表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/46

6話 初めてのお仕事

――ギオラ視点――

 顔が良い私は思った。


「ギルドマスターって、何をする仕事なんだ……」


 ギルドメンバーと遭遇した高揚で、ギルマス宣言したは良いものの仕事内容が分からない。

 仕事を紹介してくれたおばあさんは、仕事の名称と場所しか教えてくれなかったのだ。


 詳細な話を聞いていない私も悪かったが、引き継ぎはちゃんとしてくれよ……。


「ま、いいか。寝よう」


 ギルドメンバーであるニャンに町を案内してもらったおかげで、目的地のギルドハウスには辿り着けた。

 ギルドハウスの中は、綺麗に掃除されていたため、私の快適魔法の出番はない。

 つまり日の落ちた今、私に出来ることは惰眠を貪ることだけなのだ。


 ちなみに、食事は既に済んでいる。

 ニャンと顔合わせがてら、店を回っている時におすそ分けと称して様々な食料を提供してもらったからだ。


 ギルドハウス1階のホールに「インストリア」で購入した、ふわっとんという簡易ベッドを広げた。

 特殊な植物を使用して作っているらしく、床に敷くとふわふわのベッドとなる優れものだ。

 折りたたむだけで、ポケットに収まるサイズになり持ち運びにも適している。


 ベッドも準備出来たところで、寝間着に着替える。


 服を脱いだ瞬間に、水属性と風属性、さらには火属性の魔法を同時発動させた。

 体を洗うためである。


 服を脱ぎ捨て、即座に水属性の魔法で汚れを落とす。

 汚れが落ちたら、体が冷えないように火属性の魔法で温めた。

 そして、最後に風属性の魔法で乾燥させる。

 1秒もかからぬ間に、全身を洗浄することが出来た。


 この方法は、無詠唱で魔法を発動できる私にしか出来ない、究極の体の洗い方だろう。

 私はこの複合魔法を〈私清潔(ウオッシュ)〉と名付けて愛用している。


 何故わざわざこんなことをするのか。

 もちろん、水浴びや風呂に行ければ良い話なのだが、私ほどの顔の良さになるとその行為は危険を伴う。

 万が一、私の美しい裸体を目に入れたのならば、性を問わず変な気を起こす者が現れるはずだ。


 美しさとは時に罪。

 決して、動くのが面倒な訳ではない。


「寝心地さいこ〜、おやすみなさい」


 ふわっとんへ飛び込み、ゆっくりと瞼を閉じる。

 ギルドマスターの仕事内容について思うことがあるが、明日のことは明日考えよう。

 だって私は顔が良いから、誰かが何とかしてくれるさ。


 ――――――――――――――――――――


「おーい、起きてるか?」


 聞き覚えのある声が、頭に響いた。

 重力を感じさせる頭部を起こしながら、瞳を開く。

 見慣れない部屋で目覚めたからなのか、寝起きだからなのかもう1度眠りにつきたくなる。


「新しいギルドマスターいないのか?」


 ドア越しの客人が引き下がる様子を感じ、しめしめと布団を被る。

 腹が減っては戦が出来ないように、私も眠らないと仕事が出来ないのだ。


 決して、動くのが面倒な訳ではない。

 あれ? 

 このセリフどこかで聞いた気がする。

 まあ良い、私はもう1度寝ると決めたのだ。


「って、いるじゃねえか。新しいギルドマスター」

「ひぁっっ」

「驚かせちまったな。悪い悪い。いつもの癖で、裏から入っちまった」

「いや、問題ないです。それより、新しいギルドマスターという呼び方は不便です。私のことはギオラと。ニャンさんの方が、このギルドでは先輩なのですから」


 思わずびっくりして、変な声が出てしまった。

 だが、咄嗟の問いかけに対して完璧な返しを披露できるとは流石の私だ。


 さらに、反射的に布団で寝間着を隠し、秘奥義の早着替えを発動していた。

 〈私清潔(ウオッシュ)〉を応用して、寝癖まで直す徹底ぶり。

 私が私でなかったとしたら、この手際の良さにうっかり惚れている。


「それなら、あたしのこともニャンで良いし、畏まった話し方はなしだ。普通の話し方にしてくれ。改めてよろしくな、ギオラ」

「分かった、それならこれからはいつもどおりの私で接するようにするよ。よろしく、ニャン」

「おう、それで何だけどさ。朝から昨日のクエストの異常事態宣言を出そうと思って」

「ほうほう、仕事熱心なのは良いことだ」

「お、おう。普通にしてとは言ったけど、切り替え早いな」


 私は初対面の人には失礼な態度を取らないように教育された。

 何故なら、顔が良いから。


 お父さんはことある度に、私を叱った。

 顔が良いだけで、他はクソだと。

「スレンダーなプロポーションも宝具レベルじゃい」と、言い返したのに鼻で笑われた時は家をぶっ壊しそうになった。


 そんなこんなで内面を悟られないための、外面教育が徹底されていたのだ。

 だから、初対面の相手には丁寧に対応してしまう反面で、それを解除されたときには即座に馴れ馴れしい一面が現れてしまう。


「話を戻す。多分、ギオラも見ていたから分かると思うんだが、町の付近に上位種である魔狼が数匹も発生していた。しかも、平原にはクエストの討伐数を遥かに超える量の狼もどきもいたんだ。これはギルド協会の定める異常事態ってやつだろ? だから、報告しようと思って」

「ほうほうほう。なるほどなるほど」

「就任してすぐで悪いが、協会に調査の依頼を頼む」


 野蛮そうな性格に見えて、ニャンは仕事が出来る系なのだろう。

 私だったら放置している事案だぞ。


「もちろん、と言いたいところなんだけど。それ、私には出来ない」


 当然、引き継ぎも何もしていない私には何も出来ない。

 やり方も知らないし、そもそもギルド協会とやらがどこにあるのかも分からないのだ。


 正直に、事実を話した私は偉い。

 実は内面も良くなっているのでは?


「そうか……」

「申し訳ないね」

「それもそうだよな。報告なんてしてたら、その間にこの町に危険が及ぶかもしれない。あたしも妹に危険な目に遭って欲しくないからな」

「え」

「ギオラの言う通り、あたしたちで解決しよう。あんた、強いだろ? 多分あたしと同じくらい。だったら、ギルド協会のやつらを待つ必要もないよな」


 あれ?

 私そんなこと言ったけ?

 というか、これって私もクエストに参加する流れなのかな。


 ギルドマスターって、椅子に座ってるだけの楽な仕事じゃなかったのか。


 こうして、ニャンとの話し合いはすれ違ったまま終わった。

 そして私はこの後、ニャンと共に平原の調査をすることになったのだ。

 ギルドマスターになって初めての仕事が始まる。





こんばんは。

意外と、いいペースで書けてます。

いつまで続くのやら……。

明日明後日は、時間があるはずなのでスラスラ書ければ2話更新を目指してみます。


5話はタイトルを変えただけで、内容に変更はありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ