8話 初めてのお仕事(3)
――ギオラ視点――
ニャンと手分けして狼もどきの死体を全て処理した。
せっかくなので正確な数を数える。
狼もどきは42匹、魔狼は10匹だった。
材料としてはもちろん食材としても、生活には困らない量だ。
「一応、辺りに他の魔獣はいないみたいだね」
「昨日はもっと、うじゃうじゃ湧いてたんだけどな」
「てことは、もしかすると統率者がいるのかも」
「統率者? 確かに一理あるな。でも、何のために」
「何のためか……ぼっちで友達が欲しくて、狼もどきを召喚してるやつがいたりして」
召喚魔法を使うことで、魔獣や魔物を従魔として召喚することができる。
野生の魔獣や魔物と契約して従える方法もあるが、攻撃されるリスクあるためあまり人気がない。
「何だそれ。そんなやつ本当にいたら、残念なやつだな」
自分で言っては何だが、そんなやつは残念でならない。
最初の方は友達より従魔がいれば良いと思うのだが、徐々に魔法で縛って言うことを聞かせるという関係に気づいてしまう。
正直、虚しいだけだ。
いや、友達のAちゃんが言っていた話で、私はそんなことしたことないから詳しくは知らない。
「きゃあっっあああ」
広い平原に甲高い悲鳴が響いた。
ありきたりな展開にデジャブを感じるが例に習い、声の方向へ目を向ける。
「そういえば、ニャンと出会った時もこんな感じだったね。流行ってんの?」
「いや、あたしは命の危険を感じて走ってただけで……って、あれやばい!」
「え、土煙で何も見えない」
声のした方向から、土煙を立て何かが迫ってきている。
私の視力だとここまでの情報しか把握できない。
やっぱり、視力はクソなのかも。
「女の人? が狼もどき……いや、魔狼の群れに揺られてる」
「女の人? 魔狼の群れ? 揺られてる?」
彼女の言っていることが全く理解できない。
女の人は悲鳴の主だとして、魔狼の群れ……そんなのあり得るはずがないのだ。
近づいてくる土煙の正体が魔狼の群れ0だとしたら、その数は50は超えている。
下手したら、100はいるのかもしれない。
初級の上位種が50以上……そんなの町の1つや2つ滅んでもおかしくないのだ。
「これどうする? 逃げるか?」
「いや、ここで逃げたら町は滅ぶ」
そんなことあってたまるか。
やっと見つけた私の仕事だぞ。
町が無くなったら、再就職先を見つけないといけないじゃないかよ!
「そうだな。妹のいる町を守らなきゃな。今更だが、あんた気に入ったよ。そんなギルドマスターになら、あたしの命賭けてみてもいいね」
「嬉しいこと言うね。それじゃあ、初めてのお仕事始めますか」
「おう!」
ニャンは腰に帯刀していた短剣を素早く構える。
拳にプロテクターをはめているため、勢いで殴り殺すタイプと思っていた。
魔獣の群れに対して致命傷を与えやすい刃物は、拳よりも有効だろう。
流石の判断力だ。
「私も真面目に戦うかな」
手を叩き、気持ちを切り替える。
自分で言うが、私は強い。
もちろん、顔が良いから。
こんな危険な場面で命を落とすのは、大抵脇役だ。
主人公顔の私は実質無敵だろう。
「わあ? なんだこれ」
「強化魔法だよ。誰が相手でも私がいれば怪我することはないから、気が済むまで暴れておいで」
強化魔法は私の十八番。
何故か、私は強化魔法や状態異常魔法と相性が良い。
化粧ノリが良いように、違和感を感じさせないのだ。
ちなみに、ニャンに付与した魔法は〈高速〉、〈防御〉、〈強拳〉の3つである。
ニャン本来の動きを邪魔しなさそうな魔法を選んだ。
身の丈に合わない力は、逆に弱体化の恐れがあるからね。
「すげえ、動きやすい。よし、試してくる」
その場で軽くジャンプすると、鉄砲玉のように魔狼の群れへと突っ込んだ。
怖いもの知らずにも程がある。
嫌いじゃないけど。
「〈撼天動地〉!」
ニャンは先方の魔狼付近で、強烈な一撃を地面に叩き込んだ。
地響きが鳴り、地割れを起こしている。
まさに、天災の如き威力だ。
あれ?
強すぎないか?
辺境の町にいていいレベルじゃないよあれ。
学院の卒業旅行で王都に行った時に、王国直属ギルドの騎士団を見たことがあるがパワーだけならその比にならない。
いくら私が魔法で強化したとはいえ、常識の範疇を超えている。
「おおおおお、すげえすげえ! 半分の力で殴っただけなのにこの威力。強化魔法ってすげえな」
いやいや、強化魔法はそんなにすごくない。
あんたがすごいんだ。
てか、今ので半分の力しか使っていないのかよ。
バケモンだな。
ニャンはさっきの一撃により負傷した魔狼を、的確に一突で仕留めてまわった。
同時に魔核の回収も忘れずに。
私もニャンに負けじと、まだ動けそうな魔狼に〈麻痺〉を掛けていく。
地割れするような派手さはないが、ニャン以外を対象として指定するという制御力。
そして、魔狼の群れ全体に魔法を掛けるという圧倒的な魔法力。
間違いなく私もバケモンだ。
もっと褒めても良いくらいだぞ。
今回はニャンに免じてこれくらいにしておくけど。
「ギオラ! さっき言ってた、女がいたぞ」
「その人は偶然巻き込まれた被害者か、もしくはこいつらの統率者かもしれない。気をつけて」
「目回してるぞ、こいつ。とりあえず、連れてくか」
女性を抱えたニャンが前線から戻ってきた。
向かい来る魔狼は既にいない。
気づけば、1匹残らず駆逐していた。
思い返せば一方的な暴力で、怪我どころか被害もない。
これがもし、あの王都に攻め入ってたとしたらどうなっていたのだろうか。
この功績は末代まで語り継いで欲しいね。
なんだかんだ遅れました!
やっぱり……て感じですがね。
大雑把にストーリーが進んできて、楽しいです。
良かったら感想や評価、ブックマークを登録してくれると嬉しいです。
泣いて喜びます。
あと、単純に物語の矛盾点や誤字も気になります。
意外と自分だと気づかないのでちまちま直していきたいと思います。
それでは、よろしくおねがいしま