7話 初めてのお仕事(2)
――ギオラ視点――
私は今、平原の上に立っている。
異常事態発生とのことで原因の解明、調査のためだ。
早くギルドハウスに戻って、ふわっとんに包まれたい。
はい。
「おーい、聞いてるか?」
「あ、聞いてる聞いてる」
「それでさ、ギオラと出会う前に100匹ぐらいの狼もどきに遭遇してさ」
横に並んで歩いているニャンの口から、聞いたことも見たこともない話が溢れた。
短い付き合いでも分かるほど、彼女は素直で真っ直ぐな性格だ。
おそらく嘘ではないだろう。
にしても、狼もどきが100匹って……。
こんな自堕落な性格をしている私と言えど、学院に通っていた。
一般的な知識は持ち合わせている……はずだ。
まず前提として獣から魔獣、魔物まで一般市民の危険に値すると判断された種は、ギルド協会が危険度を設定している。
危険度は5段階に分類されていて、ギルドに所属する冒険者が指標とされている。
危険度レベル1、通称初級。
主に大型の獣が多く分類されていて、並の実力者なら苦もなく相手にできるレベルだ。
今回調査の対象になった狼もどきも初級に属している。
危険度レベル2、通称中級。
小型の魔獣、魔物が多く分類されていて、並の実力者がパーティーを組んで戦えるレベルだ。
万が一、対象が複数いた場合は逃げることを推奨されている。
このレベルから、死のリスクを伴う。
危険度レベル3、通称上級。
大型の魔獣、魔物が多く分類されていて、ギルド単位で討伐を目指すレベルだ。
このレベル以上に分類されている魔獣や魔物は基本的に群れることはない。
しかし、もし数匹で活動しているところを発見した場合はギルド協会に報告する義務が発生する。
その場合戦闘を避け、逃げなければならない。
他にも上級を超える特級や伝説級があるが、学院ではテストにすら出てこなかったため覚えていない。
確か、ギルド協会が各ギルドの精鋭を招集して、討伐班を結成する危険度だったはずだ。
この危険度は基本的に、討伐対象が1匹、多くても3匹を想定してる。
つまり、ニャンの話通り100匹の狼もどきが出現していた場合は異常事態だ。
少なくとも、危険度は上級と仮定できる。
ギルド単位での討伐……このギルドには私とニャンの2人しかいないという事実を無視すれば、今回の討伐もギルド単位に含まれるだろうか。
ちなみに、何故思い出したかのように知識をひけらかせてるのかと言うと、ギルドに関する知識を補うために、「猿でも分かるギルドマスター」という本を町の道具屋で買っておいたからだ。
このふざけた題名は置いといて、内容は割としっかりとしている。
まさに、引きこもりがギルドマスターになった時のための入門書だ。
この本を読んで知ったのだが、このギルドは他のギルドに比べて圧倒的に人数が少ない。
通常のギルドは、最低ラインで10人ほどの冒険者と2人の事務員で構成されているらしいのだ。
私を事務員兼冒険者としても、人数差は絶望的である。
その点を加味して考えると、この調査は危険だ。
だが、止めるつもりはない。
だって私は顔が良いから。
というのは今は関係ないな。
いや、大事だ。
顔が良い私に、ニャンがどこまで付いてこれるのか判断する良い機会だ。
試すと言えば聞こえが悪いが、ギルドマスターという職に就いたからには従業員との相性を見極める必要がある。
これから、長い付き合いになるかもしれないからね。
「ほら、あそこだ。死体が山になっているだろ?」
ニャンは前方を指差した。
指の先にはゴマ粒ほどの塊しか見えない。
「えっと……この距離見えてるの?」
「ん? 見えないのか。まあ、どうせ近づくから見えなくても大丈夫だな」
どこかで聞いたことがある。
身体能力、五感全てが優れた種族がいると。
もしかすると、ニャンはそういった種族の生まれなのかもしれない。
まあ、私の視力がクソという可能性もあるが。
「本当にあるね」
「お、やっと見えてきたか」
「ちなみにあれ、全部死んでるんだよね」
「ああ、こう見えてあたしはギルドで1番強いんだ。間違いない」
「いや、ギルメンあんただけやん」というツッコミは、野暮なので控える。
それにしても、すごい景色だ。
大量の狼もどきの死体が山のように積み上げられている。
ざっと数えても、その数は50を超えていそうだ。
中には狼もどきの上位種である魔狼も紛れている。
狼もどきとは違い、大きな牙がはみ出ているのが特徴だ。
上位種というだけあって、魔狼は初級の中でも危険と言われている。
と、本に書いてあった。
これを全て倒したと言うのだから、ニャンはかなりの実力者とみて間違いない。
だが――
「ニャン……魔獣を倒す時は核を取り出さないと駄目だよ」
「核ってなんだ? 食べれんのか?」
「核は食べ物じゃないからね。よく見てて」
判断力、実力共に申し分ない。
しかし、ニャンには一般常識にあたるものが足りないと推測できる。
無惨にも放置された魔獣の死体。
きっと彼女は、生きるためにクエストをこなしてたため他の命に対する敬意が薄い。
まず、死体の山に近づくと〈私綺麗〉の応用進化形である〈お前汚え〉を発動させた。
3属性の魔法が無駄なく、死体の山を浄化していく。
「この生物たちは今死んだ」と言っても疑われないレベルだ。
もちろん、外面だけだが。
あ?
誰が私みたいだって?
そして、ニャンに教えるように狼もどきの腹部を切り開く。
さらに、狼もどきの腹部に手を突っ込み。硬貨ほどの大きさの石を取り出す。
この石こそが、狼もどきの核となっていた魔核である。
「すげえ、狼もどきの中にそんなのが入ってたんだな」
「今度から魔獣や魔物を討伐した際は、この石も回収するように」
「分かったぜ、ギオラ。やっぱり、ギルドマスターなだけあって物知りだな!」
「そうでしょう? もっと褒めてくれてもいいよ」
「おう!」
「え……それ以上褒めないの」
「あたしも今のやってみる!」
「そう……あ、尖ってるから手とか切らないように気をつけてね」
ちなみにこの魔核を取り除くことによって、魔獣は獣に変わる。
魔核取り除かない限り、魔核から伝わる魔力により魔獣は死なない。
死なないと言うよりも死ねないのだ。
致命傷を負った場合、体は動かないが心はそのまま残ってしまう。
その生命を安らかに眠らせるために、魔核を取り除くのだ。
口うるさいお父さんの受け売りだが、私もこの行為は絶対だと思っている。
補足だが、魔物から魔核を取り除くと消滅する。
魔物は本来存在することのない異形の生き物だからだ。
魔核を取り除いても実体を保っている例外が魔族という説もあるが、私は興味がない。
上級とかにルビふってるのは、なんとなくです。
今後はルビなしで書いていくので、誤字ではないです。
あと、ギオラの魔法に関してはオリジナル魔法なので彼女の感性に従ってます。
では、次の話を書いてきます。