35話 共闘関係(2)
――ドレミ視点――
「主様がご無事で何よりです」
「はい、ファザーさんこそ」
北の平原に到着してから10分程、私は日陰で休んでいた。
酔いを覚ますためだ。
ファザーさんの献身的な介抱のおかげもあって、すぐに気分は良くなった。
「それよりも、これを1人でよくやったな」
「圧巻っすね」
「ロコでも、ここまでしないわよ」
ニャンさんたちの視線の先には驚きの光景が広がっている。
私も酔っている時に、その光景を見たため目を回してしまった。
なんと、ファザーさんの戦った相手の数は200を超えていたのだ。
だが、そんなことはファザーさんには関係がなかったようで、その特徴的な純白の燕尾服は汚れていない。
つまり、服を汚さずに勝利するほどの実力差があったということだ。
そして圧巻の光景の正体とは、200の軍勢が等間隔で整列し、姿勢を正しながら正座をしていたのだ。
体育の授業で行った集団行動とは比較にならない程の、統一感を放っている。
が、1人1人の服装に焦点を当ててみると様々なグループが集まっていることが分かるため、この統一感の異様さを直感した。
また、人々の色は失われ、宗教的な念すら伝わってくる。
「って、ロコさんとモコさんじゃないですか! 助けてくださいよ!」
川の流れを遮るように、中央にいた女性が姿勢を崩し声を上げた。
その女性の目には、僅かだが英気が漏れている。
「サブマスちゃんじゃないっすか」
「あら、生きてたのね」
「私めは1人も殺してはおりません。ただ、戦意を喪失させただけですので。それにしても、あの者、和を乱すとはなかなか見所がありますね」
「サブマスちゃんは苦労人だから、これ以上の圧は辞めて欲しいっす」
「そうね、凡人にしてはよくやっていると思うわ」
「承知いたしました。では、後にこの場で決戦になるようですので、大量の兵士率いて帰還していただきましょう」
「鬼っすね」
「ドレミの眷属と紹介してもらったけど、なかなかいい性格してんな」
「汝に使命を与える。退軍せよ」
「仰せのままに」
ファザーさんの言葉を聞いた女性の目は虚ろへと変わった。
そして、ファザーさん与えた使命を全うするかのように、兵を率いて「インストリア」へと繋がる1本道を進んでいった。
大量の兵士がいたというのに全ての兵が退軍するまで、さほど時間はかからなかった。
「恐ろしい力っすね。味方なら頼もしい限りっすけど」
「ロコの見解だと、多勢に対して真価を発揮するタイプって感じね。実際に、アハロ先輩には負けていたみたいだし」
「モコ様のお見立て通りです。私めは幻獣種の中でも、聖獣に分類されています。ですから、格の違う者であれば問答無用で従えることが出来るのです」
「ドレミさんの眷属じゃなかったら、相手になったんすけどね」
「この光景を見ても挑まれるというその武勇、流石です。お手合わせとなれば、この争いが終わればいくらでも相手になりましょう」
「約束っすよ」
「ええ、是非とも」
意外なことに、ファザーさんは双子ちゃんとしっかりとしたコミュニケーションを取っている。
もしかしたら、ファザーさんは幼い子どもが好きなのかもしれない。
ファザーという名前にぴったりだ。
「気づいてるか?」
「もちろんっす」
「どうしたんですか?」
「こら、ドレミ。こういう時は分かったフリをするものよ」
「はい、主様。空気感は大事です」
ニャンさんたちは、何かの気配を感じ取ったらしい。
目を凝らして辺りを見渡したが、私にはよく分からなかった。
「主様、向こうの茂みを御覧ください」
「は、はい……」
キョロキョロと挙動不審な動きをしていた私に、ファザーさんは優しく耳打ちしてくれた。
突然のことで、ドキッとしたとは言えない。
ファザーさんの示した場所を凝視する。
そこには、平原とは独立した林が存在していた。
独立と言っても、不自然なものではない。
ただ数本の木が生えていて、平原よりも草が生い茂っているだけだ
「何も見えません」
「正解です。主様」
「え?」
ファザーさんの言っている意味が分からなかった。
私はありのままの事実を伝えただけなのだ。
これが正解?
「汝、我に従いて虚を晴らせ〈聖炎〉」
詠唱と同時に青い炎が吹き出し、辺りの木々を燃やし尽くした。
様に見えたが、青い炎は何も燃やしてはいない。
燃えていいたはずの草木はそのまま存在している。
「今、確かに燃えていたのに……」
「見ようとして、見えないということは何かがそれを阻んでいたということです。主様の場合は、違和感の正体が分からないという意味だったかもしれませんが」
明らかに、ファザーさんの指摘の通りだ。
注意深く茂みを見ていても、何がおかしいのかさっぱり分からなかった。
違和感を違和感として、認識することすら出来ていなかったのだ。
「要するに、姿を眩ませるための結界というものでしょうか。ですが、私めもまだまだですね。その結界を壊そうとしたのですが無効化されてしまいました」
「ギルド協会支部長は伊達じゃないってことっすね」
「ええ、そうでしょうね。魔法では無いようだし、ハイトで確定よ」
「皆、気を引き締めろよ。あたしとモコが前線に立つ。ドレミとロコとファザーさんは後ろで援護してくれ」
「承知致しました。必要であれば、いつでも交代出来ますので」
「おう」
今度は間違わないぞ。
明らかに臨戦態勢という、空気が流れている。
空気感は大事と言っていたし、私も顔面をキリッとさせよう。
そうだ、まずは雰囲気を作らなきゃ。
「じゃあ、行くぞ」
「何だか、緊張するっすね」
2人は恐る恐る、茂みへ近づいていく。
その後を追うように、私たちを後ろから見守る。
「うわ、動き出したっす」
茂みまで3歩程の所で、それは不自然に動き出した。
形を変えるように、あるいは蛹を破る蛾のようにそれはもう奇妙な動きだ。
「――ぷは〜」
「――ギオラさん、登場!」
「ウレレちゃん!」
「ギオラ先輩!」
終わり方が雑になりました。
もしかしたら、後で編集するかもしれません。
それでは!
次もヨロシクオネガイシマス。




