3話 出会い(2)
――ギオラ視点――
ひょんなことから仕事を得た私は、辺境の町「アマニーレ」に向かっていた。
つい先日まで私が住んでいた町「サッジョ」からは馬車で6時間ほどかかる。
ちなみに、「アマニーレ」というのが私がギルドマスターとして就任するギルドがある町だ。
そして、ギルドというのは……私もよく分からん。
今は、「アマニーレ」の手前の町である「インストリア」で休憩を楽しんでいたところだ。
「アマニーレ」行きの馬車はないらしいのでここからは、徒歩で進まなければならない。
正直面倒で、休憩から抜け出すことが憂鬱だ。
もう既に帰りたい。
そんなこんなで気がつくと、「インストリア」に着いてから3日が経過していた。
我ながら自分の堕落ぶりには、声も出ない思いだ。
移動資金には余裕があるとはいえ、流石にこのままではまずい。
しかし、足が動かないのだ。
どうやらこの町「インストリア」は工業が発達しているようで、私の体には毒だ。
実際にこの3日間、宿の外には一歩も出ていないが何不自由なく暮らすことができている。
各部屋に設置されている伝心石を使うことによって、部屋の外に出る必要がないのだ。
伝心石とは、魔力を流すだけで対となる伝心石にメッセージを送ることができる魔道具である。
石と言ってもどこにでも落ちているような丸い石ころではなく、少し分厚い本のような綺麗な直方体の石だ。
この伝心石を使い、店主にメッセージを送れば料理を運んできてくれるという仕組みだ。
そんなシステムは店の利用方法に書いてなかったが、やってみたら運んできてくれたため、勝手に活用している。
「働かずに食べるご飯は美味しいな」
美味しい朝ごはんに頬を緩めていると、扉を叩く音が部屋中に響いた。
明らかに私の部屋をノックしている。
動きたくはないので居留守を選択、即実行した。
すると、扉からピキピキと断末魔の叫びが溢れる。
「さっき朝食頼んだくせに居留守決め込んでんじゃねーよ!」
怒声と同時に、扉は跡形もなく飛び散った。
そして、盗賊団の頭でもやってそうな大柄の女が姿を見せる。
青筋を立て、今にも襲ってきそうな雰囲気だ。
「えっと、どちら様ですか?」
「あんたこの状況で、先ずそれ聞くのかい。ええい、アタイはここの主人プシュワだよ。アタイがいない間にあんた好き勝手やってたらしいね」
「はて?」
「とぼけたふりしても無駄だよ。ウチの旦那を誑かして、こき使いやがって」
「誑かす?」
「あんたのせいでウチの旦那は、毎日毎日あんたのことばかり……」
どうやら、私の顔が良すぎて店主の旦那をダメ人間に変えてしまったらしい。
つまり罪作りな私は知らぬ間に、店主の旦那を惚れさせてしまったのだ。
通りで宿の待遇が良かったわけだ。
口コミを書き込む掲示板があったのなら、評価は星5つで間違いないだろう。
実際にここに永住しても良いと思えた。
だがしかし、この状況でこの宿に泊まり続けるのは難しい。
このまま泥沼の関係が続けば、後ろから包丁で刺されるのは目に見えている。
私は今この時、目的の町「アマニーレ」に向かうことを決めた。
怒鳴り込んできた店主プシュワは、面倒なので睡眠魔法で眠らせる。
私はこう見えて結構優秀な魔法使いなのだ。
興奮状態の女主人を眠らせることなんて造作もない。
時間も丁度良かったので、目がハートになっていた店主の旦那に宿泊費を払い、宿を後にした。
そう言えば「インストリア」を出る時に、異様な視線を感じた気がする。
まあ、よくあることだ。
顔が良い私なら仕方がないと思い、気にせず門の外へと歩き始めた。
町を出てからは、特に何事もなく一本道を前に進むだけだった。
流石は辺境の町、滅多に訪れる人もいないのだろう。
歩いているのは私1人だけだ。
こうして、1人で歩いている時間は嫌いじゃない。
むしろ、好きなのかもしれない。
自然と足が弾むし、鼻歌まで奏でている。
「ようやく、町が見えてきた」
海のように広大な平原の中央部に、浮島にも見える町を発見した。
その町こそ、目的地の「アマニーレ」で間違いないだろう。
予定より3日ほど遅れてしまったが、ようやくたどり着いた。
「そこのあんた! 死にたくなければ、伏せろ!」
今までの長い旅路について、物思いにふけっていると後方から慌ただしい声が聞こえてきた。
物思いにふけっていると言っても、思い出される光景なんてベッドの上で読んでいた本くらいだが。
そんなことよりも、とりあえず声のする方へ視線を向けよう。
「え えぇ?」
その光景は、まさに絶体絶命のピンチってやつだ。
ありえないスピードで駆ける少女が、数匹の魔獣に追いかけられている。
もしかしたら、私の顔が良いから魔獣までもが虜になってしまったのかもしれない。
そうだとしたならば、この状況は私の責任だ。
いや、知らんけど。
「獰猛な獣たちよ。眠れ、眠れ、眠れ」
「インストリア」滞在中に呼んでいた本のサブタイトルを唱えてみた。
案外、物思いにふけっていた意味はあるものだ。
すんなりと思い出すことが出来た。
本来、魔法を発動するときには発動の鍵となる詠唱詞が必要となる。
例えば、「火」に関係する魔法を発動したいのなら「燃えろ」という詠唱詞を詠唱する必要があるのだ。
詠唱詞を唱えれば誰でも魔法が使えるわけではないが、それはまた別の話。
だが、これは一般的な魔法使いに当てはまることだ。
私はそう、顔が良い魔法使いである。
常識には囚われない。
例外的に創造するだけで、魔法を発動することができる。
これは私の個性であり、長所と言っても過言ではない。
しかし、何故わざわざ詠唱をしたのか。
答えは単純明快だ。
「静かに眠れ」
かっこいいから。
意外と早く更新できました。
魔法の適性やらについてはおいおい解説する予定です。
ギオラが何故無詠唱で魔法が使えるのかも、おいおいです。
本当は前回も2000文字くらいだったと考えると恐ろしいですね。
1000文字くらい増えてました。