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20話 インストリア交戦(3)

――ギオラ視点――

 かっこいいからという理由で、壁に穴を空けて飛び降りた。

 だが、着地のことを考えていない。

 どうしたのものかと、頭を働かせていたら名案を思いついた。


「よし、飛ぼう」


 顔が良い私、もとい、常時的に魔法が使える私なら出来るはずだ。

 確か、ドラゴンなどの大型の魔物も空を飛ぶ時には魔法を使っている。

 古い書物を漁っている時にそんな内容の話を見た気がした。


 微かな記憶を信じて、風魔法を発動させた。

 体を浮かせるなら風魔法が1番適しているだろう。


 しかし、そんな安直な考えが悲劇を呼んだ。

 落下を防ぐことには成功したが、体の自由が効かない。

 風向きに従うだけで、飛ぶというより飛ばされてるという状態だった。


「やば、危な!」


 気が付くと、正門の塀の方まで飛ばされていた。

 このままではぶつかってしまう。

 咄嗟に、風魔法を使って下降流の風を作る。

 当然、私の体は地面に叩きつけられた。

 めっちゃ痛い。

 風がクッションになり衝撃を逃がしてくれたが、痛いものは痛いのだ。

 姿が隠れるほどに舞った砂埃を風魔法で器用に払う。


「やっぱり練習しないと、ぶっつけ本番はキツかったか……あれ? ドレミじゃん。こんな所で何してるの?」

「え? ギオラさん……?」


 驚いた顔のドレミが、不思議そうにこちらを眺めていた。

 それも無理はない。

 人が空から降ってきて、しかもそれが知人だったのだから。

 こんなこと、王様に爵位を貰うより珍しい。


「ギオラ!」

「うえぇ! アハロ!?」


 後ろから名前を呼ばれ、振り向くと旧友の姿があった。

 2年振りくらいだろうか、学院以来だ。

 運命というものはあるのかもしれない。

 こんな辺境近くの町で偶然再会したのだから。


「久し振りだね。元気だった?」

「……ふざけるな! お前は……お前というやつは……」

「どうしたの? またお母さんと喧嘩でもした?」


 アハロから答えは返ってこない。

 久々の再会だと言うのに、アハロは見るからに怒っている。

 今にも噴火してしまいそうだ。


「ギオラさん危ないです! この人は危険です!」

「大丈夫だよ。この人、私の友達だから」

「友達……? でも、この人はニャンさんとファザーさんを……」

「ニャンとファザーさんを?」


 周囲を確認すると、ニャンとファザーさんが壁に寄り添うようにもたれかかっていた。

 外傷は酷く、意識は無さそうだ。

 よく見ると、ドレミもかすり傷を負っていた。

 膝に添えている右手は、負傷した部位を庇っているのかもしれない。

 即座に、慣れない回復魔法を発動させる。

 ニャンとファザーさんまでの距離が少しあったが、ギリギリ有効範囲内だ。


「これは、アハロがやったの?」

「そうだ」

「何で?」

「町に現れた幻獣種を排除するのが私の仕事だ」

「じゃあ、ニャンが傷ついてるのは何で?」

「私の仕事を邪魔したから、制裁を加えたまでだ」

「そっか……変わったね」


 動くこともやっとなドレミを、抱き抱える。

 その体は震え、怯えていた。


「ごめんね。私が付いていれば」

「ごめんなさい、ごめんなさい。私、何も出来ませんでした」


 泣きながら謝るドレミの頬を撫でる。

 吸血鬼の特性なのか、目立っていた外傷は殆ど治っていた。

 私の効果の薄い回復魔法だけでは、ここまで治らないだろう。


「そいつらは、お前の知り合いみたいだな。だが、情けはない。幻獣種とそれを庇った者は死刑だ。幻獣種は国を滅ぼしてもおかしくない。お前が1番分かっているだろう」

「死刑か……物騒だね。それなら、私もこっち側だからさ。捕まえられるものなら捕まえてみなよ」

「お前、正気か? 私は国営ギルド『ルドべ』のギルドマスターだぞ。つまり、お前が私を敵に回すと言うのなら国を敵に回すのと同意だ」

「丁度、ギルド協会に喧嘩売ってきたところだし。別に、誰が敵でも私には関係ない。だって、私は顔が良いから」

「意味が分からない」

「顔が良い私は無敵ってことだよ! 当たり前のことを言わせるな、おい」

「ますます、意味が分からない。とりあえず、お前は今捕獲する。その足でまといたちを連れて、私から逃げられるかな――〈第六感(エラー・01)〉」


 高速でアハロが迫ったきた。

 気迫の籠ったオーラを纏っていることから、何かしらの体技を発動している。


 技というのは総じて、魔力を伴わない魔法と呼ばれている。

 ドレミが使っていた血液操作や血液作成などの種族で受け継いでいる先天的な技から、ニャンが使っていた天災のような一撃などの磨き上げた後天的な技まで、その種類は様々だ。

 魔力を消費せず使えるが、その分体力の消耗が激しい。

 熟練度にもよるが、魔法と技の力関係は拮抗している。


 私の通っていた学院では、剣を扱う剣技と身体強化を施す体技は必修科目だった。

 成績優秀な私は、教科書に載っていた体技は全て会得している。

 しかし、アハロが発動した体技はどの技にも該当しない。

 つまり、学院では教えて貰えないような禁忌に近い体技を使っているということだ。


「どこでそんな技覚えたんだか」

「お前に追いつく為に地獄を見てきたんだ」

「誘ってくれれば、一緒に行ったのに」

「相変わらず、軽い口だな。すぐに塞いでやる」

「口づけでもするのかな」


 摩擦で火でも起きそうな勢いの拳が、空を切る。

 当たっていたら、私の綺麗な顔面がぐちゃぐちゃになりそうだ。

 抱えているドレミに気をつけて、その攻撃を避けた。

 さらに、私も対抗して風で殴るように風魔法を発動させる。

 目に映らない、透明な拳だ。

 避けることは出来ない。


「って、ええ」


 そんな考えを吹き飛ばすように、アハロは見えないはずの拳を平然と避けて見せた。

 本来、魔法を察知することは難しい。

 詠唱文を聞いて、初めて魔法の発動を察知できる。

 つまり、私の無詠唱魔法を回避する方法はほぼないはずなのだ。


 ギルド協会でもあったような、状態異常魔法を無効化するということならまだ分かる。

 状態異常魔法自体を無効化する方法があるからだ。

 しかし、今回は違う。

 アハロは、私にしか分からないはずの魔法の発動を察知して避けた。

 ということは、魔法によって発現した風を察知した、あるいは魔法によって流れる魔力を察知した可能性がある。


 これが私の知らない体技の効果だとしたら、恐ろしいことだ。

 既に身体能力が上昇する体技も発動しているみたいだし。


「驚いたか? 私にお前の魔法は通用しない」

「みたいだね。でも、避けられない程大きな魔法ならどうかな」

「ハッタリはやめろ。お前はあの日から、初級魔法以外使えないのだろう」

「よく知ってるね」

「初級魔法の広範囲攻撃など、たかが知れている。避ける価値もない」

「じゃあ、受けてみなよ。私の魔法を」

「かかって来い」


 魔法のランクは、魔獣や魔物のランク分けと同じで初級から伝説級にまで別れている。

 アハロの言った通り、私はその最低ランクの魔法しか使えない。

 ただでさえ威力の低い初級魔法を、広範囲攻撃に使用すると当然威力は落ちる。

 当たってもかすり傷をつけるのがやっとだろう。


「私の知らない2年間でアハロも強くなったね」

「私は元々強い」

「またまた、少し前まではギオラちゃんって呼びながら着いて来てたじゃない」

「うるさい! お前はもう喋るな!」

「ごめんて。でも、ちょっと痛い思いをしてもらうよ……本当はこの姿見せたくなかったんだけどね」


 体の力を抜き、魔力の流れを()()()戻した。

 そして、常時発動していた魔法を解除する。

 すると、肩まで伸びていた髪が時間を巻き戻したように短くなっていった。


「ギオラさん……髪が……」


 近くで見ていたドレミは、その光景が不思議でしょうがないようだ。

 まあ、当然だろう。

 まさか私も、自分の髪を伸ばすという馬鹿らしい魔法が、寿命をも伸ばすとは思わなかった。


 私は常に魔法を発動していなければ死ぬ、みたいな呪いがかけられている。

 実際は1秒でも途切れたら死ぬというシビアな設定ではない。

 だが、寝ている時でさえ無意識で魔法を使っていないと間違いなく死ぬ。

 どんな呪いなのか詳しく説明すると、魔力の吸収量が高まる呪いだ。

 それは呪いじゃなくて、神からの祝福だと思われるがそんな訳がない。

 確かに魔力の吸収量が上がれば魔法の威力や規模も上がる。

 しかし、魔力を過剰に蓄積し過ぎると体が耐え切れなくなり死亡してしまうのだ。

 前例は少ないが、この国でも魔力の過剰摂取で死んだ事例はある。


 尚、この話には例外もある。

 魔法適性が無い者は1度も魔力を消費せずに一生を終えるからだ。

 この場合、ほとんどの者は魔力を吸収出来ない体質だったり、吸収量が極めて低い者であることが多い。


 ここで疑問だが、一体どれぐらい吸収量が違うのか。

 魔法研究所で調べたところ、常人と約1000倍以上の差があった。

 つまり、常人が1日で吸収する魔力の平均的な吸収量を1とすると、私は1000も吸収する。

 平均的な蓄積量の上限はこの数値に当てはめると大体1500くらいだ。

 この結果は、魔法過剰摂取死者の記録を元に私が割り出した。

 1500という上限を参考にして考えると、常人が約4年間何もしなくても生きていられるというのに私は1日と半日意識を失っているだけで上限に達してしまう。


 このことから私は、魔法を発動して魔力を消費していないと魔力の過剰摂取で死んでしまう。

 魔力を使うためには気力を消費しなればならず、気力を消費しすぎても死ぬ。

 まさに呪いだ。


 だが、この呪いの解決策は意外と簡単だった。

 髪を具現化するという魔法で何とかなったからだ。

 もちろん、常時的に魔法を発動しているため気力は消費する。

 しかし、この魔法は髪数万本を具現化する為に莫大な魔力を消費するが、発動している魔法は全て同じなため気力の消費量が少ないのだ。

 言ってしまえば、コスパが悪い。

 でも、私にとっては目からウロコのような魔法だった。


 ちなみに、私が初級魔法しか使えない理由は魔力不足になると勝手に髪が短くなるからだ。

 魔法のランクが上がればそれだけ、魔力の消費量も上がる。

 普段の魔力はほとんど髪に回しているため、足りない分は髪の魔法から足される仕組みなのだ。

 私の理想の女性像はロングヘアー。

 これだけは、命と顔面の危険を感じない限り譲れない。


「ギオラさんの本気モードだよ」


 たまにしか見せないショートヘアー。

 顔が良い私が、最高のギャップを見せたのだ。

 今の私を見て惚れない者はいないだろう。

 これが私の本気だ。










早く読んでいた方、すみません!

大幅に設定を変更しました。

これに伴い、今までの話も全て編集……はまだ辞めておきます。

矛盾していても気にしないスタイルで、とりあえず勢いで乗り切ります。

魔法に関する概念はこの話の内容が主な設定と思って間違いないです。

それでは、よろしくお願いします!

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