9話 初めてのお仕事(4)
――ギオラ視点――
「おーい」
気持ち良さそうにして寝ている女性へ声をかける。
彼女は魔狼の群れと一緒にいた女性だ。
今は、ギルドハウスのロビーに設置してあったふわっとんで横になっている。
目立った外傷は確認できない。
恐らく、びっくりして気を失ったのだろう。
ちなみに大量の魔狼たちの死体は、ギルドハウスの敷地内にあった倉庫へ保管した。
当然、馬車に乗せることが出来なかったので、徒歩で4往復して何とか運んだ。
今はニャンが魔狼を、装備品の材料用と食料用に分けてくれている。
食料用の大半は私の魔法で乾燥させるつもりだ。
「きゃっ、な……何⁉」
「やっと目を覚ましたみたいだね」
女性は目を開けると、まるで不審者でも見るかのような目つきでこちらを睨んだ。
「な、何で私の胸を……分かりました。私、今から襲われるんですね。優しくしてくださいね……」
「いや、違います違います。私は心音を確認してただけです」
決して豊満な胸部を揉んでいた訳ではない。
たまたま、安否確認をしていただけだ。
にしても、何だこのチョロインは……相手の暴行を受け入れるの早すぎるだろ。
もっと抵抗してくれ。
そして目を逸らして、頬を染ないでいただきたい。
こんなところ誰かに見られたら、誤解されてしまう。
「ギオラ、あいつは目覚めたか? っていおい、何してんだお前ら」
「あ、いや……胸部の筋肉を確かめてた」
ほらね、絶対誤解されたよ。
この場合、ノックもせずにギルドハウスに入ってきたニャンが悪い。
私は何も悪くはないからね。
「あ、そうゆうことか。相手の実力を見定めてたんだな」
「そうそう。物分りが良くて助かるよ」
何とか乗り切った。
のか?
「あの……もしかして私の早とちりでした? すみません。そうですよね。こんなに顔が良いんですから、相手には困らないですもんね。勘違いして本当にすみませんでした」
「いやいや、誤解されるようなことをしていた私も悪いんです。あ、顔が良いのは間違いないですけど」
「それで……いつまで触っているんですか……」
「あ……」
心寂しいが、ゆっくりと手を離す。
僅かな時間だったが有意義な時間だった。
いつか私もあの高みへ……。
「何度も伺ってしまい、申し訳ありません。ここはどこですか? 私はこれからどうなってしまうのでしょう」
「えっと、ここは――」
そういえば、ここのギルドの名前は何だっけ。
確か、おばあさんに教えてもらった気がする。
が、全然思い浮かばないのでニャンへ目で訴えた。
仕事上手の彼女なら、察してくれるはずだ。
「ん? ああ、このギルドは『サルビアス』って言うんだ」
流石はできる女ニャンだ。
こっそり、グッドサインを送る。
「『サルビアス』――アロマ様のおすすめの! 私、ここを目指してたんです!」
「え? あ、そう」
「私、仕事を探してるんです。だから、このギルドに入りたくて」
「あ、はい」
「あ……私はドレミって言います。自己紹介が遅れました。肉体労働は苦手ですが、事務作業には自信があります。どうか、雇ってはいただけませんか」
話が急展開すぎてついていけていない。
とりあえず、整理しなきゃ。
「ちょっと待っててね」
そう言うと、再度ニャンへ合図を送る。
合図の内容は「ツラ貸しな」といった感じだ。
相変わらず察しのいいニャンは、後についてその場を抜け出す。
「あれどう思う?」
「魔狼のことはポカンと忘れてるみたいだな」
「てことは、被害者というか巻き込まれただけとか?」
「そうだな。特に魔力とか感じないし、召喚魔法とか使ってるとは思えないな」
ニャンの見解は正しい。
召喚魔法は常に魔獣や魔物とのパスを通す必要があるため、微量の魔力が溢れる。
野生の魔物を従えるための調教魔法も同様だ。
「というか、ニャンて魔力の検知とかできるの?」
そっちの方が驚きだ。
町を滅ぼすほどの大きな魔法にもなると、魔法を使うことが出来ない人でも魔力に対して違和感を感じることがある。
しかし、召喚魔法や調教魔法に使われるような微量の魔力を検知するのは難しい。
私ですら、はっきり認識することは出来ないのだ。
「まあ、ある程度はな。出会った時にしていた無駄な詠唱に、気づけるくらいには検知できるぞ」
っておい、無駄な詠唱って言うな。
顔が良い私にとっては、かっこいい詠唱は大事なんだぞ。
というか、無詠唱かどうかも識別できるのか。
これは、検知なんてレベルじゃないな。
「う、うん。ニャンが優秀なのは分かった。それで魔狼の群れと関係ないとして、あの娘どうしようか。ギルドに入りたいって話」
「ギルマスはギオラだ。好きにして良いと思うぞ」
なんて出来た娘なんだ。
正直、事務業務を丸投げしたいだけだったとか言えない。
「ドレミさ〜ん」
「はい! どうでしたか? もしかして、不採用ですか?」
「いえいえ、採用です」
「やったー! 私、また仕事ができるんだ!」
採用の報告をすると、彼女は飛び跳ねるように喜んだ。
おかげで私の視線は釘付けである。
「それじゃあ、これからこの4人で頑張っていこう! 顔が良い私だもの、最高のギルドマスターになるよ!」
私は声高らかに宣言した。
どうせ目指すなら1番。
ギルドに1番とかあるのかは知らないけど。
ここから、私の新しい仕事。
ギルドマスターとしての生活が始まる。
「あのよ。えばってるとこ悪い。4人じゃなくて3人だろ」
「あれ、ニャンにはまだ紹介してなかったけ? さっき、魔狼の死体運んでる時に森で見つけて勸誘したんだよ」
「そんなやついたか?」
「ほら、あそこで黄昏れてるじゃん」
ニャンとドレミは、ロビーの一角へ視線を向けた。
そこには、私にも勝るとも劣らない美少女が窓から外を眺めている。
瞳は青く、どこか儚い。
その繊細な髪は、今にも消えてしまいそうだ。
「鳥さん。美味しそう」
「おい、あいつ。外の鳥見てヨダレ垂らしてんぞ」
色々とゴタゴタしてて更新遅れました。
の割には話がゴロゴロと進んでます。
一応、メインキャラは4人で進めていく計画です。
話が進めば、あのAちゃんやら「インストリア」の方を、サブヒロイン的な感じで登場させるイメージがぼんやりとしています。
まあ、とりあえず早く更新できるようにがんばりますのでよろしくお願いします。