41話 王国騎士ギルド(2)
――ギオラ視点――
「お父さんが最初から顔を出してくれれば、ロコとモコだって暴れなかったのに」
「悪い悪い、せっかくだからそいつの実力を見せてやりたくてな」
お父さんの目線の先は当然、緑髪の少女だ。
確かに彼女の実力は素晴らしいものだった。
「以前の王国騎士ギルドとは違う」と、誰もが思うだろう。
「ギオラ様! やっとお会いできました」
私の視線に気づいたのか、緑髪の少女は私を見るなり、すぐさま飛び込んできた。
私とは初対面のはずなのだが、その瞳はキラキラと輝いている。
「え、ええ。初めまして」
「あああ、申し遅れました。オイラの名前はドラン・テイル。スラムの育ちでやがりますが、以後お見知りください」
「はい、こちらこそ?」
今、スラムと言った?
王国騎士ギルドに入団する条件には、家元が明確である必要があったはずだが。
「面白いやつだろ? そいつは俺が試験して、無理やり入団させたんだ。ドランは、お前がドラゴンを追い払ったことに感動して、志願してきたんだよ」
なるほど、この男は王国騎士ギルドの伝統をぶち壊してるのか。
お父さんの性格を熟知している私だから、何となく分かる。
きっと、今までの決まり事を全て撤回して、効率よく騎士たちの強化を行ったのだろう。
そのためには、以前の経歴よりも今の実力を優先させる。
実に、お父さんらしい。
「それで、どうしてお父さんは王国騎士ギルドのギルドマスターなんてやってるの? 私、聞いてなかったんだけど」
私はお父さんがギルドマスターになっているなんて、知らなかった。
何なら、プシュワの発言が虚言と思えるくらいにはありえないと思っていた。
私の知っているお父さんは、群れずに1人で黙々と依頼を熟す冒険者だったからだ。
「そうだな、話すと長くなるからな。とりあえず、俺たちと一緒にインストリアまで来てくれ。別にお前たちを捕らえようって理由じゃない。ただ、今はこの国の現状を説明する必要がある」
「私は良いけど、皆は平気?」
静観に徹していたニャンやドレミに問いかける。
いくら、私のお父さんの提案とはいえ、ニャンたちにも冤罪をかけられる可能性はある。
実際に、ギルド協会が行った私への対応はそんなものだった。
だから、「インストリア」に辿り着いた途端にギルド協会の連中に囲まれるかもしれない。
「は、はい! 私は大丈夫です」
「あたしも大丈夫だ」
「私めは主様に従います」
「ウレレは――」
ウレレはぐっすりと寝ていたため、返事がない。
まあ、ウレレなら大丈夫だろう。
何かあっても転移で帰れるし、魔術はとても強力だ。
「それじゃあ、皆で行こうか」
一緒に戦ってくれた「アニマーレ」の住民たちは、「アニマーレ」へ帰ることになった。
ギルドハウスに残ったフォンに寂しい思いをさせたくないそうだ。
「好きな馬車に乗りやがれです」
ドランに馬車の元へと案内してもらった。
流石は、王様が管理するギルドだ。
上質な馬車が、何台も用意されている。
というよりも空間魔法か何かで、取り出したのかもしれない。
ニャンたちも同じ馬車に乗るように勧めたが、気を利かせてくれたようで、私はお父さんと2人切りで馬車に乗ることになった。
お父さん以外の騎士たちは皆、騎乗し護衛を務めてくれている。
そして私は、馬車の中でお父さんからこの2年間の話を聞いた。
思い返してみれば、私が部屋を出たその日に家を出ることになったため、ここ2年間はろくな会話をしていなかった。
僅かな時間だったが、私にとっては有意義な時間を過ごすことが出来た。
ちなみに、お父さんが王国騎士ギルドのギルドマスターになった理由は、とてもお父さんらしい理由だった。
ドラゴンから王都を守ったのが私だけだと知って、王国騎士ギルドに乗り込んだらしいのだ。
そして貧弱だった王国騎士ギルドの団員たちにお父さんを止める術はなく、見事に壊滅。
本来ならそれこそ国家転覆罪だが、その心意気を買った王様がお父さんを王国騎士ギルドのギルドマスターに任命という嘘のような結末に落ち着いた。
何というか、ただの親バカだ。
でも、私を愛してくれていることはよく伝わった。
「――それで、エレクさんはオイラたちを毎日しごきやがるんですよ」
お父さんとの話が一息ついたところで、声をかけてきたのはドランだった。
わざわざ、私たちが乗っている馬車に馬を近づけて並走している。
私に気があるのか、熱心に語りかけてくる気がする。
「あんた本当にギルドマスターの娘か?」
「見えねえよな」
「だって、こんなに美人さんなんだからな」
「あのギルドマスターにこんな綺麗な娘がいるわけねえ」
ドランを皮切りに、他の団員たちも代わる代わる馬車へと近づき、声をかけてきた。
気になってはいたものの、件の一件で私から嫌われていると思っていたらしい。
言葉使いからも、彼らが貴族の出ではないことはすぐに分かる。
きっと、ドランと同様にお父さんが勝手に引き入れたのだろう。
声をかけてくれる騎士は護衛を務めていた騎士の半分程度で、どの騎士もお父さんのことを褒めていた。
どうやら、私のお父さんは皆からとても頼りにされているようだ。
これは娘として鼻が高い。
残りの半分の騎士だが、別にお父さんと仲が悪い訳では無さそうだ。
装いは皆同じでも、その騎士たちは共通して気品で溢れている。
つまりは、貴族に近い存在なのだろう。
私の視線を避けていることから、近寄らない原因は私で間違いない。
先の騎士たちを見る限り、王都での一件を気にしているのかもしれない。
何はともあれ、お父さんの職場が楽しそうで何よりだ。
楽しい会話に夢中になっていたが、気づけば「インストリア」の正門が顔を覗かせていた。
こんな平和な時間が続けば良いと思ったが、私はお尋ね者の身だ。
ここから何が起きるかは分からない。
ただ、良いように転んでほしいと願う。
早ければ次の話で、乱戦が終わると思います。
そしたら、前半部分を編集しようかと迷っています。
見直してみると、おかしい部分や誤字がたくさん見つかるので辛いです。
では、次もよろしくおねがいします。