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18話 インストリア交戦

――ニャン視点――

 ギオラと別れたあたしたちは、「インストリア」名物の露店を巡っていた。

 食欲旺盛なウレレに釣られて、さっきから食べてばかりだ。

 意外なことに、大人しそうなドレミも目を輝かせながら頬張っている。


「この味付けはどうやっているのでしょう。初めての味です」

「美味しい〜」

「それは、インストリア焼きってやつだな。ここら辺じゃ有名な食べ物だよ」


 今、みんなで食べているのは牛の肉を魔法で加工したインストリア焼きだ。

 専用の焼き器を使うことで、魔力の供給だけで肉が焼けて、理想の味付けを行うことが出来るらしい。


「次はあれ〜」

「お、あれはあたしも好きなやつだな」

「あれってもしかして……」


 ウレレが目をつけたのは、牛の乳を冷やし固めた甘いお菓子だ。

 ババアの代わりに、ギルド協会へ報告する機会が何度かあった。

 その度にあたしは、このお菓子を食べていたのだ。

 癖のない甘さが丁度良く、いくらでも食べれる。


「これ、牛乳寒天ですね!」

「ひえひえ〜」

「どっかで食べたことあるのか?」

「はい! 私、昔からこれ大好きなんです!」

「そうか、ならもっと買ってやるよ。オヤジ、これあと10個くれ」

「毎度!」


 これだけ買えば、フォンへのお土産にもなるし、ギオラも食べれるだろう。

 あたしも、もっと食べたいし。


「そんな……悪いですよ。さっきから、ニャンさんにはご馳走して貰ってばかりですし」

「気にすんな。2人とも、金を持ってないんだろ」

「ない〜」

「えっと……」

「これは歓迎祝だ。あたしは先輩だからな」


 あたしは、ちょっと嬉しかった。

 ギルドの仲間が出来たことが。

 今まで1人で活動してきたあたしにとって、ギオラたちの存在はどこか温かい。

 町の奴らには感じなかった温もりがある。

 妹のフォンへ抱くような感情とはまた別の何かが湧いていた。


「ニャンさん……ありがとうございます!」

「ごち〜」

「そんな言葉どこで覚えたんだ」

「ギオラが教えてくれたよ」

「あいつ、子供の教育とか出来ないタイプだろ」

「ふふっ、ギオラさん。子供と一緒に遊んだら、泥だらけになって帰ってきそうですね」

「ギオラ優しい〜」

「ああ、そうだな」


 お菓子を食べながら、談笑を楽しむ。

 今朝のことが嘘のように、和やかな時間が流れる。

 しかし、そんな時間も長くは続かなかった。

 嫌な気配が周囲を彷徨いている。

 殺意すらちらつく始末だ。


「なんか寒気がします」

「ドレミ、ウレレ。合図したら2人で身を隠せ。誰かが、あたしたちを狙っている」

「はい……でも、何で私たちが――」

「ヒャッハー!」


 構えていたあたしたちに、後ろから男が飛びかかってきた。

 手には、センスのない彫刻が施されたナイフを持っている。


「行け!」

「は、はい! ウレレちゃん、行くよ」


 ドレミは、ウレレの手を引きながら駆ける。

 これであたしの攻撃に2人が巻き込まれることはないだろう。


「手加減はなしだ」


 飛びかかってきた男に対して、振り向きながら回し蹴りを食らわせる。

 男は反応することさえ出来ず、蹴りの衝撃で後方へ弾け飛んだ。

 露店で賑わっていた人々はその様子を見て、騒ぎ始めた。

 一瞬にして殺伐とした空気が、辺りを埋め尽くす。


「流石に強いですね」

「あいつらを倒したってのも、嘘じゃないんだな」


 事態を飲み込めていない一般人たちが騒ぎ入り乱れる中、武装した連中が姿を現した。

 よく見ると皆、最初に飛び込んでいた奴と同じナイフを持っている。

 殺気を放っていたのはこいつらで間違いないみたいだ。


「あたしたちに何の用だ」

「初めまして、お嬢さん。我らは『ダチュラ』。これで伝わりますかね。報復にやってまいりました」

「裏ギルドを敵に回すと、どうなるか教えてやるよ」

「へえ、仲間の尻拭いって訳ね。でも、あいつらが敵わなかったあたしに勝てるのか?」

「言いますね。強さは実力だけでは測れませんよ」


 敵の数は6人。

 魔力が集まるような雰囲気はない。

 これなら、あたしの得意な肉弾戦に持ち込める。

 肉弾戦なら、人数差はさほど気にならない。


「死なない程度に痛めつけなさい」

「おう!」


 大柄の男が先行して、突っ込んできた。

 その影に隠れるようにして、小柄の男がナイフを構えている。


 大柄の男に対して、避けることなく、正面で構える。

 力勝負で負ける気はしないし、下手に立ち回るよりも視野が確保しやすいからだ。

 そして、あたしの射程距離内に大柄の男が入った瞬間に、軽い一撃を与えた。

 これなら後ろに控えた小柄の男が何かをしようとしても、瞬時に対応できるだろう。


 だが、そんな考えは必要なかったようで、牽制のつもりだった軽い一撃で大柄の男は吹き飛んでしまう。

 後ろにいた小柄の男もそれに巻き込まれる形で、大柄の男の下敷きになった。

 拍子抜けだ。

 相手にもならない。

 これなら、平原の奴らのほうがまだマシだ。


「お前ら、よくそんなんで吹っかけられたな」

「くっ、強え……」

「すごいです! ニャンさん!」

「おい、まだ顔を出すな――」


 それは一瞬の油断だった。

 あたしだけじゃない。

 安堵したドレミが、身を隠していた物陰から顔を出したのだ。

 その瞬間、丁寧口調の男が懐に隠していたナイフを取り出した。


「言ったでしょう。実力は測れないと」

「やめろ!」


 丁寧口調の男はドレミ目掛けて、ナイフを投げた。

 必死にその射線上へ駆けるが、間に合うかは分からない。


 あと少し、もう少し……。

 ナイフへ、ギリギリ指が触れる距離まで近づけた。

 勢いに任せて手を伸ばしたが、指の腹で触れるのがやっとだ。

 指の腹は、ナイフの刃に触れ皮膚が裂ける。

 だが、そんなこと関係ない。

 込められるだけ、出来るだけの力でナイフを弾く。

 投げられたナイフを止めることは出来なかったが、方向を変えることは出来た。


「いてて……」

「良いですね! 友情ですか?」

「うるせえ」

「ニャンさん……血が……」

「大丈夫だ。これぐらいかすり傷だから……今すぐこいつら片付けてやるからな。もう少しで、安心させてやるから……」


 何でか、意識が朦朧としてきた。

 指が軽く切れただけなのに。


「クソッ、毒か……」

「正解ですよ。その毒は裏の世界で有名な猛毒です。さあ、いつまで立っていられますかね」

「丁度いいハンデだよ……」

「威勢が良いですね。それではやってしまいなさい」


 体に力が入らない。

 それに、手足の感覚も無くなってきた。

 自分が立っているのかすら分からない。


「ヒッヒ、気の強い女を甚振るの俺の趣味なんだよ」

「おい待てよ、俺にやらせろよ」

「ファザーさん! 助けてください!」


 ドレミの声と同時に、白色の怪物が姿を現した。

 ドレミの眷属のファザーだ。

 こんな町中で呼んだら、それこそ騒ぎになるだろう。

 その姿は人々に畏怖を与えるからだ。

 でも、今は助かった。

 正直、今のあたしじゃあ2人を守り抜けない。


「ニャン様、助太刀が遅れて申し訳ありません」

「良いんだよ……ドレミに迷惑を掛けたくなかったんだろ」

「感謝致します。あとは私めが引き受けます」

「おう、頼んだ……ぞ」


 悔しいが、もうこれ以上意識を保てそうにない。

 視界が徐々に狭まっていく。

 体の感覚が無いからか、痛みはない。

 これじゃあ、ギオラに顔向け出来ないな。















遅れました。

ゴールデンウィークは時間があるようでないですね。

もう少しで百合キャラが登場するはずなんですが、なかなか話が進みません。

ハイペースで頑張りたいです。

今回のニャンの姉貴らしさを伝えられたら、本望です。

それではまた、よろしくおねがいします。

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