4話 出会い(3)
――獣人の娘視点――
「あんた、何でこの町に来たんだ? こんな辺境の町、何もないだろう」
気づけばあたしは、目の前の顔が良い少女に話しかけていた。
当の少女は、問の答えを思い出すように呆けている。
こんな少女が、数匹の魔物を一瞬で無力化したというのだからおかしくて仕方が無い。
「何のために来たんですかね。一応、仕事のためというところですかね」
「仕事? この町でか? やめたほうがいいぞ。この町の住民はよそ者にあたりが強いんだ」
「大丈夫ですよ。私、顔が良いので」
「はあ、まあ、手を貸してもらった礼だ。案内してやるよ」
「ありがとうございます。やっぱり、顔が良いと得ですね」
えっへん、とでも言いたげに彼女は胸を張っている。
これくらい図太ければ、案外この町の住人とも打ち解けられるかもしれない。
「それで、あんたはどこに行きたいんだ?」
「この町のギルドに用事があるんです」
「ギルドか、分かった。ついて来い」
彼女のリクエスト通り、ギルドハウスへと案内する。
小さい町だが、地図のないこの町で目的地まで辿り着くのは大変だろう。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はギオラ。あなたは?」
「あたしの名前はニャン。ちょうど、あんたが目指してるギルドの唯一のメンバーさ」
「ギルドメンバー……なるほど、私たち縁があるのかもしれませんね」
そう言うと、少女は息を漏らすように微笑んだ。
何だか別世界の人という第一印象だったからか、少女らしい仕草には好感が持てた。
ギルドへ案内するついでに、近くにある店も紹介して回ろうと思う。
小さい町の癖に飲食店から、武具防具店まで意外と需要のある店が揃っている。
この町の住民はあたしたち姉妹を邪険に扱っている。
しかし、利益が無いのにも関わらずあたしに防具や武具を提供してくれたり、お金さえ払えばこちらが不利になる取引を行うことはない。
この些細な矛盾がいつも、心の隅で引っかかっている。
「案内ありがとうございました」
時間を忘れたように町を案内していると、いつの間にかギルドハウスの前に到着していた。
「いいや、あたしも久しぶりに楽しめたよ。なんか、困ったことがあったら、あたしが助けてやるから気軽に声をかけてくれよ」
「はい、頼りにしてます」
ギルドに向かう少女に背を向けて、家の方へと足を向けた。
あたしの家はギルドハウスの真後ろにあるため、ぐるりと回る必要があるのだ。
弾む気持ちを抑えながら、ゆっくりと歩みだした。
すると、後ろから――
「そういえば! 私がこのギルドの新しいマスターです! ニャンさん、これから宜しくお願いしますね!」
その顔には似合わない、元気な声がギルド前の広場に響き渡った。
なんなら、手まで振っている。
「おう!」
あたしは感情を隠すように、短い返事で答える。
ギオラがギルドマスターという事実になんら不思議はなかった。
むしろ実力的に見て妥当だろう。
ギオラが魔法を発動していた時の魔力の集まり方は異常だった。
詠唱を行う前から、魔力の流れが発生していたのだ。
おそらく、ギオラは魔法を発動するために詠唱を必要としないはずだ。
詠唱を必要としない魔法使いなんて聞いたことがない。
今まで他のギルドの魔法使いと遭遇したことがあるが、ギオラはその比じゃない。
つまり、圧倒的な実力者ということだ。
もちろん、ギルドマスターに強さは関係ない。
ギルドマスターに求められる仕事は、ギルドメンバーを管理し支えることだ。
だが、大抵の冒険者の心は強い者に従うため、最低限実力は求められる。
ギオラのような実力者がこの町に来た、ということはババアの後任としか考えられない。
だから、心の準備は出来ていた。
そんなことを考えながら、家の前まで歩いていると自然と足が弾んでいた。
抑えていたはずなのに、感情が溢れていたみたいだ。
それも仕方がない。
だって、あたしの日常は今日から変わる。
心が、身体が、確信していた。
「おねえたん、おかえりなちゃい。今日はにこにこ〜!」
「え、あたし笑ってた⁉」
「うん!」
「そっか……ふふ、そうだね。お姉ちゃん、これからもフォンのために頑張るからね」
「ありがと〜!」
フォンの頬をなでながら、ただいまのハグを交わす。
家を出た時の焦りはなく、清々しい気持ちで。
こんにちは、毎日更新するはずが意外と時間が取れなくて出来ませんでした。
この話は後で見返して、大幅に編集するかもしれません。
では、よろしくおねがいします。