40話 王国騎士ギルド
――ドレミ視点――
ハイトを無力化したことで、勝利を噛み締めていたのも束の間、新たな刺客が目の前に現れた。
「我らは王国騎士ギルドの『エビネ』だ」
名乗りの通り、現れたのは王国騎士ギルドだった。
王国騎士ギルドというのは王直属の国営ギルドのことで、ギルド協会からの指示ではなく、王の指示でのみその武力を執行する。
と言っても、各地の学院の優秀生を集めて編成しているため、実戦経験は少ない。
だから、有能かと問われれば答えは濁さざるを得ない。
国民からの支持と、社会的地位が約束されるのは間違いないため、学院に通う生徒が目指す存在ではある。
だが私は王都がドラゴンに襲われた時に、民を見捨てる彼らを見ていた。
そんな私には、彼らに対する敬意も無いし、畏怖も無い。
「ギオラ先輩、隠れててください。ここはロコとモコで何とかします」
「え、でも」
「王国騎士ギルドなんて、クソです。事情を聞かずにギオラ先輩を捕らえるでしょう。ロコはもう、ギオラ先輩に辛い思いはさせません」
「だから」
「逃げて欲しいっす。こう見えて、自分とロコは王都での出来事を後から知って落ち込んだんすよ。だから、もし次があるなら、ギオラパイセンの力になるって決めてたっす」
「そういうことだから、ギオラ先輩のことは頼んだわよ。ドレミ!」
ロコとモコは私を隠すように、王国騎士ギルドの前へ立ち塞がった。
「ここから先に進みたければ、ロコたちを倒すことね。まあ、お前らみたいな腑抜けに倒せるはずが無いけど」
「そうっすね。ギオラパイセンに全てを押し付けたクソ野郎どもなんて、自分たちの足元にも及ばないっすよ」
2人とも口が悪い。
恐らく、どこかで王都で起こった事件の話を聞いたのだろう。
王国騎士ギルドのことを邪険にしているあたり、アハロが伝えたのかもしれない。
私からは、王国騎士ギルドに対して恨みなど無いのだが、この2人の姿を見ていると心が暖まる。
だけど、今はホッとしていられない。
早くこの2人を止めなければ。
「ちょっと待って、2人とも」
「止めないでください。ロコたちはこのためにここに来たんですから。行くよ、モコ。〈火炎渦〉〈水流波〉〈土竜巻〉」
ロコとモコは感情的になっているため、私の一言では止まらない。
そして、ロコの放った魔法が王国騎士ギルドの兵隊たちへと飛んでいった。
私の知っている彼らの実力だったら、怪我では済まない。
下手したら、死人が出てしまう。
「これを受けたらエレクさん以外は死んじまいますね。仕方ないので、オイラが庇うですよ」
魔法が王国騎士ギルドを飲み込むその直前、緑髪の少女が隊列を乱し、前へと歩みだした。
その手には大きな盾を装備している。
ロコの放った魔法は盾1つで防げる規模では無いが、彼女の表情に恐れはない。
私のことを鏡で見ているような、圧倒的な自信を感じる。
こっそり魔法の壁でも張って、守ってやろうと思ったのだがその必要は無さそうだ。
「汝、我に従いて仲間を守れ〈竜の顎〉」
彼女のどこか威厳のある詠唱に応えるように、巨大な竜の顎がロコの放った魔法を噛み砕いた。
魔法を相殺したというより、魔術と同じで無効化したという表現がしっくりくる。
要は、この緑髪の少女にはロコの魔法を完全に完封できる程の実力がある。
きっと、王都の一件以降に王国騎士ギルドへ加入したのだろう。
彼女があの時あの場所に居れば、私と一緒に戦っていたかもしれない。
「これが『ルドベ』のロコさんですか。噂通りの実力でやがりますね」
「よそ見っすか」
「うわっ」
「魔法使いにしては珍しい武器っすけど。自分の攻撃は防げるっすかね」
既に全身を強化しているモコが、緑髪の少女へ突撃した。
その速度も然ることながら、その攻撃力は絶大だ。
並の魔法使いでは、捌ききれない。
今度こそ、私が力ずくで止めに入る必要がある。
「汝、我に従いて我を守れ〈竜の鱗〉」
「無駄っすよ。防御なんて――痛いっす⁉」
モコは緑髪の少女の足元へ、強引に蹴りを入れた。
しかし、痛みを負ったのはモコの方だった。
「オイラのこの足を蹴っても、骨が折れないなんてなかなか頑丈に作られてやがりますね。流石は『ルドベ』のモコさんです」
「硬いっす。本当に人間すか?」
緑髪の少女のおかげで、暴走していたロコとモコの手が止まった。
この状態ならば、私の声も届くはずだ。
「そこまで! とりあえず、ロコとモコは落ち着いて。この人たちはまだ、私たちに何もしていない。戦うのは、まず話を聞いてからでも遅くないでしょう」
「ギオラ先輩……」
「でも、ギオラパイセンはお尋ね者っすよ……」
「2人が私を心配してくれてるのは分かったから。でも、大丈夫。多分だけど、2人が思っているような展開にはならないからさ」
ロコとモコが戦っていてくれた分、周囲の状況はよく観察出来た。
昼寝を始めてしまったウレレや、状況が飲み込めていないニャンたちには申し訳ないが、もう少しだけ私に時間を割いてもらおう。
緑髪の少女を見ても分かる通り、王国騎士ギルドは既に私の知っているギルドではない。
そして、私は「インストリア」でのプシュワの話を思い出した。
犯罪者の言葉を信じるのは癪だが、彼女の発言を信じるとすれば、このギルドの現在のギルドマスターは私の見知った人物である。
「まさか、お前にこんな一面があったとはな。可愛い娘には旅をさせよだったか。家から追い出して、正解だったよ」
何度も聞き慣れたその声、身内贔屓なしに整ったその顔、紛れもない私のお父さんだ。
聞き捨てならないことも吐いているが、今は許そう。
今まで、騎士団やらと言っていましたが騎士ギルドで確定です
では、次もよろしくおねがいします。




