13話 平原戦
――ギオラ視点――
「おーい。見えてますか?」
声を掛けると同時に、発動していた〈阻害〉を解除する。
相手からしたら、何もないところから急に姿が現れ、困惑するだろう。
「何者だ⁉」
「陣形を作れ! やつは魔法を使うぞ!」
まあ、当然の反応だ。
私たちの存在に気づいたツル頭が指揮を取り、他のメンバーは後ろにいた大柄の女を囲む。
ツル頭がリーダーで、大柄の女が護衛対象または依頼主といったところだろうか。
「まずは話し合いを――」
私目掛けて、ナイフと火属性の下級魔法〈火弾〉が飛んできた。
避けることも出来たが、後ろの3人に飛び火したら嫌だから適当な風魔法で相殺する。
寝ている時に不意打ちをもらえば流石の私でも対応しきれない。
だが、珍しく集中している今はこんな奴らの攻撃なんて簡単に無効化することが出来るのだ。
「私たちを見て、すぐに攻撃するということは、アマニーレを襲ったのはあなたたちで間違いないということですかね」
「ああ、そうだよ」
私の質問答えたのは、1番後ろにいた大柄の女だった。
どこかで見たことがある気がする。
「アタイはね。あんたのせいで人生狂わされたんだよ!」
大柄の女がすごい形相で睨んできている。
私の記憶の限りだと、知らない人だ。
もしかしたら、他の誰かの因縁の相手なのかもしれない。
「ねえ、なんか怒ってるみたいだけど誰かの知り合い?」
「あんな、ばばあ見たことねえな」
「ウレレも、おばさん知らない〜」
「私はそもそも、知り合いがいませんので……」
「とぼけんな! あんただよ! そこのムカつくほど顔が良いあんた」
「え? 私?」
大柄の女が指を指している相手は、間違いなく私だ。
そして何より、顔が良いと言えば私だろう。
だが、記憶にない。
いや、こんなようなやり取りを最近した気が……。
「あんたのせいで、ウチの旦那はやる気を無くして店を閉めちまった。終いには、アタイへの愛情も失せたとか言って出ていったよ!」
ああ、思い出した。
「インストリア」滞在中に泊まっていた宿の店主プシュワだ。
「それで、何で宿の店主が傭兵っぽい人たちを連れてこんな所に?」
「相変わらず人の話を聞かねえなこの娘は! いいか、よく聞け。あんたの住んでる町を襲わせたのはアタイだ」
「は?」
「あっはっは。良い顔になったじゃないか。でも、無駄だよ。アタイが雇ったのはインストリアの王国ギルドですら敵わなかった犯罪ギルド『ダチュラ』だからね」
「何それ?」
「怖すぎてろくに言い返すことも出来ないかい? 昨日の魔法で死ねなかったことを後悔させてやるよ! それじゃあ、『ダチュラ』の皆様お願いします」
プシュワの合図で、囲んでいた者たちが前方へ出た。
ほぼ自白してくれたし、町の襲撃者は確定した。
うん。
こいつら全員、ぼっこぼこのぼこぼっこにしてやろう。
「ギオラ」
「ん? どうしたの」
「ツルツルはあたしに、譲ってくれないか?」
「別にいいけど。多分、ツル頭が1番デキるよ」
「それは分かってる。けど、あたしの敵じゃない」
「言うねえ。じゃあ、ツル頭はニャンに任せるね」
「おう、ありがとな」
そう言うと、ニャンは高速でツル頭へ突進した。
その速さに対応できた者がこの場に何人いたのか。
ツル頭は平原の中央部まで吹き飛んでいった。
ニャンはゆっくりと、その後を追う。
「ドレミとウレレも希望があったら、好きな相手選んでいいよ。怖かったら、私が余り物の全部の相手するけど」
「あ、あの……私も戦います……」
「無理はしちゃ駄目だよ?」
「いえ……私、治療してて思ったんです。あの村の人たちは温かいって。なのに、あんな意味の分からない理由で襲って……許せないです」
「そっか……じゃ、ドレミは左の剣を持ったやつをお願いね」
「はい!」
指定通り、1番左で剣を構えていた相手を風魔法で薙ぎ払う。
咄嗟の攻撃に反応できなかった相手は、されるがまま平原の左側へと吹き飛んだ。
ドレミの戦闘能力は未知数だが、吸血鬼ならまず死ぬことはないだろう。
「ウレレはどうする?」
「ここは空が綺麗だね〜」
何故か、空を見上げて呆けている。
ウレレも戦闘能力が未知数だし、一緒にいよう。
万が一があった時のためにもね。
「さっきから、ちょこちょこと魔法を使いやがって……チョウ、行くぞ!」
「おう!」
プシュワの他に残っていた2人が勢いよく飛び込んで来た。
1人は剣を、もう1人は杖を持っている。
「舞え〈煙幕〉吹け〈突風〉封じろ〈拘束〉」
久々に詠唱詞を聞いた気がする。
しかも、3つの魔法をほぼ同時使用か。
学院時代だったら、学院の人気者だろうな。
「空が見えなくなっちゃったよ〜」
相手の魔法により、周囲は煙に包まれた。
さらに、魔力で体を拘束されている。
なかなかのレベルの魔法使いだ。
「なんだ、大したことなかったな」
背後から声が聞こえる。
拘束されているため、振り向くことは出来ない。
「ねえ、最後に教えてよ。さっき言ってた、犯罪ギルドのタランチュラ? って何のこと?」
「生意気な娘だな。我々は『ダチュラ』だ。ふん、まあ良い。顔が良い女は嫌いじゃないからな。教えてやるよ。お前らみたいな表のギルドとは違って、暗殺や強盗を生業としているのが犯罪ギルド、通称裏ギルドだ。俺らは金さえ貰えればどんな、依頼も受ける。こんな、私利私欲に塗れた復讐の依頼でもな」
「へぇー、そうなんだ」
「けっ、折角説明してやったのに無愛想だな。依頼主殺して、俺が愛でてやろうと思ったが調教する必要があるみたいだな」
「あ、いや。結構です」
「チョウ! その煙は俺の魔法じゃねえ! 今すぐそこを離れろ!」
おしい。
もう少しのところで逃げられた。
情報も教えてくれたし、楽に眠らせてあげようと思ったにな。
「危ねえ。ハチ、助かったぜ」
「ああ。油断すんな。こいつ、なんかおかしいぞ」
やっぱり魔法使いの方は腕が立つみたいだ。
良い判断をしてる。
さっき相手が魔法を使った瞬間、私もまったく同じ魔法を発動させていた。
拘束したのは後ろの魔法使いだけだが。
そうして、相手が魔法に掛かっていると思わせて油断させたのだ。
「あちゃ、良い作戦だと思ったんだけどね。まあ、いいや。もうあなたたちに用はないから静かにしててね」
そうだ。
なんか、今から見せ場っぽいから詠唱して魔法を発動させよう。
そっちの方が絶対にかっこいい。
あの魔法の詠唱文は確か……。
「大地よ、大海よ、大空よ――」
「やばい、逃げるぞ! こんなの聞いてねえよ。この仕事はやめだ!」
「おい、ハチどうしたんだよ」
「災いの如き、神の息吹。凍てつけ〈吹雪〉」
発動した魔法は、逃げゆく相手を一瞬で凍らせた。
殺すつもりは無いが、罪のない住民に危害を加えたのだからこれくらいは罰を受けてもらおう。
それにしても、詠唱はかっこいいな。
これからも定期的に使っていくぞ。
タイトルは後で変更するかもしれません。
良い題名が浮かばなかったです。
あと、詠唱文だとしっくりこないので詠唱詞に変えてみました。
寝ますのでまた明日、よろしくお願いします。