30話 練習曲
――ドレミ視点――
「ったく、もう7回は死んでるだろ? いい加減にくたばれよ」
「私は……まだ……」
「うざった――〈火炎渦〉」
灼熱の炎が私を包む。
もはや、痛みはない。
息ができなくて苦しいだけだ。
でも、何度か相手の魔法を受けるうちに私の潜在能力の高さが分かってきた。
どうやら、私の体は呼吸を必要としない。
今までの人生経験から反射的に呼吸を行っていたが、危機的状況においては無意識的に酸素を供給しているのだ。
酸素が必要な体なのかすら分からないが。
だから、息ができなくて苦しいというのは私の思い込みによるものだと予想できる。
もう少しの慣れで、私は完全に痛みと苦しみを感じなくなるだろう。
そして、人としての感覚が薄れていくほど、生まれ変わったこの体への理解度が深まりつつある。
傷の治りは瞬間的に復元出来るようになり、体の耐久度は壊される度に強くなっているのだ。
私が私では無くなる気がするが、皆のためを思えば何てことない。
だって、この人たちはニャンさんとファザーさんを傷つけたのだから。
「今度はほとんど無傷って、化け物かよ」
「貴方だって……そんなに恐ろしい力を持っているじゃないですか」
「チッ。うざった――今の発言は撤回する。だけど、お前は絶対に殺す」
「多分、貴方では私は殺せません」
「へえ、生き残ってるだけのくせに調子に乗るなよ――〈水流波〉〈土竜巻〉」
大地を抉るような竜巻と、凄まじい勢いの斬撃が迫って来る。
すでに、「アニマーレ」の皆さんには避難して貰っているため後ろを気にする必要はない。
当然のように正面から受け止める。
まず、斬撃により四肢が切断された。
さらに、押し寄せる竜巻が残った体を粉砕する。
自分の体がボロボロになっていく様を、眺めるというのも不思議な気持ちだ。
気づけば、死への恐怖心はない。
瞳を開けば、いつもどおりの視界が広がる。
吸血鬼としての特性なのか、血の一滴まで完治していることが分かった。
体はより強固な物になり、私のものではなく頑丈な器のような感覚だ。
「これでも殺せないのかよ」
流石にこの光景には驚いたのか、表情が漏れている。
その幼い外見にはそぐわない、驚嘆の笑みがより異常さを物語っていた。
「万策尽きたみたいですね」
この場一帯には私の血が染み付いている。
おかげで戦闘手段には困らない。
ここからは私の番だ。
だが、怒りには身を任せない。
私は皆を守るために戦っているんだ。
平原でファザーさんに諭されたことを忘れてはいない。
「本当にうざったいな。ギオラ先輩に近づく脇役の分際で」
「そうですね。主役はギオラさんかもしれません。そして、私はただの脇役。でも……だからこそ、私は私の役目を全うします」
前世の私は脇役という役目すら貰えなかった。
私の役名は「人間E」。
物語に登場することのない木偶人形。
別にその人生が辛かった訳ではない。
私は私なりに楽しんでいたと思う。
誰にも干渉されない、私だけの世界。
それで満足だった。
次の人生なんて望んでいなかった。
だけど――
優しさに触れたら……その温かさを知ったら、望んでしまうじゃないですか。
見返りなんていらない。
ただ、隣で笑い合ってくれるだけでいい。
そんな関係になれたらと、願ってしまった。
だから――
命に変えても、東の防衛という役目を果たす。
私の役名はドレミ。
ただの脇役に、収まってたまるものか。
「〈血液操作〉と〈植物作成〉」
私にはニャンさんのように肉弾戦を仕掛けることは出来ない。
また、ギオラさんのように魔法で制圧することも出来ない。
そんな私が、目の前にいる強敵を倒すことが出来るのだろうか。
恐らく平原で使用したような〈血雨〉は通用しないはずだ。
「インストリア」でギオラさんの魔法を凌いだのは、この娘の魔法だった。
それを見ていた私は事前に、どうやったらあの魔法の壁を打ち破れるのか考えていた。
考えた末、導き出した答えがこの技だ。
「私の血液を養分として――」
「あ? 何をブツブツと呟いてんだ?」
〈血液操作〉は多用したこともあって板に付いてきたが、〈植物作成〉に関しては〈束縛種〉など数えるほどしか使っていないため安定性がない。
こんな感じで、この世界で技と呼ばれるものは熟練度に応じて使用感が変わる。
漫画などで技名を叫ぶ描写を見ては不必要と思っていたが、実際に使ってみると必要性が分かってきた。
技名は技のイメージを補足してくれる。
より、技を安定して発動出来るのだ。
だから、さらに安定性を持たせるために細かい設定を口ずさむ。
前世で経験したことはないが、プログラミングをしている感覚だろうか。
「構築完了……お願い、動いてください……〈血種・練習曲〉」
血を媒体とした植物による人形の作成。
私が戦えないのなら、私の代わりに戦う人形を作れば良い。
どこかの王妃様みたいな思想だが、血を浴びせるだけで弱体化させることが出来る私にとっては、隙を作ってくれる助手のような存在は大きい。
やられた分やり返すことは出来ないが、少しだけ痛い目を見てもらおう。
反撃開始だ。
もしかしたら、この後ちょこちょこ編集するかもしれません。
多分、糖分不足です。
ひたすら自分の好きな展開を書いています。
戦闘の相手はロコで確定なのですが、ドレミの性格的に相手の事情を知ると弱くなるタイプなのかなと思い、終始ロコではなく相手やこの娘と表現しています。
あと、ロコの魔法のルビと〈血液操作〉等のルビ無しについては仕様です。
追記で、ロコの喋り方についても仕様です。
それでは、次もよろしくおねがいします。