22話 アハロの想い
――アハロ視点――
天から舞い降りてきた美少女は、一瞬にして姿を消した。
あんな魔法は見たことがない。
いや、魔法なのか私には判断出来なかった。
やっぱり、あいつの隣に立つ為にはあれくらい出来なきゃダメなんだ。
これで何回目になるだろう。
血が出るほど、拳を強く握ったのは……。
「それにしても……こんな姿をジロジロと見られてなくて良かった……」
偶然再会した幼馴染に、あられもない姿なんて見られたくない。
今の私は痴女と呼ばれてもおかしくない格好をしている。
服は破れ、下着の布も心許ない状態だ。
「ギオラちゃん……また強くなってたな……」
あんな出来事がなければ、私は今もギオラちゃんの隣に立っていただろうか。
強いあの娘は私なんて置いて、どこかへ行ってしまうだろう。
だから、私は強くならなきゃいけない。
誰にも負けないように。
ギオラちゃんの隣を誰にも渡さないように……。
「さっきからブツブツと何言ってるんすか? そこの露店から毛布持って来たんで、使うっすよ」
「ああ、助かる」
モコが毛布を探して来てくれたようだ。
毛布を受け取り、肩から羽織る。
これなら、人前へ出ても大丈夫なはずだ。
「それより――」
「なんすか? そんな鬼のような目で睨んで……」
「さっきのこと覚えているよな?」
「分からないっす。自分、記憶力とかないっす」
「そうか。じゃあ、過去の自分を恨むんだな」
警戒していないモコの後方へ回り、頭を両手で抑える。
そして頭を振り上げ、思い切りたたき落とす。
「痛いっす!!」
「上司を侮辱した罰だ」
「そんなぁ〜。毛布持ってきたじゃないっすか」
「それとこれとは話が別だ」
「ギオラパイセンの前で馬鹿にされたからって、そんな怒らないで下さいよ」
「ギ、ギオラは関係ない!」
関係ない訳がない。
若くして国営ギルドのギルドマスターになった私でも、恥じらいはある。
恋する乙女と言えばそれもまた恥ずかしいが、そういうお年頃なのだ。
「なら、いい加減仲直りしてくればいいじゃないっすか」
「べ、別に喧嘩などしていない……」
そう、喧嘩なんてしていない。
ただ私が勝手に怒っているだけだ。
私にとって最大の後悔。
私があいつから離れる原因になった2年前のあの日――
――――――――――――――――――――
「ギオラちゃん! どこへ行く? 国営ギルドの騎士団? それとも、ギルド協会の本部とか?」
「えぇ。旅行だし、もっと楽しいところ行こうよ」
「でも、これも学院の行事だから学びがないとダメなんだよ」
「それもう旅行じゃないじゃん」
私たちは、学院の最後の行事である卒業旅行へ行っていた。
この行事は選択制で好きな都市へ、見聞を広めるという名目の元旅行へ行けるのだ。
3回生のみがこの行事に参加出来るため、いつものように纏わり付いて来る双子はいない。
つまり、今この瞬間ギオラちゃんの隣は私だけのものになる。
無駄にスペックのいいロコや、珍しい個性を持っているモコが居てはギオラちゃんからの視線を独占出来ないのだ。
別にあの2人が嫌いだとか、苦手な訳ではない。
むしろ、折れない信念を持つ2人には好感すら感じる。
ただ、たまにはギオラちゃんと2人きりで過ごしたいのだ。
小さい頃から、ギオラちゃんの隣は埋まっていた。
顔が良すぎるため、異性だけではなく同性までも惹き付けてしまうからだ。
だから、私はライバルたちに負けないように切磋琢磨してきた。
例え、他の者を蹴落としてでも。
「でもやっぱり、ギオラちゃんには私がいないとダメだね」
「え、何で? 急にどうしたの?」
「だって私がいなかったら、ギオラちゃんはボッチでこの旅行を過ごすことになってたんだよ」
「別に――」
「ダメだよ。私がいたから班行動が出来てるんだから」
「あ、はい」
ギオラちゃんに声が掛からなかった理由は私の存在だ。
ギオラちゃんの隣に立つために努力した私は、気付くと学院2位の実力になっていた。
そんな私からの圧に抵抗し、ギオラちゃんに声を掛けられる者は少ない。
それこそ、あの双子くらいだろう。
「それで、どこへ行こうか」
「アハロの好きな所で良いよ」
「本当!?」
「うんうん。私、行きたい所ないし」
「じゃあ、お城に行こう!」
「え、それって学びある?」
「旅行と言えば、観光しなきゃ!」
「学びは――」
「さあ、行こうね」
「あ、はい」
班行動とは言え、私たちは2人だけの班だ。
だから、移動も2人だけ。
楽しい会話を交えながら、城下町を進む。
城を見るだけなんて、退屈だ。
と、思われるかもしれないがあれを見たらギオラちゃんはきっと喜ぶだろう。
なんと、城の前には極上の枕が売っているのだ。
王へのアピールをするため枕職人が城の前に店を構えたらしい。
その枕を使えば、1秒で入眠出来たという噂もある。
喜ぶギオラちゃんの笑顔が、早く見たい。
「なんか、騒がしくなってきた?」
「そう?」
「ほら、橋の近くに人が集まってるよ」
「本当だ。何かあったのかな?」
ギオラちゃんは橋の方を指差した。
その方向へ視線を向ける。
すると、橋の近くに大勢の武装した騎士が集まり、異様な雰囲気を醸し出していた。
王都の城は池の上に浮かぶように造られているため、3つの橋が架けられている。
今、私たちが見ているのは正面の橋である「精霊橋」だ。
「あれって、身分の高い人が着る服じゃない?」
「ギオラちゃん、よく知ってるね」
「お父さんの知り合いが、たまにあの服みたいなやつ着るんだよ」
「エレクさん有名な冒険家だもんね」
エレクさんというのは、ギオラちゃんのお父さんだ。
とても優しい人で、家に遊びに行った時には良くしてもらった。
冒険家としての地位も高く、ギルドに所属せず単独で国から依頼を受けているらしい。
「あれー、今出てきたおじさんどこかで見たような……」
「後ろにいる女の人たち、皆綺麗だね」
「いや、私のが良い顔してるね」
「それは……ふふ。そうだね」
城から高そうな服を着た人たちが、次々と外へ出ていた。
警備を固めた騎士たちに護衛され、馬車で街中を駆けていく。
その間、私たちは橋にさえ近づくことは出来なかった。
騎士たちが通行止めを行っていたからだ。
「みんなでどこに行くんだろうね」
「私たちみたいに旅行とか?」
「王族も呑気なものだね。私も王族に嫁入り出来ないかな」
「え! ギオラちゃん……縁談とか興味あるの?」
「いや全く。こっれポッチも。話すらしたくない」
「そうだよね!」
「お、そんなに笑顔になることある? それに、私のお父さん過保護だからさ、認めた相手にしか譲らないってよく言ってるよ」
「エレクさんより強くなれば…………」
今の私が外の世界へ出ても、中級の魔獣や魔物を倒すのが精一杯だろう。
でも、可能性はある。
いつかは、ドラゴンだって倒せるような強い女になるんだ。
そして、ゆくゆくはギオラちゃんと……。
サクサク書ければこの後、もう1話更新します。
一応、この話の続きです。
アハロは過去の話とか世界観を伝えるのにとても適しているので良い感じで伝えられたらと思います。
あと、まあこの話で何となく分かる気もしますが割と恋愛脳です。
恋愛脳と言うよりも、ギオラ大好き娘ちゃんって感じですかね。
はい、続き書いてきます。
よろしくお願いします。