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23話 アハロの想い(2)

――アハロ視点――

「ドラゴンだ! ドラゴンが現れたぞ!」

「きゃあ!」

「早く逃げろ!」


 その響きは、賑わっていた街を一瞬で静まり返らせた。

 王都にドラゴンが出たなんてありえない。

 誰もが思っただろう。

 しかしその数秒後、心臓が危険信号を出すほどの咆哮が胸に響いた。

 王都にいた私たちは、嫌でも実感する。

 伝説級の生物との間に生まれた、絶対的な実力差を……。


「ギオラちゃん! 逃げなきゃ!」

「ドラゴンってでかいな」

「今はそれどころじゃないよ!」


 呆けながら空を眺めているギオラちゃんの腕を掴む。

 相変わらず、すべすべでもちもちの肌だ。

 ずっと掴んでいたい。

 いや、そんなことよりも今は逃げることに集中しなきゃ。


 視線を上に向けると、歩いただけで街を破壊しそうなほど大きなドラゴンが空を泳いでいる。

 きっと、私たち人間のことなんて意にも介していないのだろう。


「ちょっと待って、アハロ」

「どうしたの! 今は逃げなきゃ」

「あそこで女の子が倒れてる」


 ギオラちゃんの視線の先には、膝辺りを赤くして泣いている女の子がいた。

 街中の人々が混乱しているため、親とはぐれたのか近くには誰もいない。

 逃げ惑う人々は我先にと駆けて行くだけだ。


「ねえ、貴方。騎士でしょ? あそこで女の子が泣いているんだけど」

「ど、どけ! 私は逃げるんだ!」


 近くで鎧を纏っていた騎士に、ギオラちゃんが声を掛けた。

 しかし、その騎士は見向き1つせず逃げてしまう。


「おいおい、国営ギルドの騎士様が逃げてどうするんだよ」


 国印の入った鎧を纏っているため、一目で国営ギルドの騎士だと分かる。

 だが、何だ今の態度は……。

 国営ギルドは私営ギルドとは違い、国民を守る義務があるのだ。

 だから、こんな異常事態が起こっても国営ギルドの騎士は国民の命を守るため避難する人々を誘導しなければならない。


 国営ギルドの中でも、王都に務める者は優秀でなければならない。

 国営ギルドへの入団を目指していた私たちは、嫌というほどその言葉を聞いたきた。

 そのために推薦権も得たというのに、何だこの有様は。

 敵と戦うどころか、逃げることしか考えていないではないか。

 さらには、自分より弱い存在である国民を見捨てるなんて……。


「君、立てる? あちゃ、膝から血が出てるな。私、治癒魔法の適性ないんだよね」

「ひくっ、お姉ちゃん……だあれ?」

「お姉ちゃんの名前はギオラだよ。痛いのに、泣き止んで偉いね。ほら、よしよし」


 ギオラちゃんは、泣いていた女の子へ手を差し伸べると優しく包んだ、

 少しだけ羨ましいなんて言ってられない。

 私は魔法で包帯を具現化させる。


「現われろ〈具現化:包帯(コード・31)]


 教科書を読んで覚えただけの簡単な魔法が、こんなところで役に立つとは思わなかった。

 私もギオラちゃんも治癒魔法を使うことが出来ない。

 それなら、治療道具を魔法で出せばいいだけのことだ。


「流石、具現化得意なだけあるね。じゃあ、私は傷口洗っちゃうね。〈突水(ウォーター)〉」


 流石なのはギオラちゃんの方だ。

 詠唱文だけで魔法を発動するだけでも難しいのに、魔法名を唱えるだけで魔法を使っている。

 しかも、水圧まで完璧に調整しているのだ。

 攻撃に使われるような魔法で傷口を洗えるなんて、ありえない話だろう。


 傷口の洗浄が終わると、私はすぐさま包帯を巻いた。

 空を飛んでいるドラゴンが、いつ襲ってくるのか分からないのだ。

 早く安全な場所へ、避難しなければならない。


 今思うと、先に城から出て行った人たちはこの事態を予想していたのではないか。

 どんな手段を使ったのかは分からないが、そうとしか思えない。

 王ですらこの都を見捨てるなんて、何を考えているんだ。

 もっと早く知らせがあれば、混乱を生まなかったかもしれないのに……。


「じゃあ、逃げよっか。あっちのお姉ちゃんがおんぶしてくてるからね」

「え、私?」

「だって私、筋肉とかないし。多分、走るだけで疲れちゃう」

「でも、私よりも剣術――」

「アハロの力持ちなところ、見たいな……ちら、ちら」


 駄目だよ。

 そんな良い顔でお願いされたら、結婚の申し出でも断れる訳がない。

 まあ、私は吝かではないけどね。


「ほら、乗って! 私は力持ちだからね!」

「う、うん。力持ちのお姉ちゃん、ありがとう」


 女の子をおんぶしても、そこまで負荷は感じない。

 体技で身体強化をしようと思ったが、その必要はなさそうだ。


「じゃあ、教会の方まで行こ」

「いや、私はここに残るよ」

「何で? ドラゴンがいるんだよ! 教会の近くまで行けば、きっと魔法の壁で守ってくれるはずだよ」


 学院で、避難する時は教会を目指せと教えられていた。

 教会では神の加護という、結界が張られているのだ。

 神の加護は悪しき者の攻撃を防ぐ効果がある。

 私が生まれる前に起こった大きな戦争でも、教会だけが姿を保っていたらしい。


「何でだろうね。残らなきゃいけない気がするんだよね」

「そんなの気のせいだよ! 早く逃げよう!」

「アハロ……ごめんね。大地よ、大海よ、大空よ――」

「何で詠唱文なんか……」


 私は知っていた。

 ギオラちゃんがしっかりと詠唱する時は、上級の魔法を使う時だと。


「災いの如き、神の息吹――」

「やめて!」

「無事だったら、また会おうね――吹き荒れろ〈爆裂風(エクス・ウインド)〉」


 魔法により生まれた爆風が、乱暴に体を浮かせた。

 だが、痛みはない。

 まさに空を飛んでいるような感覚だった。

 しかし、気持ちはどん底に沈んでいる。


 私はギオラちゃんに、邪魔と思われたのだ。


 ああ、心が痛い。

 私はギオラちゃんから頼りにされてなかったのか。

 もし、一緒にいたのがロコやモコなら隣に立っていたのかな。

 ああ、胸が痛い。

 私はギオラちゃんのことをこんなに想っているのに……。

 私だけの想いだったのかな。

 ああ、自分が憎い。

 非力な自分が憎いんだ。


 ――――――――――――――――――――


 あの日からあいつとは会っていなかった。

 無事だとは聞いていたが、私から会いに行くことが出来なかったのだ。

 またあいつ隣に戻ったとしても、肝心な場面ではお荷物になる。

 そんな弱い自分が許せなかった。


 あの日、私は誓った。

 あいつよりも強くなると。


「――って、聞いてんすか?」

「あ?」

「もう、怖いので睨まないで下さいよ」

「で、何の話だ」


 昔のことを思い出していたため、モコの話を聞いていなかった。

 ある意味いつものことだが。


「ギオラ先輩の話ですよ」

「何だ……くだらない」

「そんなこと言って、アハロ先輩もギオラ先輩のこと好きなくせに〜」

「うるさい」

「まあ、落ち着くっすよ。3人ともギオラパイセンが大好きなんすから」


 今の私には、ギオラのことを想う資格はない。

 だから、早くあいつよりも私が強いと証明しなければならないのだ。

 例え、あいつが悲しむことだとしても。

 例え、あいつを殺したとしても。







もう少し感情的な文が書けたら、編集するかもしれません。

でも、内容はこんな感じです。

ドラゴンVSギオラの結果はおいおいと……。

結果次第では世界救ってる件について。

とりあえず、またギオラ視点に戻るのでよろしくお願いします。

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