃん!大丈夫?怪我してない?元気?外国に行くって手紙に書いてあったけど、どこの外国?子供達は元気なの?」


 施設の会議室に飛び込んで来るなり矢継ぎ早に質問して来る弥生。ああ、弥生、弥生だ。俺の弥生。


「それがね、どうしても話せない秘密って約束したから話せないんですって」

「まあ、睦月だからな。話せなくても施設の評判が悪くなる事は絶対しないって信じてるよ」


 施設に入った瞬間、先生に出迎えられて質問攻めにあったけれど「どうしても話せない」と言えば、それ以上追求せずに弥生に連絡してくれた。

 そうして来てくれた弥生に、エルロードの事を話した。二人で並んで話した土手で。話し下手な俺は、行ったり来たりしながら、時間が掛かったけれど、弥生は黙って聞いてくれていた。妄想じみた話。けれど、弥生は最後まで聞いて、大きく頷いてくれた。


「むっちゃんはいつまで日本に居られるの?」

「魔力が尽きるまで。俺はエルロードの人間になったから、宝玉の魔力が戻るだけの量になったら強制送還される。今迄の減り具合で考えると多分、一週間位かな」


 キラキラと光る握り拳大の宝玉。弥生はそれを目を眇めて眺め、手に取って太陽に翳した。


「二人分だから一週間残ったら足りないね」

「弥生……」

「先生達も弟妹も、会社の人達も大切だよ。けど、このままだとむっちゃんは異世界で一人きりになっちゃうんでしょ?仕方ないなあ。私はむっちゃんの奥さんになる人だから、一緒に異世界に行ってあげる。私一人くらいなら連れていけるよね?無理かな?」

「いや!俺は、俺は、勝手だけれど、弥生に一緒に戻って欲しくて!でも、それは弥生から多くのものを取り上げるから」


 弥生と一緒に居たい。弥生と一緒ならどこに行ってもいい。弥生が居ないのなら、誰も居ないのと同じだ。でも弥生に無理をさせるのは嫌だ。だから、だから……。


「奥さんになるんだから、ちゃーんと連れて行ってね。結婚式もしよう。みんな準備して待っていたんだからさ。ちょっと時間が経ったから、お花の飾りとか変色しちゃったけど」

「俺、俺は、弥生、ありがとう。本当に、ありがとう」

「違うでしょ、愛してる、幸せにする、でしょ?私は知らない所に行くんだから、ちゃーんと守ってね」


 俺は、エルロードで騎士が姫さん達にやる様に、弥生の手を取って指先に唇をつけた。


ーーーーーー


 俺と弥生は施設で結婚式をして、また外国に行かないといけないと先生達に行った。「どこにいても二人は私達の可愛い息子と娘よ」と言う先生達。俺も弥生も、ずっと先生達の子供だ。

 それから役所に行ってエルロードで手に入れた貴金属や金貨を『俺達の家』だった施設に寄付をした。押し付ける様に渡すと、身元を聞かれたが、逃げる様に役所を出て走って走って、追いかけて来る人がいない事を確認してから、路地裏に入って宝玉の魔力を解放した。


 エルロードに戻ってから俺は皇帝に謁見を願い出た。皇帝達に妻になった弥生を紹介し、俺達が住んでいた国では一夫一妻制で、弥生以外を押し付けてくるのなら、何としてでも国を出ると宣言した。城下町の郊外に小さな家を構え、施設で覚えたお菓子作りをしたり、庭でたくさんの花を育てたり。

 俺達が作ったお菓子や、育てた花を売って欲しいという人が多く来た。勇者とその妻のお菓子を食べたり、花を飾ると、気分が穏やかになるらしい。俺達には何の効果も無いからプラシーボなのか純粋なエルロード人にしか効果が無いのかよく分からないけれど。


「むっちゃん、エルロードの食材でラーメンを再現するよ。これだけ材料を集めたんだから、何とかなると思うんだよね」

「なるといいな」

「ちょっと協力してよ」

「分かったよ。ちょっと頼まれごとをしたから、少し出かけるけど、戻ったらやるから。それから、もう一人の体じゃ無いんだから、無理するなよ」

「はいはーい」


 少しふっくらした下腹部に手をあてる弥生。可愛い弥生。愛する弥生。唯一無二の弥生に俺達の宝物が宿っている。俺は弥生を守る為なら何でもする。

 だから面倒だけれど弥生に内緒で、ちょっかいを出して来る相手と穏便な話し合いをする。


「なあ、お前、なんでこんな手紙出して来たの?もし弥生が受け取ったらどうするつもりだったの?それと、俺を家から引き離したかったんだろうけれど、俺の唯一の願いはエルロードで弥生と幸せに暮らす事だ。みんな知ってるのに何で無茶をするんだ?」

「あんな女の何処がいいのよ?皇女の私こそ、ムツキの隣に並ぶべきなの!それなのにムツキが私よりもあんな冴えないブサイクを選ぶから、影で私をバカにする連中が後を絶たないのよ!早く何とかしなさいよ!」

「煩いな。あのさ、俺、元々短気なんだよ。弥生が居なかったら俺は勇者にならなかったし、弥生がエルロードに来てくれなかったら勇者の力と集めた魔力を暴走させて、俺と弥生を引き離したエルロードに与えられる限りのダメージを与えて死ぬつもりだったんだよ。良かったな、俺と屋敷と心中しないで済んでさ」

「なっ⁈ ム、ムツキは誤解しているのよ。同じ世界に住んでいて引き離されたから、あの女がよく見えるのよ。それだけよ。ムツキとあの女は不釣り合いだってみんな言ってるでしょ!」


 はぁ?バカなの?


「みんなって誰だよ?エルロードのみんなか?それならやっぱりみんな殺した方が良いのかなあ。本当にみんなが言っているのなら皆殺しで良いけど、そうじゃなかったら弥生に顔むけ出来ないよなあ。でもな、皆殺しすれば、俺と弥生の二人きりか。誰も邪魔しない二人きり。異世界で手を取り合って、二人きり。良いよなあ、憧れるなあ」


 口角が上がっていくのを感じる。じり、と姫さんが後退りした。


「女神が願いを一つ叶えれくれるって言うから、俺と弥生が幸せに暮らすって願ったんだよ。だからさ、弥生を殺そうとしても無駄だよ?俺を引き離したら暗殺出来ると思った?連れ出して殺せると思った?今頃俺達の家の外で、何人送り込んだのか知らないけれど、全員意識不明で倒れていると思うよ?だって、女神の祝福と勇者の力で守られているからね。知ってた?聖女がさ、直談判しに来たんだよ。それで興奮して弥生に掴み掛かろうとして、そのまま倒れて女神の加護を失ったんだ。あれは大変だったよ、勇者様は貴女なんかにってあたりで倒れてくれたけど弥生が心配しちゃってさ、元々体が弱い人だからってごまかして迎えを呼んだんだ。どうして加護を失ったか、わかるよね?女神の約束である『弥生と幸せに』と相反するから。召喚された俺の願いをダメにすれば、嘘をついた事になって女神で居られないんだってさ」


 都合の悪い事を黙っているのはよくて、嘘をつくのはいけないなんて、女神も変な存在だよな。


「これ以上、俺の機嫌を損ねるのはやめてくれる?俺はこの国を出て行っても良いんだよ?弥生が居れば何でも良いんだ。本当は姫さんを殺したいと思っているけれど、弥生が困るから殺さないだけ」

「う、嘘よ。本当は私を愛しているのに、元の世界に帰れなくて執着しているだけよ。だって、私の方が美しいし、地位だって高いし」

「だから何?」


 本当に面倒臭い。何でこんなバカに時間を使っているんだろう。


「姫さんが欲しいのは不老と倍の寿命、能力高い子供だろ。顔の美醜なんか皮一枚だよ。姫さんだって俺だって、顔の皮一枚剥いだら骸骨だよ。あ、でもそうだな、姫さんの骸骨は汚いだろうけど、弥生の骸骨は純白で美しいんだろうな。見てみたいけど、弥生に髪の毛一筋でも傷が付くなんて、想像するのも辛いから無理か。じゃあ、姫さんの汚い皮、剥がしてみる?」


 喉の奥から絞り出すような汚い音を姫さんが出してへたり込んだので、放って帰る事にした。護衛の騎士達が着いていたけど勇者の覇気とやらで動けなかったらしい。


 さあ、家に帰ろう。それでラーメンを再現するんだ。失敗するだろうけれど、それでも絶対楽しい。だって、弥生と一緒だから。

 可愛い弥生、愛しい弥生。そして俺と弥生のこれから産まれてくる可愛い子供。弥生と子供の為なら何でも出来る。そして俺達は、幸せに暮らすんだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです! ヤンデレはよく分からんと思ってたけど、これは良きでした(´∇`)
[良い点] ヤンデレて本来こういうの [一言] 恋愛対象に危害加える奴らはヤンデレじゃなく、ただの自己中
[一言] 本人には伝えないタイプのヤンデレ…なにがなんでも弥生さんとの幸せのためには手段を選ばないのは清々しいヤンデレですね(^^) 生涯二人は幸せに暮らしてるとこが目に浮かびます♡
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