21話 インストリア交戦(4)
――ギオラ視点――
私はアハロヘ向かって、上級魔法の〈爆裂風〉を放った。
爆裂風は単純に風をぶつける魔法だが、下位互換である初級魔法の突風と比べて範囲と威力が桁違いだ。
ついでに、中級魔法の〈業火〉と〈豪水斬〉も放り込む。
これくらい魔力を消費しておかないと、髪を短くした意味が無い。
気力は特に気にする必要は無いだろう。
顔が良い私は心も強いのだ。
「〈防壁〉〈防壁〉〈障壁〉〈障壁〉」
あまりの衝撃で、私が落ちてきた時のように砂埃が舞った。
しかし、近くに合った露店や住宅には傷1つ付けてない。
流石の魔法制御力。
大会があったら優勝しているだろう。
まあ、私が来る前の戦闘で露店も住宅も壊滅的だったから、特に意味は無かった。
「やり過ぎた?」
声を掛けても、反応は無い。
流石に命まで奪うつもりは無かったから、威力は抑えたがそれでも痛いでは済まされないだろう。
何だか、悪いことをしたという気持ちになってくる。
いやいや、私は正しいことをしたんだ。
多分……。
「ギオラ先輩じゃないですか」
「え?」
砂埃の先から姿を現したのは、アハロでは無く学院時代の後輩だった。
その名はロコ。
私と似て天才肌の魔法使いだ。
無茶苦茶な詠唱で魔法を発動する。
無詠唱魔法とは少し違うが唯一この国で、私と魔法で戦える相手だろう。
「もしかして、ロコもアハロと同じギルドに入ったの?」
「そうです。それより、あの……久しぶりに撫でて下さい」
「そっか、確かにロコは私たちに懐いてたもんね。ほら、よしよし〜」
「ロコはギオラ先輩に着いていきたかったんですけどね」
「良い子だね……って今そんな場合じゃないよね!」
「気づいちゃいましたか」
「気づいちゃうね。私の魔法からアハロを守ったんでしょ? ロコも私が見ないうちに魔法の腕が上がったね」
「ありがとうございます。でも、守れたとは言い難いですね」
「またまた」
「ほら見てください。アハロ先輩ってば、調子乗って避け無かったからあそこでダメージ受けてますよ。ロコは魔法を4つも発動したのに、ギオラ先輩の魔法を相殺できませんでした」
ロコの指先を見ると、服がボロボロになったアハロが立っていた。
意地悪な風が吹けば、見えてはいけないものが見えてしまいそうだ。
アハロは胸はデカいし、尻もデカい。
なのに、腹は引き締まっている。
正直、私の憧れのスタイルと言ってもいい。
ムカつくから、風魔法でも発動してやろうかな。
「あの一瞬で魔法を4つも発動してたのか……それもう王都で勤務出来るレベルじゃないの?」
「ロコたちは王都なんて行きませんよ。あんな所に行く価値無しです」
「あちゃ、そんなこと言ってたら無職の国民に後ろから包丁で刺されるよ」
「ロコの魔法があればヘッチャラです」
「頼もしいね」
「はい。だから、ロコをギオラ先輩の――」
「ワァァア! あのアハロパイセンが、街中でエッチな格好してるっす!」
これまた懐かしい顔だ。
アハロの事を指差しながら変態扱いしているのは、ロコの双子の妹のモコだ。
ロコと違って魔法の才能は無い。
だが、面白い技を持っている。
ある意味、能力に上限が無いという点から、将来的には私をも圧倒するかもしれない。
「黙れ……」
「そんな格好で言っても、怖くないっすよ」
「泣かせてやる……絶対に後で殴る」
「ひぃいい――あー! ギオラパイセンじゃないっすか!」
相変わらず元気な子だ。
表情を全く変えないロコと違って、モコは表情から態度までハッキリしている。
私を見つけたモコは、アロハの事を放ったらかしにしてこちらへ詰め寄って来た。
「元気してるっすか? 学院以来っすね!」
「そうだね。モコの元気な顔が見れて、嬉しいよ」
「へへ、照れるっすね」
「モコ、お世辞だからね」
「でへへ」
「キモイから辞めて」
この2人は本当に変わらないな。
学院時代の生活を思い出す。
講師のカツラを金色に染めたり、校舎に4人のサインを残したり……。
まともな思い出はちっとも出てこない。
「お前ら! ギオラは私たちの敵なのだぞ! 馴れ馴れしくするな!」
「ギオラパイセンが敵? 何言ってんすか」
「ロコはギオラ先輩の味方ですよ」
「ロコ! もし捕まえたら、ギオラの事を数日間お前の好きにしていいぞ」
「あいあいさ! ギオラ先輩ごめんなさい。ロコは悪い子でした。ギオラ先輩を捕まえなくてはいけません」
「モコ! えっと……お、お前には! う……あの幻獣種をやる!」
「あいさ! 頑張るっすよ!」
非常にまずい状況になってきた。
この2人を相手にするのはなかなか骨が折れる。
何せ、可愛い後輩だからだ。
それに、実力的に見ても面倒臭い相手だろう。
しかも、後ろにはアハロが控えている。
アハロの特徴は一撃必殺の攻撃だ。
魔法への耐性が少ないため私との相性は悪いが、不意に一撃でも貰おうものなら倒されてもおかしくは無い。
アハロを警戒しながら、ロコとモコの相手をするのは荷が重いぞ。
ここは無理に戦わず逃げる選択肢を――
「ギオラ〜!」
「今度は何――ぐほっ」
私の名前を呼びながら弾丸のように、誰かが飛んできた。
その正体は、モコとは違うタイプの元気っ子ウレレだ。
「良かった……ウレレは無事だったんだね」
「露店で沢山食べてた〜」
「そうなのね……ってそれ無銭飲食じゃない!? どうしよう、私本当に罪人になっちゃうよ」
「あの……ウレレちゃんにはお金を渡していたので大丈夫だと思います」
「ウレレ偉いから、食べたらちゃんと金貨置いてきたよ」
「金貨!? え? ドレミいくら渡したの?」
大体の私営ギルドのマスターの1ヶ月の給料は銀貨10枚と本に書いてあったから、私が3ヶ月働かないと稼げない額だ。
つまり、金貨には銀貨30枚の価値がある。
しかも、話し方的に数枚は渡しているぞ。
ドレミってお金持ちの家の子なのか?
もしかして、実は貴族とか……。
「金貨を15枚ほど……ダメでした?」
「後で、金銭感覚とウレレの教育方針について話をしよう」
「は、はい……」
「ニャンとワンワン元気ない〜?」
「ちょっと疲れてるだけだから大丈夫だよ。それより、ここは危ないからウレレは下がっててね」
「は〜い」
後でやることが増えたぞ。
先ず、ドレミの財産の総量を確認しなきゃ。
ギルド活動には何かとお金がかかるからね。
資金はいくらあっても困らない。
「ニャン〜。こんなところで寝てたら風邪引いちゃうよ〜」
「こら、怪我人をツンツンしてはいけません」
「でも、ここじゃ風邪引いちゃうよ」
なんて良い子に育ってるんだ。
初めて出会った時は、鼻ほじっていたというのに。
「そうだ――〈精霊式魔術・帰還〉」
「へ?」
ウレレがニャンへ触れると、その姿は一瞬にして消えてしまった。
そのまま弾むようにファザーさんのもとへ近づき、同じように触れる。
すると、あの巨大なファザーさんまでもが跡形もなく消えてしまったのだ。
「ウレレ?」
「おばあちゃんのおまじないだよ〜。これすれば、お家へ帰れるんだ」
どうなっているんだ。
ウレレが魔法を発動した素振りはない。
私のような無詠唱魔法を使えたとしても、魔力の変化は感じなかった。
何が起こったのか分からなかったが、これは良い。
もしかしたら、逃走に使えるかもしれないぞ。
「ねえ、ウレレ。私とドレミ、ウレレも皆で一緒に帰れたりする?」
「出来るよ〜」
「じゃあ、お願いしていいかな」
「は〜い。行くよ――」
「待て! ギオラッ!」
「〈精霊式魔術・帰還〉」
お知らせというかなんとやら……もし、20話を昨日見た方がいましたらもう1度見返して欲しいです。
結構内容が変わってます。
今回は編集した勢いで書いたので、久しぶりにサクサクと進みました。
では、次回もよろしくおねがいします。